なげたらあかん
(´∀`*)短いん。
「お願いします。どうか……」
小綺麗な、青いワンピースドレスと、
それによく似た色の髪と瞳。
革でできた靴はとても綺麗で、
今まで一人で魔物から逃げてきたようには見えない。
先輩が警戒する理由が、少しずつ……わかる。
この子は、いったい何なのさ……?
「……なにに」
「……」
「なにに使うか、聞いていい?」
「……使う?」
……!
首を、コテンと傾ける女の子。
「……ふふ。お花を使う、というのは、面白い発想ですね」
「────」
妙な返答だ。
感想を返して、本質は答えていない。
この返答で、私の中でこの子はグレーから真っ黒になった。
ピカピカ光って綺麗だから、という理由で、
精霊花を欲しいんじゃないと思う。
マイスナを身体の後ろに庇う。
「……大変申し訳ないのですが」
青の女の子は続けた。
「もし、渡してくれないのなら、力づくでも奪おうと考えています」
……!
『────敵対勢力と判断します。』
『>>>賛成だ。害を及ぼす者は許さない』
「まって……!」
──か、考えろ。
精霊花が欲しいという女の子。
私より小さい身体で、私たちから力づくで奪うって?
今、トレント倒したの、見たよね。
それから逃げていた。
そうだ。
そうだよ。
たぶん、私たちの方が強いんだ。
なのに、こんな脅しみたいなことを言う。
襲って奪えるなら、こんな事を言わずに襲えばいいんだ。
てことは……。
つまり……これは?
うーん……。
「アンティ……」
「……どう思う?」
「嘘を、言わないようにしてるみたい」
……!
なるほど……。
マイスナ、面白いこと言うわね……。
そう捉えることも出来るのか……。
なぜ……?
「…………」
いや、これわかんねぇわ。
どうしようかなぁ……。
「……くるっ!」
「「──!」」
「……!」
しゅた! ──とんっ。
マイスナの首で高級マフラーみたいになってたカンクルが、青の女の子の前に飛び降りた。
「くるるぅ……?」
「……? あなた……! その、体に生えているのは……」
「っ! カンクル……!」
「マイスナ、ちょい待ち……」
カンクルを心配するマイスナを、身体で遮り静止する。
女の子の表情の変化が……。
「くゆ〜〜っ」
「……、すごい……。こんな魔物が……」
……。
青の女の子は、純粋に驚いているようだ。
「くゆ! モゾモゾ。ぷっちん!」
「!」
「くゆっ!」
「「あっ」」
カンクルが、自分の身体に生えてる精霊花を摘んで、
女の子に突き出した!
「……くれるの?」
「くゆっ!」
「……あ、ありがとう」
……。
…………。
…………………。
魔物を追い払う効果のある花で……。
エルフが昔から守ってきた希少価値のあるもので……。
でも今は復活して、生えまくっている……。
──。
──ちぇ。
「……。……あんた、ちょっと手ぇ出しなさい」
「! アンティ?」
「……!」
キン、キン、キン……。
──きゅぅうううん……!
『────……推奨は:しませんよ。』
『>>>あーあぁ。やっぱ、お人好しだなぁー』
だ、だってさぁ〜〜……、この子さぁ。
ほっといたら、バスリーさんトコまで行きそうじゃーん……。
家の場所特定される方が、なんかあった時、
ややこしいと思うんだよねぇ……。
あと、このまま散策してたら、
また魔物に襲われるかもしれない。
とっとと帰ってもらったほうがいいでしょ。
バッグ歯車から、根っこ付きの精霊花を数十本ほど出して、タオルで優しく包み、目の前の女の子に手渡す。
「ほれ」
「──!! こ、こんな、に……?」
「ねぇ……ひとつ、約束して」
「!」
「── ぜ っ た い に、 悪 用 す る な よ !」
けっこう本気めに、女の子に対してガンをとばす。
女の子は呆気に取られていたが、しばらくすると、
私の威圧なんかは、まるで意に介さずに、
にっこりと微笑みやがった。
「ふふふふふ……!」
っ、こいつ……ッ!
「義賊様は絵本のとおり、随分とお優しいのですね?」
「むっか……! アンタぁ、何もんよぉ!!」
「アンティ、下がって。この子、変な感じがする」
「にょきっと……?」
「くゆくゆ〜〜?」
──と、その時。
──ザザっっ!!
「──お嬢様っ!」
「「──!?」」
森から……若い男の人が飛び出してきた!
焦げ茶の髪……先輩の外見と同じくらいの歳かな……?
ありゃ! ──し、執事服なんか着ちゃってるっっ!?
てか、この人……今、木のえらい上の方から降りてきたような……?
「──探しましたよ!! 無茶が過ぎますっ!! ……っ!? お前たち、は……? 何者だ……?」
執事さんが青い髪の女の子を、背中の後ろに庇う。
こぶしを握り、構えをとった。
ちょっとちょっと……穏やかじゃないわねぇ。
「──お待ちなさい。彼女たちは私の恩人です」
「──! ……?」
若い執事さんは、その言葉に、ゆっくりと構えを解く。
私たちを、マジマジと見る。
「……?? "義賊"と……"狂銀"……??」
……あらんま。
この執事さんも、あの絵本のことは、よくご存知のようで。
「レターライダーの御二方……」
「「っ」」
──ざ……。
女の子が、執事さんの後ろから出て、
一歩こちらに歩み出る。
「この花のこと……御礼申し上げます。まさか、このような良い状態で手に入るとは……」
「──!! お、お嬢様……! その花は、まさか……!?」
"お、お嬢……様"……って?
あと……"執事"さんが言ってるってことは……!?
「え、え〜〜っとぉ……あなた……様は、何者、なんでしょうか……?」
「んむ〜〜???」
ちょっとビビって、丁寧に聞き直したったわ。
マイスナが、だいたんに首を傾けている。
むしろ胴体から傾いてる。
「ふふふ……。また会うことが、あるやもしれませんね?」
「……! 郵送配達職、と仰いましたか……!? あなた方が、ですか……?」
……??
なんか畏まられてる……?
「そうね……これは良い収穫でした」
あ……やべ。
超、イヤな予感がしてきた。
私……、なんか早まった事しちゃったかも……!
「ねぇ、ちょと、やっぱそれ……!」
──ポぉん……!
──!? なななんか女の子が投げてきた!
赤い──!?
弧を描いて、ゆっくりこっちに落ちてくる!
「わ! と、……と?」
よと……。
ナイスキャッチする。
……。
……?
「……トマト?」
「トマトだね」
『────分析完了。
────トマトです。』
『>>>トマトだねぇ』
「ふふふ……では、ごきげんよう。
──素敵な絵本の御二方──……」
──青の少女は、足をクロスさせ、一礼し、
──そばの執事は、片手を前にし、一礼する。
────刹那。
────────フッ──……。
……煙みたいに、消えよった。
「 …… 」
「 …… 」
『────対象二名:消失しました。』
『>>>え……え!? 霧みたいに消えたんだけど……!? うわぁ、これぜったいヤバいやつだよ……』
「にょきっと?」
「くゆーっ」
……。
…………。
…………………。
いっこだけ、言わせてくれ……。
「──ひとさまに、トマト、投げんじゃねぇぇええええええ──!!!!!」
もうやだ、お家かえる。
帰るもん。
(´∀`*)帰り。










