エンカウント。
「……おはょ」
「……ぅぅ」
「……」
「……」
「おーはーよー」
「っん!! もうっ!!」
「なんやいな」
「アンティの、バカ!!」
「わけをいえー!!」
「あんなことあったのに、ヘラヘラして!!」
「いつまでもメソメソしてても、しょーがないでしょーよー!!」
「アンティの無神経!! オタンコナス!!」
「おっ……、それおま、言うの二回目だかんね!?」
「アンティ、何とも思わないの!? 私を助けたから、あんなになったんだよ!! これからも、あんなになるんだよ!!」
「いちいちうるせーなぁー!!」
「!? な、アンティ……!?」
「別に今、どっちも元気なんだから、いーじゃん!!」
「バカぁぁー!! 昨日、あんなに泣いてたくせにー!!」
「ぐっ……! アンタに言われたかねぇぇえー!!」
【 おぅおぅ、よせやよせや 】
< 喧嘩はもうコリゴリちゃうのん〜〜♪ >
〘------いいけどはよ着替えるのん☆ パジャマ;蜂の巣みたいのんな──☆〙
{{ ……先生? 目ぇ開けちゃいけませんからね? }}
〘#わ、わかっている……〙
『────カネト。ダメです。』
『>>>直接まぶたツネるのやめてくれる?』
>>>……で。
「むす────……っ」
「ぶぅ────……っ」
「や……やれやれだねェ……」
珍しく、バスリーちゃんが困った顔をしている。
理由は明白だ。
朝ごはんの食卓で、
黄金の義賊と狂銀が、
ケンカしてるからである。
「ば、ばばばばーちゃん! 見て! 仲悪いよ!!」
「ケンカする? ここで絵本の続きする!?」
なぜかエルフの子供たちは、
ワクワクソワソワしているなぁ……。
後輩ちゃんら二人は、
ヨロイはしっかりと着込んでいたが、
ご飯時なので、仮面は外している。
パジャマは二人とも、見事におじゃんになったよなぁ……。
穴だらけのボロ布になってて、
正直、機関銃で撃ち合ったようにさえ見えた。
さっきは元気に掴み合いしてたけど、
内心は、二人ともショックなはずだ……。
「わくわく、わくわく!」
「ドキドキ、ドキドキ!」
「これ! アンタたちィ!! はやく食べな!!」
「むすー……っ」
「ふーん……っ」
なぜか明るい双子エルフに助けられつつ、
照り焼きにしたチキンの朝食は進む。
途中、バスリーちゃんが水を汲みに行く際に、
少し離れた所におっぽってあった仮面は、
鷲掴みにされて連れ去られる。
食卓から見えない所で、小声で話しかけられた。
「……おいアンタ、アレはどうなってんだィ? 昨日と今日で、えらい変わりようじゃないのさァ……!」
ははは……。
ぼくは久しぶりに、ウィンドウ機能を使う事にした。
────────────────────
>>>いやぁ…… 夜と朝に
ひと悶着あってねぇ……
────────────────────
「ぁあん? ひと悶着って、なんだい」
バスリーちゃんは、空中に浮かんた透明のお手紙に、
まるで動じずに返事をする。
度胸あんなぁ……。
え、えっとねー……。
夜の出来事は激しすぎて伝えられないので、
朝方のことを、濁して伝えよう。
────────────────────
>>>うーん、
楽観主義者と悲観主義者の
衝突というか……
────────────────────
「な、なんだぃそりゃ……」
そうなるよなぁ……。うーん、どう説明すれば。
バスリーちゃんとぼくの関係って、けっこう複雑な所があるけれど、今はそれが気にならないくらいには、あの金銀コンビはぶぅたれている……。
「は──……やれやれ」
席に戻ったバスリーちゃんは、二人のおデコに、
スライスしたキュウリの漬け物を投げつけた。
「「っっ!?」」
み、見事だ……。
当然二人はビックリする。
「何でケンカしたかしんないけどねぇ!! 人んちの朝ごはんを、味気なくすんじゃないよぉ──!!」
「「でたぁ──!! ばばばばーちゃんのキューリアタックぅぅ──!!!」」
ゆ……有名な技らしい。
「次来る時までには、仲直りしてな!! あと、その漬け物は食べな!! わかったかぃ!?」
「「……ぅ、うん……」」
ぱりぽりと、浅漬けを食べる音が響く。
さすがバスリーちゃんである。
カーディフの街への出発の際。
てっきり置き去りになるかと思われていたカンクルが、
紫電ちゃんにポスンと渡された。
後輩ちゃんは意外そうな顔をする。
「……カンクル、連れてっていいの?」
「「いいよ──!!!」」
「くゆ?」
「カンクル!! 世界中を精霊花まみれにするんだよ!!」
「世界中の土は、いずれ精霊花のものだー!!」
「く、くゆっ!!」
生態系の破壊活動を依頼されているな……。
昨日今日のご飯の内容を見るに、畑は順調そうだ。
カンクルをこちらに預けてくれるのは、
何か、バスリーちゃんが思うところがあるのかもしれない。
……。
モフモフの癒しパワーとかだろうか……。
「……」
「……」
──べしっ、べしっ。
「あぃてっ」
「んっっ!」
……バスリーちゃんチョップである。
「これっ! 絵本の続きは明るいモンにしておくれよ!」
「「……! ……、……はぁぃ」」
『────天晴れです。
────アレは私には:真似できません。』
あはは……。
ホントに孫とお婆ちゃんみたいだ。
>>>……で。
森の中を、進む。
うさ丸は後輩ちゃんの肩にしがみつき、
カンクルは紫電ちゃんの首に巻きついている。
移動する風が激しいのか、二匹とも目をつぶりがちだ。
紫電ちゃんの鎧にも"力量加圧"が発動することは確認済みだ。
でなけりゃ、ドニオスのあの高い塔から飛び降りて無事な訳がない。
今、ふたりは木と木の間をピョンピョンと忍者のように跳ねて移動している。
雰囲気は何とも言えない。
「……」
「……」
常人から見れば、物凄い技術の移動の仕方をしながら、
何とも気まずいご両人。
ぼくに喧嘩を仲裁するスキルはない。
「……む」
バスリーちゃんの忠告が効いたのか、
後輩ちゃんが行動に出た。
目の前に大きな木のトンネルのようになっている空間。
陽の光の道になっている。
しばらくは障害物がない。
後輩ちゃんは、大きく真横に木を蹴り、
空中にいる紫電ちゃんをつかまえた。
「──!」
「──……」
ふたりが、真横に吹っ飛びながら、見つめ合う。
「──……」
「あの、さ……」
風を切る中、何を話しかけたらいいのか、
後輩ちゃんは決めてなかったらしい。
あらー。
「……えと」
「……ん」
「……」
「……」
CHU──☆
「んっ!!」
紫電ちゃんが、後輩ちゃんに軽くキスをした。
ぴょん、と離れ、また森を翔ける。
あやー……。
「……! ……──〜〜〜〜……、 」
ぼくにはよくわからなかったが、
後輩ちゃん的には、今のはかなりの不意打ちだったらしく、顔が真っ赤に染まっている。
……うん、くっそ照れてるな。
「──〜〜〜〜……!」
先生が〘#やれやれ……〙と苦笑している所を見ると、どうやら紫電ちゃんの方も、割かし照れているようだ。
勝負は引き分けだね。
すぐ前のクラウンちゃんを見ると、肩をすくめるジェスチャーをした。
……このふたりの仲、そんな心配しなくてもいーかもな。
けっきょく、お互いが大事ってことには変わりは無いんだろう。
むしろ、これだけ綺麗に"能力"まで共有化している事の方が重要な問題だ。
"クルルスーツ・レディオル改"の"力量加圧"のように、紫電ちゃんの鎧である"銀の花嫁改[百光]"にも、"電離法"と完全同期する事で安定するスキルが発生する可能性は高い。
つまり、後輩ちゃんにも使える力が増えるってことだ。
でも、あまりに強い"能力の同期"は、依存性も孕んでいる。
あの夜の出来事は、完全に"中毒症状"だ。
毎夜毎夜、お互いを求め合うように、
少しずつプログラムされている、とぼくは予測している。
……それが良い事か、悪い事かが、ぼくにはわからない。
でも、まずは、試してみようじゃないか。
今日の夜から、少しずつ解析を始めよう。
忙しくなりそうだ。
「……ちらっ」
「……チラッ」
う、うーん……。
お互いに照れながら顔色をうかがっているけど、
きみらさぁー……。
チューの永続時間で言えば、
寝てる時がMAXだからね……?
よくわかんなぃなぁ……。
>>>……で。
──ちょっとした事件が起きた。
『────震音探知。
────前方120メルで:人型生物が魔物に襲われています。』
「「──!!」」
バスリーちゃんの家の周りは、
精霊花の不思議な力に守られている。
でも、そこから出たら、ここは魔物が徘徊する森だ。
というか、こんな所に、"人"……?
後輩ちゃんと紫電ちゃんは加速する。
すぐに動体を視認した。
……!
大きな動く木……! "トレント"だな……!
『────分析完了。
────対象:オールドトレント。
────基幹部全長:15メルトルテ。
────弱点:氷属性。』
けっこーでかい!
クラウンちゃんが分析したデータが、
即座に後輩ちゃんと紫電ちゃんの網膜ホログラムに共有される。
「弱点は氷?」
〘#体積の大きい生木は即座に燃えるものではない。植物は寒さに晒されると休止する〙
「アンティ! あそこ!」
「──!!」
「はァ……はァ……」
──!!
襲われているのは、こどもじゃないか!!
髪の真っ青な、ロングヘアーの女の子だ!
なぜ……、こんな森の中に……!?
違和感を感じるが、やる事は決まっている。
──GROOOOOOOOOOOOOOOOO────……!!
「キャッ……──!」
大きな木の化け物が、養分を求めて、
青髪の女の子に、枝を変形させた不気味な手を伸ばす。
ブンッッ! と振り下ろされる──……!!
────きぃぃいいんんん!!!
──ギィィィィインン!!!
「らぁ」
「っと」
「──えっ!?」
後輩ちゃんが、巨大な枝の手を受け止め、
紫電ちゃんが女の子を抱え、飛び退いた。
「あな、たたち……!?」
「離れててね」
「くゆっ」
紫電ちゃんが女の子を目の届く範囲に避難させ、
後輩ちゃんに合流する。
後輩ちゃんは、トレントの指を捻り切っていた。
──GROOOAAAAABBAAAAAA──!!!
「先生の言った通り、枝に粘り気があるわ。すぐには燃えなさそう」
「まずそうだね」
「マイスナ。動きを止めれる?」
「ドンとこい」
「クラウン、魔石の位置をスキャン頼む」
『────レディ。』
──GROOOOOOOOOOOOOOOOO────……!!
怒ったオールドトレントが、ふたりに襲いかかる。
最低限の動きでふたりは左右に分かれる。
ドォンと、土煙をあげる大きな枝の手。
次の瞬間に凍り、
後輩ちゃんは、地面に固定された枝の腕を登る。
右手の黄金の装甲に歯車が展開し、
回転を孕むグローブは、削岩機と化す。
「──アンティ、パンチ」
──ぎゅぅおうおうおういいんんん!!!
──ぶっちゃあああバキバキぁぁあ!!!
────GROOOAAAAABBAAAAAA──!!!
トレントの左腕が、薪にもならないゴミ屑になる。
『────分析完了。
────オールドトレントの魔石内蔵部:
────投影します。』
ふたりの視覚に、アナライズカードのホログラムが、
コンタクトレンズのように重なる。
魔物のスケルトンモデルが映し出され、
中央部がマーカーされる。
「あっこか」
「こわす?」
「うん」
他の冒険者は、
報酬や素材のために魔石を残す傾向にあるが、
このふたりに、そんな考えはない。
真っ先にぶち壊すべき弱点は、魔石である。
「マイスナ」
「あいっ」
時限結晶内には、
湖一杯分のヒールスライムと地下水、
"役立たずみ台"から分解、拝借したミスリル素材がある。
紫電ちゃんの能力"電離法"の基礎能力は、
物資の分子配列を電気的にバラバラにする力だ。
これに羽鯨の鎧のソウルシフト、"錬成"の補助を得て、
彼女は無機質の物質を自在に組み直していると思われる。
水と金属を材料にして──……、
「えいっ」
──ギィイインン!!
白銀の鎖で繋がれた槍が、一瞬で錬成された!
──ダァンン!!!
それは二代目狂銀の左腕から発射され、
オールドトレントの幹をぶち抜き、絡め取り、
二代目義賊右腕に接続される。
鎖は、ふたりの内蔵フレームに固定される。
つまり、これはチェーンデスマッチだね?
ふたりと巨木の綱引きが始まる。
──GROOOAAAAABBAAAAAA──!?!?
普通なら、小さなふたりの少女の腕が千切れ飛ぶ場面を心配する所だけど、彼女たちのヨロイのインナーマッスルは、伝説の魔物の肉を加工したものだ。
「「おーえす!」」
──どぉおおおおんんん!!!
巨木は、ずっこけるように、屈服した。
ぶち倒れ、顔のような部位が土に突っ伏す。
この時に、オールドトレントは、
どうやら、とんでもない相手たちにケンカを売ったのだと、その目の色で理解する。
「削りとれる?」
「消し飛ばすよ」
マイスナが怯える巨木の幹に手をかざすと、
正球に、えぐりとられたかのように、物質がなくなった。
崩壊の力は、制御できると恐ろしい武器になる。
魔石は一瞬で露出した。
枝が覆い隠そうとするが、
その前に、アンティが殴る。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
──ゴォゴォオン!!
──ゴギゴォオン!!
──ベギァァアンン!!
──GRRAAAAAHHHELLLLLLLPPPPPPP──!!!??
……たぶん、その魔石、
高く売れると思うんだけどなぁー……。
あっ、ヒビ入ったね。
「枝じゃま。凍らす」
「とりゃー!」
──ゴォォオオ、ボッコォオオンンン!!
……。
まるで、テレビで見た手術中のお医者さんと、
隣で補佐する看護婦さんみたいだなぁ……。
ほら、胸の辺りを切開してるみたいな。
やってる事は真逆だけど。
──GHHGH────……!
魔石を破壊されたオールドトレントからは魔素が溢れ、
巨木は、一瞬で黄緑色の若葉に包まれた。
おおっ! けっこう神秘的だね。
「あらっ! 肥料にはなんのね!」
「きれいだねー!」
「にょ、にょきっとなー!」
「くゆゆぅー!」
……う、うーん。
このふたり、将来どんな大人になるのやら……。
てか、やっぱ仲良しだよなぁ……。
「クラウン、あの子は?」
『────すぐ後ろです。』
青いロングヘアーの女の子は、ポツリと後ろに立っていた。
目を真ん丸にして、こちらを見ている。
……あまり、服が汚れていない。
簡素なワンピースドレスに見える。
これも髪とよく似た色で青い。
「──……」
「あ、あの……大丈夫?」
「ケガは……なさそう?」
『>>>…………』
『────カネト?。』
こんな森の奥まで、こんな子供が無事で入れるもんなのか……?
服だけじゃなくて、手足も綺麗だ。
汚れがない……。
「び、ビックリしちゃったかな? あなた……おウチはどこ?」
「もう、怖くないよ」
ふたりが、青の少女に話しかける。
ヨロイがキラリと、陽の光に反射した。
──意外な言葉が、青の少女より出る。
「……──! "郵送配達職"……!」
「「えっ……?」」
「あ……あなた達は……"郵送配達職"なのですか……?」
「「……」」
見た目より、落ち着いた印象の声質の女の子だ。
いきなりの発言に、後輩ちゃんチームは呆気にとられる。
「え、えと……そ、そうだよ」
「私たち……"レターライダーズ"」
「……! 本当、なのですね……」
「え、えと……?」
「よく、わかったね」
「あなたの首にある紋章」
「!」
「アンティの……?」
どうやら目の前の少女は、
後輩ちゃんのプレミオムアーツの紋章を見て、
こちら側を"郵送配達職"と認識したようだ。
……妙だな。
このマーク……今の時代、そんなに一般的なものだったか?
「驚きました……まさか、まだ……」
……。
〘#カネトキ……この娘……〙
『>>>ええ。おかしいですね。ちょっと警戒しましょう』
この先生とぼくとの会話は、
後輩ちゃんふたりにも聞こえたはずだ。
「え、ええっと……とにかく、家まで送るわ、危ないし……」
「──いいえ。迎えの者が来る事になっています」
「え、ええ〜〜……」
まさかの反応に、後輩ちゃん、たじたじである。
「あの……そちらの、狂銀さん……?」
「! ……私、ですか」
青の少女は、紫電ちゃんに近づいた。
「……! この、花……!?」
──!?
『>>>クラウンちゃん。この女の子、分析して』
『────!。』
『>>>はやく。ヤバいよ』
「あの……いきなりで僭越なのですが……」
「「……?」」
「この花を……少し分けていただくことは可能でしょうか」
『────!。
────アンティ:マイスナ:警戒を。
────彼女の分析に失敗しました。』
「「──!」」
『>>>ふたりとも、警戒して。この子、たぶん人間じゃない』
「「…………」」
ごくり……と、ふたりが息を飲んだ。
「……お願いします。その花を、少し分けてくださいませ」
見た目より、ずっと大人びた喋り方をする……。
今も、クラウンちゃんが分析を繰り返している。
……っ、またエラーだ。
──意図的に阻害されている。
『>>>……逃げた方がいいかもしれない』
「「………」」
「お願いします。どうか……」
目の前の少女に、精霊花を渡しますか?▼
▼ はい いいえ










