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おとりこみちゅう。

シリアスちゃん「……構えな。背景は、黒よ……」







 正直に、言う。


 マイスナがいないと、もう、眠れない。






 私たちの身体は、運命共同体だ。


 どちらかが死ねば、どちらも死ぬ。


 寝る時、私たちの躰は、無防備だ。


 できるならば、私たちは、


 ひとつの方が、守りやすい。


 でも、私たちは、ふたり。


 だから、互いを、取り込もうとする。


 その力は、思っていたより、凶悪だ。




『────大丈夫です。

 ────落ちついて……:落ちついて。』




 バスリーさんが気をつかい、


 二部屋、用意してくれた。


 この森の、ど真ん中の家で、


 部屋が狭いのって、とっても仕方ない事で。


 客室が2つあるだけで、ありがたい事で。


 そして、それが、災いした。




『>>>大丈夫……。ゆっくりだ。ゆっくり動こう……』




 ひとつの、きっかけになるかも、と、思った。


 ドニオスで、私たちは離れた事がない。


 バスリーさんの配慮を無下にもしたくなかった。


 小さな可愛い客室たちは、家の対角線上にあった。


 布団に入ってから、


 眠り方を忘れている自分に、愕然とする。


 私は、まばたきを、しているか……?


 天井を、ずっと見てしまう。


 いや、そんなはず、ない。


 時が経つ。


 静かな、聖なる光の闇。


 外から、あの花たちの輝き。


 夜が半分過ぎた頃、


 これは、ダメだな、って思った。


 横で、うさ丸がスヤスヤと寝ている。


 永遠に寝られない自信があった。


 布団から出る。


 情けない。


 求めている。


 こわい。


 会わなければ。


 そっ…………と。


 木のドアを開ける。


 廊下に出ると、窓に。


 この世ではないような、花畑。


 マイスナは、その中にいた。


 こわいくらい綺麗な、絵画のよう。


 私は、そこにいくしかなかった。


 裸足で、出てしまう。


 すぐに、マイスナは気づいた。


 彼女も、眠る事が、わからなくなったのだ。


 距離があいていても、顔はよく見えた。


 寂しさと、呆れ笑いと、嬉しさが滲んたような。


 私も、たぶん似たような顔をしていた。


 二人で、精霊の花の中を、近づく。


 あと、十数歩の距離になった時に、


 マイスナの躰から、鎖が、撃ち出された。


 それらはパシャマを貫通し、


 私に全弾、命中した。


 互いの躰同士を繋げた鎖は、


 互いの躰の中のマニピュレーターで巻き取られ、


 宙を舞った私たちの躰は、


 空中で、バチンと音を出して、ぶつかった。


 瞬間、私の躰から歯車のパイプが突き出し、


 マイスナの躰に、ぜんぶ刺さった。


 駆動音と、金属の音。


 この時点で、私とマイスナは目を真ん丸にして、


 声を殺しながら、泣いていた。


 躰は、勝手に動いていた。


 抱き寄せていたのだ。


 祝福されし花の中で、私たちは拘束し合った。


 目が、近かった。


 たぶん、もうパジャマは、お裁縫では、直せない。


 私と彼女の髪が、直結した。


 悲しみを、感じた。


 今の私たちに、言葉なんかいらない。


 思考は繋がっている。


 "私の狂いが、あなたにも伝染った" そう、泣いていた。


 "うるせぇ" と、泣きながら応えた。


 繋がった髪と、お互いの皮膚に光の線が走り、


 こんな状況なのに、お互いから生まれる温かさと、


 夜を静かに照らす光が、美しかった。


 私たちは、這いながら、部屋に戻ろうとした。


 聖なる花を、潰しながら、進む。


 もう、よく、見えない。


 あたたかさだけが、血の循環のように、めぐる。


 途中でうさ丸とカンクルが気づいてくれて、


 大きくなって、


 がんじがらめになった私たちを、


 優しく、抱き上げてくれた。


 ふだんは、あんなに元気な二匹は、


 ひと鳴きもしなかった。


 小さくなっても、うさ丸の力はとても強く、


 何とか、私が寝ていた方のベッドに、


 私たちを、押し込んでくれた。


 うさ丸とカンクルは、そばに寄り添ってくれた。


 腕も、脚も、頭も、動けない。


 涙の味がする。


 "ごめんね……ごめんね……" と。


 もう、こんな謝り方は、して欲しくなかった。


 "いいっ、いいから……"


 "私ぃ……!"


 "いいっ!! ねろって……!"


 ちょっと余裕がなくて、キツい応え方をしてしまった。


 "うぁぁ……アンティ……"


 "いいから……お願い……マイスナ……今は……"


 あたたかい。


 とても。


 お互いを、(むしば)んでいる。


 "ねぇ……いつでも……殺していいよ……"


 "はは……死んでも……ゴメンだわ……"


 眠い。


 怪我をしてるわけじゃない。


 強制的に、お互いの温もりを、


 ぶち込み合っているだけだ。


 すぐ前の銀の瞳から、


 まぶたに押された涙が、


 星のように流れて────……




 眠、い……。




 "──"

 "──"


 





 ──これは、


 ──知恵の輪なんかじゃないかもしれない。








 この夜、箱庭内で緊急の会議が開かれ、


 "歯車法(はぐるまほう)" と "電離法(ぷらずまほう)"を切り離す方案が、


 全員一致で、可決された。







✿.*・゜

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