はかなくはあらず
ここに先輩の墓があると知って、
先生が、どうしても訪ねたいと申し出た。
わがままを言って済まないと言われたが、
それが、わがままであるはずがなかった。
光の花の中を、歩く。
大きくなったカンクルの背に、
ロロロとラララ、そしてマイスナ。
私とバスリーさん、巨大うさ丸は歩いた。
先輩の墓は綺麗に花畑に飲み込まれ、
それは神聖な場所だった。
先生は、この時初めて、マイスナに憑依した。
祈る。
白銀のドレスは感情によって変形し、
まさに、女神のソレだった。
跪き、組んだ手は震えている。
ゆっくりと、立った。
「#……教え子を手厚く葬っていただき、それを見守ってくださった事、感謝致します……」
マイスナに乗り移ったギンガ先生は、
涙ながらにバスリーさんに頭を下げた。
バスリーさんは、色々察したようで、
「……ま、長寿もんには合った役目さぁ」
と、切なそうに照れた。
ここは、世界一きれいな、お墓だった。
過去を見てしまった私は、耐えられずに、聞いた。
「もし……」
「?」
「もし、時が戻ってやり直せるなら……」
「!」
「やり直したいって、思いますか……?」
「……」
それは、けっこうひどい問いかけだったかもしれない。
「……そう、思わなかった事が、ないわけじゃないよォ」
「!」
「でもねぇ」
「で、も……?」
「あたしゃ寂しい時に、よくこの墓の土台に座ってた。ここに来て、太陽がゆっくりと動くのを見てた。……この墓がなかったら、あたしゃこの場所から逃げ出してたかもしれない。だから……」
「──」
「だから……この花畑で、アンタに会えたんだよ、アンティ」
私は、後で先輩に謝ろうと思った。
先輩は、ひとつ頼み事をしてきて、
私は快諾した。
「ふぅ……やっとあの子達が寝たねぇ」
ロロロとラララは、あの絵本の主人公たちに、
すっかり骨抜きさぁ。
かっか……私はその一人の墓守だ。
墓と花を守る事を、私は成し遂げているのかもしれないねぇ。
何故か知らないが、あたしゃ今、一人じゃあない。
精霊王ヒューガノウン様に、ソコは感謝しなきゃあいけないねぇ。
ボロい机でゆっくりお茶を飲んでいると、
キンキンと足音が響く。もちろんあの子のもんだ。
すぐにカップを用意したさぁ。
「まずいお茶でも飲むかぃ?」
「>>>え……! じゃあ、いただこうかな」
「……!」
……。
…………ふん。
「……座ったらどうだぃ?」
「>>>……お言葉に甘えて」
ちゃぽぽぽぽ……。
「ほれ」
「>>>ありがと……」
ずず……。
「>>>……」
「懐かしい味だろぅ?」
「>>>──!」
年甲斐もなく、ニヤリとした。
「>>>……わかるかぃ?」
「舐めんじゃないよォ」
「>>>はは、すごいね……」
黄金の義賊は、静かにお茶を飲む。
不思議な空間ができあがっちまう。
「……」
「>>>……」
「別に」
「>>>?」
「出てこなくても、良かったんじゃないかぃ?」
「>>>はは、ひどいなぁー」
「アンティは?」
「>>>納得済み。まぁ、ぼくが頼んだんだけど」
「はぁー、間違いなくアンタだね。その喋り方、外見が可愛いアンティでも、あの憎ったらしい顔が浮かんでくるよ」
「>>>あはは……ま、仮面は、まんまだし」
「んで? 思い出話でもしにきたのかぃ」
「>>>……ま、そんな所」
「ふふふ……、人生ってのは面白いねぇ」
「>>>心から同意」
「……アンタ、好きなヤツできたろ」
「>>>え……ええええええええええええええっ!?」
椅子をガッタンと鳴らしやがる。
ほぅおォォ〜〜……。
「図星かぃ」
「>>>な、なんなのっ!? バスリーちゃん、なんなのっ!?」
「アンティだけは許さないよ」
「>>>──えッッ!? い、いや……ち、違います……」
「なんだぃ、違うのかぃ!」
「>>>え、うん……」
「なら、この話は終わりだ」
「>>>え……? えぇ〜〜……」
えぇ〜〜、じゃないよ、全く。
花守の巫女、舐めんじゃないよ。
そうか……アンティのあの様子、
誰かを好きになった顔だったんだけどねぇ……。
ずず……。
「で? なんでここでお茶飲んでんだぃ?」
「>>>い、いや、きみが出してくれたんだろ……」
「……。くっく、かかっくっくっくっくっくっくっく……!」
「>>>な、なに笑ってんのさ……」
「はぁ……滑稽だなぁと、思ったのさァ……」
「>>>……。はぁ。なんか、色々話そうと思ってたのになぁ」
「来るのが100年は遅いね」
「>>>その時、盗まれてたんですけど……」
ずず……。
「……聞いていいかぃ?」
「>>>……ぅん?」
「あの銀の子に宿ってんのは、ホンモノの狂銀さんかぃ?」
「>>>……あぁ」
「その……アンタとの関係を聞いていいかぃ?」
「>>>! ……なるほど。そういう話の方がいいのか」
「そういうのは心の中で言いな」
「>>>ははは……そゆとこ、変わんないなぁ……。あー……。昔の先生だよ」
「……! 知り合いの先生と、絵本で敵になったのかぃ」
「>>>……ぼくが殺したんだ」
「……」
「>>>きみが思ってるよりも、かなりたくさん殺して、ここまで来た」
「……そうかぃ」
「>>>きみがここにいて、嬉しかった」
「かか……その言葉は、200年ほど遅いねェ」
「>>>全くだ……」
「……そろそろ」
「>>>?」
「名前、教えとくれよ」
「>>>あ──……。うん。──カネトキ。オウノ、カネトキ、だ」
「"カネトキ"。ほォ……変な名前だねェ〜〜」
「>>>おっ、きみが言うかぃ?」
「──ぶつよ!!」
「>>>ちょちょちょ!? いま後輩ちゃんの身体だから!!」
「……ったく。ねぇ、カネトキ」
「>>>……なんだぃ?」
「アンティ……頼むよ」
「>>>……! ああ……。命かけて、守るさ」
「っ! バカたれ……」
この場所を、命懸けで守ってくれた事を、
なんとなく気づいていたあたしは、
ちょっと泣きそうなのを堪えるのに、目をとじた。
「>>>……ありがとう」
「……何がだぃ」
「>>>ここを、守ってくれて」
「ふん……」
「>>>……」
「そういや、誰を好きになったってェ〜〜?」
「>>>え"!? その話題、終わりじゃないの!?」
「かかか! 年寄りは、退屈が大敵でねぇ〜〜?」
「>>>え、え〜〜っとぉ……」
目の前の黄金の少女は、
そ〜〜っと、頭の上の王冠を、指さしやがった。
「…………」
「>>>……」
「……。その、まわってる冠さんは、お……女の子、なのかぃ……?」
「>>>……う、うん……」
…………。
「──ぷ! くくっ、くっくけくくくっくかかか……!!」
「>>>……ぼく、きみの笑いのツボがわかんないよ……」
「──か──っかっかっかっか!! い、いいじゃないか! か、仮面が、お、王冠に恋をする、たぁ……!」
「>>>な……何がそんなに面白いのさぁあ!」
「くあっかっかっか──!! いや、だって……それ、アンティも知ってんだろォ!? くっくっく!!」
「>>>ぅ? うん……」
「顔にへばりついてる同士で乳繰り合って、さぞ迷惑だろうねぇ!! か──っかっかっかっか!!」
「>>>ぐっ……!」
「はぁ……笑わせてくれるねぇ……義賊サマは」
「>>>け、けっこう、気にしてたんだけどなぁ……」
「──はん。ババァ舐めすぎだよォ。アンタ、ホントに時が止まってんだねぇ」
「>>>……いや、やっと動き出したさ」
「……! ……そうかぃ……」
「>>>ああ……」
「ふん……まずいお茶は、もっぱいいるかぃ?」
「>>>いただくよ」
ふるい友人と話すのは、
なかなかどうして、楽しいもんだ。
寂しがり屋の銀色の姫さんが来るまで、
あたしたちゃ、久々に喋り込んだ。










