⚙⚙⚙ 忍び寄るほにゃららら ⚙⚙⚙
新年あけまして、おめでたです<(_ _*)>。
またよろしゅうです♪°*.\(*´∀`*)/.*゜
拝啓、故郷の父さん、母さん。
早いもので、私がドニオスの街に来てから、
もう三ヶ月が経とうとしています。
手紙を配ったり、
街をひとつ助けたり、
命をかけて、憧れの人と戦ったりしました。
親不孝者で、ごめんなさい。
でも、何とか元気にやっています。
心配しないで。この子も一緒です。
もうすぐ学校の試験なので、帰りますね。
んで。
今、サボりにサボった、
テスト勉強をしているんですが──……。
「……マイスナ。背中あっつい。ちょっとゆっくり勉強させてよー」
「い────……っだ……」
憧れの人が、背中にもたれかかっています……。
「ひ、人を背もたれにしてぇ……もぉ……」
「つーん」
テスト勉強を始めたら、マイスナが拗ねた。
ほっぺのつねり合いになったけど、
お互いに痛みがわかるので、当然致命傷にはならず。
現在、ベッドの上での背中合わせ状態に至る。
「うへぇ〜〜。けっこう地理系の範囲が多かったんだなぁ〜〜。やべぇ〜〜……親に学費払ってもらってる以上、筆記くらいは点取らないと……」
「つーん」
背中からのツンツン感がすごい。
なんでやねん。
アンタ助けてたから、試験勉強皆無だったんでしょーお!
ちょっとくらい、譲歩の余地がですね……。
……ぺらぁ。
「マイスナぁ。今読んでる教科書、しおりが何ページにある?」
「43ページ」
「うわぁん……けっこー残ってる……」
「どこまで範囲?」
「そっから最後のページまで」
「ふとい。学校って、たの……あ……」
「……ん」
マイスナが、「学校って、楽しい?」と聞きかけて、止めた。
この子、私の記憶、見てるもんね。
ふっ。確かに私ほど魔無しを極めた者はいないわ。
でも……。
「……楽しいことも、辛いこともある」
「!」
今は、それを自然に言うことができた。
「そんな当たり前の事を、やっとわかったような気になれた……かな?」
「……そっか」
黙々と、お互い、教科書を読んだ。
しばらく経つ。
「……ふぅ。マイスナ、そっちの貸してくれる」
「ん」
「ありがと」
「……アンティと、同じ学校に行きたかった」
「! うん……」
こそばゆい事を言ってくる。
教科書のページを開く。
……ん?
「……これを予習したの、けっこう前なんだけど……意外と覚えてるもんね……」
「そうなの?」
「う、うん……」
あっれぇ〜〜?
やけに全部覚えてるなぁ……。
なんでだ……?
「! あっ、アンティ……!」
「えっ……? あっ……」
髪の毛、繋がってる。
「まさか……」
「えへへ、一緒に勉強した」
「そんな事も、できちゃうの!」
マイスナと髪を直結した状態で、お互いに違う本を読むと、
どちらの知識もお互いに共有されるらしい。
「あなたが神か」
「神はあなたです」
美味しいご飯を作る約束をして、勉強を手伝ってもらう。
直結状態で、別々の事をする。
あ……マイスナ……この子……すげぇ……。
やっぱ、天才型だわ……。
私が読み直していない本を、
ここまでわかりやすく理解してくるとは……。
筆記オンリーの秀才型としては、なんか切ないわね……。
「あ、アンティ、悲しんじゃダメ!」
「え? あ、はい。すんません。そこもわかるのね……」
心も繋がってんな、コレ……。
思わぬ絵本ライバルの協力のお陰で、
月末前に、かなり余裕を持って復習する事ができた。
マイスナ様様である。
え? ズル……?
……。
命がけだったので、許してほしい……。
「いやっはぁ〜〜!! これはすごい! 満点をとれる気しかしない!」
「アンティ出来る子!」
「ほっほっほ! 褒めたまえ褒めたまえ」
ふぅ。後は帰るだけだ。
前よりか、数日分は余裕がある。
……そう言えば、今月はプレミオムズの集まりはあんのかな。
先月は、試験と日程が被って焦ったなぁ……。
オシハさんが、都合が悪いなら来月上旬にズラしてくれるって言ってたっけ……?
いや、そもそも集会が開かれるかも、わからないのよね。
てことは……。
前みたいに早めに帰って、
1人だけで、さっさと試験を受けて、
ドニオスに戻ってた方がほうが……いっかな?
……。
ビーフシチュー、食べたいな……。
「……ん?」
「ん〜〜」
「……マイスナ。今、"ビーフシチュー食べたい"って、思わなかった?」
「っ! わ、わかるのっ!?」
「へっへ〜〜♪ 一緒に作ろっか」
「す、すごい! すごいねアンティ!!」
きひひ。この子なら、
髪の毛でオーダーが取れちゃうワケか。
コロコロに煮込んだタウロス肉と、
甘いニンジンと、新ポタタ。
コテコテオニオンも忘れちゃいけない。
キティラ食堂では、スープ小と白ライスを添えるのが礼儀である。
二人で味わった。
食べ終わった後で、ラリアットのような抱擁を受ける。
うさ丸がヒマそうだったので、
フライパンでのニンジンの炒め方を仕込んだ。
「にょきっとぉ〜〜♪」
「くゆくゆぅ〜〜???」
ギルド執務室のヒゲイドさんに会いに行き、
二人で、早めに帰る事を伝える。
「ほぅ……それは、マイスナをカーディフの街に連れていくという事か?」
「──あ!」
「──っ……」
失念していた。
私の故郷は、マイスナに大きな恩がある。
でも、マイスナは……"紫電の魔法使い"は、
一応、指名手配犯だ。
私が彼女と、あそこへ帰ること。
それは"紫電"が生きているという情報の拡散を意味する。
「……浅はかでした。えと…………どうしよぅ」
「…………私……待って、るよ?」
「っ! そんなぁ……やだよ……」
「……かまわん。行ってこい」
「「 えっ 」」
「前に俺が言った事を忘れたか。その銀の髪だ。そうそうバレはしない……。ただ、"紫電"とではなく、必ず"マイスナ"と名乗る事は、厳命する」
「あの……!」
「でも……!」
「くどい。行ってくればよい」
こ……。
このデカいおっさん、
カッコイイな……。
「あざますっ……」
「ありがとです……」
「くくっ、なんだその礼の仕方は……ふん」
ヒゲイドさんは、紅茶を一杯飲んだ。
「……打算的な話をする」
「「??」」
「俺は貴重な戦力であるお前たちを、あえて郵送配達職にした」
「っ! ……はい」
「?」
「アンティ。お前はそれを、自分のワガママを聞き入れてくれたと思っているのだろうが……それだけではない」
「……」
「……ん」
「お前たちのように、組織や権力などのしがらみに囚われない実力者は……有事の時に、とても頼りになり、尚且つ非常にスピーディだ。それはパートリッジの街のイレギュラーコールでも証明されている」
「……?」
「……。なんで私たちに、それを言うの?」
マイスナの言葉に、大きなギルマスが椅子から乗り出す。
「……あまり、俺をいい人だと思いすぎるな……って事だ!」
──! ……ふ、ふふ……。
「マイスナ。この人、照れてんのよ」
「ふふふっ……」
「っ、……お前らなぁ……。はァ……」
ギシギシと、優しい魔王のソファは軋んだ。
「隠すべき事柄が多いのは分かる。が、正直……勿体ないような、ほっとするような、変な気分でお前たちを見ている。この街での最近のお前たちの評判は、すこぶる良い」
「「!」」
「さいしょは"狂銀"の格好は恐れられるかとも思ったが……見事に溶け込んだな。もう、ほとんど子供は逃げないだろう」
「ええ」
「なでなでできるよ」
「……やれやれ。人生、何が起こるかわからんもんだ。マイスナ、良いんだな?」
「?」
「何がですか?」
「"郵送配達職"で、居続ける事をだ」
「……マイスナ?」
「アンティと一緒に、毎日たくさんの人の元へ何かを届ける。こんな幸せな事、他にない」
マイスナは力強く言った。
「きひひ……。ま、私も右に同じだわ」
「ふん……すっかり低級職にやり甲斐を見つけおって……やれやれ」
「きひひ〜〜♪」
「えへへ……♪」
ヒゲイドさんは大きく呆れているが、
その苦笑は優しいものだ。
「ねぇ、ヒゲイドさん……。私、ワガママ聞いてもらって、この仕事ができて……憧れの人もそばにいる。ふふ、正直に言いますけど、すごい"やり切った感"があるんです……」
「ほぅ? ふっ……ずず」
「なんか……もうこれ以上……、別に特別なことなんて全然起きなくても良くて……ずっと死ぬまで、マイスナと一緒にお手紙しこたま配って生きていくのも、凄くステキだなって……!」
「アンティ……!」
「……はっ。わかった。お前たちは立派な郵送配達職になっちまったワケだな。良い。精々、平和を楽しんで生きろ」
「きひひ、言われなくても!」
「ありがとう……!」
「で? 今日、でるのか?」
「ええ。そのつもりです。んで、早めに帰ってきます。もしかしたら無いのかもしれないけど、来月の頭に、プレミオムズのみんなに呼ばれたら、困るかもだから……」
「……わかった。お前らの速力なら、日数には猶予があるな。ゆっくりしてくるがいい」
「いたみいりますっ」
「ますっ」
「ふんっ。ま、パートリッジのようなヤバい案件は、そうは起こらないだろう……」
バババさん達へのお土産も用意し、ドニオスの街を出る。
「いつ帰ってくるの?」と聞いてくる子供らをなだめるのが、
大変だった。
──────。
………コンコン。
「……む?」
…………コンコン。
「……。………むぅ?」
恐らく、キッティだと思うのだ。
だが、おかしい。
あいつが、大人しく俺の部屋をノックするなど。
この執務室に、この音が響く事は、珍しい。
……。なにか、変なモンでも食ったか?
……コンコン。
「……キッティか? 入れ……」
──キィィ……。
やはり、キッティだった。
ん? 表情が、ない?
「…………………」
「?」
喋らんかい。
「……どうしたキッティ。魂が抜けたように突っ立っていても、俺に用件は伝わらんぞ?」
「…………」
……おいおい。コイツどうした。
状態異常か? 沈黙が過ぎる。
「な、なんだと言うのだ……」
「……てがみが、とどきました」
「……! 手紙……?」
既にアンティとマイスナは、
カーディフの街へと帰郷している。
アイツらが届けたものでは、ない……?
「俺宛に、か?」
「ちがいます……アンティさん宛なんです……」
「! ほぅ……」
……ふっ。郵送配達職に手紙を出す奴がいるとは、酔狂だな……。
どこかの商人にでも頼んだのだろうか。
意外と、子供たちからの手紙……なんて事もあるやもしれん。
俺は、比較的なごやかな気持ちで、キッティに聞き返した。
「──誰からなのだ?」
「うっ、うっ、うっ……!」
「は?」
──差し出された、手紙。
その手紙には、赤いシーリングワックスで、
封蝋が施されていた。
浮かぶ紋章を見て、たまげる。
「 」
「おっ、おお、おおおぅ、おおおおおっ、
"王家"からですぅぅぅぅううう〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
おっ、おっ、おっ、
" 王書 " だぁぁあああああ〜〜〜〜!!!!!
「ああっ、あっあ!! アンティ呼び戻せぇええええええええええええええ!!!」
「無理ですぅううううう〜〜!!!! もう追いつけませぇえええええんんんん!!!!!」
「やべぇやべぇやべぇバレたか? Sランク無断登録したのバレたかッッ!? ぐおおおっ!!」
「びゃあああああああ!! 国家反逆罪いぃぃぃ〜〜!!!」
「おっ、落ち着くんだキッティ!!! もしそうなら、なぜ俺にではなく、アンティ宛に王書が!? ま、まさかっ、アイツだけ王城に呼び出されたり!? そ、それはマズいマズいマズいマズいマズい時限結晶が世に出ると最悪だやべぇやべぇやべぇ……」
──ガタン。
ばっしゃあ。
「あっ」
「なな何やってんですかぁ──!!!?? ギルマスぅ──!!!??」
「うっ、うるさい!! ちょっと紅茶が跳ねただけだ!!」
「ちょっとじゃないですよぉぉ──!!! 裏見てください!! 割とモロですよぉぉおお──!!?」
「あ、やっべぇ。開けるぞキッティ」
「いいいっ、いいんですかぁ!? 勝手に開けちゃってぇ──!!」
「中の手紙まで紅茶が染み込む前に、出さねばならんだろぉおおお!!! 王書の封筒は、昔のがあるわぁ──!!!」
「外側とりかえる気、マンマンだぁぁぁああ──!!!」
「おりゃ!!!」
「ほ、ホントに開けちゃった、このギルマスぅぅ──!!」
「な、中身は無事だ!! な、内容は……」
「アンティさん宛の手紙、勝手に読んじゃあマズいですって……」
「……キッティ。お前、アイツらが帰ってくる数日間……耐えられるか……?」
「……、……ゴクリ……。な、なんだ、ろ……今、お腹の底の方が、融解するような感覚を幻視しました」
「……健康を損なうほどのストレスを受ける前に、見よう」
「うっ……うっ……。はいぃ……。天国のお父さん、お母さん、ごめんなさいぃ……」
「やめんか……いくぞ」
ぺらり……。
「「 ──……ッッ!? 」」
アンティとマイスナが帰ってくるまでの、数日間。
俺とキッティは、ヤッキモキとした生活を送る事となる。
「「 は、はよ帰ってこーい!!! レターライダーズ!! 」」
(;´༎ຶٹ༎ຶ`).*・゜










