花守の伝承者 さーしーえー
ランキングタグって、絶対初心者こまるよね⋯⋯
(´﹃`)
いま、あの金ぴかの娘が、でていったよ。
まったく、とんでもない15歳がいたもんだ。
あたしゃ300年ちょい生きてきたが、
あんなに、素っ頓狂なチカラをもった冒険者は、初めて見たよぅ。
あ、嬢ちゃんはまだ、冒険者じゃなかったっけねぇ……。
「ふん……とうとう置いて行っちまったか……」
あたしの手元には、仮面がある。
あの娘が届けてくれた、思い出の人の仮面。
名すら知らない、初恋の相手の人のもの。
「持って行って、欲しかったんだけどねぇ……」
一昨日の夜明けを、思い出す。
朝焼けが、綺麗なオレンジの日だった。
煙突のてっぺんに避難して、わたしたちゃ、あの娘を見てた。
朝日に舞う、二つ結いの髪。
全身に纏う、唸る黄金の鎧。
黄金に光る、星の歯車たち。
光に浮かびあがる、
小さな、王冠をつけた、
優しき心を持つ、歯車使いの姿を。
そりゃぁ、幻想的な、光景だったよぅ。
視界はすべて、オレンジ。
黄金姫は、そこに、あつらえたような見姿だった。
絵本の挿し絵のようだったよ。
キラキラと、輝いてねぇ。
なんだろねぇ。
親心って言うのかねぇ。
この仮面はあの嬢ちゃんを
支えるためにあるような気さえしたよ。
大事なものだから、あの娘に託したかったんだけどねぇ……。
「ばばばばーちゃん!!」
「ばーちゃん! アンティに花束あげてきた!!」
「んん? ほぅ、そうかぃそうかぃ!」
まったく、先の花守が聞いたら、卒倒するねぇ。
貴重な精霊花で、花束など。
くっくっく。
でもまぁ、こんなにあるんだ。
ちょっとだけなら許してやろうって気になるねぇ。
「喜んでたかぃ?」
「泣きそうになってた!」
「なってた!」
「かっかっか! そうかぃそうかぃ!」
────花ってのは、たまには人に贈るもんだ!
「……ねぇ、ばーちゃん」
「ん? なんだぃ」
「昨日、ラララと話したんだ……」
「何をだい?」
「ばーちゃん、"花守"の番人には、どうしたらなれるの?」
「な────!!」
ロロロ……おまえ、なんて事を言いだすんだぃ。
「ロロロ……あんた、自分がどんな目に会ってきたか、知ってるだろう……」
「……父ちゃんも、母ちゃんも、花を守ってたんだろう?」
「ラララも知ってる! お花を守るために、戦ってたって!」
そうだ。この子達は、純血の花の守り手の、子供たち。
エルフの里の者が、すべてを捨て、旅立ったとき、最後に残った者たちの子供だ。
「……ロロロ、ラララ。花は生き物だ。私達が、"守る"なんて、偉そうなことは言えないんだよ……」
「でも、この花がいっぱいになれば、魔物がこない場所が作れるって!」
「わたし達、やってみたい!」
「それが、花の守り手のしごとだろ!」
「お前たち……村での事を忘れたのかい? ない花を守る事に、何の意味があるんだ、って、ネネネ様は、ずぅっと蔑ろにされていたんだろう……?」
蔑まれて、死んだ者達の、子供。
30年ほど前、1度だけ、村に帰った時。
たった2人だけ残された、子どもたち。
あたしは、この子らを引き取った。
死に別れた、師匠の子供たちを。
あの村は、どこかに移動してしまったという。
すべてを捨てて、新しい場所へ。
「おまえたちが、そんな古いしきたりに、縛られる事はないんだよぅ……」
時代は、変わってきている。
この子たちが、迎える新しい時代。
あたしの考えは、もう古いのだ。
ハーフエルフでありながら、花守を継いだ、
愚かなあたしの考えは……。
「なぁに言ってるの、ばーちゃん!」
「ははは、変なの!」
「な、なんだぃ」
ロロロが、空に両手を広げて、言う。
ラララが、くるくると舞って、言う。
「ない花を守るだって? 見てよ!」
「こんなに、こんなに、あるのに!」
「「花がない場所なんて、ないじゃない!!」」
────雲の上みたいな、一面の、花畑。
…………。
………………。
あぁ………そんな。
引き継げというのか。
この子達に。
後は、この子達を街に届け、死ぬだけだと思っていたのに。
おぉ、おぉ、ネネネ様……!
あなたの子供は、あなたの意志を、引き継ぎますぞ……!
私が、このハーフエルフの私めが、その間を担うとは……!
まだ、死ねん。
死ねんぞ。
仕事が、できた。
あの黄金の娘のおかげで。
人生最期の、私の仕事が。
2人の、嫡出に、跪く。
「!?」
「? ばーちゃん?」
古いしきたりに縛られるつもりはない。
だか、今だけは、告げねば。
古くから伝わる、想いの儀式。
私も、ネネネ様に、こう、告げられたのだ。
だから、その想いは、言葉にせねばならん……!
身体をおこし、
2人の肩に、手を置く。
紡ごう。時代をこえた言葉を。
言わないで死のうと思った、誓約を。
せっかくここに、おあつらえ向きの、
美しい花畑が、あるのだから。
「
第24代目、花守の巫女、
バババ・フラネットが、
ここに、宣言する!
ロロロ・アーガインズ、
ラララ・アーガインズを、
第25代目、花の守り手と、
巫女の継承者とし、
我が結界のすべてを
託すことを、誓うと!
」
2人の子供たちは、はじめはキョトンとしていたが、徐々に瞳に魂が宿り、元気よく、返事した。
「「────はい!!」」
「くくく、容赦はせぬぞ……!」
「「ええっ」」
──その時だった。
────ヴゥゥォォォン……!
「! なんだ!」
「ばーちゃん! みて!」
「な────、なんと!」
仮面が、宙に、浮いていた。
優しい、黄金の光を出して。
その光は、仮面から溢れて、
やがて、人のカタチとなる。
「あなたは……」
懐かしい、光のシルエット。
見間違えるはずがない。
あの人だ。
そうか、見届けてくれたんだね。
あたしの誓いを。
最期の決意を。
なつかしい、
なんて、なつかしいんだろう。
「……いくんだろう?」
あたしには、わかってたよぅ。
あんたが、行きたがってるってね。
ふん、花守の巫女をナメるんじゃないよ。
守りたくなったんだろう。
あの、心優しい、歯車使いを。
光の男は、見つめている。
嬢ちゃんが、行った、森の方を。
何か、嬢ちゃんの身に、あったんだね。
「いっておやり」
『『…………』』
「あの嬢ちゃんを、助けてやってほしい。あたしに、生きる希望を届けてくれた。……アンタに、また会わせてくれた、あの嬢ちゃんを!」
『『…………』』
コクリ、と、光の男が、頷いた。
あたしも、彼も、ほほえんでいる。
「────……そうだ、ひとつだけ」
『『…………?』』
「アンタ、名前を教えてくれないかい? いっつも、名前を聞きそびれちまう」
ふん、あたしの悪いクセだよぅ。
『『……────ふふ』』
仮面の君は、そっとあたしに近づき、耳元で、ささやいた。
────気づくと、彼は消えていた。
「「…………ばーちゃん……?」」
「……く」
「「え?」」
「くっくっく……」
な、んだって……?
なんてホラを、吹いていきやがるんだぃ?
「か────っかっかっかっかっか!」
まったく、老いぼれをかつぐんじゃないよ!
なんて名前だぃ!
もし、それが本当なら、あたしは絵本のヒロインになれるよ!!
「か────っかっかっかっかっかっか!」
「「ば、ばーちゃんが笑ってる……」」
────はぁ、がんばんな、嬢ちゃん。
あたしもちょいと、きばってみるよ。
大丈夫さ、あんたには、
伝説の大義賊様が、ついているんだからね!!
「か────っかっかっかっかっかっか!」