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家族懐疑会議/にゃんにゃんオペレーション



「……いく、よ?」

「う、ん……」



 カーディフの街を旅立つ時に、

 母さんに持たせてもらってた、

 小さな裁縫セット。


 その中のまち針で、少しだけ、

 そっと、指を刺す。


「……っ、」

「──いたっ」


『────カネトの:予測通りのようです。』

『>>>危ないな……』


 人差し指に、小さな紅い宝石のように膨れる、私の血。

 部屋の隅に移動していたマイスナが、そばに来た。

 お互いの髪の流路が繋がっていない状態で試す必要があったからだ。


 私が、左手の人差し指。

 彼女が右手の人差し指を出す。

 どっちも、血が出ていた。


「……」

「……チクってして、血が出たよ……」

  

『────傷口の大きさは:完全に一致しています。』

『>>>……うん。じゃ、次は治療だ……』

〘#ふむ……ロザリア。マイスナの指だけを治療してくれるかね?〙

〘------よっしゃ──☆ 任せとけのん☆〙


 ファァアア……!


 マイスナの指に鎖が巻き付き、

 そこから白い液体が染みだしたかと思うと、

 小さな光る羽根が広がり、治癒の効果を生み出す。


 針でつついた程度の傷は、瞬時に無くなった。

 私の指の痛みも消える。


「……! 私の指の傷も、治った……?」

「……! アンティ……」


 マイスナと顔を見合わす。

 これって……。


『>>>ドンピシャだな、ちくしょう……』

〘#……あまり褒められた状態ではないな……〙


 先輩と先生が、難色を示す。


『────双方の完全な傷口の治療を確認。』

〘------ありり──?☆ ウチはマイスナしか治療してないのんよ☆〙


「これってさぁ、つまり……」

『────肯定。

 ────お互いの身体のリンクが:思った以上に密接なようです。』

『>>>お互いの怪我やコンディションが、お互いの身体にダイレクトに反映されるようだね』


「…………」

「…………」


 ……。

 それって……ヤバくない?

 私が怪我したら、マイスナの身体にも怪我が現れるって事……?


〘#……純粋に、危険だ〙

『>>>そうですね……。後輩ちゃん、危険度を理解してもらうために、極端で嫌な言い方をする。どこかで片方が死ねば、もう片方も死ぬ』


「「──……!!」」


〘#……カネトキ、言葉が過ぎるぞ!〙

『>>>すみません……でも、これは正しく理解しておいた方がいい』

〘#……それは……そうだが……〙


 ……私が、うっかり大怪我とかしたら……、

 マイスナも……?


「「ごく、り……」」


 二人同時に、恐ろしさを理解する。

 これは、ヤバい。


『────お互いの流路を完全同期させた:弊害と判定できます。』

『>>>ここまで顕著だとは、ぼくも思ってなかったな……。頭髪部の流路束が未接続の状態でも、身体のコンディションはリンクしているようだ』

〘#……無線LANのように、ある一定の距離では発現するのではないか? もう少し距離を離した状態で、同様の事を試すべきだ〙

『>>>それは賛成ですね。でも……同じ結果になりそうな予感がします……』

〘#……うむ……〙


 こわいな……。

 た、例えば、私が階段で滑って転んでゴロゴロしたら……。

 マイスナにも、その怪我は移る。

 そ、そうだ、逆もある。

 マイスナが怪我をしたら、私にもダメージが反映するのか……。


 ギュッ……。


「あ、アンティ……」

「! だ、大丈夫……」


 マイスナが引っ付いてきた。

 あったかい。

 私も、ちょっと不安に追いつけていない。


 ……もう、一人だけの生命じゃ、ない。



「気をつけるしか、ないよね……」

「ぅ、うん……」


『>>>その……脅しといてなんだけど、あまり気にし過ぎもダメだ。自然が一番いい。こちらでも気をつけるよ』

『────アンティとマイスナが:別行動を取る危険度の認識を更新します。非推奨行動に認定しました。』

〘#……そう……だな。別の場所で危険に遭遇した場合、お互いを助ける事が難しくなる。君たちはできる事なら、行動を共にした方が良い。ロザリア、頼んだぞ〙

〘------のん☆ ウチが(ことごと)く治すのんな!☆〙


「はは……ヒールスライムが仲間にいて、良かったと思ったわ」

「……ローザ。アンティが怪我したら、すぐに治してあげてね……!」


〘------のんぷろむれむのん☆ かしこまったのん!☆〙


「や……私が怪我した時は、あんたも怪我してんだってば」

「だ、だってぇ〜〜……」


『>>>ま、ぼくが試したかった事は、これが大きい。最重要で認識しとかなきゃいけない問題だ。この際だ、他に誰かから問題はあるかい? 新しいスキルの効果も試したいけど……』

『────でしたら:私から一件:申告します。』

『>>>お』


「「?」」


『────私たちは:新参メンバーとの情報交流が:まだ完全ではありません。特に:各メンバーの武装能力・兵装能力関連の機能の共有化は急務です。』

『>>>……なる、ほど。確かにそうだ。お互いの怪我を防止するなら、いざと言う時の防衛力になる仲間の能力は把握しておいた方がいい』

〘#……箱庭の皆の能力には、そんな特殊なものがあるのかね?〙

『>>>ええ……。例えばイニィさんはロザリアと同じで、ある国の元、王女様で……今は悪魔になっちゃって……本体は"魔杖(まじょう)イニィ・スリーフォウ"っていう十字杖なんですけど、これは杖としてではなく、スナイパーライフルのような運用もできて……』

〘#……な、なるほど、複雑だな。しかしカネトキ。能力の構築過程で、そのような各個の人生が絡んでくるのであれば、能力の把握と、個人の過去が重要になってくるぞ〙

『>>>っ! それは……』

『────ギンガ殿。つまり:兵装能力を把握するだけではなく:"何故その兵装が構築されたか"を理解するために:各個人の過去を把握しておく必要があるという事でしょうか。』

〘#……うむ。必要以上に人の過去に土足で踏み入る事はしたくない。だが、彼女達には人格がある。配慮をするという意味でも、コミュニケーションは必要だろう〙

『>>>せ、先生が言ってる事はわかります。確かにイニィさんに、"悪魔の力があるんだ、すごいね"とか言ったら、彼女の過去に対して失礼だ! でも……それらを今から共有化するには、情報量が多すぎませんか? 先に能力だけでも理解しておけば……』

〘#……わかっている。まぁ、時が必要だろうな……〙


【 なんやなんや、ケンカけ……? 】

< はーな、これは思いやりやよぉ〜〜♪ >

{{ あー……、あんまり気にしなくてもいいわよ? 色々あったけど、今は楽しいですから }}


 な、なんだか先輩と先生が言い合いになっちゃったわね。

 ケンカしてるワケじゃなさそうだけど……。

 そうか……。

 マイスナも、身を守る上で、みんなの能力は知ってた方がいいよね……。

 ダイさんとか、最強の盾だし……。


『────情報の共有化で:私からひとつ提案が。』


 お、なんやなんや。


『────頭髪部流路束ワイヤーケーブルの:有線高速情報伝達を使えないでしょうか。』

『>>>はんた────ぁい!!!』

『────な:何故ですか:カネト。』

『>>>今までの皆の情報を共有するって事は、アンティの記憶を、マイスナの記憶にダイレクトリンクするって事じゃないか! 危険だって!』

『──むっ! わ:私のフィルタリング能力は:お互いの精神防壁を維持可能です。少なくともアンティとマイスナは:迅速に情報を共有化できます。』

『>>>それって先生とロザリアは置いてきぼりじゃない? あと、やっぱり情報量が多すぎて不安だよ……』

『────マイスナは:アンティと並んで"電鎖歯車法(でんさはぐるまほう)"の権限者です。彼女が兵装と各個人の情報を理解する意味は大きい。不安がっていては:前進足りえません!。』

『>>>むむむ……!』

『────:あっかんべー。』


〘#………やれやれ〙

〘------ケンカのん?☆ ケンカのん?☆〙

【 ……大姉(だいねえ)? 】

< うん、これはケンカやねぇ〜〜♪ >

{{ ……これって痴話喧嘩になるんですか? }}


 おい……新婚さんがケンカ始めてんわよ……。

 誰か止めろや……。

 "あっかんべー"って、クラウン……。


「……私が、アンティを理解すればいいの……?」

「……──! マイスナ……?」


 ……どした?

 ゆらりと、マイスナが近づいてくる……。


「えいっ」

「ちょ……──  」


 ──ボフンっ!


 ベッドに押し倒された!


「ま……マイスナ!?」

「……──アンティと、繋がる──……」


 ──!!

 マイスナの、白銀の瞳と髪が、光ってる!!

 髪がひろがる!!

 ちょ、ま、待って──!?



 シュルルル……、

  シュルルルルル……!!


 ……──しゅぱぱ! ヴォン──!



 ──私の髪も……光っ、てる……?


 お互いの髪が、輝きながら、繋がっていく──。

 



「が……ぁ……」

「アンティのなか、見せて……? 私のも、見て、いいよ……?」


『────:な……!!。』

『>>>──バカやろうっ! そんな無理やり接続する仕方があるかっ!! クラウンちゃん!!』

『────接続キャンセル:不可能判定。カネト:コックピットへ!。』

『>>>マイスナの権限が高いっ! くそっ、こうなったら最大限フォローする!』



 ──見える。

 ──見える。

 ──これは、記憶だ。


 私自身の、金の瞳の中から、光が溢れる。

 目の前の、銀の瞳の中から、光が溢れる。


 髪と瞳で、光のキャッチボールをしているみたいだ。



〘------なんだか、カラダが熱いのん……☆〙

〘#……! ロザリアが、光っている……!? む……!?〙

{{ ……!! 先生、貴方の身体もです……! マイスナの流路が活発化して、影響を受けているんだわ……! }}


『C7:こちらニャーナにゃ! 只今クニャウンズ全員でサポートルー厶に入ったにゃ! 何するか指示くれにゃ!』

『────アンティとマイスナの精神防護壁を最優先に構築。通信流路の安定のサポートを。』

『>>>バグ取りも頼む! 出力が偏ってる所は均一になるよう流路を繋げてくれるかぃ!?』

『C7:任せとけにゃー!』

『『『『『『了解にゃー!!!!!!』』』』』』

『>>>悪い! こっちにコンソール増設するよ!』

『────お気になさらず。通信状態:安定はしていますが……。モニターに視覚化した物を投影します。』

『>>>──! なんて情報量だ……まるで光の木だ……』



 ──てこてこと。

 ──白いモフモフに乗って、

 ──綺麗な床を進んでいる。

 ──あっ、これ、デブ助だ。

 ──ふふふ。

 ──あ、植木食べてる。

 ──食いしん坊だなあ。

 ──笑っている、研究者さんが見えた。

 ──白い、綺麗な建物だなぁ。

 ──あの地下の研究所、昔はこんなだったんだなぁ。




『────……:正直に言います。今:あまりの情報量に:戦慄しています……。』

『>>>だ、大丈夫だ……きみの言った通り、接続自体は安定しているよ……大丈夫、大丈夫だ……。キーボードじゃ意味ないな……直接、左手に接続しよう……クラウンちゃん?』

『────あ:はい。では:失礼して──。』


『C1:1213から1356のデバックは終了したにゃ。全体通信量が計測不能にゃ』

『C2:1428でバグが発生! っ! 自動修正されたみゃ……!』

『C3:227から425の接続が休止状態に移行しますみゃ! 出力を精神防壁に回しますにみゃん!』

『C4:えいっ、たぁっ』

「にょきっと……」

『C5:おい……こちらでの修正操作が、流路束内で模倣されはじめているにゃよ……?』

『C6:にゃ〜〜!! 2304から4506がトレースしきれなかったにゃ!! 速すぎるにゃって……! たぶん、大丈夫だと思うんにゃけど……』

『C7:諦めるんじゃにゃいにゃ! 6802から7203のデバック終了にゃ! せっかく人型なんにゃ! 自分に合ったキーボードデバイスにカスタマイズするにゃ!』


『────:はやい……!

 ────これをほぼ:アンティとマイスナだけで進行しています。』

『>>>くそ……切り替えよう。主導権は彼女たちに任せよう。ぼく達はあくまでもサポートだ。こっちの流路体はまだ活性化できる。お願いできるかぃ?』

『────了解しました。起動を確認。』



 ──何もない天井。

 ──オムライス。

 ──たくさんのモルモット。

 ──実験。

 ──実験。

 ──わたしのこと。

 ──夢。

 ──氷。


 ──わたし、たち────。



『C1:流路通信、収束現象を確認にゃ。ケーブル内の抵抗値が低下していくにゃ』

『C2:こちらでも確認したみゃ。脳内流路束の活動がイエローから……グリーン判定!』

『C3:777番、接続子が離散していきますみゃん! ひぇ〜〜……、これ、次もイチから作るみゃんか……?』

『C4:ちかれたにゃー』

「にょきっと……」

『C5:やれやれにゃ……ニューロン体に展開していた流路体が休止状態に移行していくにゃ。イッツァミラクルにゃ……』

『C6:端子系が全て流路束内部壁面に格納されたにゃ! 数が計測不能にゃ……精神防壁の改善を同時に進めるにゃ!』

『C7:流動端子系が血液循環に戻っていくにゃ……。うわ、観測できなくなったにゃ。どうなっとんのにゃ……。ワタシにはお手上げにゃよー。ドンとオクさん、べらぼうにゃ……』


『────高速回線を終了……。カネト:あなたの心配は(もっと)もだったのかもしれません。』

『>>>いや……この規模を、安定して運用してるって事実がすごいよ。常識って、逐一崩壊していくよなぁ……』





 …………。

 上から、覗き込む、マイスナ。




「……理解した」

「……え?」

「ぜんぶ、理解した。みんなのこと……」

「そう……」


 手を持ち上げ、彼女の頬にふれる。


「……あなたの、過去が見えたよ」

「……。どう、だった?」

「デブ助が、あったかかった」

「……! ふふ……ケチャップを見ると、逃げるんだよ」



 ありゃ、うさ丸がまた寝てる……。



「にょんやぁ〜〜……Zzz……」

「くゆゆぅ?」




 マイスナが、今までの全てを、理解した。




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