馬車で本はよいますよ?
あたまが、からっぽだ。
────こげくさっ。
「クラウン。もっかい」
『────再生。
名称【 クルルカンの仮面 】
(スキル媒体/アイテム)
状態:永続加護
対象:アンティ・キティラ
スキル:"反射速度"
スキル:"眼魔"
────同期結合中です。』
────────。
────────。
────しゃがむ。
しゃきッ。
仮面を、首から、とる。
「…………」
『────アンティ?』
相棒が、無表情な私を心配して、思わず名で呼ぶ。
…………。
「どういうことなんだろう」
『────何がですか。』
…………。
「クラウン」
『────はい。』
「"義賊クルルカンの冒険"」
『────思考並列同期中。理解可能。』
「いい娘」
『────アンティ。問題箇所の入力申請。』
「…………」
『────何が、問題なのですか?』
いや、だって、アンタ。
「絵本の主人公の仮面が、存在するワケないでしょう」
『────何故でしょう。』
「何故って……」
"義賊クルルカン"よ……。
数年前に私も、ユータにせがまれて、めちゃくちゃ読んでやったわ。
人々を助け続ける盗賊、クルルカンの冒険譚。
この世の中で、一二を争う、とても有名な絵本。
「……確かに、そう言われると、そう見えるわ」
絵本の中の"クルルカン"は、盗賊のくせに、マントを羽織った騎士のようだ。もちろん盗賊なので、ヨロイと言うより、軽技職 っぽい軽装だが。
顔は、盗賊のためか、上半分が仮面に覆われている。
軽装の仮面の騎士。
盗賊なのに、そんな印象を受ける。
特筆すべきは、その色。
絵本の彼は、例外なく、黄色やオレンジで描かれる。
超、ハデなのだ。
おまえ、盗賊だろ。
この配色のせいで、仮面の騎士は、まるで金色の道化師のように見える。
この目立つ姿が、子供達には、大人気。
出会う人々を助け、
多くの宝を狙い、
分かち合い、
最後に、対となる敵 "狂銀" を倒しにいく。
そんな、物語の主人公の仮面が────
「こんな所にあるわけないわ……」
『────否定理由の欠落。』
「実在の人物だった、っていうの?」
そんなバカな……。
もしそうだとしたら、この仮面は、歴史的価値があるわよ。
本人がいた証明になるかもだし……
「クラウン。たとえば、私が粘土で仮面を焼いて"クルルカンの仮面"! って名付けたら、その分析結果は、どうなるの?」
贋作説。
『────解。"状態分析"で表記する名称は、第三者が受ける印象を予測変換して決定されます。大衆概念に起因する。』
ええと……
「わかりやすく……」
『────作成された仮面が、一定のレベルに満たないと予測された場合。例:"アンティのヘタクソな仮面"。』
ヘタクソて……。
う─ん、なるほどわからん……。
みんなが見て、ヘタクソだと思うだろう、と判断したら、"ヘタクソな仮面"になるってこと??
"分析"と"鑑定"の違いなんだろうか……。
ていうか、それアンタのさじ加減次第じゃないの!
「アンタ、そんなテキトーに名称つけてたの……」
『────心外です。』
「いやいやいや……」
その理論でいくと、この仮面は、
"誰が見てもクルルカンの仮面と思う"
って事になるじゃない……。
いや確かに、私も意識しちゃったら、あの絵本の仮面にしか見えなくなってるケド……。
「……クルルカンの想い人が、ばばばばーちゃん……」
ありえねぇ────……。
「──クラウン、この情報、極秘ね」
『────受諾しました。
────"クルルカンの恋人"情報を秘匿します。』
あ、そっちちゃう……まぁいいか。
森からでた。
目の前に、街道が見える。
……長かった……。
服は草まみれだ……。
汗びっしょり……。
かえの服は、かなり持っているけど、
肌着とかは、ドニオスで見ときたいな……。
父さんらには断ったんだけど、
「15年間のバイト代だ!」って、
けっこうまとまったお金も貰っている。
これを元手に、後は、自分で稼がなくちゃ。
両親に申し訳がたたん。
せめて肌着を揃えれるくらいは収入をださなくちゃな……。
でも、あんまり魔物メインの依頼とかはやだな……
心配かけたくないし……。
ガラガラ、ドコドコ……
通りかかった馬車の御者さんに、手を振って止まってもらう。
「こんな所であぶないよ!」と、注意されてしまった。
その通りでした……。
追加料金を払って、乗せてもらう。
……マジで仕事、どうしよう。
住む所とかもあるしなぁ~〜……。
ガタガタと揺れる馬車の中、やっとひと息つけた私は、仮面がいきなり出てこない事を祈りつつ、バッグ歯車から、1冊の本を出した。
「バールモンキーでもわかる宝石・鉱石辞典」
ログのお父さんから貰ったやつだ。
……いや、バールモンキーはわかんねぇだろ……
私は、"時限石"の項目を調べるため、馬車に揺られながら、ページを開いた。










