表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
552/1216

目覚めと、ふたりと、天国と。

◤◢◤◢ 注意 ◤◢◤◢

(;^ω^)ちょっとここから、ゆりゆりしくなります……。

 苦手な方は、注意してね(;ω;)



 知らない、天井だ。



「……」


 たぶん、夢だと思いながら、

 私は目を覚ます。


「…………」


 チュン。

 ──ちゅん、ちゅん、

 ────ぱたたたたた……。


 ……小鳥?


 ピクン、と動いた手が、サラリとしたモノにふれる。


「……、……?」


 ゆっくりと、頭と、視線を傾ける。

 ……シーツ?

 滑らかで、清潔だ。


「こんなこと、あるんだな……」


 私は、雪山で狂っていたはずだ。

 いよいよ夢だと思い、私はぼーっと、

 天井を見ていた。


 薄暗く、青い部屋。

 どこだろう。

 夢だ。

 どうでもいいか。


「…………」


 夢が中々さめないので、

 私は起き上がってみることにした。


「ぅ……ぃ、しょ」


 上半身を起こした。

 ……。

 ぼーっとする。


「……!」


 手を見る。

 傷がひとつもない。

 凍ってもいない。

 やっぱり夢だ。

 鎖も、ない。

 ちょっと、さみしい。


「こんなことって……あるんだな」


 すごく、素敵な夢だった。

 静かで、寒くない。

 やっぱり、夢の中の私は、ベッドにいた。

 起き上がる。


 ──ぐぃ。


「んっ!」


 髪が……?

 何かに、引っ張られた。

 薄暗くて、何かわからない。


「?」


 少しびっくりして、そーっと、髪を引っ張る。


 ──シャン……サララ……。


「? 何かに挟まってたのかな……」


 髪は、何事もなかったかのように、

 サラリと流れた。


「髪の色は……銀色のまま、かな……」


 昔の、薄紫の色じゃなかった。

 ……もう、髪の色なんていい。


 きょろきょろと、夢の中の部屋を見る。

 どこかへ行けるかな……。


「……! 服を着てない」


 裸だった。

 部屋を歩こうとして、

 自分の内ももと内ももが触れてわかった。

 すごい。

 どこも痛くない。


「私のからだ、本物もこんななのかな……」


 背中のほうとか、見てしまう。

 氷漬けになってから、

 自分の体のかたちを、こんなにハッキリ初めて見た。


「…………」


 やはり、部屋だ。

 けっこう広い。

 小さな机がある。


「……?」


 この布がかけてあるのは、なんだろう……。

 とる。


「……!」


 カゴの中に、

 クッキー……のようなものがある。

 夢でも、味がするだろうか。 


「……」


 かじってみる。


「──っ!」


 もく、もく、ごくん。

 びっくりするくらい、美味しかった。

 ……。

 こんなもの、久しぶりに食べた……。

 ここは、本当に夢の中なのかな。

 私、こんなものの味を、覚えていたっけ……?


 何だか、食べちゃいけないものを食べた気がして、

 私はクッキーの欠片を置いてしまった。


「……。……? ……」


 素足でふれるラグマットの柔らかい感触が、

 妙にリアルだ。

 何だか、夢に思えない。


 私はもしかして、この部屋から出れないのかな?

 そんな事を、思う。


「……それでも、いいや……」


 ここには、クッキーもあって、ベッドもある。

 寒くない。

 もし食べるものがなくなっても、

 飢えて、死ねばいい。

 そう思いながら、部屋を見る。


 壁一面が、大きな本棚だった。

 とてもたくさんの本がある。

 すごい。

 ここから出られなくても、退屈はしないかもしれない。

 あ……。

 絵本も、何冊かある……。


「……あの子は」


 悲しく、なる。

 名前を、聞いた。

 ……。

 それだけだ。


「……ぅ。……」


 ──ぴかっ。


「……!?」


 まぶしいっ。

 ……? 光?


 濃い蒼の部屋の中に、オレンジの光の線が走っていた。

 それを辿り、カーテンのある窓がある事に気づいた。


「窓……」


 近づく。

 オレンジの線が素肌に当たると、

 熱で切られたように、温かい。

 ぺと。ぺと。ぺと。ぺと。ぺと。

 カーテンを、手にかける。

 シャ──……。

 ゆっくり、開いた。




「          」



 ───────オレンジ色の街。



「あ……、あ、ぁ……」



 理解する。


 ここは、夢じゃない。


 天国だ。



「わたし……死んだんだ」



 今まで見た中で、いちばん綺麗な景色だった。

 この家は、ずいぶん高い所にあるらしい。

 すごい。

 ずっと先まで見える。

 ここは、死者の街だろうか。

 それとも、神様の街?


「 き れ い …… ! 」


 あたたかい、街だった。


 日の光でできた建物の影と、

 光とのコントラストが、目に焼き付く。


「そっか………。わたし、死んだのか……」


 涙がこぼれた。

 とうとう、この日が来たんだね。

 しがみついて、いたもんなぁ……。


「は、は……。地獄に堕ちると、思ってたんだけどなぁ……」


 ここは、死者が罰せられるような所には見えない。

 いや、ここで孤独に生きることが、私の罰かも。

 なんにせよ、こんな空が近い部屋に、

 あの氷まみれの私がいるはずがない。

 私は、深呼吸をした。


「……私が死んでいるってことは……あの子は、助かったかもしれないな……」


 温かい窓に手を付き、ひろがる景色を見ながら、

 そう、思った。

 あまりに綺麗な街だったので、くらくらした。

 でも、陽の光は綺麗だったので、

 カーテンは少し開けたままで、

 薄暗い部屋に視線を戻す。


「……ここ、使っていいのかな」


 美味しいクッキー。

 たくさんの本。

 それに、綺麗なベッドがある。

 私は、神様に哀れまれたのだろうか?

 ……いいや。

 次の瞬間に、どうなってもいい。

 いまは、少しだけ、眠ろう。

 久しぶりのベッドに、体を預けよう。

 目覚めた場所に、戻る。


 とた。とた。とた。とた。とた。




 ────気づいた。



「        (ウソだ……)



 ベッドに、膨らみがあった。

 薄いかけ布を被っている。


 でも。

 綺麗な脚と、金色の髪(・・・・)が。

 陽の光に照らされて、見えた。



「  (ぁぁぁ……) 」



 声を殺し、私は泣いた。

 わたしは、殺していた。



 彼女も、死んでいた。

 彼女も、死んでいた。

 彼女も、死んでいた。

 死んでいたんだ。

 死んでいたんだ。

 死んでいたんだ。

 二人で、死んだ。



「そん、な……ぁ」



 胸が、ズキリとする。

 私は、彼女と同じ部屋にいた。

 なんて、なんて事を。



「はぁ……はぁ……」



 やっぱり…あの時、死んだんだ。

 手を、掴んで。

 名前を、知り合えた時に。



「どう……つぐなえばぁ、いいんだろぅ……」



 氷も鎖も、痛みもない。

 私は、ここで狂えなかった。

 柔らかな光が漏れる部屋で、

 ちゃんと、受け止めるしかなかった。


 怒られても、しょうがない。

 嫌われても、しょうがない。

 でも、目の前に、いる。

 一緒にいるんだ。



「………私にできる、せいいっぱいの、ことを」



 しよう。


 私は、彼女にかかっているシーツを、

 ゆっくりと。

 引っ張る。



 ……──しゅ……る…………。



「……ぁ    」



 固まった。



「     ……」



 こんなの、ずるかった。



「  きれぃ……  」

「すぅ……、すぅ……」



 天使、みたいだった。

 金の髪は、光。

 私とは、全然ちがった。


 穏やかに、眠っている。



「……っ! ぅぅ……」



 いっしょに死んでしまったけど。

 私は、すごく。

 彼女がいて、嬉しい。

 つらい。


 見て、しまう。



「……ぁ」



 実験体にされる日々の中、

 あの時初めて会った彼女は、

 とても輝かしい存在だった。


 私と、たぶん同じ歳くらいの女の子。

 それでも、こんなに違うのかと、世界が広がった。


 真っ直ぐに私を見て、ありがとうと言ってくれた。

 あんな素敵なことは、他にはなかった。


 狂った後で。


 あの瓦礫と氷でできた屋敷で、

 私はあの子を思い出した。

 鏡石に映る私の体を見て、

 あの子は、こんな風な女の子になっているのかな。

 これくらいの背の高さになっているのかな。

 そんな事を、考えていた。


 私は、鏡の中の私に、キスをするようになった。

 穢らわしいと思う。

 でも、あの痛みと寒さの中で、

 それは数少ない、私の自由のひとつだった。

 そして……。

 私は、あの鏡の自分の向こうに────この人の、姿を……!



「アンティ……」



 触れたい。謝りたい。

 私は……。

 


「……ごめん、ね……」

「すぅ──……、ん、ん──ぅ……?」



 ……ギ、シ。


 取り憑かれたように、私は近づいた。

 銀の髪が垂れ、彼女の金の髪に重なる。

 

 ゆっくりと、身体を近づける。

 あまり、頭は回っていない。


 どうしたら、許してくれるだろう。

 すっごく、綺麗な人。


 それくらいしか考えれないよ。


 



 ⛓

 ⚙





 びっくりした。



 パチッと目を開けた。


 天使の羽根のようなものが、私を覆ってた。

 ビックらこいて、ビクぅっ! と腰を突き出す。


 寝ていたベッドが、ぐらりと揺れた。



「やっ!?」

「わっ!?」



 天使の羽根に見えたもの。


 それが、彼女の白銀の髪だと気づく前に、

 バランスを崩した彼女の両手を、反射的に掴む。


 ベッドの上で、何故か取っ組み合いみたいになった。


「なっ、えっ、わっ!?」

「やっ、あの、ぬぇ!?」


 ぶっちゃけパニクっていた。

 彼女と、起き抜けに、なにを話そうかなんて、

 なんも考えてなかった。


「わたしっ、あのっ、そのっ、」

「ちょ! まって、あっ、やっ!」


 私のベッドのクッションの弾力が、

 割と優秀なのが、めっちゃ災いした。


「ちょっ……!?」

「あっ……!」


 ぎぎぎ、ぐらぁ──……。


「「 ぶべぇ! 」」


 倒れ込んできた彼女と、正面衝突した。


「……ぃ……」

「……ぅ……」


 あっ。

 あっ!? 裸やんけ……。

 はずいわ……。

 なんだこの状況……。

 ……。

 はは……。


 ふたりで、生きてる。



「……大丈夫? マイスナ」

「……、……」



 え、なに。

 打ちどころ、わるかった!?

 ちょちょちょ……。

 頭とか打ってないか、心配なんだけど……。


 彼女の身体を、持ち上げようとする。


 ぐっ。


 ……。


 ぐっ。


 持ち上がんねぇ……。

 さすが、同じ体格の女の子だわ……。

 って。

 なんか、この子……私にしがみついて───……。


「……、……かぃ」

「え?」


 すぐ近くから響く、声の振動。



「 あった、かぃ……、……! 」

「 っ、──……  」



 泣いてる。

 かたかたと、身体がゆれる。

 まるで、寒さに凍えるように。

 私に、ギュッと。

 必死に、抱きついてる。


「ぅ、うぅ……」

「あ、……」


 二年間、誰もいない氷の山で暮らし続ける辛さを、

 私みたいな食堂娘が、わかるわけがないんだ。


 私の憧れの人が、震えていた。


「ぅ……、ぅ……」

「……、……」


 身体の力を抜き、手を背にまわす。

 クソみたいな私には、

 これくらいしか、できることがなかった。


 ギュ……。


 抱きしめ返した。


「 ……──っ! 」

「 大丈夫…… 大丈夫だから…… 」


 震えていた彼女の(こわ)ばった身体から、

 ゆっくりと、じんわりと、力が抜けていく。

 私の身体に、体温と柔らかさが、重なっていく。


「「    …… 」」


 ……。

 やば……。

 ぬっくぅ……。

 あったけぇぇ……。

 肌と肌って、やばいわね……。

 ……。

 ……震え、とまってる。

 ちょっと、落ち着いたかな……?


「……ぁの、さ」

「んっ──」

 

 ────のそり、と。


「────……」

「……────!」



 マイスナが、私の顔の横にひじをついて、

 頭を持ち上げ、私を見た。

 銀の瞳からは、涙が零れそう。

 窓からの陽差し。


 わたしを、見てる。

 目を見開き、固まった。



「     」

「     」



 ……。

 この子……。

 綺麗すぎでしょ……。 

 なんなの……。

 神さま、こんなん創っちゃダメでしょ……。

 私とか、食堂娘だよ……。

 どうなってんの……。

 

 正直、マイスナの綺麗さに頭ぶん殴られていた。

 おへその辺りの、ふれている部分が熱い。

 

「……、……」

「……ぇ、と……」


 訴えかけるような目で、

 真っ直ぐにこっちを見てる。

 どうしたら……。


 ギシ……。



「……、ごめんね……」

「え……?」



 近づく、顔。


 え、ちょっと……。


 ぁえ……?




「「 」」




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ