目覚めと、ふたりと、天国と。
◤◢◤◢ 注意 ◤◢◤◢
(;^ω^)ちょっとここから、ゆりゆりしくなります……。
苦手な方は、注意してね(;ω;)
知らない、天井だ。
「……」
たぶん、夢だと思いながら、
私は目を覚ます。
「…………」
チュン。
──ちゅん、ちゅん、
────ぱたたたたた……。
……小鳥?
ピクン、と動いた手が、サラリとしたモノにふれる。
「……、……?」
ゆっくりと、頭と、視線を傾ける。
……シーツ?
滑らかで、清潔だ。
「こんなこと、あるんだな……」
私は、雪山で狂っていたはずだ。
いよいよ夢だと思い、私はぼーっと、
天井を見ていた。
薄暗く、青い部屋。
どこだろう。
夢だ。
どうでもいいか。
「…………」
夢が中々さめないので、
私は起き上がってみることにした。
「ぅ……ぃ、しょ」
上半身を起こした。
……。
ぼーっとする。
「……!」
手を見る。
傷がひとつもない。
凍ってもいない。
やっぱり夢だ。
鎖も、ない。
ちょっと、さみしい。
「こんなことって……あるんだな」
すごく、素敵な夢だった。
静かで、寒くない。
やっぱり、夢の中の私は、ベッドにいた。
起き上がる。
──ぐぃ。
「んっ!」
髪が……?
何かに、引っ張られた。
薄暗くて、何かわからない。
「?」
少しびっくりして、そーっと、髪を引っ張る。
──シャン……サララ……。
「? 何かに挟まってたのかな……」
髪は、何事もなかったかのように、
サラリと流れた。
「髪の色は……銀色のまま、かな……」
昔の、薄紫の色じゃなかった。
……もう、髪の色なんていい。
きょろきょろと、夢の中の部屋を見る。
どこかへ行けるかな……。
「……! 服を着てない」
裸だった。
部屋を歩こうとして、
自分の内ももと内ももが触れてわかった。
すごい。
どこも痛くない。
「私のからだ、本物もこんななのかな……」
背中のほうとか、見てしまう。
氷漬けになってから、
自分の体のかたちを、こんなにハッキリ初めて見た。
「…………」
やはり、部屋だ。
けっこう広い。
小さな机がある。
「……?」
この布がかけてあるのは、なんだろう……。
とる。
「……!」
カゴの中に、
クッキー……のようなものがある。
夢でも、味がするだろうか。
「……」
かじってみる。
「──っ!」
もく、もく、ごくん。
びっくりするくらい、美味しかった。
……。
こんなもの、久しぶりに食べた……。
ここは、本当に夢の中なのかな。
私、こんなものの味を、覚えていたっけ……?
何だか、食べちゃいけないものを食べた気がして、
私はクッキーの欠片を置いてしまった。
「……。……? ……」
素足でふれるラグマットの柔らかい感触が、
妙にリアルだ。
何だか、夢に思えない。
私はもしかして、この部屋から出れないのかな?
そんな事を、思う。
「……それでも、いいや……」
ここには、クッキーもあって、ベッドもある。
寒くない。
もし食べるものがなくなっても、
飢えて、死ねばいい。
そう思いながら、部屋を見る。
壁一面が、大きな本棚だった。
とてもたくさんの本がある。
すごい。
ここから出られなくても、退屈はしないかもしれない。
あ……。
絵本も、何冊かある……。
「……あの子は」
悲しく、なる。
名前を、聞いた。
……。
それだけだ。
「……ぅ。……」
──ぴかっ。
「……!?」
まぶしいっ。
……? 光?
濃い蒼の部屋の中に、オレンジの光の線が走っていた。
それを辿り、カーテンのある窓がある事に気づいた。
「窓……」
近づく。
オレンジの線が素肌に当たると、
熱で切られたように、温かい。
ぺと。ぺと。ぺと。ぺと。ぺと。
カーテンを、手にかける。
シャ──……。
ゆっくり、開いた。
「 」
───────オレンジ色の街。
「あ……、あ、ぁ……」
理解する。
ここは、夢じゃない。
天国だ。
「わたし……死んだんだ」
今まで見た中で、いちばん綺麗な景色だった。
この家は、ずいぶん高い所にあるらしい。
すごい。
ずっと先まで見える。
ここは、死者の街だろうか。
それとも、神様の街?
「 き れ い …… ! 」
あたたかい、街だった。
日の光でできた建物の影と、
光とのコントラストが、目に焼き付く。
「そっか………。わたし、死んだのか……」
涙がこぼれた。
とうとう、この日が来たんだね。
しがみついて、いたもんなぁ……。
「は、は……。地獄に堕ちると、思ってたんだけどなぁ……」
ここは、死者が罰せられるような所には見えない。
いや、ここで孤独に生きることが、私の罰かも。
なんにせよ、こんな空が近い部屋に、
あの氷まみれの私がいるはずがない。
私は、深呼吸をした。
「……私が死んでいるってことは……あの子は、助かったかもしれないな……」
温かい窓に手を付き、ひろがる景色を見ながら、
そう、思った。
あまりに綺麗な街だったので、くらくらした。
でも、陽の光は綺麗だったので、
カーテンは少し開けたままで、
薄暗い部屋に視線を戻す。
「……ここ、使っていいのかな」
美味しいクッキー。
たくさんの本。
それに、綺麗なベッドがある。
私は、神様に哀れまれたのだろうか?
……いいや。
次の瞬間に、どうなってもいい。
いまは、少しだけ、眠ろう。
久しぶりのベッドに、体を預けよう。
目覚めた場所に、戻る。
とた。とた。とた。とた。とた。
────気づいた。
「 」
ベッドに、膨らみがあった。
薄いかけ布を被っている。
でも。
綺麗な脚と、金色の髪が。
陽の光に照らされて、見えた。
「 」
声を殺し、私は泣いた。
わたしは、殺していた。
彼女も、死んでいた。
彼女も、死んでいた。
彼女も、死んでいた。
死んでいたんだ。
死んでいたんだ。
死んでいたんだ。
二人で、死んだ。
「そん、な……ぁ」
胸が、ズキリとする。
私は、彼女と同じ部屋にいた。
なんて、なんて事を。
「はぁ……はぁ……」
やっぱり…あの時、死んだんだ。
手を、掴んで。
名前を、知り合えた時に。
「どう……つぐなえばぁ、いいんだろぅ……」
氷も鎖も、痛みもない。
私は、ここで狂えなかった。
柔らかな光が漏れる部屋で、
ちゃんと、受け止めるしかなかった。
怒られても、しょうがない。
嫌われても、しょうがない。
でも、目の前に、いる。
一緒にいるんだ。
「………私にできる、せいいっぱいの、ことを」
しよう。
私は、彼女にかかっているシーツを、
ゆっくりと。
引っ張る。
……──しゅ……る…………。
「……ぁ 」
固まった。
「 ……」
こんなの、ずるかった。
「 きれぃ…… 」
「すぅ……、すぅ……」
天使、みたいだった。
金の髪は、光。
私とは、全然ちがった。
穏やかに、眠っている。
「……っ! ぅぅ……」
いっしょに死んでしまったけど。
私は、すごく。
彼女がいて、嬉しい。
つらい。
見て、しまう。
「……ぁ」
実験体にされる日々の中、
あの時初めて会った彼女は、
とても輝かしい存在だった。
私と、たぶん同じ歳くらいの女の子。
それでも、こんなに違うのかと、世界が広がった。
真っ直ぐに私を見て、ありがとうと言ってくれた。
あんな素敵なことは、他にはなかった。
狂った後で。
あの瓦礫と氷でできた屋敷で、
私はあの子を思い出した。
鏡石に映る私の体を見て、
あの子は、こんな風な女の子になっているのかな。
これくらいの背の高さになっているのかな。
そんな事を、考えていた。
私は、鏡の中の私に、キスをするようになった。
穢らわしいと思う。
でも、あの痛みと寒さの中で、
それは数少ない、私の自由のひとつだった。
そして……。
私は、あの鏡の自分の向こうに────この人の、姿を……!
「アンティ……」
触れたい。謝りたい。
私は……。
「……ごめん、ね……」
「すぅ──……、ん、ん──ぅ……?」
……ギ、シ。
取り憑かれたように、私は近づいた。
銀の髪が垂れ、彼女の金の髪に重なる。
ゆっくりと、身体を近づける。
あまり、頭は回っていない。
どうしたら、許してくれるだろう。
すっごく、綺麗な人。
それくらいしか考えれないよ。
⛓
⚙
びっくりした。
パチッと目を開けた。
天使の羽根のようなものが、私を覆ってた。
ビックらこいて、ビクぅっ! と腰を突き出す。
寝ていたベッドが、ぐらりと揺れた。
「やっ!?」
「わっ!?」
天使の羽根に見えたもの。
それが、彼女の白銀の髪だと気づく前に、
バランスを崩した彼女の両手を、反射的に掴む。
ベッドの上で、何故か取っ組み合いみたいになった。
「なっ、えっ、わっ!?」
「やっ、あの、ぬぇ!?」
ぶっちゃけパニクっていた。
彼女と、起き抜けに、なにを話そうかなんて、
なんも考えてなかった。
「わたしっ、あのっ、そのっ、」
「ちょ! まって、あっ、やっ!」
私のベッドのクッションの弾力が、
割と優秀なのが、めっちゃ災いした。
「ちょっ……!?」
「あっ……!」
ぎぎぎ、ぐらぁ──……。
「「 ぶべぇ! 」」
倒れ込んできた彼女と、正面衝突した。
「……ぃ……」
「……ぅ……」
あっ。
あっ!? 裸やんけ……。
はずいわ……。
なんだこの状況……。
……。
はは……。
ふたりで、生きてる。
「……大丈夫? マイスナ」
「……、……」
え、なに。
打ちどころ、わるかった!?
ちょちょちょ……。
頭とか打ってないか、心配なんだけど……。
彼女の身体を、持ち上げようとする。
ぐっ。
……。
ぐっ。
持ち上がんねぇ……。
さすが、同じ体格の女の子だわ……。
って。
なんか、この子……私にしがみついて───……。
「……、……かぃ」
「え?」
すぐ近くから響く、声の振動。
「 あった、かぃ……、……! 」
「 っ、──…… 」
泣いてる。
かたかたと、身体がゆれる。
まるで、寒さに凍えるように。
私に、ギュッと。
必死に、抱きついてる。
「ぅ、うぅ……」
「あ、……」
二年間、誰もいない氷の山で暮らし続ける辛さを、
私みたいな食堂娘が、わかるわけがないんだ。
私の憧れの人が、震えていた。
「ぅ……、ぅ……」
「……、……」
身体の力を抜き、手を背にまわす。
クソみたいな私には、
これくらいしか、できることがなかった。
ギュ……。
抱きしめ返した。
「 ……──っ! 」
「 大丈夫…… 大丈夫だから…… 」
震えていた彼女の強ばった身体から、
ゆっくりと、じんわりと、力が抜けていく。
私の身体に、体温と柔らかさが、重なっていく。
「「 …… 」」
……。
やば……。
ぬっくぅ……。
あったけぇぇ……。
肌と肌って、やばいわね……。
……。
……震え、とまってる。
ちょっと、落ち着いたかな……?
「……ぁの、さ」
「んっ──」
────のそり、と。
「────……」
「……────!」
マイスナが、私の顔の横にひじをついて、
頭を持ち上げ、私を見た。
銀の瞳からは、涙が零れそう。
窓からの陽差し。
わたしを、見てる。
目を見開き、固まった。
「 」
「 」
……。
この子……。
綺麗すぎでしょ……。
なんなの……。
神さま、こんなん創っちゃダメでしょ……。
私とか、食堂娘だよ……。
どうなってんの……。
正直、マイスナの綺麗さに頭ぶん殴られていた。
おへその辺りの、ふれている部分が熱い。
「……、……」
「……ぇ、と……」
訴えかけるような目で、
真っ直ぐにこっちを見てる。
どうしたら……。
ギシ……。
「……、ごめんね……」
「え……?」
近づく、顔。
え、ちょっと……。
ぁえ……?
「「 」」










