ほんとうのなまえ
焼け野原だった。
……。
…………。
……………………。
どうして、こうなった……。
『────格納完了。完全鎮火を確認。全焼エリア:半径350メル単位。』
「あわわ……あわわわ……」
……何故、私が、放心してるかって?
そりゃ、そうでしょ……
爆心地にいたのよ……。
カッ! って光ってね……
光が、雲みたいに、拡がるの……
何言ってるか、わかんないでしょう……
とりあえず、光る雲に巻き込まれかけたのよ……
歯車の影の中で、生きた心地がしなかったわぁ!
「なんで、私が、こんな目にぃ……」
『────自己損傷:無。ご無事で何よりです。』
「あ、あんた、この惨状みて何とも思わないの……」
私、正確には、私の目の前の魔物を中心に、放射上に、ドス黒いコゲ目が拡がっていた。
直径700メルトルテ。
多分、お空を飛んだら、黒いヒトデ型の地上絵が見えるわ……
その中心に位置する魔物、だったもの。
「うわぁ……」
黒焦げの、ひらいた干物みたいになってる……。
敵ながら……ひどすぎる?
……ん?
何か、いい香りがするわね……
「クラウン……?」
『────分析完了。高製品の香木の規定値を満たす固体。』
「え、この干物、そんな嗜好品なの……」
食堂で、こんな消し炭こさえたら、犬の餌にもならないわよ……。
お金になりそうだから、貰っておこう……。
はぐるまポイポイ。
な〜〜む〜〜……。
結局、植物の魔獣も、森を焼き尽くした火も、バッグ歯車の中に格納されてしまった。
この空間の中には、私の私物(ベッド含む)の他に、"カーディフの火"、"バーグベア"、"シガラグレイル"、"ドッカン定食弁当×2"が入っている。
…………。
あれれ〜〜おかしいぞ〜〜?
上限が、ないのか?
以前、クラウンに、アイテムストレージの容量を聞いたら『不明。』と応えられた。
ただ、今までの付き合いから言うと、こいつ、容量が決まってたら、結構キッチリした数字で教えてくれそうなのよね……。
まさか、いやでも、そんなこと。
そう言えば、ログのお父さんは、宝石商だっけ。
確か、お別れ会の時に、"宝石の本"を貰ったはずだ。
魔石の効果や、取れる場所、能力値なんかも載ってるはず。
……後で調べてみるか。"時限石"について。
かしゅ────。
仮面が、顔から首へ滑るように、ずれる。
どうやら、ツインテール歯車と、耳カバー歯車は、噛み合っていたらしい。
クラウンも、くぼみに、うまいことハマってたわ。
後頭部は露出しているけど、仮面をつけている時は、まるで全身鎧の兜みたいね。
……服は普段着だから、違和感ハンパないでしょうね……
うぅ……。
首を覆う仮面の、すぐ、内側を覗きこむ。
キラリと光を流し、反射する、どハデなきんきら。
まったく……呪いの仮面からは、逃げられないのかしら。
指でつつくと、今まで以上に、高い音がでた。
────キンキン。
「……あんた、バスリーばーちゃんの側にいなくていいの……?」
────"借りは、死んでも、かえすよ?"
そう、さっき、言われた気がした。
正直、こいつが来てくれなければ、やばかった。
"反射速度"
"眼魔"
このスキルはもちろん、とても助かった。
……だけど、一番救われたのは、"恐怖"をぬぐってくれたこと。
あのまま、ビビったままだったら、確実にやられてたわ。
「────ありがと。一緒に、戦ってくれて……」
────ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん!!
あ、嬉しいのね……
でも、あごが痺れるから、震えないでね……。
「あ──あ、今からバスリーばーちゃん家に戻ろうかなぁ」
──カポッ!
────ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!
「ッちょっと! ぅお、ゔぁあ"、ごえがぶるえる……」
顔がッ、顔の血行がッ────!!!
『────顔面の老廃物が、深刻なダメージを受けています。』
────えっ、それって美容にいいんじゃ……
────あっおぃ、止まれ! やめろ!
────ぐぐぐぐぐえぇい!!
「わぁーった! わぁーったから!」
ヴヴヴゥン……。
「はぁ、はぁ……」
こ、この呪いの仮面風情がぁ……ァ╬
ヴヴヴ!!!
「ひぐっ! つれてく! つれてくからッ!」
ヴヴヴゥン……。
…………。
と、とほほ。
何なのこの子……。
涙ちょちょぎれだわ……
とりあえず……約1ヶ月後に、また、私はここを通る。
バスリーばーちゃんには悪いけど、それまでちょっと借りとこう。無くした訳じゃないしね。
「うぅ……呪いを解くために寄り道したのに、結局、取り憑かれちゃったじゃないのよ……」
『────誤。アンティ。現在、仮面の呪詛は、完全に解除されています。』
「はぁ!? ウソよ! だって、こいつ……」
『────単純に、好意を寄せられている可能性。』
「よしてよ……元、呪いの仮面、よ……」
元、呪いのアイテムに好かれるって、何なのよぅ……
『────肯。その表現は、非常に正しいです。該当アイテムは、もう"呪いの仮面"ではありません。』
「ほんとなの? もぅ、わたし、信じないかんね! クラウン! 仮面を"分析!"」
『────レディ。
────分析中……。』
まったく、私、騙されないわよ。
さんざん怖い目に合わされてるからね。
まぁ、助けてはくれたけど。
でも、このスキルの組み合わせったらね。
完全に、にげおおせるためのスキルだわ。
どうせ被ってたヤツは、ろくなやつじゃ────
『────分析完了。
名称【 クルルカンの仮面 】
(スキル媒体/アイテム)
状態:永続加護
対象:アンティ・キティラ
スキル:"反射速度比例上昇"
スキル:"眼魔"
────同期結合中です。』
「え?」










