電獬、菟ヲ護ラントス
(´・ω・`)気合いいれぇさ。
つらたんやぞ。
私と彼女がした殺し合いを、
私は、誰にも知られたくない。
私と、彼女だけの、秘密だ。
「何を……、したの……?」
「ぐぁっ、あああぁぁッッ……!!」
「うぁ、ぇ……、いま……あなた、は……」
私が寝転んで、
彼女が覆いかぶさっている。
私と彼女の血が混ざった。
激痛は、声と力を出す。
私たちは叫びながら、削り合った。
彼女の消し飛ばすチカラは、龍のヨロイを貫き、
私の手足の回転は、コオリのヨロイを抉った。
無我夢中の中で、
1度だけ、成功した。
その時に、たぶん、お互いの記憶が混ざった。
「あ……ぅぁ……、あなたの、心が、見えた……」
「うっ、う、あっ……!」
「ぐぁ……髪が……繋がった時、に……」
「い、……ぅ!」
ギシ……パキキ……。
彼女の体重が、のしかかる。
容赦なく、痛みが襲った。
「ああ、あああッッ──!!」
「ぐぅ、うううッッ──!!」
顔が、近づいて。
滲む中でも、瞳の色がよく見える。
私たちの周りの雪から、煙と光が出ていた。
「ひどいよ……」
「な、にが……?」
「楽しい、よ……」
「う……?」
「どんなになっても……あなたと」
「はぁ……はぁ……」
「あなたと、しゃべるのは、楽しい……」
「……!」
「こんなに、なってまで、楽しい……」
「あ、ぁ……」
「嬉しいよ……」
「あな、た……」
「なんで、来たの……」
「……うぅ」
「こんなふうに……なりたくなかった……」
「わたし、はッッ……!」
ぐしゃりと、お互いのおなかの血が重なる。
すごく痛くて、でも絆のようだった。
二人で涙を流しつつ、目線は逸らさなかった。
「……、、。髪……焦げちゃったね……」
「……、、。う……、ん……」
「あな、たは……私の……運命の人、なのかな……」
「っ、はは……」
くたり、と。彼女が完全に覆い被さる。
ひどい格好だ。
だって、このまま。
二人で死んでもいいかな、と思ってしまう。
私と触れ合っている時、不思議と彼女のチカラは収まった。
「おさえ、きれないよ……」
「え……?」
焼け焦げた金と銀の髪。
耳元で優しい声がする。
「わかるッ……、の……。これは、全部消してしまう」
「……そん、なっ……、……」
「"鎖"さんが、抑えてくれてた……でも、それも限界……」
「……っ! それって、まさ、か……」
お互いに、身体の全ての力を抜く。
痛みは麻痺し、温もりが赤く繋がる。
交互にする呼吸の膨らみを、胴体で感じる。
静かな、会話だった。
「……あなたは、私をすぐ……殺すべきだった」
「……、……」
「私が、狂えばたぶん……世界の……敵になる」
「……」
「あなたは正義で、私は悪。それで……よかったのよ……」
「……っ、ふ、ぐっ……」
「なのに、あなたは……わたしのっ、ことっ……! そんなふうにッ……! おもってるからッ……」
「だ……」
──さっき、お互いに攻撃する時。
私は、彼女に"流路の髪"を伸ばし、
分析を試みた。
驚いた事に、私の金色の髪は、
彼女の銀色の髪に、吸い付くように接続された。
スキャニングは成功した。
と、同時に、お互いの記憶が流れ合った。
いや……あれは、お互いの心の中だった。
私たちは、驚愕した。
攻撃してるのを忘れ……避けるのを、忘れた。
その時の攻撃が……いちばん深く、
お互いの身体を、えぐった。
「……あなたを殺して……すぐに私も、死ぬつもりだった……」
「……っ!」
「"鎖さん"がいても……今の私になら、もしかしたら自分を焼き殺せるかも、しれないッ……」
「……や、だ……」
「でも……もし、あなたが私を殺せたら……」
「や……、……」
「あなたは……"英雄"として、生きていける……!」
「っ……! ぐ……、そん……」
「でもっ……あなたに!」
「く、ぁ……」
すごい近くに、彼女の顔があった。
銀の瞳が、輝いていた。
「生きて、いて欲しいけどッ……! でも、それでも……! 一緒にいて、欲しかった……!」
「ば、か……っ!」
「だから、私は……こんな! ぜんぶ……あなたの、せいだっ……! う、ぅぅ……だからぁ……!」
「ぁ、ぅ……」
「"悪モノ"としてっ……"正義の味方"にっ! 私は、殺して欲しかった……ッ!」
「……っ……」
……"悪モノ"……?
……"正義の味方"……?
はは……は、はは。
ざ、け……。
「……ふざけんなっ……!!」
「え……?」
「なにが……"悪モノ"だッ……!」
「……っ!」
「私にだって……あなたの心が見えた……!」
「ぁ……」
「ひとりで、こんな所にいたのはっ……なんでよっ……!」
「ぅ、あ……」
「"巻き込まない"、ためでしょうっ……!?」
「ぅ、ぅ……!」
「子供たちを……驚かしてたのだって……!」
「ぁ……ぅ」
「いつ暴走するかわからない自分からっ……遠ざけてたんでしょう……?」
「ひ、ぐ……」
「あんたみたいなのをね……世界は、"悪モノ"なんて、言わないのよっ……!!」
「──っ……!!」
「私だって……! "正義"なんかじゃない……!!」
「そ……」
「あなたと会っていなければ……! 私はあの街から……踏み出せなかった……っ!!」
私たちは、お互いを動かしたんだよ。
私たちは、噛み合っている。
噛み合っているんだ。
「これはっ……、"正義"と"悪"の戦いなんかじゃなぃ……!! ただの、"ケンカ"だあっ……!! あんたがケンカを売って!! わたしが買ったんだ!! 断じて……」
「……っ」
「断じて、あなたは"悪モノ"なんかじゃないっ──!!」
「ぅあぁ……っ!!」
くしゃりと。
銀の仮面ごしに、彼女の顔が歪んだ。
どーだぁ……ざまぁみろ。
あんたのコト、絶対に"悪モノ"なんて、認めねぇからな……?
この、コスプレヤローめぇ……。
あっ……ヤローじゃないや……。
ぐ……。
私、わかった。
この子も、私を心の支えにしてくれていた。
痛みと、嬉しさ。
……うれ、しいな。
こんなに、嬉しいことなんて、ない。
「いて、て……」
私と彼女の胴体のキズは、密着して、凍り始めていた。
いやぁ……これは、剥がすと痛そうだわぁ……。
身体の芯が、熱を持っている。
お、お? 動けない……?
あ……氷ノ刀、足、貫通してんの、忘れてた……。
ドラゴン装甲、しっかり……穴だらけやないの。
狂銀パワー、すげぇな……。
あれっ、これ……ヤバくない?
私、けっこう穴だらけだわ。
あなたを、見る。
ぅ、あ……。
ぜったい……これ……、私が……。
私が……やってしまった……っ!
痛みに我を忘れて……!!
はやく、はやく、治療しないと───!!
「う、うっ……!」
「───……」
ゆっくりと、身体を起こしていく。
わたしに覆いかぶさっている彼女と一緒に、ゆっくりと。
「ぐ、ぅ……」
「……」
おなかのキズがベリベリするのが怖いから、
彼女の胴体に震えてしまう腕を回し、
少しだけ抱き寄せながら、
上半身を、じわり、じわりと、起こす。
「ふっ、ぅ……。私には……」
「……」
「私には、あなたが狂ってるようになんか、見えない……」
「……」
「何か、方法を探そう……? ほら、だって今、私たちは……」
「……」
「……ちゃんと、おしゃべりできているじゃない!」
「……」
周りの雪が、帯電している。
キン、ギンと、光っている。
私たちの身体と、地面に生える氷の結晶が、
金と、銀に光った気がした。
「ねぇ……きいて、る?」
「あ……ああ……!!」
抱き寄せていたせいで、異常に気づくのが遅れる。
すぐそばにある、彼女の顔を見た。
「そ……れ!!」
「が……ぁ……っ!!」
彼女の顔に、流路が広がっていた。
光り輝く、水銀色の流路。
私のように、カクカクとした流れではなく、
木の根のように広がる……割れ目のような流路だ。
全身に、広がっていく。
私たちのすぐ横に、
光の球が生まれ出す。
何個も、何個も。
プラズマ体だ。
まずい。
何かが、限界なんだ。
そんなのいやだと、思った。
「お願い、しっかりして!! 私と……!!」
「ぐあ、ああ、IAAAAAAAAAAAA……!!!」
銀色と赤の身体から、白い煙が漏れ始めている。
パシン、パシンと、鎖が地面に撃ち出され、
何とかチカラを逃がそうとする。
こんなのって、あるものか。
地面から天に昇る龍のような雷たちが増える中、
私は彼女を治療しようとした。
まずは……ケガをっ!!
でも、その次はっ!?
不完全な流路から、チカラは溢れているのよっ!?
どうしたら────。
────ガッ
けたたましい電雷と光が増える中で、
銀の爪まみれの手が、私の肩口を掴む。
「……やめて」
「私、から、離れてっ……」
「お願い……」
「あなたは、生きて……」
彼女は、思いっきり私を、
身体から、引っぺがした。
密着して凍っていた傷口から、容赦のない痛みがきた。
「──GYAA--AAAAAAAAAAAA────……!!!」
「──IGYIAA--AAAAAAAAAA────……!!!」
当然、どっちもチビったと思う。
なんで……なんでよ……。
「ぷ、ぁ……、 」
「げ、ぅ……、 ぐ……」
バツンバツン、と。
私のヨロイに、
銀色の杭が数本、撃ち込まれた。
傷つける事が目的じゃないと、
薄れゆく意識の中、わかった。
氷よりも金属質を多く含んだ、撃ち込まれた杭。
たぶん、彼女が振り絞ったチカラで、
私の身体が持ち上げられる。
磁力……だろうか。
手足が、ブラリと垂れる。
こちらに手を向ける彼女と、目が合った。
周りは真っ白に……真っ白に輝いて。
もうあまり、見えなかった。
金と赤の手を、のばした。
「 まっ、て…… 」
「 さよ、なら…… 」
ぐわん、と身体が宙を舞い、
私の金と、彼女の銀が、反発する。
対極になった私は、吹っ飛ばされた。
見る見る遠くなる彼女を、見ていた────。
「 あ、 、 あ、……──ぅぁぁぁあああああああああああああぁぁぁ────!!!!!」
空の暗雲から、大きな、大きな。
真っ直ぐな、いくつもの────……。
光の柱が、降りてくるのがわかった。
そして、世界は。
白になる──────……。










