たべちゃだめ! さーしーえー
『 ハイケイ、クロー! 』
{{ あれっ? }}
漆黒の空間。
まるで、現実ではないような。
この光景は……?
────。
{{ うそぉ…… }}
見渡す。
まっくらな世界に、揺らめく道のような。
私は……このセカイを、知っている。
{{ ……! 千年前のレエンで……ピエロちゃんが迷いこんだ場所……!? }}
そうだ……!
あの暗黒に飲み込まれた時の……!
{{ そんな…… }}
揺らめく道のような物が見える……▼
進みますか?
はい ▼いいえ
{{ い……、いけない……! }}
ジトリ、と。
冷や汗が、頬を伝う感覚。
あっちへ、進んじゃ、いけない。
ここは多分、心の中のような世界。
なぜ、私はここに……?
私は確か、ガルンと……。
{{ ……! そうだわ! ガルンはっ……ガルン───っ!! }}
シ・・・ン。
…………返事がない。
周りの漆黒は、声は全く反響しない。
ヒシヒシと感じる、静かな恐ろしさ。
わずかに空間が揺らめき、まるで道のように見える場所。
……前と、同じだ。
ここにいるのは、私だけなのだろうか……?
{{ ……っ。ガルゥ───ン!!! ピエロちゃぁ───っん!!! }}
漆黒の世界に囚われた。
ここは、くろのなか。
{{ どうして…… }}
バサ……。
{{ ──! }}
私……服を着て……エプロンをしてる?
これ、店長んとこのだわ!
自分の体を、手で触って確認する。
と……あれっ、子供モードになってる!
カリスマ販売員スタイルね。
……じ、自分でカリスマ販売員とか考えちゃったわ!
うぅ……。
{{ もぅ! そんな事は今どうでもいいっ! }}
不思議で、不気味な空間が何処までも広がっている。
出口を……探さないと。
幸いな事に、意識はハッキリしてるわ。
あの時のピエロちゃんのように、
ふわふわと混乱している感覚は無い。
……私が魔物で、闇と無の耐性があるからだろうか……。
{{ ……千年前は、ガルンの体を乗っ取ったアイツの闇に飲み込まれて、この空間に来たのよね…… }}
ここは、まさか……ガルンの中なの?
{{ ……進まなくては }}
私は、揺らめく通路とは反対の方向に、走り出す。
────タタタタタタ──……!
走っても、暗黒の空間は続く。
距離感がまるで無い。
揺らめく回廊がユラユラと現れては、また消えていく。
{{ はっ……はっ……はっ……! }}
こんな所でエプロン姿でいる自分が、場違いな感じだ。
これは私が、あの店で働いている証だ。
けっこう、大切なものかもしれない。
これが夢なら、覚めればいいだけ。
でも、もし、そうじゃなかったら────……。
{{ 出口はどこ……! あの時は、確か──……砂のヌシが現れて──……! }}
────タタタタタタ────……ぷぎゅん!
『 がるんっ!? 』
{{ あっ──……!? }}
ぽこん、てんてんっ。
{{ ……?? }}
何かに躓いて、蹴っ飛ばしてしまう。
今の声──……!?
よく見えない。
両手を伸ばし、暗闇を探る。
ぷに。
『 がるがる! 』
ガルルンマスコット① を手に入れた▼
──ぷにぷに。ぷにぷに。
{{ っ!? 何これ……ガルンのぬいぐるみ? }}
……か、かわいいじゃない。
持ち上げると、小さなガルンは見えるようになった。
『 がるんっ! がるがるるぅ♪ 』
{{ ──っ! 貴方!! ぬいぐるみに見えるけど、本当にガルンなのっ!? }}
『 がるーっん♪ 』
小さなガルンは、しゅたっ、と前足を上げた。
見事にデフォルメされているけど、確かにガルンだわ!
{{ ねぇガルン……この黒い空間は、貴方の中なの……? }}
『 がるるるん、がるる…… 』
{{ え……? そうだけど、違う……? }}
どういう意味だろう。
{{ ……出口の場所、わかる? }}
『 がるーぅん……? 』
小さなガルンが首をひねっている。
ガルンもココを抜け出す方法はわからないみたい……?
でも、この空間で千年の友人に会えたことは、
とっても心強いわ!
{{ 進みましょう、ガルン! }}
『 がる! 』
ぬいぐるみ系ガルンを脇にかかえ、また走り出す。
───タタタタタタ──……。
『 っ! がるがるっ! 』
{{ えっ!? こっちは危ないの!? }}
『 がるるるるる…… 』
ガルンが、なんとなく危険な方向がわかるみたい。
何も無いように見えるけど……。
{{ ……あれ? 何だか美味しそうな匂いがする…… }}
『 がるぅ!? 』
焼きたてのアップルパイが置いてある……▼
食べますか?
はい ▼いいえ
{{ ! こ、これはっ……! }}
思わず、手に取ってしまう。
このアップルパイ……!
国王様が……私の本当のお父様が、
よく振舞ってくれたものだわ……!
このパイ生地の網の目の焼き加減……!
間違いない……千年前に食べた……。
{{ ご、ごくり…… }}
凄い良い香り。
リンゴの香ばしい蜜が、ほんのり焦げる匂い。
お……美味しそう……。
ひ、ひと切れ……。
{{ ぅ…… }}
『 ──タベチャダメ! 』
──ベシッ!!
……ポト。
{{ ──あっ!? }}
『 コレ、タベチャダメ! オサエラレナクナル! 』
{{ !? ガルンがしゃべった!? }}
シュウウウウ……!
{{ あ…… }}
ぷちガルンが叩き落としたアップルパイが、
黒い煙になって、世界に溶けた。
やば……私、何を……。
{{ ガルン……? }}
『 ヨモツノヨハ、キリハナセナイカラ 』
{{ ……? }}
ガルンの言ってる事が、よくわからない……。
『 コレ! 』
{{ え? あっ……! }}
目の前の空間に、変なメーターのようなものが見える……。
くろいあなモード強制解放まで:
▼]]]]]]]]]]]]]]]] ▼
{{ こ、こんなの、さっきまで、あったっけ……? }}
『 アップルパイヲテニモッタカラ、スコシヘッチャッタ 』
{{ へ……? }}
『 ハシッテ! ハグルマヲサガシテ! 』
{{ はぐるま……!? }}
『 ハグルマ! ハグルマ! 』
それって、ピエロちゃんの……!?
そうだ……。
遠距離からの帰還用に、歯車をひとつだけ預かったはずだわ……。
『 ハヤク! ハヤク! マニアワナイ! 』
{{ 間に合わないって…… }}
くろいあなモード強制解放まで:
▼]]]]]]]]]]]] ▼
{{ ……ねぇ、これ、少しずつ減ってない? }}
『 アブナイ! アブナイ! 』
{{ 危ないって…… }}
『 ハシッテ! 』
{{ ……! ぅ、うん……! }}
────タタタタタタ──……!
闇雲に、走り出す。
やはり、揺らめく道のようなものが、たまに見える。
はぐるま……。
それが、唯一の出口……?
『 ゴメンネ 』
{{ え? }}
『 ガルンガハリキッタカラ、オサエラレナカッタ 』
{{ な、何を? }}
『 クロイセカイノチカラ 』
{{ !! それって…… }}
『 アッチ!! 』
{{ !! ぅ、うん!! }}
────タタタタタタ──……!!
『 マエニデキタカラ、コンドモデキルトオモッタノ…… 』
{{ 前に……? }}
『 ツキノヨルニ! 』
{{ !! それって、店長達と一緒に戦った夜の……!? }}
『 アノトキ、スコシヒキダセタ! ダカラ、ダイジョウブダトオモッテ…… 』
{{ ここは、"くろいあな"の中なのね……? }}
『 アノトキデキタノハ、ネコネェガサイゴニキテクレタカラ 』
{{ ねこねぇ? }}
『 オウゴンノ、ハグルマノチカラ 』
{{ ……! 七号機のことを言っているの……!? }}
『 "ヨモツ"ノチカラデサエ、オウゴンハクミコメル 』
{{ ……。よく、わからない }}
『 ソバニイナイト、ダメナノ 』
{{ ………… }}
────タタタタタタ──……。
{{ よくわからないけど、ガルン──…… }}
『 ウン 』
{{ 私たちは──……、ピエロちゃんから離れすぎちゃ、いけないのね……? }}
『 ウン。ボクタチダケデハ、セイギョデキナイ。ゴメンネ…… 』
{{ ──…… }}
チラリと、目の前に浮かぶメーターを見る。
くろいあなモード強制解放まで:
▼]]]]]] ▼
…………、……。
ガルンの言っている事が、完全に理解できたわけじゃない。
でも、わかることはある。
多分、私たちが普通でいられるのは、
ピエロちゃんの力に依存しているのだ。
彼女の力が側に無い時、大きな力を使うと、こうなる……。
……──そうなのね?
{{ 歯車の位置は、わかる!? }}
『 ヤミニハジキトバサレタケド、トリコマレテル! チカイヨ! 』
{{ たよりになるわねぇ……! }}
────タタタタタタ──……!
くろいあなモード強制解放まで:
▼]]]] ▼
{{ く──……! }}
私が思っているより、かなりヤバい状況みたい。
この目盛り、ゼロになったらどうなるの。
私の心は、今のまま?
『 ミエタ! 』
{{ ──!! }}
──あった!!
歯車だわ!!
とおい!!
太陽のように、光っている!!
暗闇の中、金色のゲートのよう!!
走らなければ!!
『 イソイデ! カラダガ…… 』
{{ わっ、わかってる! }}
くろいあなモード強制解放まで:
▼]] ▼
さっきから、体が徐々に大きくなってきている。
胸、じゃま。揺れる度に痛い。
爪が、牙が、伸びてきている。
肌の紫の紋様が、闇に飲まれてきている気がする。
────くそったれな弟の笑い声が聞こえる。
{{ カリスマ販売員さん、舐めんじゃないわよ……! }}
『 ……セイカク、ニテキタネ! 』
{{ ……! く、ふふっ! }}
がんばって走ってるのに、笑わしちゃダメっ!
ほら、もうすぐよ! もうすぐ────……!!
キィィ、ィィィン────!!
{{ とりゃ────!! }}
『 マブシ────!! 』
ピエロちゃん……!
──輝く金色の歯車に、私達は飛び込んだ。










