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ぼくらの時が、動くとき〆






 明るい。


 目が壊れていて、オレンジ色しか見えない。


 もう、首をまっすぐには支えられない。


 少しでも、近く。




   

    ザ

    ッ

     ゜


       ザ

       ッ

        ゜

   ザ

   ッ

    ゜ 

 

        ザ   

        ッ

         ゜

   ザ

   ッ

    ゜






「 ハァ、ハァ── 」




 例えば。


 この後、死んだ後に楽園があって。


 そこで幸せに暮らせるとしたら。




「ハァ、ハァ」




 それとも。


 誰かを助け続けたご褒美に、


 人生をやり直せるとしたら。




「ハァ、ハァ」




 ぼくがここにいる事には、意味がある。


 それを、誰かが認めてくれているとしたら?





 ────────……。







「……──ざ、けんなっ。

 ふざけるな。ふざけんな。ふざけんなっ。

 そんなことが、あってたまるか。

 この人生は……ぼくだけのものだ……!」





 歩け。


 歩け。


 歩け。


 ふざけんな。


 ここまで来た。


 切り捨てるな。


 こりごりだっ。


 ……この後には、何も無くていい。






    "あなたは頑張りましたから、ご褒美をあげますね!"





「……はははは、うるせぇ」





 ひどい空耳だ。


 脳がイカれたのか?


 黄金の草むらを、踏みしめろ。


 ふざけるな。


 こんな奴がいたら、最大の侮辱だ。


 いけない、混乱してる。


 ちがうんだ。


 これでいいって、あきらめられるくらいに、なった。


 命は、自分のもんなんだ。


 やり直しとかさ。


 自分を、バカにしちゃいけない。


 ガタガタと、誰かに抜かさせるもんじゃないんだ。


 かっ、……は。


 いけ。


 唸るように、歩け。


 動け。


 止まんな。


 もうすぐだ。


 いま、ぼくは見ている。


 ここに居る。


 絶対に、ここが世界の中心だ。


 勘違いしちゃあ、いけない。


 どこに行ったって、自分が真ん中なんだ。


 ぼくは、ずっと……それを認められなかった。


 ここに来たぼくは、ただの弱虫だった。


 何もかも認めたくなかった。


 だから、あの二人が先に踏み出した。


 結果がコレだ……はは。



 ──ぐら、……ぁ。



「ぅ、うあ、あ……」



 膝から下……。


 力が入らなくなってきている。


 (ゆる)やかな丘の勾配が、地獄のようだ。



「はっ、ハァ、っぬ、ぐ、はぁ、ハァ……」



 はっは、は、はは。


 あー……。


 ここで、死ぬんだな。


 流されて、ひねくれて。


 何もできなかったな。


 睡魔と苦痛。


 涙は流れているだろうか。


 まだ、がんばれ。


 どうせこの後、死ぬだけだ。



「はぁ、はぁ──……」



 見える色はもう、おかしくなってきている。


 口の中が苦い。


 鼓動のリズムがおかしい。


 ギュッ……ズグん。 ギュッ……ズグん。


 ヒュー、ヒューと鳴る息が、何故か歌に聞こえる。


 ロザリアの歌っていたメロディを口ずさもうと、


 声を出そうとしたら、無理だった。


 は、は。


 やめて、登る。


 丘。


 金色の輝く大地に、


 黄緑色だけが、戻ってきている。


 綺麗だけど……もう、他の色は見えないってことだ。


 でも、すごく綺麗だ。


 登ろう。


 無敵の鎧は、光となって風になる。


 ボロボロの服だけが、残っていく。


 ねむい。



 ──ザッ、ぐくっ。ガッ──。



 歩いた所から、まだ草が生えた。


 茎が、素足に絡む。


 ちょ、じゃまだから。


 今は、洒落になんないから。


 ……おぃ。



「あ……」



 丘の上だった。

 

 何とか、まだ見える。


 夕日。


 限定された色は、不思議と世界を美しく魅せた。


 足元に絡んだ草を、引き千切る余力は、もう無い。


 大きく照らされる原っぱを見る。



「ふぁ……」



 きれいだなぁ。


 もう、目と鼻の先だった。


 あっちに、見えるもの。


 ……いい、家が建ったね。


 ぁ。


 すごいな。


 息が止まった。


 体にくい込んだ、(つた)



(…………)




 ここだと、(さと)る。


 これで、よかったんだろうか。


 ぼくは何かを(のこ)せたかな。


 仮面の内側が、パキンと鳴った。



「……」



 自分の手の平を見る。


 意味も、価値も、何も、わからない。


 は、は。


 異世界なんて、くるもんじゃないなぁ──……。




 ────……さり。



「 ──……、……」




 寝転んだ。


 いや、ぶっ倒れたんだろう。


 体の中、ひっくり返ってそうだもんなぁ。


 空しか、見えない。


 これは……ホントに夕焼けかな。


 ぼくの目が、イカれてるだけかも?


 ……きれいだ。


 たかい。


 雲。


 まもったのかな。


 やり遂げたのかな。


 ……。



「ぐ……」



 無意識に、腕で顔半分を隠していた。


 腕、まだ動いたのか。


 ……ひとりの、空。



「……」



 空だけ見ていたら、向こうとかわんないなぁ──……。


 ……次に目が覚めたら、


 学校のホームルームだったりして。


 そしたら、ぼくは生まれ変わるかな。


 ……。


 できないよ。


 ぼくの世界じゃないと、ずっと思ってた。


 でも────────。



「ごパッ」



 ──っ!


 えぇ────っ……?


 なんか、口から出た。


 うそぉ。


 吐血ですか。


 ま、マンガじゃないんだから……。


 こんなの絶対、有り得ないっしょ。


 火サスでも、こんなあからさまのないよ。


 はぁ──……。



「……」



 あっ。


 空の光が、変わり始めた。


 よく覚えてる。



「    」



 はは……。


 ごめん。


 ま、マジ勘弁して。


 これ、NGなやつっス……。




「…………」




 ぼくは、照れ隠しのために、


 覗き込んでいる女の子に、話しかける事にした。




「>>>ほんっとうにね……弱虫だったんだ」


『……』


「>>>こっちに来てからね。毎日、布団にくるまって……泣いてた」


『……ぅん』


「>>>全てが間違ってるって、思った」


『……ぅん』


「>>>でも……ここで生きているんだなって、最後にわかった」


『……ぅん』


「>>>そう思えたのは、もしかしたら……助けられていたから、かもしれないね」


『っ! ……助、け?』


「>>>ああ。きみに、言ったろ?」


『んぅ……?』


「>>>"ぼくのことを誰も助けてくれなかった"、って……」


『……! ……ぅ、ん……』


「>>>でも、本当は……。昔から、誰かにずっと助けられ続けていたのかもしれない」


『……、……』


「>>>あ────……。こ、この後ね? 空が、光るんだよ」


『ぇ……?』





 ────────────────。




 小高い丘に倒れたボロボロの先輩は、

 目をつぶりながら、私に言う。


 床に落としたお皿の様に砕け散ったヨロイ。

 所々、破れたり裂けたりしている騎士の服。

 女の人みたいに、振りほどかれた金色の髪。


 私は何とか見て、見る度にキツくなる。

 耐えて、目を開いた。

 先輩は……笑顔で言う。



「>>>今のきみには、ぼくの視覚域も共有されているんだろう? ほら、ひかるよ────」


『──……!』



 先輩の言った通り、陽光が瞬いた。

 これは、先輩への手向(たむ)けだろうか。

 過去にこれがあった時、それは偶然だったのかな。

 金色と黄緑色しか見えなくなった風景。

 世界が、先輩の色だった。



「>>>は、は。これがさぁ……。

 バスリーちゃんの髪の色にソックリでさぁ……。

 この後、メチャメチャ泣き叫ぶんだよね」


『せん、ぱぃ……』


「>>>はっ、はは……。ほんっと、恥ずかしい話なんだけどさ……。

 もうホンットに。どーしても、あのナイフと手紙を思い出してしまって」


『ぅ、く……』


「>>>"誰か、届けてくれ! 頼む、届けてくれ!"……って、後悔しまくりながら死ぬんだよね」


『…………』


「>>>……んで、"呪いの仮面"ってワケさ……」


『……』


「>>>……ごめんな」


『!』


「>>>こんなモン見せて」



 ふるふると顔を振る。

 アホみたいに下唇(したくちびる)を噛んでいた。



『先輩』


「>>>ん?」


『仮面、治るよね……?』


「────治りますよ。」


『っん!』



 ────草原を撫でる、風。



 気づけば。

 クラウンが金に照らされる草原に、お山座りしていた。

 先輩と私の、すぐそばだ。

 遠くの夕日を、一緒に見ている。



「────私の:ボディ構成術式を流用して:

 ────あなたを"基幹デバイス"として再構成(組み直)したのですから。」


「>>>やれやれ無茶したねぇ……きみのボディ、半壊したろ」


「────無茶は:あなたの方です。

 ────左眼部から:真っ二つに寸断されていました。」


「>>>あらぁ──、けっこうガタ来てたのかもねー。で、きみは?」


『その……。クラウン、手足無くなってたよ……』


「>>>うわぁ、ごめん……」


「────こ:コホン。私のアバターボディは:修復可能判定です。

 ────私を材料として修復されたあなたの本体は:

 ────"歯車法基幹デバイス"として運用されます。」


「>>>あっ、"基幹"! ってことは───……」


『……』



 そう。

 先輩の仮面が、完全に"歯車法(はぐるまほう)"の一部になっちゃう、って事。



「>>>はっは……! んじゃー、デバイスとしては、ぼくはきみの後輩になるワケかぃ?」


「────はい。

 ────(うやま)いなさい。」


「>>>!」



 おおぅ……。

 クラウン、あ、あんたねぇ……。

 あはは……。



「>>>ははは……! 頼りにしてるよ? 先、輩?」


「────むっ。

 ────小馬鹿にされている可能性を感知。」


『へへ……ぐすっ』


 ……。

 こんな夕陽の中だけど、

 やっと、取り戻せた気がする。

 やっと……!



「>>>はは……。なぁ、クラウンちゃん」


「────なんですか:カネト。」


「>>>本当に大丈夫なのか」


「────肯定します。

 ────アンティが欠落記憶領域を認識した事で:

 ────完全な修復エリアが確定されました。

 ────欠落は有り得ません。

 ────が:仮面本体への記憶定着には:少々かかると予測……。」


「>>>違う。きみの体がだ」


「────……!。

 ────……。あなたの修復に使ったパーツは:

 ────私の記憶媒体とは無縁の構成部分です。」


「>>>………ボディ復旧までの期間は。正直に」


「────……。

 ────かなり:かかります。」


「>>>手伝わせろ。あれ、使うよ。ほとんど出来ているんだろう?」


「────……!!?。

 ────そそそそそそそそ:それは:まさか:

 ────"M2型"のコトををををををを。」


「>>>やぁ──、かわいくしてやんよー?」


「────く:口を慎みなさい:きんぴかめん。」


『あんたらねぇぇ……。

 復活した瞬間に私おっぽって、デバイス同士でイチャコラしないでくれる?

 ほんっと歯車法(はぐるまほう)イミわかんなぃわねぇー』


「────「>>>い、イチャ……」。」



 せっかく三人そろったのに、何とも締まらないったらないわ。

 ……ふふ。


 ……サァァァ────……!


 ゆっくり、ゆっくりと。

 つらい思い出のページを、優しく閉じていく様に。

 過去の黄金の風景は、光の粒子になっていく。

 魔素にじゃあない。

 透き通った、透明のアナライズカードのカケラにね────。 



「>>>……アンティ、ありがとぅ」


『! あによ……いいってば』


「>>>きみのお陰で記憶は戻った。でも、クラウンちゃんと合わせて復旧はもう少しかかりそうだ」


『! 仕方ない……てか謝るの、私のほうじゃん……。

 私のせいで、先輩は……』


「>>>いいんだ。それよりも、確認したい事がある」


『……?』



 クラウンと先輩は、互いを見て頷き合い、

 ふたりの相棒が、私の方を向く。



『────アンティ。

 ────あなたは:向き合うのですか?。

 ────二代目狂銀である:"紫電"と。』


「──!!」



 ……それ、は。

 クラウンは立ち上がり、不安そうに私を見上げている。

 先輩は長い後ろ髪をなびかせ、私を見守っている。

 ……。

 わたしは────……。



「わたし、あの子と話がしたい。

 できれば、何度もしたい。

 そして……私にできる、精一杯の事をしてあげたい。

 先輩がやってきたみたいに」


『────……。』


『>>>…………』



 クラウンの表情は険しい。

 先輩は……。



『────私は:反対です。

 ────危険な対象から:あなたを守りたい。

 ────これは:私があなたのスキルだからではありません。』


 うん、わかるよ。

 そんなの……もう、ちょっと関係なくなっちゃってるもんね、私たち。


『────でも:それよりも。

 ────あなたが後悔しない(・・・・・・・・・)明日を紡ぐこと(・・・・・・・)

 ────これは:私の最大の存在意義です。』


「! クラウン……」


『────あなたの明日の笑顔を:守ってみせる。』


「泣いちゃうからやめて」


『>>>よいしょ、と……』


『────「っ!」。』



 先輩が立ち上がった。

 ぱんぱん、と服のホコリをはらう。

 えっらい襟足伸びてて、ぱっと見、女の人みたい。

 服が、見覚えのある七部袖のデータに変換される。



『>>>先生は、あの山で死んだ』


「! ……」


『────……。』


『>>>同じ場所で、おんなじ仮面が、あの女の子にくっついてる』


「! 紫電……」



 悲しそうだった。

 悲鳴をあげてた。

 あんな子が、ぜったいに、狂ってなんかいない。



『>>>やり残したことがある。

 はっ! 後輩ちゃん! ぼくの、恩返しってヤツさっ────!』


「先輩……!」



 クラウンの歯車仕掛けの目にも、情熱が宿っている。

 心強いったら、ない。



『>>>あの子の仮面を引っぺがして、暖かい世界に連れ出してやる。

 これは、ぼくたちにしか出来ないことさ! そうだろぅ?』


『────悲劇のヒロインぶっている対象に:

 ────幸せの引導を渡して差し上げましょう。』


「あはは! よぉっっし……! ぶん殴ってでも、連れ帰るわっ!」


『>>>ぶっそうだなぁ────!!』


『────流石に:それはない判定。』


「な、なんでーさ……えっ、そゆコトじゃないの……?」


『────基本的に当機は:暴力反対です。』


『>>>いや、きみ……。前、ガトリング砲 作ってたろ……。どの口が言ってんのさ……。

 ていうか"引導を渡す"の使い方、おかしくないかぃ……?』


『────……どちらがデバイスとして先輩か:

 ────思い知らせる必要がありそうですね。』


「あ、コラ。クラウンやめぃ。肘開くな。今の私にはわかんのよ。

 それ仕込み銃でしょ。記憶データ構成体の仮想ボディに、なしてんなもん積んでんのよ」


『>>>べろべろぶぅあぁぁ────────!!』


『────むっっ:きぃぃ────────!!。』


「ちょ、ぉ……それ以上すると、しばくぞお前ら。

 いいから速く、からだ治してきな……、お……、

 、、、きけっつってんだろぐぁぁぁああああ────────!!!!!!!」




 ↑2Hit!! ▼ CRITICAL!! ▼





 ぼくらの時が、動き出した。


 両手ラリアットで。





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『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しいけど温かく、苦しいけど愛おしいそんなお話でした。 [一言] もう涙ボロボロ顔ぐちゃぐちゃでした、、、最高です
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