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ぼくらの時が、動くとき⑲

(இωஇ`。)ふにゃふにゃー!



 "お手紙セット"には、2枚の封筒と、

 それに見合った白紙の手紙が入っていた。


 女の子に手紙を書くなんて、やった事がないから、

 ぼくは机で頬杖をつきながら、ずいぶん悩みながら書いた。

 

 手紙を書くって、不安なもんだ。

 読んだ人が、どういう気持ちになるんだろうか。

 ……ふふ、ビビってるだけだな。


「こういう事をしていると……自分が滑稽な人間だって、よくわかるや。うーん、えぇと……どーしよぅかなぁー……」


 ひとつの手紙に。

 ぼくが今まで行ってきた罪の告白を(つづ)ることにした。

 たくさん、殺し過ぎてきている。

 大事な仲間を、二人とも、この手にかけた。

 それに、この世界の人間ですら無い。

 どう転んでも、罪を犯し続けた異物だと思う。


 これは、彼女に全てをさらけ出す手紙。

 隠し事をしない相手が、欲しかった。

 もし、この告白を受け入れてくれたら、

 きみへの想いを、改めて言葉で語ろう。


 でも、もし。

 きみが受け入れる事ができなかったら────……。


「はは……」


 もうひとつの手紙に、別れの言葉を(つづ)った。

 短く。シンプルに。

 もしもの時は、これを置いて消えよう。


 ぼくは別れの手紙と、(つぼみ)のナイフを、

 隠れ家の、机の引き出しに入れる。

 これは、絶望と希望だ。


「女々しいよな……」


 神様がいれば……笑ってくれ。

 この二つをアイテムバッグに入れていると、

 ……気持ちが負けそうだったんだ。

 今は、ここに置いていく。

 次にここに戻る時は、この引き出しから。

 どちらかを取り出すことになる────。


「さ、て……お手紙を届けに行きますか──……!」


 ドキドキと、鼓動が響き出す。

 そして罪の告白の手紙を、そっと握り締める。

 これを彼女に、読んでもらってからさ。


 地下の隠れ家から上を見上げると、よく晴れている。

 眩しさに焼かれながら、地上に登った。


 ト─────ン!

 タタタタタ……!

 ヒュオオォ……!


「…………」


 ────……。


「これ……って。つまり、愛の告白の建前になるのかな……?」


 うーむ、恥ずいやっ!

  

 行商人の娘さんがくれた"お手紙セット"は、

 確実に、ぼくを黒歴史に突き落とそうとしているよ。

 わぁ。不安になってきた。

 ぼく、どんな内容のお手紙書いたっけ。


 ──バッキ────ィインッッ!


「──アイったぁ! あたたはたたた……!」


 いっ、いや、違うっ!

 決して自分の女々しさんにノリツッコミした訳じゃないぞっ!?

 今のは森を走る振動で、右肩の装甲が吹っ飛んだだけさっ!

 ──い、いたくないぞっ!!

 そもそも男がラブレター紛いの物を書いていいもんなのかッッ!? 

 

「あああああ……異性に手紙を書くとか、生まれて初めての経験だしなぁ。う、うーん? ここは男らしくビシッと直接言った方が……いやいや。それじゃあ、ぼくの過去の出来事を上手く伝える自信がないし……」


 そもそも、こんな金ピカまみれの男を好いてくれるのだろうか?

 い、いや。

 思い上がりかもしれないけど、

 バスリーちゃんに嫌われてる感じは、全くしない……。

 鎧が剥がれ落ちてから会いに行った方がいいのかな?


「はは、意気地の無い考えばっかり頭に浮かぶや」


 トォ──────……ン!


 地面を蹴る足音は、元に戻ってきている。

 ブーツの至る所に、ミスリルの灰銀色が覗いている。

 確実に、黄金は砕けているのだ。


「……やってきた事まで元に戻る訳じゃあない。でも、だからこそ──……」


 当たって砕けよう。 

 上手くいけば、仮面も取れるかもしれない。

 そうしたら、この黄緑の目だけが残るだろう──……。


「ぁ────……」

 

 駆ける草原を見て、思う。

 なぜ黄金の中で、瞳だけは黄緑になったのかと思っていた。

 それが、今さらわかったよ、戸橋(とばし)


「……そっか、なるほど、な──……」


 ぼくの瞳は、"野"原の色か。

 名はいつも、体を表している。


「……あいつの力は、やっぱりすごいや」


 戸橋(とばし) 香桜子(かおこ)の"言霊法(ことだまほう)"。

 "言葉の概念を顕現させる力"。

 彼女はああなるまで、

 いつも、どんな気持ちだったんだろうか。


 初めて"名前抜き"で人が死んだ後から、

 戸橋(とばし)は口元に布を巻きつけ、

 ほとんど喋らなくなった。


 あの明るかった後輩が、 

 虚ろな目で、まるで別人のようになった。

 あの狂気の王が、

 何故あんな実験をしていたのか、今もよくわからない。


 ぼくは、王も王女も、どちらも心から(うら)んでいたが、

 戸橋(とばし)はよく、ロザリアを(かば)っていた。

 今思えば、あの二人は仲が良かったのかもしれない。

 いつも、ぼくが二人に近づくと、ロザリアだけが離れていった。

 後ろ姿を睨みつけていたら、戸橋(とばし)に指でつつかれたもんだ。


 ロザリアの心にひろがる後悔を、戸橋(とばし)は知っていたのだろう。

 今は……ぼくも知っている。


「──……」


 へへへ──☆ と。

 あの、ヘラヘラと笑っていたのが、本当の王女様だ。

 もし、死後の世界なんてモンがあったら。

 二人で、ケラケラとぼくを笑ってくれるだろうか。


 ────トン、と。 

 ───ニョキリ、にょきり!


「……!! やっぱり……気のせいじゃないや」



 足場にした枝から、新芽がふき出す。


 駆け抜けた後の大地に、野の花が咲き誇る。


 さっきから、ずっとだ。


 ぼくは、予想する。


「黄金」の力が弱まり、「野」の力が強まったのではないか。


 向かっているのは、"花守"のハーフエルフが待つところ。


 よい、組み合わせだ。


 これでもかって、くらい。


 運命って、言いたくなる。


 呪われた時の力は消え、この力だけが残るのだとしたら。



「──彼女の隣で、花咲じいさんになれたらいいな──……」



 でも。


 この力が。


 たぶん、アレを呼び寄せた。





 ──────ダンっ!!




「──っ、くっ……ハッ、ハッ、ゲホッ、ハッ、ハッ───……」




 ほんとうにいけないモノに、追いかけられている。


 気づいた時、ぼくは即座に彼女のいる方から離れ、


 森の中に潜った。



「う、……くそっ……! なんだあいつ、はッ……!」



 ぼくの感覚が、危険を告げる。


 地面から、無数の根がのびた。


 ぼくの身長の倍はある、槍のような根。


 いや……もっと長い!


 人殺しの感覚が、それを本能で避けさせた。


 地上に出た巨大な根は、蛇のようにうねる。


 根の先が……獣の頭のようになった。


 彼女のいる場所と、真逆の方に逃げる。


 広範囲の地面が、波打って追ってくる。


 得体の知れない大きなモノが、地面の下にいる。


 ぐにゃりぐにゃり、メキメキ。


 これは、ダメだ。


 こんなのを、バスリーちゃんの元へ向かわせられるか。


 振り払おうとする。


 ぼくの触った所の、木々が成長する。


 花が、咲いた。


 それは、今は呪いのような力だ。


 追いかけてくるあいつは、たぶん植物のバケモノだ。


 ぼくの力を、追ってきている。


 ぼくは、目を付けられたのだ────。



「神様なんて、死んじまえっ────……!!」



 ぼくは気づいた。


 ぼくがコイツを呼び寄せてしまって。


 ぼくがコイツに食われたら。


 次に、コイツが行くのは、あの精霊花モドキの所だ。


 間違いなく、バスリーちゃんが襲われる。


 こいつは。


 ここで、殺さなくちゃいけない。


 ぼくしか、いない。




 あああ、あああ。




 ぼくは、逃げるのを、やめた。




「でろよ」




 地面がうねり、根が湧き出し、形となる。


 それは、まるで狼人(ワーウルフ)のようになった。


 見上げる。


 目はない。


 でかい。


 醜い、真っ黒な枝と根っこが絡み合っている。


 黒い(つた)で編み込まれた尻尾。


 狼の形をした、蛇のような枝の触手。


 悪魔のような姿の魔物。


 森の、主だ────……。




「……自己紹介は、必要かな?」



『 ぐごきゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁ────!!!!! 』





 真っ黒な木の絡まったバケモノ。


 言葉は通じなかった。


 構えた腕の金の装甲に。


 キンと、ヒビが入った。





(´;ω;`)じかいでしめかなぁ

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