表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
530/1216

ぼくらの時が、動くとき⑱

(●´ω`●)またせたや!




 キーン、


       コーン、


  カーン、



    コーン……。




「>>>ん……」


「……では、気をつけて帰るように。あまり盛り場には立ち寄るな。号令」

「きり──つ!」


 >>> ……!

 >>> 慌てて、立つ。

 >>> 黒板の上の時計を見ると、もう3時半を回っていた。

 >>> 帰りのホームルームを寝過ごしたのか……。


「れいっ!」

「「「「「さよおなら──!!」」」」」


 >>> 回らない頭で、ワンテンポ遅れてお辞儀をする。

 >>> 銀色の髪が教壇を流れ、廊下へと消えていった。

 >>> ほ……先生には、バレなかったみたいだ。


「やっと終わったなー!」

「帰ろうぜ──!」

「ちょっと新作のフルーリーヤバくない!? この後行こうよ!」


「>>>ふぅ……」


 >>> ドカッ、と座る。

 >>> ホームルームを居眠りするって、なんか寂しいもんだ。

 >>> みんながガヤガヤと笑顔になる中、

 >>> 自分だけが取り残されてるような気がする。

 >>> 何か、大切な連絡事項を聴き逃していないだろうか。

 >>> ……まぁ、仮にそうだもしても、死にゃーしないけどね。


(>>>なんだかなぁ……)


 >>> クラスメイトは、ぼくに挨拶ひとつせずに、

 >>> 明るい表情で教室からチラホラ出ていく。

 >>> 薄情者め。

 >>> 起こしてくれてもいいだろう。

 >>> ま、そう言うぼくも、

 >>> ホームルーム中に誰かが寝てても絶対に起こさないけど。


「>>>……ふぁあぅあぅ……」


 >>> (おだ)やかな西日が左側の窓から降り注ぎ、

 >>> よりぼくの置いてきぼり感をUPさせた。

 >>> ……今日も平和だ。

 >>> 昨日の残り物のカレーは、さぞ美味しいだろう。


「え、お前アニソンとか聞いてんの!」

「バッカお前、そういう入り方が世界を(せま)くすんだよ!」


「>>>……」


 >>> しばらく窓の外をポ〜〜っと眺め、

 >>> 高校生らしからぬ余韻に浸る。

 >>> ────……。

 >>> いけない。

 >>> 昨日は早く寝たと思ったけどな。

 >>> この、陽気のせいかな。

 >>> 窓の外にヒラヒラと舞う、桜の花びらが綺麗だ。

 >>> ────"(さくら)"?


「>>>……──なんで。今は……四月じゃあ……」


 >>> ……。

 >>> ……。

 >>> ま、いいか。

 >>> 散っている物は、散っているんだ。

 >>> 騒ぎ立てた所で、綺麗なモンは綺麗だ。

 >>> ……、……。


「>>>……帰ろう。こんな日は、生徒会なんて無いに決まっている──……」


 >>> あやふやと自分に言い聞かせ、

 >>> 使い慣れた机を立とうとする。

 >>> ……────あれ?


「>>> うご、かない?」


 >>> 机にポンと置いた両手が、

 >>> まるで体を押し上げようとしない。

 >>> 力が入らない。

 >>> 足もダメだ。

 >>> 体が動かない。

 >>> 時が止まったみたいだ!

 >>> 筋肉の動かし方を忘れてしまったみたいに、

 >>> ぼくは静かに座っている。


(>>>金縛(かなしば)り、か!?)


 >>> ……くそっ!

 >>> 金色なんてキライだっ!

 >>> 金色なんてキライだっ!

 >>> 金色なんてキライだっ!

 >>> こんな、まだ明るい教室で、金縛(かなしば)りなんて、

 >>> ただ、マヌケなだけだ!

 >>> 怒ってもしょうがない。

 >>> こういうのは、ちょっとした刺激で動けるようになるんだ。

 >>> 周りの奴らを見て気を紛らわせたら────……。


(>>>……──え……?)


 >>> 教室には、ぼく一人だった。

 >>> だあれもいない。

 >>> いつの間に、みんなは帰ったのだろうか。

 >>> そんな……誰かいないのか……?

 >>> 首の向きさえ、変えられない。

 >>> 目線で……、目線が、下がってきた。

 >>> なんでだ、なんで視線を下げる!?

 >>> 何故、机を見るんだ!? う、うご、け……!?


「>>>……──、……、……、……!」


 >>> ゆっくりと、ぼくの顔は(うつむ)いた。

 >>> 両手は机の上に投げ出され、スフィンクスみたいだ。

 >>> なんで、だ、うごけ、うごけ……!!


「>>>……なんっ、でっ!」


 >>> まばたきも、できない。

 >>> ──ポタリ。と、

 >>> 机に、たれた。


(>>>え……涙……!? ちがう……!!)


 >>> あかい。

 >>> 血だ。

 >>> 左目だ。

 >>> たれている。

 >>> なんでだ。

 >>> ──ポタリ。

 >>> ──ポタリ。

 >>> 泣くように、たれている。

 >>> 体は、動かない。

 >>> 視界が半分、赤くなった。

 >>> あぁ、ああ。

 >>> 目の上からも、(したた)っているんだ。

 >>> 左目を、タテに裂くように傷があるんだ。

 >>> でも、見えてる。

 >>> 机に、血痕(けっこん)が増える。

 >>> ……やめてくれ。

 >>> なぜ、動かない。

 >>> このままだと、左目から、真っ二つになってしまう。

 >>> いやだ。


 >>> 血痕(けっこん)は増え続ける。

 >>> 血痕(けっこん)は増え続ける。

 >>> 血痕(けっこん)は増え続ける。


 >>> こっ──……、

 >>> このままは、一人はっ、いやだっ……!

 >>> うごけっ……!

 >>> 動いてくれっ……! 

 >>> ぼくは、、、ぅ……動きたいっ!!


「>>>うっ、いゃっ、あ、ぁ……た!」


 >>> たのむっ……! ぼくは、

 >>> ぼくは、あきらめないぞ。

 >>> 絶対に"止まらない"っっ!!!

 

 >>>だから──……っ!




「 >>>──誰か……、ぼくを、止めないでくれ……っっ! 」





 >>>    』



 >>   』



 >  』




 ──。

 




「────『大丈夫』。」




『>>>───────っ!?、……?』


 


 >>> 後ろから、女の子の声が重なって聞こえた。

 >>> まだ、教室には誰かが残っていたのだ。

 >>> 二つの足音は、ゆっくりとぼくに近づきながら言う。



『みんな知ってる。たくさんの人が知っている。

 あなたが、決して止まらず、駆け抜けた事を』


「────全ては:継続しています。

 ────全てが:証明しています。

 ────あなたの全てが:未来に繋がっていると。」



 コツ、コツ。


 ────カン、カン。



 >>> 首はまだ動かず、背後は見れない。

 >>> でも、その声を聞いて、何かが溶けだす気がした。

 >>> 顔の左側から流れる血の恐怖が、

 >>> 声と、窓の外からの光に和らぐ。

 >>> 確かに、桜の花びらが舞っている。



『ねぇ。あなたは、一人じゃあないの。

 ずっと、いつだって、一人なんかじゃないのよ』


「────皆が:あなたを認知します。

 ────未来永劫:し続けるのです。

 ────あなたの活躍は:語り続けられている。」


『……ふふふ。これでもかって、くらいにね?』



 コツ、コツ、……コツ。


 ────カン、カン、──カン。



「>>>──……、?……」


 >>> ふたつの足音が、すぐ両隣(りょうどなり)で、止まった。

 >>> 学校の制服のスカートの柄が、左右にチラリと見える。

 >>> この人らは……だれ……だろうか?

 >>> こんな声の女子、ぼくのクラスに、いたかな……?


 >>> ぼくの顔は、ゆっ、、、くりと。

 >>> ──上を、向き始めている。




『それにねっ!

 もし誰もが、あなたを忘れようとも───、』


「────全てが:

 無かった事になったとしても───。」



 " " スッ──…… " " 



「>>>……!」



 >>> ぼくの動かない両手に、

 >>> 小さな手がふたつ、重ねられた。

 >>> 視覚が、感覚が、とらえている。





 >>> ── 煌めく、黄金の髪。


 >>> ── 紅く輝く、王の心。




「 ────『 私たちが 必ず 繋げるわ 』。 」



「>>> ……、きみ、たちは……?」



 両の手に、確かにある温もり。


 血が滴る左目に、残りの手が覆いかぶさっていく。


 上の傷には、小さな少女の手。

 

 下の傷には、人形のような手。


 傷口をふさぐ、二人の少女の指の隙間を、


 ぼくの血が、(つた)っていく。



『ごめん……。

 私には、これは変えられないことだから……』


「────申し訳ありません。

 ────私では:あなたに会う未来を:奪えないから──。」



「────『だからっ』:」



「>>>   、 」




 ──────" たたかって!

     黄金の義賊クルルカン ───!!! "



 






 ────Download:completed▼









 ──ガタッ!?



「───うわぁ! あっ、あっ、え!? ここどこっ!?」


 ……あっ、迷宮跡の隠れ家だ。


「あ、あ、あ、イスっ、たおっれっ、おとっとっとぃとぃとぃとぁあ────……  」



 ……ガキコォ────ン……。



「……」


 ……こっちの隠れ家でも、イスで倒れましたょ。


「うう──……、かっこわるぅ……。

 なんか、変な夢を見てたような……。

 どんなだっけ……あっ!! また鎧、砕けてるっ!!」


 石のレンガの上で、無防備に背中からコケるという醜態。

 受け身をヘタこいたらしく、今のでさらに鎧にヒビが入った。


「ち、ちぇ───! この前までは最強の鎧だと思ってたのに……! あいててて……またコレ皮膚、裂けたな」


 クラッ……。


「う、おとと……」


 あ……これ、やっぱり熱も出てるなぁ。

 なんでだろう……。

 所々(ところどころ)、鎧が剥がれて、

 そのたびにポーションぶっかけて治してるからなぁ……。

 軽い全身満遍なくの炎症も相まって、

 体温調節が効かなくなってるのか?


「……密閉された鎧って、けっこう断熱防寒になってたんだな。まぁ、皮膚の感覚が戻ってきたってコトか……ぶるるっ。やばいっ、布団なんてないぞ……」


 オーソドックスな迷宮跡の隠れ家ということで、

 つまり石レンガの建築だった。

 ぼくの世界の昔の貴族って、石のお城が冷たいから、

 壁にも絨毯を貼っつけてたって聞いた事あるし……。

 教えてくれたの先生だっけ?

 わぁ。やばい、寒い寒い寒い……。


「ああ〜〜、でもポーション使わないと皮膚ヒリヒリするし……まだあったかなぁ」


 ふぅぅぅぅ。

 レエンの隠れ家から、迷宮跡の隠れ家に帰ってきて、

 すぐに机で寝ちゃってたんだな。

 ま、ここまで来れば、もうすぐだ。

 バスリーちゃんとは、目と花の先。

 なんてね。

 

 あれ……? そーいやさっき、学校の夢を見てたかな?

 あ、ポーションあった。


「うーん、あまり残りがないなぁ……。

 まだエルフの旅団がいれば、他の地域の薬草なんかが取引できそうかもだけど……」


 ここに帰ってくるまでも、

 一応、旅の商人に会えた。

 バスリーちゃんに会うまでは、あんなに見つからなかったのに。

 

 レエンを出発してから数日経った時に、

 初めて見るクリーチャーのような魔物と人間の親子が一緒に居て驚いた。


 それが正しく商人一家で、

 襲われているわけじゃなくて家畜のようだった。

 まるでセーブポイントみたいな確率で出会うなぁ、と思った。

 まぁ怪しまれたけど。


「お、お前さん、随分と珍しい格好をしているな……」

「お、お父さん。この人、お客さんなの……?」

「ぐるぉ、ぐるぉあ! おえっ!」


 >>> え、ええ。旅芸人でして。

 >>> これでも、それなりの腕なんですよ?


「……ほおぅ。それにしては、その鎧……」

「ぐぉ、ぐぉう! ぐぉうぐぉ───!!」


 >>> ……。


「……いや、何も言うまい。何が欲しいのかね?」

「お、お父さん……だっ、大丈夫なの?」

「ぐぉおおあああ──!」


 >>> あ、えーっと、ポーションをあるだけ。

 >>> あと……魔法の巻物(スクロール)があれば見せて下さい。


「ふむ……売れるポーションはこれだけしかない。初級だ。

 巻物(スクロール)は火のが、少しだけあるぞ」


 >>> あ……! それは助かります。


「……包帯は、いらんのかね?」


 >>> !


「お父さん……?」

「こう見えても、昔は冒険者をしておってな……。

 怪我を隠している者の表情は、よくわかるんだよ。

 このポーションは初級だからな。気休めだぞ。

 包帯も買ってくれるなら、安くしておこう」

「ぐああ、ぉあああああ──! ぷしゅっ! ぷしっ!」


 >>> ……。

 >>> あのっ、その魔物は……?


「ん? ホーンパックビースト種を見るのは初めてかね?

 見た目はちょいと怖いが、もうコイツは家族みたいなもんでね」

「ら……ララちゃんっていうんだよっ!」

「ぐぶぉおああぁぁあああ──!!!」


 >>> ……ぉお。

 >>> あっ……包帯も、いただいておきます。

 >>> えーと、支払いはこれで……。


「わっ! お父さん、それって……!」

「……!! お、おい、こいつはダメだッ!

 とてもじゃないが釣り銭を用意できないぞ!」

「ぐおっ」


 >>> あ……お釣りはいいですよ。

 >>> 今、その硬貨しかなくて……。

 >>> とっておいてください。


「お父さん! こんなにあったらしばらく暮らせるよ! よかったねララちゃん! しばらくベロベロ肉以外のごはんが食べられるよっ!」

「ぐろろぉぅ? がんがんがんがんがんがん──!!」


 >>> べ、ベロ……?

 >>> ははは、良かったです……。


「ば、バカを言っちゃいかん!

 初級ポーション数本と雑貨品で、こんなに支払う奴があるか!」

  

 >>> ……いいんです。

 >>> じゃあ、ぼくは急ぐので!


「……!! ま、待ちな、お前さん! 少しだが食料も持っていけ!! ちっぽけな干し肉や豆しかないが……」

「あっ! ねぇ、お兄さん! 私からも、これあげる!!」


 >>> ……? これは?


「たんたんたーん! "お手紙セット"! 私が初めて仕入れた商品なのっ。ねぇ、お父さん……いいでしょう? こんなに多く払ってくれたんだもの!」

「そ、それは構わんが……こんな金額に対して、これしきの品物だけでは……」

「ぐろぉおおおお──!」


 >>> お手紙、か。はは……。

 >>> ありがとう! これも、もらっておくよ。


「えへへっ! まいどありだよっ! こちらこそありがとう!

 あっ、私ね? どうしても欲しい絵本があるのっ!」

「こらっ、シゥネ! そんなどうでもいい事を、お客さんにしゃべるんじゃない……」

「ぐおっ、おぶっぼっ、ぼぼっ、ぼぼぼぼぼぅ!」


 >>> ふぅん……ふふ。手に入るといいね。


「うんっ! えへへ……」

「これと……これと……こっちがポーションだ!

 ……。お前さん。これはお節介だが、あんた、かなり体調が悪そうに見える。そんな鎧は脱いじまって、どこかの村の宿で休みな?」

「ぐんっ、ぐんっ! ぷしゅ! がっ!!」


 >>> ……ありがとうございます。

 >>> そうだね……こんな鎧は早く脱いだほうがいい。

 >>> じゃ……ぼくはこれで。


「……気をつけな」

「じゃあね──!」

「ぐおおぉぉおあああああ────っ!」





 ────と、言う事があった。



「……あの魔物は、グロテスクだったな……。

 毛が無かったもんな……あんな敵キャラの──……」


 パキッ……。


「……、ぐっ」


 鎧の一部が、クッキーのように砕ける。

 手で破片を握り潰すと、

 あの無敵の硬度が嘘のように粉々になって、

 キラキラと風化していく。


 金の粒子が、光の魔素に戻っているだろうな。

 はぁ……普通の服を買う日は、近いかもしれないなぁ。


「……ふ、ぅ……」


 あの行商人の旦那さんが言った通り、

 道中、ぼくは体調を崩していた。


 "黄金時代(ゴルドエイジ)"を使う(たび)に、黄金の鎧は崩壊する。


 全身の鎧が徐々に剥がれ落ち、肌のあらゆる所が痛痒い。

 これに対して体が異常を感じてしまっているようだった。

 ……風邪っぴきには、なっていないと信じたい。


 ──ポンッ。


 ポーションのフタを取り、包帯の上から染み込ませる。

 こうすることで、無駄なく皮膚を治療できる。

 ぶっかけると垂れちゃうもんな。

 初級だから飲んでも効果がイマイチだろうし。


 ツゥ────……ジワ……。


「いてて……」


 厄介なのは、今まで無意識のうちに、

 切り傷なんかも"凍"らせていたって所だな……。

 鎧が砕けた場所によっては、傷口が一気に開いてしまう。

 けっこう怪我しまくってたんだなぁ、ぼく……。


「まさか、こんな事になろうとは……」


 力を使うと、ちゃんと空間が停止して幻影効果を得られる。

 けど、しばらくすると、


 光の鎧を養分にしちゃう"精霊花の根"。

 "反転(リバース)"の時を戻す効果。


 このふたつの強力な力で、

 ぼくはカチカチ金ピカになる以前の姿に、だんだん戻っていくのだ。


 前に作った透明のナイフや道具は、

 まったく破壊できない停止アイテムのままだった。

 光の魔素を取り込まないかぎり、

 永遠に壊れることはないだろう。

 金ピカのみが、致命的なダメージを受けまくっていた。


「……やれやれ。できれば一気に全身の鎧を砕きたいけど……それをやると激痛で死ぬだろうしな……」


 ……いたい。

 でもそれは、生きてるって事でもあった。

 希望がある。それは、ぼくをかなり前向きにした。

 いつか全ての黄金が無くなるまで"戻"れば、

 普通の人間になれるかもしれない。

 ……。

 これは、戸橋(とばし)やロザリアの命のかわりに、

 ぼくが受け取ってしまったモノだ。

 それを思うと、胸が苦しい。


「つッ……、……。くそ……」


 マントの下は、あの時のロザリアみたいになっている。

 ミイラ男が黄金の半端(はんぱ)鎧を着ているのだ。

 ……あいつも、こんな気持ちだったのかな。

 なんだか、奇妙な苦笑が浮かんだ。


「……服、買ってやればよかったなぁ……」


 ……。

 立ち上がる。

 思った以上に、総合的な体調が悪い。

 この隠れ家までも、スピードは出なかった。

 かなりの日数をかけてたどり着き、

 何とか地味にキツい100メートルくらいの縦穴をロープで降り、

 ヘロヘロになりながら、そこの机で意識を失っていたのだ。


 ……何日経ったのか、正確にはわからないや。

 バスリーちゃんに寂しい思いをさせただろうか。


「ぅ……腹減った……」


 目が覚めた時はアレだったが、

 起き上がって歩くと、心持ち、体がかなり楽になった。

 痛さは、あまりに全身だと、ほっとくと麻痺してくるもんだな。

 机と椅子にドカッと座り直し、干し肉と豆、水を出す。

 今の体力では肉を食いちぎるのに苦労したけど、

 これが美味かった。

 あのクリーチャーの旦那さんに感謝だな。

 何とか食料も足りて良かった。

 エルフの知識が無きゃ、帝国のやり方だけでは飢えていたかもしれない。


 ゴトっ。


「あれっ、これ随分前の携帯食料だな……」


 ……わぁ。

 待たせているバスリーちゃんに悪いと思いつつ、

 アイテムバッグを整理しようと、机に中身をバラまく。

 これ、好きな人に見せられない。

 今見ると、要らないものが溜まりまくっている。

 後ろの迷宮跡のトラップ跡の穴に、

 ゴミをポイポイ放り投げながら、いる物だけを残す。


 ────キラリ。


 その中で、特に異彩を放つモノがある。

 精霊花の(つぼみ)が入った、透明のナイフだ。


「……。ちゃんと、咲くかなぁ」



 戸橋(とばし)とロザリアの力で、

 純度と生命力が戻った精霊花。

 それに光の力を与え、成長させる。



「上手く、いってくれればな」


 全て、予想の域は出ない、不確かな計画。

 本当に出来るかどうかはわからない。

 これが唯一の可能性だからなぁ。

 ……まぁ、ぶっつけ本番だろう。


「むむ……」


 マジマジと、ナイフの中身を見る。

 琥珀(こはく)のように入っている、聖なる存在。

 ────……ふむ。


「……そういえばバスリーちゃん。

 精霊花は、精霊王ヒューガノウンの加護を受けた花だって言ってたっけなぁ……」


 バスリーちゃんには悪いけど、

 ぼくは、こっちの神様の存在を、まるで信じちゃあいない。

 いや、神様じゃなくて精霊王か……。

 それを信仰している人の敬虔さは、尊いと思うんだけどね?

 うーん、ぼくがひねくれちゃってるからなんだろうか……。


「精霊王ってのは、どうも存在を信じられないんだよなぁ……。ロザリアも、お母さんが精霊のなんたらこうたら、呪文がどうたらこうたら言っていっけ……」


 大切に首に巻いている、ジグザグのマフラーに触れる。


「……"反転(リバース)言霊(ことだま)"は、確かにコイツに宿ってくれていた。

 あの、呪文と共に────」



 口ずさむ。



「 孤高(ここう)ではなく────、


  (うれ)いではなく ────……、 」


 

 ─────ピカッ!!



「────わっ!?」



 ひかっ!


 ひかった!?


 ──コンコロロん。


 ナイフが、光ったぞ!?


 いやビックリして落としたよ。


 ………。


 いや、それに今、このナイフ────。



「……ロザリアの呪文で、少し大きくならなかったか……?」



 ……花咲か爺さんは、灰を()けばいいだけじゃないみたいだ。

 フラフラとする頭で……。



「……ダメだ、考えてもわからないや。

 ……動こう。止まらなければいい」



 ぼくにやれる事を精一杯、やるしかないよな。




 

(*´ω`*)魂のにょきっとが足らぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ