飲み過ぎ注意 さーしーえー
絵物語で、怪獣は炎を吐く。
ドラゴン然り、ヒュドラ然り。
だから、逆に火を飲ませてやってはどうだろう。
いつもやってんだ、文句ないわよね?
あ……。
この枝怪獣、火ぃ吐かないわ……
「────何かごめん、枝すけ……」
『────何故、駆逐する枝すけに謝罪するのか不明。』
「ぎぐごあああああああああああ!!!」
────きゅぃぃぃぃぃん!
「クラウン。口元まで行く。回避補助たのんだ!」
『────レディ。』
『────慣性制御機構を展開中。』
『────准反重力機構を同期中。』
『────予測実行プロセスを流路確定。』
『────────いけます。』
「っふッ!」
まず、身体を前に蹴り出す。
車輪には歯車の刃がついているから、
思いっきり地面を蹴ることができる。
両肩口に展開した反重力機構は、
私の重さを、薄れさせる。
星の重さは、お留守番。
1歩1歩は、とても、かるい。
1回の蹴りで、きゅ─────ん! と進む。
速く、滑らかな進行だ。
「ぐがあああ!!!」
シガラグレイルの体表に茶色い火花が散る。
土属性の魔法なのだろう。
この仮面を被っている限り、私に魔法で先手を取るのは、ムリよ。
シュバ! シュババ!!
蔦が刺さる場所は、はるか後ろ。
いや、上、かな?
今の私の身体の向きだと、地面は上だからね。
また蔦がくる。
空中で身体をひねり、あわせる。
きゅかかんッ!
────だから、足場にしかならないんだってば。
蔦が舞う、舞う、舞う。
一回転、二回転、三回転。
当たらない。
油断はしていない。
冷静になっている。
だから、避けられるんだ。
もう、そのメニューは飽きたよ。
もう、目の前に、大きな顔が見える。
「がぐるるるる…………」
「お」
口を、閉じやがった。
この枝にとって、私はエサだ。
その大きな口で、ぺろりと食べたいはず。
なのに、口を閉じるってことは……
「いっぱしの敵として、見なされているって事か……」
『────明確な防御行動です。』
自分の弱点が、口の中だと知っているんだ。
バーグベアの時も思ったけど、大型の魔物は知能が高いわね……。
魔獣なのに、表情で、感情や焦りが、読み取れる事がある。
敵としては、イヤな気分だわ……。
「口を開けるには……あの牙ね!」
『────"チャクラム"の使用を提案。』
「言わずもがな!」
私の人差し指に、小さな歯車。
その外周に宿る、高速回転数。
あ、ちなみに両手ね。
狙いは、あの口を、がっちりと塞いでいる、大きなキバ。
くるくるくる……
「とぉ、りゃ──!!」
びゅいいぅ────ん!!
最初は、前歯から。
────ぎゅるるるるるるるる!
────きゅぃぃぃぃぃいいん!
「ぐっふるげぐぐぐ!!!!」
うわぁ、痛そう、苦しそう。
まず、木の粉がやばぃ……。
牙っつっても、木だかんね。
切る時にすごい量のおがくずがでている。
……くしゃみでそう。
あと、牙の断面が光ってる。
蔦の時とは違って、緑色の光。
あ、あれ、切れたらアカンやつや。
確実に痛覚刺激してそう。
しかも、そこに、粉。
口の中にもかなり、なだれ込んでる。
私も人生で2回ほど胡椒をぶちまけた事があるが、それプラス歯が抜けた痛み、だろうか。
「敵ながら、……不憫ね……」
『────歯部除去まで、3、2、──。』
ぎゅるるるる、ギコん!
「ががぐがぐがが………」
は────い、ごかいちょ────う。
…………には、ならないわね。
牙が無くなっただけで、口は閉じれるもんね。
…………あの、顔。
……近所の、スープしか頼まないおじいちゃんを思い出したわ。
歯って、大事ね。
冒険者になってもちゃんと歯、磨こう。
食後30フヌ後、やわらか15フヌコースよ。
歯車使いの歯が綺麗なのは、最低限のエチケットだわ。
「クラウン! 派手に火を使う!」
『────レディ。この場所は少し拓けています。引火の可能性:中。』
「燃え広がったら、カーディフ同様、吸い込む! いくよ!」
『────受諾。流路展開。』
わたしのうでの、5枚の歯車が、はずれる。
ヨロイから、小さな腕輪のように、重なる。
先の歯車が、鋭く尖るように、形をかえる。
それは、黄金の弾丸。
だから、打ち出すモノが、必要だ。
親指のつけね。
小指のつけね。
それぞれの歯車は、
逆方向に高速回転している。
さぁ、みんなで考えよう。
この間を、弾丸が通ればどうなるのかを。
ふふっ。考えるまでも、なぁい?
「クラウン。今、なまえ付けちゃって」
『────攻撃名"黄金の弾線"が設定されました。』
「あら、今回はイイ趣味してるわ!」
おまかせコースで、今まで一番ね!
「ちょと、子供くさいけど」
『────あなたは、15では?』
「いくよクラウン! 照準補正!」
『────受諾しました。補正中。』
ぎゅいいいいいいん!!
ぎゅいいいいいいん!!
『────照準。』
「────はなて」
────────キュダォオン!!!!!!
いぃイッ──────!!
────バッキイイィィぃぃぃ!!!!!
「な……なんつー音なのよ……!」
『────敵対顔面下に命中!』
「! うぅ、今だ!」
敵に打ち込んだ、5枚の歯車でできた、弾丸。
これは、あるものにも変形するワケで……。
覚えてるかな?
5枚の大歯車が、少しずつ重なりながら、少しずつズレながら、まるで花弁のように展開する、あの門を
あの、山火事を飲み込んだ、花の時限門を。
『「 "カーディフの火" 」』
シガラグレイルの口にあらわれた、
大きな歯車の花。
それは、大いなる魔物の顎をも、
強制的に、こじ開ける。
────さあ、グリルの時間だ。
──────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!
カッ!
────ちゅドドドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!!!!!!
────グリルには、ならなかった。
「……クラウン、なんで爆発、したの……」
『────粉塵爆発ですね。』
「……ふんじん爆発って、なに?」
食堂屋の娘にわかるように、言ぇや。
"時限の盾"に隠れながら、
私は心の中で、ボヤいた。
燃え広がった森の炎を、全部格納したら、
クラウンいわく、
"最初の格納量の、6.5倍の炎"に、なったらしい。
…………。
単純計算で、
直径7.5ケルメルを、
1ビョウで焼き尽くす炎だ。
マジいみわかんない。