ぼくらの時が、動くとき⑯
感想が一万件を超えていました。
すげぇな1000ページもあるよ……!?
みんなと一緒に物語を紡いでいます(*´∀`*)多謝。・:+°
夜に、
淡く、
淡く、
浮かぶ。
「……ねぇ、さびしい女だって、そう思う?」
「……え?」
力を失った花たちが風にそよぐ中、彼女は言った。
「……きみに涙は似合わない」
「2点」
……──!?
──に、にてんッッ!?!?
「じっ……10点満点中?」
「1000点満点中。キザすぎ古くさすぎ狙いすぎキンキラすぎカッコつけすぎ」
「ぬ、ぬぇぁ──……」
バスリーちゃんの辛口採点に、
花が輝くロマンチックな夜が終了のお知らせ。
──彼女は、続けた。
「ねぇ……あなたは、なんで私に会いにくるの?」
「会いにきちゃ、ダメなのかぃ?」
「そういうズルいのは無し。答えてよ。なんで?」
「な……んでって……」
脳みそが高二の……いや、ていうか、ぼく自身が。
こんな女の子のいきなりの質問に答えられるほど、
人間ができちゃあいない。
や、やばい……どぅ話せばいいんだ。
思いっきり言葉を失いまくっていると、
彼女が捲し立てた。
「……それは、哀れみ? こんな所でわたしが、ひとりぼっちでお花の種をまいているから? 寂しげで哀れなハーフエルフが可哀想になっちゃった? そんなにわたしは……可哀想かなっ」
「 っ、──…… 」
その言葉を聞いて、
"人間関係どうしよう"、という思いよりも、
自分の中でうねる心のほうが勝った。
ぼくは彼女が座っている岩のほうから目線を戻し、
前を向いて、膝の上に乗っている腕を眺めた。
ぼくは自分を正義だなんて絶対に思わない。
だから、自分だけの意見を言うしかなかった。
「……同情だよ」
「……!」
「ごめんな。ぼくも一緒なんだ」
「……何が、一緒なのよ」
彼女の声には、怒りが滲んでいた。
「"なんでこんな風になっちゃったんだろう"って、ずっと思ってる」
「 ……──! そっ……、…… 」
バスリーちゃんは、嘘はつけなかった。
彼女のとても良い所で、
女性の機微を捉えるのが苦手なぼくには、ありがたかった。
「……すまない。ぼくはきみを哀れに思っているから、ここに居るんじゃないと思う。勝手に、ぼくときみを重ね合わせて、吸い寄せられているんだ」
「……、……」
「……ま。こっちも色々ありまして☆」
ちょっと、ロザリアの真似をしてみた。
必殺、しんみりブレイカー。
この世界で、はじめてのウィンクだ。
「…………ごめんっ……」
「えっ」
「……ごめん、なさい。あなたは……何も悪くない。悪いのは全てわたしだわ……本当にごめん。今のは、忘れて……」
「ちょ……」
本気で謝られた。
今の一応、ふざけたつもりだったんだけど……。
「あなたは、その……」
「 、──── 精霊花ってさ!」
「!」
ぼくは自分が殺した人の話をしたくなかったので、
強引に話を変えた。
「昔の精霊花って、もっと綺麗だったのかな?」
「! そりゃあ、綺麗よぉ!」
バスリーちゃんの好きな話題。
「本物、見たことあるのかぃ?」
「いいえ? 無いわよ?」
「えっ!? ないの!?」
「な、なにさ、その反応……」
「いや、だって……」
「いーぃ? 昔、お師匠様がね……」
バスリーちゃんの話によると、
精霊花ってのは、はるか昔、
精霊王ヒューガノウンが祝福を与えた花らしい。
もちろん、言い伝えなんだって。
でもそれは、種を見ればすぐにソレだとわかるという。
真っ白な、光の魔力を帯びているんだそうだ。
昔、お師匠様と一緒に、かなり純度の高い精霊花に、
高密度の光の魔法を流してみた事があるらしく、
その花は聖なる輝きを放った後、すぐに枯れて、
光り輝く種が残ったんだって。
でも、その種はすぐに、光を失ってしまったんだそうだ。
それが本物の精霊花の輝きに近いと、
お師匠様は言っていたらしい。
「あれは、美しい花だったわぁ……。少しの間だったけど、力強く煌めいていた。あんなのが一面の花畑になったら、さぞ素晴らしいでしょうね」
「そうだ、ろうね……」
「きっと、あなたよりキラキラよ?」
「! はは、そりゃあそぅだろうさ」
「……ねぇ。あなた、いつもはぐらかすけどさ」
「な、なに」
「その仮面、脱がないの?」
「あ──……」
夜の雰囲気を、壊さない言い訳を。
「昔、やんちゃしてね? 神様に付けられちゃったんだ」
「そういうのいいから。ね、顔、見せてよ!」
うーん……。
ぼくは顔を彼女に向けた。
「とってごらん。引っ張ったら、とれるかもしれないよ」
「あ、なにさ。それって挑戦? とっていいの?」
「どうぞどうぞ」
「よぉし」
──ガッ。
「ちょ……ちょっと待って待って、なんでぼくの肩に足のせるのさ」
「踏ん張れないでしょ」
本気かこの子。
ちょ、ちょっとその体勢は……!
ぼくの顔の、すぐ目の前にですねぇ……。
「ふりゃあああ」
「あだだだだだ」
彼女はぼくが来るといつも、
嬉しそうな顔の後、さびしそうな顔をする。
ぼくのいる隠れ家は100メートルも段差があるから、
彼女を気軽にご招待はできなかった。
彼女は花の大地から離れようとはしなかった。
帰る時、ぼくは必ず「また来るよ」と言った。
彼女に教えてもらった食べられる野草を取っていた時、
ぼくの感覚が気配を捉えた。
多いぞ。
「────……」
もし奴隷商人や盗賊なら厄介だ。
木の上を駆ける。
見つけた。
「……! 商人か? いや……」
旅団だ。
皆、ターバンで頭上半分を隠している。
30人ほどだろうか。
家畜もそれなりに居て、荷車のような物を押させている。
子供も何人か歩いている。
しめた。
資材も多い。
何か譲ってもらえるかもしれない。
そしたら、彼女の暮らしも──……。
まだ盗賊である疑いはあったが、
それなら全滅させればいいと、ぼくは躍り出た。
────ザッ!!
「「「 ──! 」」」
「あ──……驚かせてすまない! 何か売ってほしいんだが、いいだろうか」
───スチャリ……!
む……。
弓を構える者が多いな。
子供が大人の後ろに回った。
盗賊ではないことは確定だな。
両手を上げて、愛想笑いを浮かべる。
「あはは……この鎧は、その、大道芸の一張羅でね」
「「「 あぁ────!!! 」」」
──!?
ターバンで頭をスッポリ隠した子供たちが、
ぼくを指さして叫んだ。
なんだ……?
「おまえ……」
「あら、まぁ」
「……?」
ターバンの男と女が、ぼくに歩み寄る。
男の方が手で合図すると、後ろの旅団のメンツが弓を下げた。
……どういう事だ?
後ろで子供の声がした。
「あいつだよ! あいつがみんなを助けてくれたんだ!」
……なに?
戸惑っていると、話しかけられた。
「……以前会った時は殺戮者のような目だと思ったものだが……そんなマヌケ面もできたのだな」
「ふふふ……」
二人が、頭に巻かれた布を解く。
髪が解け、耳が見えた。
「……! お前ら……!」
「久しいな、黄金の」
「ふふ、お久しぶりです」
確か……コココと、リリリと言ったっけ。
一年前に港街で出会った、エルフたち。
彼らが率いる旅団だったのだ。
ぼくは、この先にいる、
ワケありの女の子を助けてやってほしいと頼み、
エルフの旅団は快諾した。
何とかエルフのフリをしようとするバスリーちゃんは、
遠くで見ていて、おかしかった。
でっかい帽子で耳を隠していたが、
恐らく旅団全員がハーフエルフだと気づいていた。
彼らはしばらくここに滞在し、彼女の家や家畜の柵を作ってくれるらしい。
バスリーちゃんの慌てっぷりが、しばらく楽しめそうだ。
少し離れた木陰で、コココと話していた。
「あの後……どうなったんだぃ」
「あの貴族はよくやってくれていた。あの事件は全て公表された。あいつは言っていたよ。"他の種族を貶める種族たる我らが、精霊王を敬愛するに相応しいはずがない!"とな。お前が助けた金髪の子供も、大衆の前で演説していたぞ」
「……! セリゴのことか?」
「ああ。その……幼いなりに、心がこもっていた」
「そうか……」
「あのような人族がいるなら、我らと人間の関係は良くなるやもしれん。あれらが死なずに良かったと思う」
「……きみらは人間が憎くはないのか」
「愚かしい問いだ。全ての人間が悪なのではないと、我らエルフの子供でも知っている。ただ、すぐに信用はできない。ここに集まっている者たちは、しばらくは人から離れて暮らそうと思った者たちだ」
「……すまない」
「……お前は変な奴だな。お前がやった事は、恐らく少し歴史を動かすぞ」
「ぼくは殺し続けただけだ……」
「生きるためだろう」
「そんな風には割り切れないよ」
「……」
「あの資材、どうやって手に入れた?」
「人族のフリをして、人の商人より買い集めた」
「! 大胆なことをする……」
「ふっ……あの街にふらせた金を少しくすねたのだ。金さえ払えば何も言わない人間がいる。色々と、かき集めた。食料、道具、家畜……子供たちのために絵本なども買い付けたな」
「……あの子たちは孤児ってことだよな……」
「お前のお陰で生きている。後で声をかけてやれ。ふっ、ある絵本の主人公が、お前にソックリだそうだぞ? 一年ほど前から人間の世界で流行っている絵本なのだと商人が言っていた」
「! くく……冗談が過ぎるよ……」
遠くで、バスリーちゃんがリリリさんに、
ペコペコ頭を下げていた。
家の骨組みができ始めている。
「……ありがとう。彼女を助けてくれて」
「! ……お前の、いい人なのか?」
「え"っ」
「ずいぶん肩入れしているじゃないか」
「あ、ぃや、そういうワケじゃ……」
「なんだ、違うのか。昨日話したが、向こうも満更でもないようだが?」
「なっ!? なんの探り入れてんだよっ!」
「あの家が完成したら、お前とあの子の愛の巣になるのか……」
「……エルフって意外と下品なんだな。お前こそ、リリリさんとは上手くいってんのかよ」
「い"っ!? いやっ、リリリと俺とはだなぁ……そ、そのお……」
「あ、ほら、手ぇ振ってるぞ」
リリリさんとバスリーちゃんが、こっちを向いている。
リリリさんは満面の笑み。
バスリーちゃんは今、こっちに気づいたな。
「……あのハーフエルフ、精霊花モドキを植え続けているんだな」
「……ああ」
「昨日の夜、ずっと外で見ていた。おい、アレはもうすぐ魔物を追い払う力が無くなるぞ」
「!! そうなのか!?」
「ああ……特に外側の花はやばい……むしろ、呼び寄せてしまう存在になるだろう。ゆっくりと、だが……」
だ、としたら……。
ここは、いずれ誰も住めない土地に……。
「……」
「だから俺たちは、故郷を捨てたんだ。リリリがあの子を旅団に誘ったが、断られたそうだ」
「……! ……」
「……お前が守ってやれ。確かに夜の風景は美しかった。でも、もうあの花に命を守る力はないんだ」
「……。そうか……」
「あのネックレスは、あいつにあげたのか?」
「え?」
「あれには、純度が高い種が入っていただろう?」
「 」
その日の夜、ぼくは隠れ家で金のネックレスを開く。
そして、時は動きだした。










