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ぼくらの時が、動くとき⑮


 ────キィン!


 木の根もとにへたり込んだ彼女が見えた。

 上を見上げている。

 何か、大きなモノに襲われていた。

 

 狂ったように走り、通り過ぎる最中(さなか)に、

 片腕でタックルするように小さな体を持ち上げた。


「ふぅぁ、はぉっ── 」


 衝撃は殺したつもりだが、

 猛スピードで体を持ち上げられた彼女の肺からは、

 空気が吹き出る。

 ぼくを軸として、回転運動がかかる。

 その遠心力を上に向け、ぼくはブーツのスパイクで、

 木の(みき)()(けず)る。


 竜巻のように、ダンスのように、ぼくと彼女は跳び上がった。


「はっ──わっ……!?」


 太い枝に降りる。

 下を見ると、大きな蛇のような魔物がいた。

 デカい。胴の直径が60cmはある。

 長さは木に隠れて見えない。

 爬虫類の頭に針のタテガミがあり、

 ライオンのようにも、ヤマアラシのようにも見える。


 目をヘビから離さず、隣のドロボウハーフエルフに言う。


「きみは戦えるのか」

「……っ! 弓は、ヘタ。結界は強化系だから、元手になる盾がいる……!」


 予想より明確な答えがきた。

 チラリとだけ見る。

 着崩れた服と、ロザリアのマフラー。

 矢は本数だけはありそうだ。


「矢で気を引いてくれ。あまり注意を引きすぎるな。木の上は得意かな?」

「な……わたしとてエルフの一族だ!!」

「そのマフラーは後で返せ。ケガはするな。ぼくが負けそうなら逃げろ」

「──!? ぉ、おい!?」


 ザッ……──────キィィィン!


 木から飛び降りる。

 ヘビ野郎と対峙する。


『シュルルルルルル……!』


 やれやれ。ぼく、対人特化なんだよな。

 こいつ化け物じゃないか。

 目線を合わしたまま後ろに下がり、

 彼女のいる木から首の向きを変えさせる。


『シャアアアアア……!』


 ……でかいヘビとドラゴンの差がわかんないな。

 くるぞ。

 筋肉の緊張を読め。

 見るんだ。

 どうせ、それしか出来やしない。


『──────ァァァアア!!! 』


 足に力を入れ、腕を振りかぶる。

 口をカパァと開いたヤツが、頭を捻りながら喰らいにくる。

 腕の遠心力を利用して避ける。

 通り過ぎる、プレッシャー。

 やはり長い。

 ナイフでこいつは辛いな。

 あの子はさっさと逃げた方がいい。

 鱗に覆われた胴に、時のナイフを突き立てる。

 弾かれそうだったので、

 鱗とは逆向きに刃を入れたら、二枚ほど剥がれた。

 貝殻みたいだ。

 視線を感じ、バックステップする。

 地面が凹凸でも大丈夫なように、大きく足を上げる。


『シャアアアアアアァァァ────!!!』


 頭が前を通り過ぎる瞬間、タテガミの針に注意する。

 毒を持っていたら厄介だが、異臭はしない。

 上から、パシュっと矢が放たれた。

 カツン、と棒きれの音を立てて、鱗に弾かれる。


『グルルル……』


 ライオンヘビが木の上を見る。

 光は見えない。属性攻撃はないようだ。

 肉体特化したタイプか。

 先ほど鱗を剥がした所をナイフで刺す。


『ギォオオ!!!』


 再びこっちを向く。

 怒ったヤツは怖いな。

 光の粒子は、止まりだす。


『ギャォオオオオオオ────!!!』


 地面を削りながら、頭がくる。

 ぼくは残像を残して避けている。

 光の(デコイ)を、ヘビが喰った。


「ひっ──!?」


 上から、あのハーフエルフの短い悲鳴が聞こえる。

 なんだ、心配してくれたのか。

 可愛いところがあるじゃないか。

 アイテムバッグから紫の毒を取る。

 ある虫の内臓を袋に入れたものだ。

 走る。


「──!! おまぇ、いま、食われたんじゃ──!?」

「矢を頼む!!」

「わっ、わかった……!!」


 矢がカツン、カツンと当たる度に、

 ヘビが、ピクリと反応する。

 ナイフの裂傷の場所まで行き、

 毒袋と一緒に、再び同じ箇所を刺す。


『ギェ、ギェェエエエエエ……!!!』


 割と大型にも効くと思うが、どうだろうか。

 この種類は、口に放り込むより効果がある。

 熱で分解できる毒素だが、こいつは火属性じゃない。

 痺れてくれれば、(もう)けもんだが。


 ダァン、ダァン!! と、ヘビが針だらけの頭を、

 ハンマーのようにして地面を殴る。

 苦しいようだ。

 脳みそが詰まっている頭を殴りつける辺り、

 それなりに深刻なのだろう。

 あれは帝国で一番強力な(たぐい)の毒として習ったものだ。

 動きが鈍くなっていく。


「──やったの!?」

「っ! まだ油断しちゃいけない! 離れた木に飛び移れ!」


『ギァァ……アアア───!!』


 ──どぉォオン! と、大ヘビが木に体当たりした。


「きゃっ!?」


 木の上で、彼女がグラリとバランスを崩した。

 まずい。

 駆ける。


「──やぁああああっ……!」


 ────キィン!


 逆さまに落ちてきた彼女の肩を抑え、

 背中に手を回し、半回転させて勢いを殺す。

 太い木の根もとに下ろした。

 転落のダメージは(まぬが)れたが、

 ぼくのスピードが死んだ。


「ひぃ……!」


 彼女が大きな目で、ぼくの後ろを見ている。

 影ができた。

 多分、右からだ。

 ち。

 右手のガントレットを鉤爪(かぎづめ)のように凍らし、

 木の(みき)に食い込ませ、彼女を抱き込み、(かば)う。


 ───ガガァァアアアアンンンンンン!!!!!


 たぶん、尻尾だな。

 木の破片と、ヘビ野郎の砕けた針が、飛び散る。

 スローモーションのように感じる中、

 腕の中の彼女と目が合った。

 ぼくの時間が止まった装甲(からだ)は、なんとか耐えたみたいだ。

 激しい衝撃はあったが、痛みは感じない。

 右手の金の鉤爪(かぎづめ)はうまいこと食い込み、

 木の肌を30cmほど削った。

 引き抜く。


「あ、なた……!」

「ふ……裸を見たお礼にくらいには、なったかな?」

「……!! ……っ!!」


 何とも言えない顔で照れた彼女。

 刹那(せつな)、苦笑する。

 すぐ振り向いた。


『ギャオオオオ、オオォ……!』


 自慢のトゲトゲ尻尾が砕かれるとは思ってなかったんだろう。

 ごめんな。

 この金の鎧、硬いとかいう概念じゃないんだよ。

 ぼくは動きが鈍くなったヘビに近づき、

 両目にナイフを刺す。

 のたうち回る。

 再び何箇所か鱗を剥がし、毒を刺し込んだ。

 死んだ。

 後ろから彼女が、近づいてきた。


「……ずいぶんと、えぐい殺し方をするのね」

「ぼくは非力だからね。卑怯な方法が似合ってるのさ」

「キザなこと言って……」


 ? 今の、キザだったか?

 素で少し驚き、彼女の方を振り向く。

 予想より近くに来ていて、面食らった。


「っ、なんだい?」

「……さっき、尻尾が直撃してた。大丈夫なの?」

「見ての通りさ」

「あんなの、内臓が破裂しても、おかしくないわよ……」

「む……」


 腹を手でまさぐられたので、恥ずかしくなった。


「だ、大丈夫さ。それより」

「あっ」


 パサ……シュル。


 マフラーとマントを返してもらう。

 おっと、右手が鉤爪になってたんだった。

 安易なことをしたかな。

 彼女の肌を傷つけないようにしなきゃ。

 ふふ、完全に悪者(ワルモノ)の手だ。

 ちょっとカッコいいかな。

 苦笑していると、彼女がモジモジした。


「あ、ありがとう……助かったわ」

「まぁ、水浴びを邪魔したのは ぼくだからね。でも、盗むのはひどいな」

「っ! それは……その。そっちじゃ、なくて……!」

「あぁ、ヘビのことかな。どういたしまして」

「へ、ヘビって……。ストームヘッドの上位個体よ、こいつ……」

「この森は、こんなのがウジャウジャいるのかぃ?」

「ううん……こんなの初めて見る。いつもはフォレストウルフくらい。たぶん森の主だわ」

「こんな所で、きみは一人で暮らしてるのか?」

「! ぇと……。魔物が、近づきにくい場所があるのよ」

「……? へぇ……」

「ねぇ、あなた。ほんとにケガはないの? あれ……? その右手、さっきそんな風だったっけ?」

「……。大丈夫さ……ふふっ」

「なによ」

「ずいぶんと、お姫様の警戒心が解けたと思ってね?」

「か、かぁ〜〜〜〜!! あんたねぇ〜〜〜〜!?」


 きゅ〜〜〜〜ぅ……!


「!」

「!」


 ……なんだ今の音。


「……」

「きみの……お腹の音、かぃ?」

「ぐ! こ、これは……」


 ……はは。


「うしろのヘビさんは、食べられるかな?」

「──! で、でも毒を使ったんでしょう?」

「強力な毒だけど、火を通せば魔法のように消える」

「ほ、ほんと! しばらく食料に困らないわ!」

「火はあるのかぃ?」

「そんなの、乾いた木の棒を木片に擦り合わせばいいじゃない」

「! ……まさかのアウトドアお姫様……」

「あ、あうと、ど……? ちょっとお姫様ってやめなよ! おちょくってんの?」

「ヘビをさばくのを、お手伝いいたしましょうか? 姫君」

「むかっ……お願いできるかしら、金ピカ仮面さん?」

「き、きんぴかかめん……」


 なんてマヌケな字面(じづら)なんだろう……。


「大きく出ましたね、姫様?」

「わたしが姫なら、あんたは従者! でしょ?」

「ははっ。では騎士(ナイト)の真似事でもしようかな」

「……もぅ、してると思うけど」

「? なに?」

「なんでもない! ねぇ、さっきのナイフ、いっぱい持ってるの?」

「神様にねだると、いくらでもくれるんだよ」

「アンタふざけてるでしょ! ねぇ! ねぇっ!?」

「ははは! ところで……いいのかぃ?」

「?」

「服、けっこう(みだ)れてるよ? ほら。ちゃんと着た方がよくない?」

「えっ。ひゃっ……! は、ばかぁぁぁ───────!!!」

「いてっ!」



 この後、ぼくは迷宮跡の隠れ家に留まりながら、

 ちょくちょく……いや、かなり彼女と会うようになった。


 しばらくして、ぼくは彼女にあだ名をつけることになる。





活動報告:光の手紙(இωஇ`。)。・:+°

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