ぼくらの時が、動くとき⑬
かば「シリアス、てめーはやり過ぎた(●´ω`●)」
しり「──!?」
先輩の砕けてしまった記憶。
それを、クラウンのバックアップデータが補完している。
それは、私が彼の過去を追体験することを意味していた。
( 先輩…… )
仮面越しに見る、黄金の義賊が見た、かつての風景。
視界の隅には、クラウンの機能が反映された、
まるで電子的なコンソールが表示されている。
操作はできないけれど、私は、
かなりの情報を理解出来るようになってしまっていた。
( ……記憶補完率、73パセルテルジ……、
……基幹デバイス変換率、第5段階……! )
クラウンの流路を経由して接続した先輩の過去は、
ただの食堂の一人娘であるはずの私の中に、
異世界の知識・感覚・概念を再構築していた。
私はこちらの世界で、最も先輩の故郷を理解する存在になりつつあったのだ。
まるで、主人公目線で進むゲームのムービーが再生されるような感覚。
しかし、これは"追憶"と言うよりはむしろ"同期"に近かった。
感情すら重なり合う、冒険……というには余りに壮絶な記憶。
たぶん、クラウンも……。
彼が泣く時は、私達も泣き、
彼が叫ぶ時は、私達も叫ぶのだ。
……。
……先輩は、大嘘つき野郎だ。
彼は自らを復讐者だと言った。
自分は絵本のような英雄じゃない、
憎しみから、人を助け続けていたと。
そんな事が……あるもんか。
彼は確かに、たくさん殺した。
そのかわり、たくさん救った。
それが正しい事か間違った事か、そんな事は決められない。
でも、それは絶対に先輩にしかできない事だった。
命を蔑ろにする者を断ち、
多くの人々の笑顔を守り、
たぶん、エルフと人間の架け橋にもなっている。
彼のやった事は、いくつかの歴史を、私達に繋げた。
罪の意識に苛まれながら戦い続けた、
紛うことなき、英雄だ。
それに……。
"アンデッドは人じゃない"とかヒトに言っておいて、
本当は、イチバン人間らしいアンデッドとゴーストと、
一緒に旅をしてたんじゃない……。
そして、"狂銀"である、先生と…………。
……いつも、私達の前では、ヘラヘラ笑っていたくせに。
本当に、先輩は……大嘘つきだ。
──────キィン……!
視界を流れる緑たち。
今、先輩は木の上を駆けている。
凍った光のブーツのせいで、
先輩の足音は甲高いモノへと変化していた。
木の枝を蹴り、進んでいるだけだったけど、
私はこの人の力の底の無さを感じていた。
"力量加圧"なんてスキルが彼にあるはずもなく、全く身体能力の強化はしていないはず。
先輩は、わざと細い枝を踏みつけ、
それがしなる反動を利用して、一目で脚力を補助する次の枝の強度を予想し、飛ぶように移動していたのだ。
人目を避けるために、高い位置を移動するため、
先輩が習得しなければいけなかった技術だった。
彼の身体感覚を理解した気でいた私は、
自分との圧倒的な差を感じながら、それを学習した。
通りすがりの行商人は、発見できなかった。
前にすれ違った行商人は北にいたため、
先輩は悩んだあげく、レエン湖から北を目指したのだ。
当然、ドニオスの街やカーディフの街はまだ無く、
言い様のない寂しさが胸に広がった。
いくつかの移動民の馬車を見つけた時、
先輩は、芸をして人を笑顔にした。
彼の傷ついた心が、本能的に人の笑顔を求めていたのかもしれなかった。
お金はほんの少しだけもらっていたけど、
移動する難民に近い彼らから、
お金より大事な旅の物資を買い取らないことは、
先輩の優しさでしかなかった。
やがて、先輩は。
あの迷宮跡を見つけた。
大きく空いた縦100メルトルテ程の空洞を、
先輩はカギ爪付きのロープで降りた。
遺跡でちょろまかした光の魔石を、私が知っている位置で配置する。
先輩が壁の隅から、誰か先人が使っていたであろう家具を引っ張りだし、引き出しの中を調べる。
まだ、あのナイフと手紙は入っていなかった。
この後の結末を知っている私は、胸が苦しくなった。
もうすぐ……先輩は、あの人に会うのだろう。
見ているだけの自分が、悲しくなる。
……──北へ、進む。
「……──もう、一年経ったんだな……」
ポツリと先輩が言って、
彼が"北"に向かうという事の意味を、私は再確認する。
狂銀……先生の顔が、浮かばないはずがなかった。
本当は、この方角に向かうのは、凄いストレスを感じてるはずだ。
でも、先生がさいごに言った……「幸せになれ」。
先輩が"買い出し"に行く決断をしたのは、
たぶん、ソレを掴むきっかけを得ようとし、行動した結果でもあった。
「……──今まで散々、人様に言えない事をやっておいて……今さら誰かにヒントを求めるなんて、どうかしてるな──……」
先輩が言う独り言。
私は……だいたい全て、嫌いだった。
( ……! ここって…… )
見覚えのある地形のうねりがあって、私は近い事を悟る。
もうすぐ、まだ花のない、あの丘が見えてくるはずだ。
……あの人との出会いは、
彼にとって、どういうものだったんだろうか。
この後、先輩は、この仮面になる。
見るしか、なかった。
「……ん?」
(……?)
────ザッ!
先輩が、ある物を見つけた。
止まって、地面に降りる。
大きな枝を組んで作られた……造形物?
木の根っこに沿わすように作られていて、
2メルトルテくらいの、でっかい木でできた魚の骨みたいに見える。
「……! 昔テレビで見た、サバイバルキャンプ番組に出てたのに似てるな……。木で作った簡易式のテント……いや、シェルターってやつか……?」
私にも、天幕を模したモノだと理解できた。
なるほど……横にある落ち葉が、屋根のように連なる枝に掛けてあったんだわ。
「……山賊だろうか。でも、これは一人用で作られているし、随分と小さいな……」
先輩はキョロキョロしだす。
木の上を移動していたから遭遇しなかったけど、
当然、フォレストウルフくらいの魔物はいるはずだ。
こんな所で、野宿するなんて……。
「火の跡もある。誰かいたのか……それとも」
炭化した薪を蹴っ飛ばした先輩は、警戒を強める。
足音が、極端に小さくなった。
すごい。あのキンキンする音が……。
「…………」
(…………)
見ているこちらも緊張する。
やがて、音が聞こえ出す。
水だわ。
「……! 流れる音が緩やかだ。溜まり場があれば……」
先輩の水筒は、残りが心許なかったはずだ。
大きく緩やかな水源は、鎧を脱げる箇所が少なくなった先輩にとっては、全身を丸洗いできる重要な場所だった。
「……。一人だけなら、急襲されても大したことないだろぅ……」
私も、先輩が誰かに負ける所は想像ができなかった。
彼は、水の音の方に進み出した。
……!
木々に隠れるように、緩やかな流れの小川と、
大きく綺麗な池があった。
「こいつは……当たりだな。迷宮跡からも近い……うーん、拠点にできなくもないか……」
先輩はまた、キョロキョロする。
人の気配はない。
「……ふむ」
池に向かって、プールの飛び込み台のように突き出した岩の上に立ち、水深を確認する。
澄んだ水で、丸い敷き詰められた小石が底に見える。
岩からそんな高さはなく、ここは水深も低いようだった。
清らかな小川の流れが、わずかに響く。
「ん。いいな」
先輩は、おもむろに、ヒョイと飛び込んだ。
────。
ここで、黄金の義賊サマがやらかした失敗はふたつ。
ひとつは、
周りを警戒して、岩の真下の水面を見なかったこと。
もうひとつは、
岩から飛び降りてから、岩の死角にあった衣服と弓に気づいたことだ。
「!」
────ちゃぽ……。
先輩がソレを見つけたのと同じタイミングで、
下の岩陰から、誰かが出てきた。
「──げ!?」
「──ぷは……ぁ?」
先輩は、反射的に身を躱そうとして──、
────もちろん、間に合わなかった。
────────ばあぁちゃぁぁあああんん!!
────。
──……。
…………。
──むにゅ。
「…………、……」
「……、…………」
先輩が浅瀬に押し倒した女の人は、
裸で、けっこうおっぱいがあった。
「……ぅ、ぁ、の……」
「……!! 〜〜〜〜〜〜!!!!!」
────ゴッ。
「えっ」
あっ、先輩、蹴られた。
「────ぅぉあああっ!?」
──────バッッシャガァアアアンンン!!!
腹に裸女のキックをくらった先輩は、
記憶が再生され始めてから、
イチバン無様にでんぐり返りして、池に墜落した。
「──〜〜ぶっはぁ!」
水面に上がった先輩が振り返ると、水面の上で、
裸の女の人が弓を構えていた……ってちょっと待っておい前隠してちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとコラダメでしょガン見やないかあかんあかんあかんあかんあかんあかんぅぅぅううぉおぉおっほぉぉおおおおいいいぃぃ目ェ閉じろ先輩、下も見えてんじゃないのうわこれダメだ若い頃のばーちゃん私より胸あるじゃないのすっげぇプルプルしてんわ顔まっ赤だもの涙目じゃんえっ可愛いっあの凶悪なばーちゃんがうそでしょいやいやいやいや弓構えてないで前隠してマジでそれダメだからモロだからモロすぎる先輩マジてめぇ何ビョウ見てんだ固まってんじゃねぇぞシュバっと動けっだろテメおらあくしろそこっ、はっ、見んなっって!! だぁぁぁああ、めだっっってぇええ──!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴ……!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴ……!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴ……!!
……ん、ん? え、なんだこの音……。
……お腹に響くような……。
……。
……あっ。
……これ、クラウン、キレてんな……。
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、あ、あのっ」
「おのれぇぇえええええええ!!! この変質者めぇえええええ!!!?? 貴様のようなキンキラッッ金の〇〇〇〇にぃ、捕えられてなるものかァァあああ────ッッ!!! 」
「───ちょちょ、ちょ──!?」
あ、これ弓でやられるんじゃね。
────あっ!!
あ、あかん──ッッ!!
ばばばばーちゃん!!
弓の弦がっ!?
そのままじゃ、おっぱいに引っかかっちゃうよっ!?
だだだダメだよっ!?
先っぽとれちゃうよッッ!?
「───し、しねぇぇぇええええええ──!!!」
ああっ……。
─────ヒュ、バチコーン。
あっ、しんだ。
「──っっっ!? ぬぁぁあっ、はやぁああ〜〜〜〜〜〜っ!!!???」
ばっっ……ちゃ──────ん!!
若かりし頃の裸ばーちゃんが、
浅瀬に白い水飛沫をあげ、撃沈した。
見事な自滅である。
矢はくるくる回って、明後日の方向にポッチャンした。
「いぁぁ〜〜、いうぅ〜〜──ぅぅ……!」
「…………」
……。
ものっそい痛そうである……。
あ、でも先じゃなくて中腹に当たったから、
たぶん、取れてはないわよね……。
「うぅぅ〜〜、ぅうぅうぅぅぬぬゅぅぐぐぐぅ〜〜〜〜……!」
──ぱちゃぱちゃ。
泣いとる泣いとる……。
半分、水に浸かって、
胸を手で押さえながら、寝転んで悶えてる。
足がぱちゃぱちゃと、軽快に波紋を作っているわ……。
ばばばばーちゃん、けっこうドジっ娘ハーフエルフだったのね……。
可愛いヒップが丸見えだわ……。
見かねた先輩が、近寄って声をかける。
「ぁ────……、その……」
「ぅ、う!?」
「おっぱい、大丈夫ですか……?」
「ぐ、ぐぅゅ〜〜〜〜!」
……あのねぇ。
単刀直入すぎんでしょーよぉ……。
あと、てめー、マジでそろそろ後ろ向け。
あっ、覗き込むな。
ちょ……。
おぅぅぅぅぅぃぃいいい!!!
若かりし先輩は、デリカシーがまるでなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴ……!!
いくら英雄でも、覗きはギルティ!
(`・ω・´)キリッ










