ぼくらの時が、動くとき⑪ さーしーえー
(இωஇ`。)スローペースでごめぬ。
もちっと続きます。
「……黄野 金時。何故、試験の氏名を漢字で書かない」
「……」
「片仮名で名を書くなと、以前にも言ったはずだ」
「……は、ぃ」
「何故だ」
「……」
「……次からは、漢字で書きなさい」
「わ……」
「なんだ」
「わかれば、いいじゃないですか……名前なんて」
「……やれやれ。何故、漢字で名を書くことを避ける」
「……」
「……黄野 金時。私達は複雑な文化を持っている。そこから生まれる問題も、また複雑なものだ。言葉で言わなければ、それらを伝えきることはできない」
「ふ……? ……複雑、ってほどの事でもないさ……わかりませんか?」
「……お前は、自分の名の漢字が嫌いなのか?」
「──ッぐ! だ、だってそうでしょう! "金時"ってのは、"時は金なり"から来てるんですよ!」
「それがなんだ」
「ぼくの母親が……"時はお金に変えることのできない"って意味で付けた名前だ! でも……"時は金なり"って諺の本来の解釈は、"働いた時間は金になる"だ……!」
「……。お前は、母親を恨んでいるのか?」
「──ッ! ち、ちがうっ! そういう事じゃない……むしろ、母親とは仲がいいです。その……そうじゃなくて……」
「……なるほど。羞恥が強いのだな?」
「む……むっか!」
「何故、"時は金なり"の意味を恥ずかしく感じる?」
「そ、そりゃそうでしょう! "タイムイズマネー"なんて……」
「"時間を無駄にすることなく働けば、金になる"」
「さ、最悪の名前の由来だと思いませんか……?」
「ふ……」
「な、なんですか先生! なんで笑うのさ」
「……黄野 金時、こう考えろ」
「……?」
「──"努力は、必ず報われる"」
「……──!」
「お前の名は、そういう意味にもとれるだろう?」
「……、……」
「……試験の氏名は漢字で書け。後はお前の気持ちの持ちようだ」
「わ……か、りました」
「……やれやれ。お前の名など、私の名に比べれば可愛いものだ。親の愛情も込められている」
「っ、先生の……?」
「黄野 金時、私の名を言ってみろ」
「……? 氷帝……銀我、先生……です」
「……私の下の名の意味を言葉にするとな」
「は、ぃ?」
「──"銀なる我"……だ」
「……、は……はぃ」
「……。小さな頃、学校の宿題で父に名の由来を聞いた事がある。私の父は何と答えたと思う?」
「え……? いや……、全くわかんないです……」
「── " かっこえぇやろげ! " だ」
「 」
「……あのチャランポランな剣道バカが、何故あのお淑やかな母と結婚できたのか、未だにわからない」
「せ、先生のお父さんって、ワイルドな方なんですね……」
「あれはワイルドとは言わん。ところで黄野 金時。お前、戸橋 香桜子にノートを貸さなかったか?」
「え? ……あっ、貸しました! 数学と化学、一年生の時のを……」
「やはりか。課題を丸写ししたページがあった」
「一年前のぼくのノートの内容、覚えてるんですかっ!?」
「たまたまだ。戸橋 香桜子からノートを奪還しろ。彼女には課題をやり直させる」
「きっびし……。次の生徒会の時に返して貰えるように言っときますよ。あの、銀我先生……」
「なんだ、黄野 金時」
「その……。フルネームで呼ぶの、そろそろやめませんか? もう、生徒会メンバーになって長いんだし……」
「む……済まない。これは癖でな……。善処しよう」
「ほんとっすか……?」
パキ、パキキ……。
──あの職員室での出来事を、ぼくは思い出していた。
『 GREEEEEEEEEEEE……! 』
「…………」
雪の山で見つけた先生は、
おおよそ人間とは言えない外見をしていた。
顔を隠しきる、二本ツノの銀氷の仮面。
ミノムシのように体を包む、銀の装甲。
身体中から突き出るは、無数の氷の剣。
吹き荒む雪の結晶は、まるで花のよう。
白銀の鎖は、大地の白と繋がれていた。
────"氷の帝、銀なる我"。
名は、体を表していた。
「先生……」
『 IIIIIIIIIIIIGGGGAAAAAAAAAA────!!!!! 』
戸橋を殺したぼくを責めるように、
全身剣の先生は、咆哮する。
鎖の、音。
「 ────、…… 」
──きた。
無心だった。
ぼくは、先生に話を聞いてほしかった。
力の抜けた黄金の身体が、逆に攻撃に反応した。
今まで培われた戦いの感覚が、反射的に回避行動をとる。
人形のように、ぼくは動いた。
避け続ける。
「先生……聞いてよ……」
『 GGGGRRRGGGGGIIIIIIIIII────!!!!! 』
バリバリと氷を鳴らし、
先生の両腕に生える、肘に突き抜けた氷の長刀。
ぼくを袈裟斬りにしようとする。
無心に腕を差し出して、たまたま時の止まった金に、
刃が、かち合う。
恐ろしい金属音。
吹っ飛ばされ、雪の花の中を飛ぶ。
地面の雪が、圧倒的な冷気での氷で凍っているのが幸いした。
────ジャキンッッ!!
両足の裏に、細かなスパイクを"停止"させる。
雪飛沫を上げながら、ガリガリと着地する。
「せんせぇ──……、聞いてよ……! みんな、死んだんだ……! 戸橋も……ロザリアも!」
『 GUNNNNNNGGGGAAAAAAAA──!!!!! 』
「なぜ……聞いてくれないんだ!! もぅ、せんせぇだけなんだ! ぼくには、先生しか残ってないんだよ!?」
『 GULLLLLLLLLLLLL…… 』
飛び退く。
立っていた所から、氷の津波が生える。
剣まみれの銀の爪が振るわれる。
氷乱だ────。
限界まで引き付け、明後日の方に避ける。
地面を伝う氷柱は爆散し、三つの氷の筋となり、
それぞれから、杭が付いた鎖たちが発射される。
生身であんなのくらったら、串刺しだ。
「それ、が……教え子にすることかよ……」
空中で、毒づく。
先生の、顔を見る。
肌の色が、見える所が無い。
氷と銀の、クリーチャーだ。
「ざけんなよ……仮面、とれよ……」
銀が……憎い。
ぼくらの再会を、邪魔する銀が。
光を凍らせ、氷の鎖を避け、懐に入る。
剣を、向けた。
『 GOOOOOOOOOOOO───!!!!! 』
ぼくは、泣きながら先生の装甲を削った。
何本かの時のナイフが、先生の装甲で凍った。
幾つか氷を食らったけど、どうでもよかった。
ぼくは、先生の顔が見たかった。
数十本の氷の剣を砕いた時、狂った銀の化け物の形が変わった。
「あれは……」
『 GULLLLLLLLLLLLLL…… 』
全身の銀の鎧が引き締められ、
両手に、銀の長刀が握られていた。
二刀流の、氷の戦士。
先生の剣術は、凄かった。
「はァ、はァ」
無心に、避けるしかなかった。
剣の知識ではかなわない。
感覚で……避けるしかない。
少しでも余計なことを考えたら、急所に食らってしまう。
こんなになった先生でも、的確に金の鎧の隙間を狙ってきた。
ジャラジャラと、鎖がムチのように唸る。
何回も、時の剣と斬り交えた。
「ぐっ────!」
もし、全身の氷を全て砕いたら───……。
ぼくは、もしかしたら先生が、
意識を取り戻すんじゃないかと、
必死に氷をけずった。
バリバリ。
ギラギラ。
いつか削り取れると、信じて削った。
くるくると周り、
氷の上を駆けずり回り、
剣を、突き立てた。
体力を、消耗していった。
やっと、一撃、先生の顔に、入った。
────がきぃいいんん……!
わずかに。
わずかに、先生の顔が、見えた……。
( やっ、た……! )
ぼくは笑顔になり、
でも、それで先生が戻るはずがなかった。
先生の左の剣が、ぼくの右脇腹に迫った。
────がごぉぉぉぉぉんん!!!!!
「ぐっ──!!」
ぼくの身体から出たとは信じられないような音が鳴り、
思わず、ぼくは氷の剣を腕で抱えた。
身体は刃に押され、くの字に曲がっている。
残った、右の剣が迫った。
(くぉおお……)
吹っ飛ばされて、背中に、衝撃。
「ぐか、ぁ……!」
たぶん、木にぶつかった。
足を踏ん張る。
不幸なことに、ここの雪は凍っていなかった。
金の足が埋まり、致命的な隙ができた。
全ての感覚が、終わりを告げていた。
(うわ、あっぁ……!)
目の前から、氷の化け物が突撃してくる。
死の気配があった。
振りかざされる、氷の一刀。
先生は、ひとつしか刀を持っていない。
もうひとつは、ぼくの右脇腹に抱え込まれていた。
(うわっ、あっあああ……!)
ぼくは反射的に氷の刀を取り、
切っ先を、先生に向けた。
ダメだ、動けない。
後ろは、木。
恐怖。
ぼくは、目を、つぶった。
────ガ。
────ゾシュ──……。
「…………」
目を開けると、先生が覆い被さっていた。
銀の背中に突き抜ける、氷の一刀。
血は、直ぐに凍り、薔薇のようになった。
「なん、で……?」
先生の剣は、ぼくの金の仮面を殴り、砕けたようだった。
目の穴を袈裟斬りにした斬撃は、しかし、ぼくの身には届かなかった。
「なん、でだ……なんで、ぼくの剣は折れなかった……」
パキ、パキキ……。
「……! うあぁ、そんな……」
音で、気づいた。
ぼくは、先生の氷の刀を、凍らせていた。
温度を、感じない。
───"時の結晶剣"。
先生の作った氷の刃は、ぼくの力で、
破壊できない、世の理を外れたモノになっていた。
後ろの木につっかえた結晶剣は、
先生の氷の装甲を破り、心の臓を貫いたのだ。
攻撃じゃあない。
偶然だ。
たまたま、ぼくは、生き残った。
「あ、ぁ……」
疲れ果てた体に、先生の冷たい身体が、布団のようにかかった。
「せん、せぇ……」
氷の鎧が、崩れていく。
「うあぁ……」
視界が滲む中、氷の爪まみれの手が、ぼくの肩に乗った。
「ぁ──……」
『 』
「──っ……!!」
驚いて、顔を見ようとした時。
カシャン、と、静かな音をたて、
先生の体は崩れた。
粉雪のようなソレは、
ぼくの金色を、白と、僅かな緋色で隠した。
手に、結晶剣が残った。
「……、……。
……──それは……無茶な宿題だよ、先生…… 」
雪に弾ける、陽の光の照り返しが眩しい。
ぼくの涙は、凍らなかった。
。・゜・(*ノД`*)・゜・。










