ぼくらの時が、動くとき⑦ さーしーえー
(´・ω・`)
カンクルの顔文字はどうしたらいいんだ……
……──ひゅぅぅぅうううっっ───!!
『 やぁあ─────────んべっ☆ 』
「──とっ!」
──ダンっ!!
……とと。
木箱が乱立する船の上に着地する。
やはり、いま飛び降りた客船より平べったく、
コンテナ船のような印象だ。
昔、見た映画の最後のシーンがこんな所だったな。
えーと、タイトルは確か……特攻野ろ……
──ぴかぁぁあああ────……!!
「──!?」
ぼくがバカな事を考えていると、
いきなり船の後ろが光った。
反射的にロザリアと木箱の影に隠れる。
水と風の色……!?
「発進したのか? ロザリア、今の光、見えたかぃ?」
『 んーん☆ 』
やはり"眼魔"で見た魔法の光のようだ。
大きな船体が、滑らかに動き出す。
ザ……、ザ……、ザ………パァァ……!!
「……む」
疑問が生まれる。
今のが魔石の初期発動だとすると、ずいぶんと規模が大きい。
相当大きな魔石だぞ。
ぼくはこっちの船の技術に明るいわけじゃないけど、
民間の貨物船が、こんな高出力の魔石を使えるのか……?
横の貴族客船の貨物を運ぶ船かとも思ったが、アレはまだ港に停泊している。
どうやら完全に先に出航したようだ。
これは、貴族関係の船では無いのか?
にしては、随分とすごい魔石を使った船だ。
いや、この船の企業が大きいのかもしれないが……。
『 カネトキ、さっきのこども☆ 』
「ぁ、ああ」
ここは甲板の上、といった所だな。
あの貴族の子供は下側に入っていったはずだ。
下への入口を見つけなければ。
木箱の影を進む。
ザ……、ザ……、ザ………パァァ……!!
「ぉ」
樽に、無造作に白紙の巻物が突っ込んである。
こいつはいい。
貰っておこう。
『 勇者さま、どろぼお──☆ 』
「……いいかロザリア。ぼくの世界で勇者サマってのは、個人の家に無断で入って樽を調べたりする奴のことを言うんだ」
『 えぇぇ──……☆ 』
王女に異世界の正しい知識を教えながら、進む。
予想以上に見張りや護衛が見当たらない。嬉しい誤算だ。
ここは海に近いが、まだ河だ。
魔物や海賊が少ないのかもしれないな。
これなら問題なく向こう岸にも……。
(お……)
と、思った矢先に、商人と軽鎧の護衛風の男を見つけた。
油断は禁物だ。
気配を消して、木箱の影から様子を伺う。
鎧の男が手を組み、商人にしゃべりかけていた。
「……なぁ、なんで下の積み荷を引き受けたんだ? アレは絶対にヤバいぞ……中身は見たのか?」
「み、見るワケがないっ! し、仕方ないだろう……この船の魔石だって、あの方からのものなんだ。断れば我々は商売ができなくなる」
「護衛としてじゃなく、連れ添った友人として言ってやる。あっちの街はやめて、こっちの街で商売をやれよ。船の賃金も不正に流れてるぜ。アレの買い手はロクなモンじゃねぇぞ……」
「や、やっぱ、そうかなぁ……」
「……」
……厄介事だな、くそったれ。
貴族の息がかかった船に乗ってしまったようだ。
短い会話だったが、下に違法な積み荷がある可能性と、
何やら不正な金の流れが、向こう岸の貴族に集まっているかも、と推測できる。
下にはさっきの貴族の坊ちゃんがいるはずだ。
ヘタに得体の知れない積み荷をイジるとヤバい。
踵を返し、下への入口を探す。
──ニョロニョロ!
……ん?
またニョロニョロ幽霊が伸びている?
まさか……。
あ……あった!
下の貨物室への入口だ……。
ニョロニョロ、きみ、やるな……。
床にある木の扉を、音を出さないように開ける。
階段か。ハシゴよりは王女に優しいだろう。
迷ったが、ロザリアを先に行かせる事にする。
先ほどの会話を聞くに、ここの積み荷には誰も近づきたがらないと思ったからだ。
ギッ、ギッ、ギッ……。
予想は当たり、薄暗い部屋には人の気配が無く、
大きな横長の木箱が乱立している。
ロザリアが騒がないか心配だったが、普段はあっけらかんとしているのに、
こういう時は静かにしている。
空気は読める王女様のようだ。
ロザリアが指をさした。
ニョロニョロが頷いている。
「……! あそこか」
よく見つけたな……。
あ……ロザリアの腕に、人魂のような光が浮いている。
そうか、言霊法の"追跡"を使ったな?
……。
随分と、融通が効く力だ。
戸橋以外の者にも、
こんなに"名称呪文"を使いこなせるものなのか……?
なんにせよ、さっさとオタカラが見つかったのは僥倖だ。
さて、叫ばれるとまずい。
「────……っ」
音を立てないように一気に駆け寄り、
手で口を塞ぎ、目を見る。
「──ッッ、!? ブッ!!?」
「……今から手を離す。小さな声で喋れ。小さな声で、だ。……いいな?」
金髪の坊ちゃんは驚いていたが、口を押さえられながらも、コクコクと頷いた。
……よし。
「──っぷは! ぁ、あんたらは……!」
「声を抑えろ」
「わ、わかったよ……さっきの金ピカとミイラ女じゃないか……」
『 にへら──☆ 』
「な、何だよ……僕を連れ戻しにきたのか?」
む……。
「いや、違う。強いて言えば……"相乗り"だ」
「は、はぁ……?」
「"密航仲間"だと言ってるんだよ」
『 へへ──☆ 』
「あ……」
貴族の坊ちゃんは、ぼくらを見る。
「お前達は……悪い奴なのか?」
「ああ、極悪人さ」
『 勇者さまだよ☆ 』
「ゆ? "勇者様"??」
……ロザリアが余計な事を言った。
「おい……」
「よ、よくわからないが……本当に勇者だと言うのなら、この金で見逃してくれないか!? ぼ、僕はどうしても父上に会いたいんだ!」
「……父上、だって?」
「た、頼む! チケット代の金貨だ! かなりある!」
勇者を買収しようとするなよ……。
いや、別に勇者じゃないけどサ……。
「チケットが買えなかった今、こんなもの重いだけだ! ほら!」
「ま、待てよ……あ」
ジャラり。
う、受け取ってしまった。
確かに重たい。
この巾着いっぱいの金貨が、船賃一回分だと……?
明らかに、何かおかしいよな。
上にいた護衛は、向こう岸に金が流れている、
というような事を言っていたし──……。
「……預かっておくが、金貨は数枚もっとけ。いざと言う時に困るだろう」
「あ、ああ……そうだね」
何枚か金貨を返し、尋ねる。
「きみは向こう岸に行っても、身分は保証されるのか?」
「え?」
「あっちの街では安全なのか、と聞いているんだ」
「あ……あっちには父上がいる。シテール家はけっこう有名な家柄だ! その、ギルドに行けば何とかなると思う……」
「……」
なるほど。子供ながらに考えてはいるな。
「……いいか。この船の積み荷は、けっこうヤバいようだ。きみは、かなり危ない船に乗り込んでしまったんだよ」
「そっ、そうなのかっ!?」
「シッ、声を抑えろ……! 一番危険なのは、向こうに着いて船を降りる時だ。誰かに顔を見られたら、厄介な事になる可能性がある」
「こ、殺される、とか、か……」
「それはわからないが……その髪は目立つ。警戒はするべきだよ」
貴族の子供は青ざめている。
……少し脅かしすぎたかな。
そっと、穢れた黄金の手を、金の髪の上に置く。
「ぅ……?」
「ま、同じ船に乗ったのも何かの縁だ。悪者は、ぼくの方が先輩だ。これからぼくの言うことは聞いてくれよ?」
「そ、それって……?」
「向こうのギルドに着くまで、きみを護衛する。そういう事さ。いいかな?」
「ぁ……」
呆気にとられた目で見られている。
ブラウンの瞳だな。
「あ、あなたは変な格好だけど、何だか、いい人だな!」
「なっ……! ……。人を見る目がないな、きみは……」
『 へひひ──☆ 』
ニョロニョロ。
「さて……。ずいぶん脅かしたが、多分、水の上にいる間は大丈夫だろう。ここの荷物に関わりたくない者が多いみたいだ。大人しく隠れとこう。このでっかい木箱の中身は絶対に見るんじゃないぞ?」
「そ、そんなことはしないっ!」
「頼むぜ? 坊や」
「むっ! "坊や"ではないっ! 僕の名前は"セリゴ・アモス・シテール"!! いずれ、由緒正しきシテール家を継ぐ者だっ!」
「わっ、わかった、わかったから声を抑えろよ……」
「む……す、すまない……」
ふぅ、やれやれ、だ。
ま、思っていたより聞き分けのいい子のようだ。
向こう岸で降りる時、"黄金時代"を使って、
光の残像を生み出しながら陸に上がれば、目撃者は無くせるだろう。
大人しく、三人とニョロニョロで腰を下ろし、待つことにする。
もちろん木箱の死角だ。
薄暗い貨物庫は、所々、木材の隙間から外の光が見え、
オレンジ色の光の線となっている。
船酔いが心配になったが、この平べったい船体は、
河の航行くらいでは揺れが少ないようだ。
しばらく、無言で座っている。
……────グぅぅ──……。
「──……」
「……」
『 れれぇ──☆ 』
……絶対、腹の音だ。
セリゴ、と名乗った貴族の少年は、恥ずかしそうに膝を抱えている。
……。
「ふぅ」
「……ぅ?」
アイテムバックから、梨を取り出す。
あの休憩所の商人から買ったものだ。
こんな日持ちしないものは普段は買わないが、
この梨は、僕の世界と同じ丸い形をしていたので、
衝動的に買ってしまっていた。
ほく一人では傷ませてしまっていたかもしれない。
丁度いいや。
……パキ、キ……!
時を凍らせ、小さなナイフを作った。
全長、10センチメートルもない。
セリゴは隣で、興味深げに見ている。
しまった、目の前で"時"の力を使うところを!
……。
やっちゃったものは仕方が無い。
梨を剥き出す。
シャリ、シャリシャリシャリ──……。
「──! じょ、上手だな……!」
セリゴに褒められた。
剥き皮はアイテムバッグ行きだ。
「? これくらい剥けるだろう。リンゴとかと一緒さ」
「そ、そんなことはない。少なくとも、僕と父上はできない。なぜ皮が切れないんだ……う、薄い……すごい」
こんな事で感動されてもなぁ……。
『 勇者さまだからだよぉ──☆ 』
ロザリア、その理論は勇者を量産しすぎる。
「……美しい、ナイフだな……」
「やらないぞ」
「わ、わかっている!」
こんな小さなナイフでも、とても危険なモノなんだ……。
この時を凍らせたナイフは、絶対に破壊することができない。
斬れ味も、永遠に落ちない。
ゲームで言う、破壊不能オブジェクトみたいなもんだ。
こっちの世界に聖剣があったとしても、それより堅いだろう。
もしかしたら、ぼくが死ねば消えるかもしれないけどね。
そう言えば、この透明なナイフと、光を固めて出来た黄金の鎧。
どちらも、ぼくが死ねば時が動き出すのだろうか……。
「……ほら」
「あ、ありがとう」
『 なし──☆ 』
三つに割った梨の果実を分け、ナイフをしまう。
あまりポンポン作るとバッグの容量が足らなくなるな……。
セリゴに一番大きな実を渡した。
ほくもかじる。
「……」
「んぐっ……甘い」
『 シャリ、シャリ☆ 』
懐かしい味がした。
言葉がない。
ぼくはもう、これを食べないだろう。
「……僕の父上は、エルフや孤児たちの将来を考える仕事をなされているんだ……」
「!」
セリゴがいきなり話しだしたので、苦い甘みが薄れる。
聞き役にまわることにする。
「彼らも我々と同じ権利があるべきだ、って言ってね……? ずっと、向こう岸で仕事をしておられる……」
「……立派な人じゃあないか」
「それは……! そうかもしれないけど……。僕も母上も、ほったからしなんだ。正直、エルフ達と仲良くなれるなんて、僕は思わない。あれだけ奴隷として使ってるんだ! 彼らは僕ら人間を恨んでいるよ……」
「……」
「それに……僕はたぶん、その仕事をいつか引き継ぐんだ……」
「嫌、なのかぃ」
「今の僕の心では、ちゃんと、出来ないと思う……」
……貴族の子供にも、色々な悩みがあるんだな。
「橋が壊れても、父上は帰ってこない。お金はあるのだから、船には乗れるはずなんだ! でも、また仕事を優先して、母上までほったからしてる……」
「きみが向こう岸に行くのは」
「父上に、はやく帰ってきてほしいんだ……」
「……そうか」
ロザリアが、セリゴの頭を撫でていた。
貴族にする行いではないが、彼女は一応、帝国王女だ。
問題はないだろう。
「──あなた達は」
「ん?」
「あなた達は何故、向こうに渡るの?」
「 ──……」
幼い、問いかけ。
少し、上を見ながら。
「ぼくの……最後の仲間が、いるかもしれないんだ」
「っ! さいごの、なかま……」
「ああ」
セリゴは、それ以上は聞かなかった。
しばらくの、無言。
────それは、予想だにしないモノで破られた。
どぉぉおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!
「────!!?」
「わ、ぁあっ!?」
『 んあ────☆☆☆ 』
船体が大きく揺れる。
上から、声が聞こえた。
「く、クラーケンだぁぁぁぁぁ!!!」
「こんな所にかぁあああッッッ」
────ッッ!?
"クラーケン"だと!!?
本当にそんなものがいるのかッッ!?
────どぉぉおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!
────どぽぉぉん!! ばしゃぁぁあああんんん!!
────ズリリ、ズリリギギ、ギギギッギギギギッッッ!!!
っ、まずい!
積み荷の木箱が床をスライドしている!!
一番大きな、小さな部屋みたいな木箱のコンテナが、こっちに来るぞ!!
ロザリアとセリゴを抱え、揺れる不安定な床を蹴って、飛び退く!
「くっ────」
────がこぉぉおおおおんんん!!!
「わわ……!?」
『 うぇ──い☆ 』
何とか押し潰されずにすんだっ!!
コンテナはどうなった!?
ヤバい積み荷なら、毒物とかもあり得る!
帝国での教育が、こんな所で役に立って欲しくはないんだが……!
何にせよ、ヤバい積み荷が破壊されて、中身が見えてしまうのはよくないっ!!
木箱の破砕を恐れるぼくの上から、また、船員たちの声が聞こえた。
「い、いたぞ、あそこだ、クラーケンだっっ!!」
「くそォォォ!! 魔術職なんて乗っていないぞォォォ!!!」
「落ち着け!! まだ幼体だっ!! いけるぞっ!! 備えの槍を投げろっっ!!!」
「あ、あんな木の槍でっっ……!?」
「数はある!! つべこべ言わずに、やれっ!!」
先ほどの護衛がいい仕事をしているようだ。
海の魔物は、彼らに任せよう。
目の前のコンテナから、目が離せない。
……。だい、じょうぶだ。
中身は見えていない。
「すぅ……はぁ──……」
潮の香りがするのみで、毒もないようだ。
……よし!
「ロザリア、セリゴ! あの柱はマストに繋がっている。あれの側に────……」
────どぉぉおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!
強烈な振動があった。
体当たり、だろうか。
ぼくは立っていた場所が悪く、後ろに吹っ飛ばされた。
────ドガガッッ……!!
「ぐ、がっ……!!」
船体は、揺れ、平行な場所はない。
何とか起き上がろうとする。
「ろ、ロザリア! セリゴ!! 大丈夫かぃ!?」
彼らの方を見ると、そこには────────────……。
「 」
大きな、木の部屋が、パカンと、開いている。
両開きの、扉だ。
中身が、触手と、肉だ。
内側に、何十人も拘束されている。
エルフと……若い人間だ……!!
赤い触手が、ふたつ、のびた。
───しゅるる…… 。
「うあ─────…… 」
『 勇者さ────…… 』
二人は、絡め取られ、
肉まみれの箱に、引きずり込まれた。
────バタム、と、扉が閉まった。
────。
「────う、ぅおおぉぉぉぉぉおおあああああああああああああぁぁあああ────ッッッ!!!」
床を駆け、木の箱に飛びつく。
どこも、壊れていない。
扉の継ぎ目は、完全に塞がれている。
ただの木の扉では無い。
"時の剣"を取り出し、隙間にガリガリと突き立てる。
木の箱の表面に、魔方陣が光り出した。
ドス黒い、紫色だ。
闇属性の、術式だ。
「──……」
まずい。
まずい、まずい、まずいまずいまずいまずい、まずい! 肉で拘束されていた!! 20、いや30か!? 奴隷じゃ、ないぞ奴隷ならこんな手のこんだ魔術は使わないそうだ使わないぞ人間もいたエルフもいた男も女もいた違うぞ商品じゃないこれはこれはまずいぞこれは、"使われる"、そうだ使われるんだこの人たちはッッ使われるんだ間違いない何かに使われるこれは"資材"だッッくそったれくそったれくそったれくそったれくそったれくそったれくそったれがッ!!! 開かないッッ!!
「ぅああっっ、これは、絶対にまずいところに届くッッッ────!!!!!」
この時のぼくは冷静じゃなく、
がむしゃらに剣で木のコンテナを引っ掻いていただけだ。
あんな高度な闇属性の拘束術式が、剣で引っ掻いただけで解けるはずがない。
ロザリアと貴族の少年セリゴは、この中に取り込まれてしまった。
怪しく魔方陣が光る木の壁を叩く。
──ドンッ!! ──ドンッ!!!
「おいっ!! おいっ!? ロザリア!! セリゴ!? 聞こえるかっっ!? 生きているのかっっ!? 返事をしてくれっ!!!」
海の音が、ぼくの声を掻き消した。
「くそ、ぉ……ッ! おい、ロザ────…… 」
────ドガガガギャギャギャガガガガガガガガガガガガァァァ────!!!
「っ、がァァっっ……!」
船の片側から、恐ろしい摩擦音がした。
向こう岸の船着き場に、船が突っ込んだ音だった。
ぼくは、開かなくなった大きな箱から、弾き飛ばされた。










