ぼくらの時が、動くとき①
先輩の過去を書くにあたって、
過去の伏線を読み直してきました(;^ω^)笑
めっちゃ時間かかった。
決してPS4版のワンダと巨像の79ヶのきらきら集めをしていたワケではありません。
(´◉ω◉` )キリッ
夜が、好きになっていた。
夜は全てを、静かに隠す。
なにも考えずにいられる。
ぼくを癒してくれる時間。
なのに。
「……ぃ、っゃ……! イヤぁあああ──!! っ、ぶ……っ!?」
「おいっ!! 暴れんなガキッ! てめぇ、その布きれをよこせっ! 口を縛ってやらぁ!!」
「んん、ご、んぅぉ~~!!?」
「ひひひ、ガキって言ってもよぉ、お前より年上かもしれねぇぜ? なんせエルフのガキだからな」
「笑ってる場合じゃねぇぞ、ったくよぉ……! "商品"がこのガキ一人たぁ……くそっ、自分が可哀想になるぜ!!」
「けひゃひゃひゃ! 一番可哀想なのは、そのエルフのガキだがなぁ」
「……おぃおまえら。無駄話すんな、虫唾が走る……エルフの戦士共は、まだ近くにいるかもしれねぇ。奴らの風の魔法と弓は面倒だ」
「くけけ、大丈夫ですヨォー親分! "商品"が軽い分、たったかと逃げられたからヨォ!」
「……ふん」
「次からよぉ、一人、一匹ずつ抱きかかえて、別々の方向に逃げればいいんじゃねぇかぁ?」
「ぎゃはは! いいなソレ!」
「んん~~ぅぅ……、……!! ぅ、ぅ……!」
(…………)
木の上で、考える。
なぜこんな事ばかりに、ぼくは遭うのだろう。
……いや。
ただ、こっちの世界が歪んでるだけか。
静かで、なにも考えなくていいはずの夜が……台無しだ。
一時の安らぎさえも、ぼくには与えられない。
神さまが居たら、文句を言ってやる。
いや……これまでのことを考えると、
殺すくらいは、してもいい。
────ヒュォォオオオ────……!
「──っつ! やべぇですぜ親分、この風はエルフ共が使う風の精霊魔法の類いのモンかもしれやせん!」
「ほぉう。オレは風の精霊なんて信じちゃいねぇが、こんな小汚いガキのせいで弓に射られるのは割にあわん。おい、檻は後だ。ずらかるぞ」
「へ、へぃ」
「んぅぅ~~! ッ! んぅ〜〜……!! んぅ……んぅ……!!」
「けきゃきゃ! いい声だ……そそるぜぇ」
「お手つきは後にしな。さっさと荷物を持て、いくぞ!」
心は、空虚。
旅を始めてから、"人狩り"に遭遇したのは五度目だ。
月明かりの下、空気が冷たい。
チラリと、下の暗闇を見る。
風の魔力が、エルフの涙に混じって、
月明かりの中、ひかっていた。
(…………)
ぼくは正義の味方じゃない。
使命感も、正義感も、義務感も湧いていない。
神さまは、そんなにぼくに助けさせたいか?
(ち……)
ぼくは、英雄じゃあない。
正義感なんて、いらない。
弱い者を助けるためには、
ただ動けばいいだけだと、とてもよく知っている。
────また、ぼくは、こうする。
時よ、こおれ────。
「……──ぐげっ!?」
「おっ、どうし……──ぐああっ!?」
「どうした」
「い、いてぇ、何か踏んだ!」
「お、落ち葉に隠れて、トゲのある実のようなモンが、バラまかれてやがる!!」
「さっきまでんなもん、無かったぞ!?」
タイミングを、考えろよ。
襲撃されてるに、決まってんだろ。
「──何か変だぁ!! おいおめぇら!! 構えろ!! 魔法を纏え! 光で見つかるとヤベェ! まだ纏うだけだぞ!!」
「「へ、へぃ!!」」
「が、いてぇ!! そこらじゅう、トゲの実だらけだ!! おい!! 商品を落とすなよ!? 傷モノになっちまうぞ!!」
「んだよ!! エルフ共が追いついてきたのかッッ!?」
ボォオオォ──!!
ビリビリビリ──……!!
「────"眼魔"──」
盗賊の頭目が、襲撃だと気づいたな。
冷静になれるからこそ、魔法の準備を指示する。
三人が刃物を構え、二人の盗賊の腕に、魔力が宿る。
魔法使いは、あの二人か。
黄金の仮面越しに、見る。
赤と、黄色。
火と雷だな。
魔法を準備してるとこ悪いけどさ、
これで位置が、丸見えだ────。
眠っていた太い枝から身を投げ、
空間を凍らせ、時のナイフを作る。
この世界にも、重力がある。
威力は、星に任せよう。
────まっすぐ、落ちる。
───────ズシャ。
「か────」
首から頚椎に刺し込むように、
結晶のナイフを叩き込む。
一度だけ地面を蹴り、
即座に木のコブに足をかけ、駆け上がる。
マントが風を切る。
────ヒュォォオオオ───!!
「おっ、おい! なんだッッ!? 今のはよォ!?」
「誰か、やられたのか!?」
「てめぇ!! まだ火の魔法を使うなァァァ!! 相手にバレんだろうが!!」
「く、くそ、よく見えねぇ!! なんなんだぁ……!?」
「んぅ……ぅ?」
全員の顔が、火に照らされた。
エルフの子供は、布で口と手足を縛られている。
金属の枷は鈍器にもなるからな。
布の方が運搬にも軽いし、いい判断だ。
「親分! ガロッゾが……っ!」
「し、死んでんのか……っ!?」
「で、出てこい、エルフ共ぉお!!」
エルフはこんな金ピカの鎧、着ないよ。
「──てめぇ、そのガキを貸しやがれっ!!」
「んぅ〜〜、っ、ううっ……!!」
ハゲの頭目が、エルフの子供に短剣を突きつけている。
「よォ……どっかで見てんだろ……? これ以上ぉ、手ぇ出すならコイツを刺すぜ」
「ぅぅううう〜〜!!!」
「お、親分!! そいつ今回、唯一の稼ぎですぜ……!?」
「──うるせえ!! 追ってくるんならなァ、その原因を潰せばいいんだよォ!! おら、どした、顔見せろよ臆病モンがぁああ! てめぇの大事な同族のガキが、キズものになってもいいのかぁ……?」
そうか。
ヒットアンドアウェイをしたからな。
こっちが一人だとわかって、強気になったのか。
「もしオレたちを狙うなら、コイツぁここでバラして魔物のエサにでもなって貰うかねェェ……? てめぇが死体を拾ってる間に、逃げさせてもらうとするかなァ?」
エルフの子供は涙目で、声を発さない。
「それかよォ……? ここで見逃してくれたらよォ、こいつはどっかのクソ貴族の慰みモンになるが、たぶん生きていられるぜェ……? かかか! ほらァ、みんな生き残るチャンスだろぉ……? なぁ?」
「ん……ぅ、……」
「──オラァ! 出てこいって言ってんだよォ!!! 腰抜けェ! 腰抜けがァ──!!!」
興奮してやがる。
あいつの頭上には、足場の木がない。
また仲間が死んだら、錯乱して本当にやりかねない。
「……ち」
ストンと、飛び降りた。
落ち葉を散らし、マントがゆっくりと、ぼくを包む。
────バサァ……!
「おっ────!?」
「こ、こいつぁ……?」
黄金の仮面越しに、ゴミ共を睨んだ。
「…………」
「……ぷぷっ」
「くっくっく……」
「ひゃ────っひゃっひゃっひゃ────!! なんだこいつぅ────!? 金ピカだぜぇ────!?」
「けけ、くっくっくくくく……!!」
「ぎゃははははははは───!!」
仲間を殺されてるのに、笑いこけている。
エルフの子供が、涙を流しながらパチクリとこちらを見ている。
「くっくっく……、おい兄ちゃん、どっかの没落貴族かなんかかァ……? 悪趣味な鎧だなぁ? それ、カッコイイとか思ってんのかィ?」
「こ、こいつ、ひゃはははは! 恥ずかしいヤツだなぁ……!」
「お、おれ、死んでもそんなダセェ鎧は着ねぇぜぇ!」
「くくく……。よォ兄ちゃん。そのバカみてぇな鎧は、本物の金か? それなら、オレたちが潰して綺麗に売り払ってやるぜ?」
「こいつ何も知らねぇんだな! "金"は、やらかい金属だから、鎧には向かねぇってことをよォ!」
…………鎧の金の部分は、お前じゃ壊せないよ。
「なんだァ、黙りかよ。しっかし、姿を見せたのは間違いだったなァ。冥土の土産に教えてやる……! そんな頭のおかしい鎧を着ているヤツはなぁ、街に行ったら憲兵さんに捕まるレベルの不審者だぜぇぇ?」
「「ぎゃははははははは!!」」
「──おい、殺れ」
ニヤニヤと笑う男たちが、こちらに手を向けた。
愚かしい。
「────"反射速度"───」
時には、重さがある。
ゆっくりした空間の中、
思考は加速し、体は鈍い。
だから、違う力と掛け合わせる。
「────"黄金時代"────」
ぉ ぉ ぉ ぉ お お お …… !
ぼくを中心に、金ノ光が緩やかに広がっていく。
光の魔素が、凍りつく。
"反射速度"をゆっくり解除しながら、
歩いて、近づく。まだこいつらは、
さっきの場所に、ぼくがいると錯覚しているはずだ。
動く度に、宙の光の魔素に触れ、
金ノ粒子は、鎧に積もっていく。
今日、この力を使うつもりじゃなかった。
さっさと終わらそう。
空間を凍らせたナイフで、三人を薙ぐ。
金の魔素が、鎧に注ぐ。
ぼくはまた、黄金に近づいた。
「ば、ばかな……見えな、かった……? オレはDクラスの冒険者だったんだぞ……?」
「ん、ぅ……!」
血塗れの四人の中に、立っている。
「う、動くんじゃねぇ!! 動くとこの────」
また、光の魔素を止め、近づいた。
エルフを持っている方の腕を、斬った。
「──が!? ぐぎゃあああ!!」
「んんぅ───!! んっ?」
子供を奪い返し、地面にバラ撒いていた時の結晶体を、
さらに丸く包み、小石のようにする。
一度凍らした空間を解除することはできない。
ヒュオオ────ザッ!
後ろから音がした。
弓を持ったエルフの男が、ぼくを狙っている。
「──その子から、手を離せ!!」
無視して、子供の口と手足の布を断つ。
「ん、ぅあ──ッ!」
「き、貴様っ!!」
「ち、ちがうっ! この人は助けてくれたっ!」
「な、んだと!? 人間がか?」
エルフの子供の背中を押す。
軽い。
「あっ」
「な、何をする!」
「──とっとと連れていけ。きみ達のせいで、夜が台無しだ」
「お、おまえ」
「い、いいの! 弓をしまって……!」
「し、しかし……!」
「──さっさと行け。盗賊の仲間がくるかもしれないぞ?」
はやく消えてほしいので、嘘をつく。
本当に盗賊の仲間がいたら、ぼくはここにはいない。
「く……い、いくぞ!」
「あっ──……」
森の中に、二人のエルフが消えた。
残ったのは四人の死体と、片手が使い物にならないハゲ。
「…………」
「ぐ、く……! お、お前、何モンだ……!」
時のナイフを、突きつける。
「わ!? わかった……! 投降する! くそっ、お前みたいな変な冒険者に捕まるたぁなァ……!」
ぼくは、動かない。
「お……おい? ナイフをしまってくれよ……まさか、無抵抗のニンゲンを殺したりしないよ、なァ……?」
ぼくは、動かない。
ハゲが、ぼくの目を見て、察する。
「ま、待て……待て待て待て。お、オレはゴロンゾっていって、ここいらじゃ有名な盗賊だ! い、生きたまま憲兵共に引き渡せば賞金が出るぞ!? おい、聞いてるのか……?」
「……憲兵? 賞金……?」
「あ、ああ! だから、ナイフはしまってくれ? なァァ!?」
「く、くくくくく……!」
こいつは、何を言ってるんだ……!
「くははははは──」
「お、い……?」
「──お前がさっき、言ったんだろ。"憲兵に捕まるレベルの不審者"だって──」
「そっ、それは……」
「まだぼくを、冒険者だと思っているのか?」
「へ……?」
「────"ご同業"だよ。
────ぼくはね、盗賊なんだ」
「なん、だと……?」
ナイフを、月光の空に、振り上げる。
「ま、待てっ、金が、賞金が欲しくないのか! 待て、待てって! う、うわあああアアア……!!」
──────ザ、シュ…………!
「…………」
五人分の金目の物を抜き取る頃には、空が白んでいた。
そう、ぼくは勇者なんかじゃない。
「……勇者なんかじゃ、ないんだ……」
ぼくは、カネトキ・オウノ。
黄金の鎧の、盗賊だ。