表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
512/1216

メモリコネクト さーしーえー

(*´ω`*)タイトルかえたん



 その(ふすま)の前までは、三人、無言で歩いた。

 半歩、後ろから見る二人の着物は、美しい柄だった。

 私は、一人じゃなかった。

 ……でも。


 白い手と、金の爪が、左右の(ふすま)引手(ひきて)にかかる。


 

【 ええか…… 】

< お入り…… >



 

 ススゥ────……、トン。




{{ ん……来たわね }}


「……! イニィさん……」



 みんな、(そろ)っていた。

 クにゃウン達、ガルン、イニィさん……。

  

 その真ん中で、淡く、青く光る何かがあった。


「…………!!」


 近づく。


「……クラウ、ン!」


挿絵(By みてみん)

 パキ……パキキ……、……。


 その様子を、どう言ったらいいのか。

 クラウンは、眠っている。

 和室の中に、淡い光の球ができて、

 その中で、眠っているのだ。


 大きな王冠と前髪が一緒になったようなヘッドガード。

 それが下にズレて、クラウンの目の辺りを隠してしまっている。

 口だけが見えて、それが、妙に色気があると思った。

 

 手と足の先は、アナライズカードのように分解されていて、いや……まるで崩壊しているみたい。

 身体中に、光が行き来する金色の流路が走っている。

 目元を隠して、手足の先がない。

 そして、黄金に輝いている。


 正直、唖然とした。


「……、……らう、ん……」

{{ ……大丈夫。見た目よりは構成はしっかりしているみたい。崩壊しているように見える手足も、どうやら仮面さんとの流路接続端子に変換されているみたいだわ }}

「……! そう、だ、先輩は……!?」

{{ よく見なさい、ピエロちゃん……ここよ }}


 イニィさんが視線で(しめ)した先は、クラウンのお腹だった。

 ──っ! 透明の大きな球体が、身体に食い込んでる!

 まるで、妊婦さんみたい……。

 その中に、亀裂がはっきりとわかる仮面が入っていた。


「───先輩っ! これ、先輩、なの……」


 自分で聞いておいて、バカかと思う。

 この黄金の仮面……。

 割れていても、そりゃ先輩に決まってる。

 でも、誰かに確認したくなってしまう。

 イニィさんは私の目を見ながら、しっかりと頷いてくれて、

 愚かな問いかけには、クにゃウンが答えてくれた。


『──……ニャ。"クルルカンの仮面"の破片は:可能なモノは全て回収したニャ。今:ハードウェアは修復中ニャ。安心するニャ:死んでニャいニャよ。修復可能判定が出ているニャ。』

「っ! 治、るの……? 先輩、治るの、ね……?」

『──ぅニャ。ドンとの付き合いの長さが幸いしたのニャ!。』

「どういうこと?」

『──ミャ。ドン・アンティたまとクラウンたま:そしてクルルカンたまは:流路的に:ずっと接続状態のまま過ごして来たミャ。その継続期間は:ざっと千年と二ヶ月ミャ。』


 ──!

 そうね……。

 レエン湖での"すとっぷどらいぶ"の時も入れたら、とても長い時を共に過ごした事になるわ……。


{{ 仮面さんの"材質"がね? かなり"歯車法"の歯車と同系統の素材に変化している事がわかったの }}

「──!! それって、つまり──!!」

『──ニャ! ドンの"歯車"を使って:クルルカンの仮面を修復できるってことニャ!。』

「ぁ──……」


 私の歯車を、先輩の仮面の材料にできる……?

 そーゆー……ことっ、だよね……っ!?


『──少しスキル経験値を消費しちゃうけど:やっていいニャな?。』

「当然よ、全力でやってほしい。歯車法のレベルが下がっても構わない」

『──ドンならそう言うと思って:割とガチで修復のサポートしてるニャ!。』

「は、は……よかった」

『──でもニャあ:ドン……問題があるニャ……。』

「──っ!」

{{ …… }}


 イニィさんの紅い瞳から、不安を駆り立てる表情が見える。

 サキとダイさんが、背中に手を当ててくれた。

 温かい。

 逃げることは、出来ない。


「……、……教えて」

『──……ニャ。クルルカンは:あのデッカイ雷がおちた時:歯車での防御が間に合わないと踏んで:捨て身で盾になったニャ。』

「……っ、」


 私の顔は今、苦い、後悔の表情になっているはず。

 私がもっと、しっかりしていれば……っ!

 カーディフの山火事を飲み込んだように、

 瞬時に"五枚花弁の歯車"を、バッグ歯車の盾として展開していれば……っ!

 雷を格納できたかもしれないのに……!


『──クルルカンは自身をアナライズコーティングして:魔素流路の塊だった雷に直撃したニャ。さっきニャーは:"破片は可能なモノは全て回収した"って言ったニャ。』

「まさか……」

『──……焼け飛んで:欠落した部分があるニャ。』

「……、……」


 そ、だ……。

 "歯車を使って修復する"ってことは、

 "歯車で補填しないといけない所"があるってことだ……。


『──ドン・アンティ?。"クルルカンの仮面"はマジックアイテムニャ。その質量には:意志が宿っているニャ。』

「……? で、でも、修復は可能、なのよね!?」

『──……歯車で継ぎ足した部分には:記憶は復元されないのニャ……。』

「……!!、  ……、 ……  、  」


 くら、ぁ……。


【 ──っ、安嬢(あんじょう)! 】

< ──ぁ、(あん)ちん! >


 ──ガシッ!


 二人が、私の身体を支えてくれた。

 そ、んな、ぁ……。

 じゃ、じゃあ……!

 雷で削れた分だけ、先輩の記憶が、消えてる……?

 私が、私がっ、もっと気をつけていれば……ッッ!!


「うっ、うっ……」

『──ま:待つニャ〜〜!!。ドン・アンティ!!。最後まで:ニャーの話を聞くニャ!!。』

{{ ば、バカねっ! あなた、喋る順番がっ! それじゃあ、思いっきり記憶が無くなってるって、誤解されるに決まってるでしょっ!? }}

『──ニャ:ニャニャニャニャニャ……!。ニャニャニャニャニャニャニャ……! ドン:ドン:釈明の余地をくれニャ〜〜!。」

「へ……?」


 虎ネコが、パタパタしている。

 すっごい、パタパタしている。

 前足が見えない。あ、止まった。


『──ニャ:ニャむぅ〜〜……。泣かないで欲しいのニャ:ドン・アンティ……。』

『──ミャ〜〜:ちょっと気を使うミャ!。ド:ドン・アンティ……。確かにクルルカンたまは雷の直撃で:構成物質と共に記憶(メモリ)の一部を喪失(ロスト)したミャ。でも:修復可能判定がされている記憶(メモリ)領域は:100パセルテルジなのミャ!。』

「え……?」

『──そ:そうニャ!。クルルカンの記憶は:欠損率(ゼロ)パセルテルジ:ニャのニャ!』

「で、でも……?」


 なんで記憶が失われていないの?

 雷で回収不能になってしまった質量分、

 記憶は無くなってしまうはずじゃ……?


『──……ドン・アンティ。クラウンたまは:ドンにずっとヒミツにしてた事があるニャ……。』


 ……?

 秘密……?

 クラウンが、私に……?


『──ニャ。ドンは:レエンで千年の眠りから覚める時に:一時的に記憶(メモリ)領域を:クルルカンの記憶(メモリ)領域で保護したニャ……?。』

「……!」


 覚えてる。

 あの眠りから覚める時。

 私は夢の学校の中にいた。

 それは、先輩の記憶の中の学校。

 そう。異世界の、学校。

 会った事がないはずの、クラスメイト。

 会った事がないはずの、先生。

 会った事がないはずの、昔の、先輩。


 夕焼けの、生徒会室。


『──あの時ドンは:クルルカンから"記憶の中の知識"を少し転送(ダウンロード)してしまったニャ?。』

「っ! ええ……」


 もう、わかってる。

 先輩は、こことは違う世界から来た人。

 その知識の一部が、私にも入ってしまった。

 違う世界の事を、私は少しだけ知っている。


『──あの"記憶転送現象"と同じ事ニャ。クラウンたまにも:それが起こっていたのニャ。』

「 ──!! 」

【 ──!! 】

< ──!! >


 クラウンにも……先輩の記憶の一部が!?


「クラウンは……どんな記憶を先輩から(もら)ったの?」

『──……全て(・・)ニャ。』

「は……?」

『──クラウンたまは:クルルカン……"黄野(おうの)金時(かねとき)"の記憶の全て(・・・・・)転送(ダウンロード)してしまってたニャ。』

「    ──……」


 ……────、──。

 すべ、て?

 ぜんぶって、こと?


【 "食らわずの(かんむり)"が、人ひとりの記憶すべて、食っとったっちゅう事か…… 】

< なるほどなぁ……。前に、わっちと花がクルルカンはんに ちょっかいかけた時、クラウンはんが、えろぅ怒った(・・・・・・)時がありんしたなぁ…… >

「──!!」


 あっ……た。

 ダイさんが先輩にしなだれかかってた時、

 サキが何かを言ったら、先輩が変な顔になって……。

 何故かクラウンが、ダァァアアアン!! って、

 机を叩いて、怒ってた……!


< ……あれは、クラウンはんがクルルカンはんの記憶を全部わかっとって、わっちらの心無い(こと)()が、よぅ突き刺さりはったからでありんしたか…… >

【 それでか……そら、痛みも同じやろなぁ…… 】


 クラウンが、そんな大きなモノを抱えていたなんて……。


「クラウンは、その……平気だったの」

『──クラウンたまは:最初はソレを興味で受け入れて:その記憶の内容に苦悩してたニャ。ドンに言おうか:迷ってたみたいニャ。でも結局:先にクルクル本人に相談して:受け止める事に決めたんニャ。』

『──ミャ〜〜。ドン:隠してたクラウンたまを:怒らないであげてほしいミャ。クラウンたまは:クルルカンたまの記憶をもらって:本当の意味での感情を得たのミャ。クラウンたまは:クルルカンたまの記憶を手放したくないと願ったミャ。』

「それは……」


 私は知ってる。

 私の相棒が、最初は"感情"を怖がった事を。

 スキルに、感情なんかいらないと思っていたあいつを。

 だけど。


 私にはわかる。

 クラウンは先輩の記憶を見て、

 強く、"感情って大切だ"って、思ったんだ──……。


「それは、いい。クラウンが、私にひとつも秘密が無いなんて、間違ってる。この子はこの子の大切なモンがあって当然よ!」

『──ミャ……。』

『──ニャーは:ドンの懐のデカさには惚れ惚れしてるニャ。』

「うるせぇ。で、それがどうしたの!?」


 今は、先輩の記憶の話でしょ……、って。


「……まさか」

『──……もう:わかるニャ……?。』


 …………クラウンの、アホ……。


『──さっき:クラウンたまの行動記憶(ログ)を全部見たニャ。破損したクルルカンの仮面を分析したクラウンたまの判断は:メチャンコはやかったニャ。記憶が欠落していると判明した次の瞬間ニャ……自分を構成する流路を分解して:クルルカンの記憶媒体領域と接合させたニャ。』


 ……。


「クラウンは……自分の中の"先輩の記憶"を使って、無くなった先輩の記憶を修復したのね……?」

『──……ニャ。 誰よりもしっくりくる:記憶の修復の仕方だったはずニャ。』

「問題っていうのは……」

『──クラウンたまとクルクルの"記憶の境い目"が:全くわからんのニャ。』

{{ ……二人を切り離せないのよ。このままだと、ゆっくりと融合して、別の何かになっていくわ }}

『──二人のココロが、引っ付いてしまってるのニャ……。ドン・アンティ。ニャーたちみたいな生きモンにとって:ココロってのは:つまり(ボディ)みたいなもんニャ……。』

「…………」


 変わり果てた姿の、クラウンと先輩に近づく。

 赤い着物は、二人の光で、ゆっくりと白になった。

 無視して、膝をつく。


「……」


 クラウン、ほんと妊婦さんみたい。

 あの研究所であった"Q.Q."さんも、こんなお腹だったな。

 透明な球体の中の、真っ二つの仮面。

 クラウンの後ろの髪がメチャンコのびてて、

 体の(いた)る所に、チューブみたいになって刺さってる。

 うん、眠っている。

 二人で、夢を見ているんだ────。


『──……今から:クラウンたまとクルクルの記憶の切り離し作業に取り掛かるニャ。正直自信まっっったくニャいニャが:ニャーはあきらめんニャ。』

『──こういう時のこいつは凄いミャ。何徹でも付き合うミャ。』

「……難しいの?」

『──……"人ひとり分":共通の記憶があるニャかで:どこが補填された記憶箇所か判別するのは:正直メチャむずニャ。この二人じゃニャかったら:サジ投げてるニャ。』

『──二人の記憶は重なってるミャが:お互いに記憶は100パセルテルジで構成されてるミャ。可能性は……あるミャ……。』


 ……キツ、いんだろうな。

 身体が崩壊しているクラウンを撫でる。


 バカだねぇ、あんた……。

 私ほっぽって、体張って、先輩守ってくれたのか……。

 バカは、私だね……。

 あんた、凄いよ。

 なかなか、出来る事じゃないって。

 さすがぁ、歯車法のっ、でばいすっ、だねっ……。

 ぶっとんでるわぁ……。


「くら、うん……!」


 もう、起きないの、かなぁ………………!






 


 ────ぽんっ。





───────────────────────────


 アンティ・キティラが:

 サーバーにアクセスしました▼


 ファイアーウォールに申請中・・・▼


───────────────────────────



『 ──ガルルルルルオオオォォオオンンン!!! 』

{{ ──ちょ!? ガルンっ!? いきなりどうしたのっ!? }}


───────────────────────────


 スタンディング・バイ▼


 アンティ・キティラの:

 アクセスを開始します▼


───────────────────────────


「んぁ……?」


【 おい、ちょ……!? 】

< (あん)ちんっ!? 足、消えてるよっ!? >


 へ……?

 えっ……?

 ────ええっ!?


『──!?。ニャ!?。』

『──ミャミャ──!?。』


 いやいやいやいやいやちょっおちょちょちょちょ!

 全身消えてる全部消えてる半透明半透明半透明……!!


{{ ピ、ピエロちゃ──────んッッ!! }}




 フッ──── … … …。。。




【 ……──安嬢(あんじょう)が、消えた……、……? 】


< ……──うそぉ…… >








───────────────────────────


 [メモリコネクト]:成功しました▼


───────────────────────────






(*`・ω・)ゞ+

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ