メモリコネクト さーしーえー
(*´ω`*)タイトルかえたん
その襖の前までは、三人、無言で歩いた。
半歩、後ろから見る二人の着物は、美しい柄だった。
私は、一人じゃなかった。
……でも。
白い手と、金の爪が、左右の襖の引手にかかる。
【 ええか…… 】
< お入り…… >
ススゥ────……、トン。
{{ ん……来たわね }}
「……! イニィさん……」
みんな、揃っていた。
クにゃウン達、ガルン、イニィさん……。
その真ん中で、淡く、青く光る何かがあった。
「…………!!」
近づく。
「……クラウ、ン!」
パキ……パキキ……、……。
その様子を、どう言ったらいいのか。
クラウンは、眠っている。
和室の中に、淡い光の球ができて、
その中で、眠っているのだ。
大きな王冠と前髪が一緒になったようなヘッドガード。
それが下にズレて、クラウンの目の辺りを隠してしまっている。
口だけが見えて、それが、妙に色気があると思った。
手と足の先は、アナライズカードのように分解されていて、いや……まるで崩壊しているみたい。
身体中に、光が行き来する金色の流路が走っている。
目元を隠して、手足の先がない。
そして、黄金に輝いている。
正直、唖然とした。
「……、……らう、ん……」
{{ ……大丈夫。見た目よりは構成はしっかりしているみたい。崩壊しているように見える手足も、どうやら仮面さんとの流路接続端子に変換されているみたいだわ }}
「……! そう、だ、先輩は……!?」
{{ よく見なさい、ピエロちゃん……ここよ }}
イニィさんが視線で示した先は、クラウンのお腹だった。
──っ! 透明の大きな球体が、身体に食い込んでる!
まるで、妊婦さんみたい……。
その中に、亀裂がはっきりとわかる仮面が入っていた。
「───先輩っ! これ、先輩、なの……」
自分で聞いておいて、バカかと思う。
この黄金の仮面……。
割れていても、そりゃ先輩に決まってる。
でも、誰かに確認したくなってしまう。
イニィさんは私の目を見ながら、しっかりと頷いてくれて、
愚かな問いかけには、クにゃウンが答えてくれた。
『──……ニャ。"クルルカンの仮面"の破片は:可能なモノは全て回収したニャ。今:ハードウェアは修復中ニャ。安心するニャ:死んでニャいニャよ。修復可能判定が出ているニャ。』
「っ! 治、るの……? 先輩、治るの、ね……?」
『──ぅニャ。ドンとの付き合いの長さが幸いしたのニャ!。』
「どういうこと?」
『──ミャ。ドン・アンティたまとクラウンたま:そしてクルルカンたまは:流路的に:ずっと接続状態のまま過ごして来たミャ。その継続期間は:ざっと千年と二ヶ月ミャ。』
──!
そうね……。
レエン湖での"すとっぷどらいぶ"の時も入れたら、とても長い時を共に過ごした事になるわ……。
{{ 仮面さんの"材質"がね? かなり"歯車法"の歯車と同系統の素材に変化している事がわかったの }}
「──!! それって、つまり──!!」
『──ニャ! ドンの"歯車"を使って:クルルカンの仮面を修復できるってことニャ!。』
「ぁ──……」
私の歯車を、先輩の仮面の材料にできる……?
そーゆー……ことっ、だよね……っ!?
『──少しスキル経験値を消費しちゃうけど:やっていいニャな?。』
「当然よ、全力でやってほしい。歯車法のレベルが下がっても構わない」
『──ドンならそう言うと思って:割とガチで修復のサポートしてるニャ!。』
「は、は……よかった」
『──でもニャあ:ドン……問題があるニャ……。』
「──っ!」
{{ …… }}
イニィさんの紅い瞳から、不安を駆り立てる表情が見える。
サキとダイさんが、背中に手を当ててくれた。
温かい。
逃げることは、出来ない。
「……、……教えて」
『──……ニャ。クルルカンは:あのデッカイ雷がおちた時:歯車での防御が間に合わないと踏んで:捨て身で盾になったニャ。』
「……っ、」
私の顔は今、苦い、後悔の表情になっているはず。
私がもっと、しっかりしていれば……っ!
カーディフの山火事を飲み込んだように、
瞬時に"五枚花弁の歯車"を、バッグ歯車の盾として展開していれば……っ!
雷を格納できたかもしれないのに……!
『──クルルカンは自身をアナライズコーティングして:魔素流路の塊だった雷に直撃したニャ。さっきニャーは:"破片は可能なモノは全て回収した"って言ったニャ。』
「まさか……」
『──……焼け飛んで:欠落した部分があるニャ。』
「……、……」
そ、だ……。
"歯車を使って修復する"ってことは、
"歯車で補填しないといけない所"があるってことだ……。
『──ドン・アンティ?。"クルルカンの仮面"はマジックアイテムニャ。その質量には:意志が宿っているニャ。』
「……? で、でも、修復は可能、なのよね!?」
『──……歯車で継ぎ足した部分には:記憶は復元されないのニャ……。』
「……!!、 ……、 …… 、 」
くら、ぁ……。
【 ──っ、安嬢! 】
< ──ぁ、安ちん! >
──ガシッ!
二人が、私の身体を支えてくれた。
そ、んな、ぁ……。
じゃ、じゃあ……!
雷で削れた分だけ、先輩の記憶が、消えてる……?
私が、私がっ、もっと気をつけていれば……ッッ!!
「うっ、うっ……」
『──ま:待つニャ〜〜!!。ドン・アンティ!!。最後まで:ニャーの話を聞くニャ!!。』
{{ ば、バカねっ! あなた、喋る順番がっ! それじゃあ、思いっきり記憶が無くなってるって、誤解されるに決まってるでしょっ!? }}
『──ニャ:ニャニャニャニャニャ……!。ニャニャニャニャニャニャニャ……! ドン:ドン:釈明の余地をくれニャ〜〜!。」
「へ……?」
虎ネコが、パタパタしている。
すっごい、パタパタしている。
前足が見えない。あ、止まった。
『──ニャ:ニャむぅ〜〜……。泣かないで欲しいのニャ:ドン・アンティ……。』
『──ミャ〜〜:ちょっと気を使うミャ!。ド:ドン・アンティ……。確かにクルルカンたまは雷の直撃で:構成物質と共に記憶の一部を喪失したミャ。でも:修復可能判定がされている記憶領域は:100パセルテルジなのミャ!。』
「え……?」
『──そ:そうニャ!。クルルカンの記憶は:欠損率0パセルテルジ:ニャのニャ!』
「で、でも……?」
なんで記憶が失われていないの?
雷で回収不能になってしまった質量分、
記憶は無くなってしまうはずじゃ……?
『──……ドン・アンティ。クラウンたまは:ドンにずっとヒミツにしてた事があるニャ……。』
……?
秘密……?
クラウンが、私に……?
『──ニャ。ドンは:レエンで千年の眠りから覚める時に:一時的に記憶領域を:クルルカンの記憶領域で保護したニャ……?。』
「……!」
覚えてる。
あの眠りから覚める時。
私は夢の学校の中にいた。
それは、先輩の記憶の中の学校。
そう。異世界の、学校。
会った事がないはずの、クラスメイト。
会った事がないはずの、先生。
会った事がないはずの、昔の、先輩。
夕焼けの、生徒会室。
『──あの時ドンは:クルルカンから"記憶の中の知識"を少し転送してしまったニャ?。』
「っ! ええ……」
もう、わかってる。
先輩は、こことは違う世界から来た人。
その知識の一部が、私にも入ってしまった。
違う世界の事を、私は少しだけ知っている。
『──あの"記憶転送現象"と同じ事ニャ。クラウンたまにも:それが起こっていたのニャ。』
「 ──!! 」
【 ──!! 】
< ──!! >
クラウンにも……先輩の記憶の一部が!?
「クラウンは……どんな記憶を先輩から貰ったの?」
『──……全てニャ。』
「は……?」
『──クラウンたまは:クルルカン……"黄野金時"の記憶の全てを転送してしまってたニャ。』
「 ──……」
……────、──。
すべ、て?
ぜんぶって、こと?
【 "食らわずの冠"が、人ひとりの記憶すべて、食っとったっちゅう事か…… 】
< なるほどなぁ……。前に、わっちと花がクルルカンはんに ちょっかいかけた時、クラウンはんが、えろぅ怒った時がありんしたなぁ…… >
「──!!」
あっ……た。
ダイさんが先輩にしなだれかかってた時、
サキが何かを言ったら、先輩が変な顔になって……。
何故かクラウンが、ダァァアアアン!! って、
机を叩いて、怒ってた……!
< ……あれは、クラウンはんがクルルカンはんの記憶を全部わかっとって、わっちらの心無い言の葉が、よぅ突き刺さりはったからでありんしたか…… >
【 それでか……そら、痛みも同じやろなぁ…… 】
クラウンが、そんな大きなモノを抱えていたなんて……。
「クラウンは、その……平気だったの」
『──クラウンたまは:最初はソレを興味で受け入れて:その記憶の内容に苦悩してたニャ。ドンに言おうか:迷ってたみたいニャ。でも結局:先にクルクル本人に相談して:受け止める事に決めたんニャ。』
『──ミャ〜〜。ドン:隠してたクラウンたまを:怒らないであげてほしいミャ。クラウンたまは:クルルカンたまの記憶をもらって:本当の意味での感情を得たのミャ。クラウンたまは:クルルカンたまの記憶を手放したくないと願ったミャ。』
「それは……」
私は知ってる。
私の相棒が、最初は"感情"を怖がった事を。
スキルに、感情なんかいらないと思っていたあいつを。
だけど。
私にはわかる。
クラウンは先輩の記憶を見て、
強く、"感情って大切だ"って、思ったんだ──……。
「それは、いい。クラウンが、私にひとつも秘密が無いなんて、間違ってる。この子はこの子の大切なモンがあって当然よ!」
『──ミャ……。』
『──ニャーは:ドンの懐のデカさには惚れ惚れしてるニャ。』
「うるせぇ。で、それがどうしたの!?」
今は、先輩の記憶の話でしょ……、って。
「……まさか」
『──……もう:わかるニャ……?。』
…………クラウンの、アホ……。
『──さっき:クラウンたまの行動記憶を全部見たニャ。破損したクルルカンの仮面を分析したクラウンたまの判断は:メチャンコはやかったニャ。記憶が欠落していると判明した次の瞬間ニャ……自分を構成する流路を分解して:クルルカンの記憶媒体領域と接合させたニャ。』
……。
「クラウンは……自分の中の"先輩の記憶"を使って、無くなった先輩の記憶を修復したのね……?」
『──……ニャ。 誰よりもしっくりくる:記憶の修復の仕方だったはずニャ。』
「問題っていうのは……」
『──クラウンたまとクルクルの"記憶の境い目"が:全くわからんのニャ。』
{{ ……二人を切り離せないのよ。このままだと、ゆっくりと融合して、別の何かになっていくわ }}
『──二人のココロが、引っ付いてしまってるのニャ……。ドン・アンティ。ニャーたちみたいな生きモンにとって:ココロってのは:つまり体みたいなもんニャ……。』
「…………」
変わり果てた姿の、クラウンと先輩に近づく。
赤い着物は、二人の光で、ゆっくりと白になった。
無視して、膝をつく。
「……」
クラウン、ほんと妊婦さんみたい。
あの研究所であった"Q.Q."さんも、こんなお腹だったな。
透明な球体の中の、真っ二つの仮面。
クラウンの後ろの髪がメチャンコのびてて、
体の至る所に、チューブみたいになって刺さってる。
うん、眠っている。
二人で、夢を見ているんだ────。
『──……今から:クラウンたまとクルクルの記憶の切り離し作業に取り掛かるニャ。正直自信まっっったくニャいニャが:ニャーはあきらめんニャ。』
『──こういう時のこいつは凄いミャ。何徹でも付き合うミャ。』
「……難しいの?」
『──……"人ひとり分":共通の記憶があるニャかで:どこが補填された記憶箇所か判別するのは:正直メチャむずニャ。この二人じゃニャかったら:サジ投げてるニャ。』
『──二人の記憶は重なってるミャが:お互いに記憶は100パセルテルジで構成されてるミャ。可能性は……あるミャ……。』
……キツ、いんだろうな。
身体が崩壊しているクラウンを撫でる。
バカだねぇ、あんた……。
私ほっぽって、体張って、先輩守ってくれたのか……。
バカは、私だね……。
あんた、凄いよ。
なかなか、出来る事じゃないって。
さすがぁ、歯車法のっ、でばいすっ、だねっ……。
ぶっとんでるわぁ……。
「くら、うん……!」
もう、起きないの、かなぁ………………!
────ぽんっ。
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アンティ・キティラが:
サーバーにアクセスしました▼
ファイアーウォールに申請中・・・▼
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『 ──ガルルルルルオオオォォオオンンン!!! 』
{{ ──ちょ!? ガルンっ!? いきなりどうしたのっ!? }}
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スタンディング・バイ▼
アンティ・キティラの:
アクセスを開始します▼
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「んぁ……?」
【 おい、ちょ……!? 】
< 安ちんっ!? 足、消えてるよっ!? >
へ……?
えっ……?
────ええっ!?
『──!?。ニャ!?。』
『──ミャミャ──!?。』
いやいやいやいやいやちょっおちょちょちょちょ!
全身消えてる全部消えてる半透明半透明半透明……!!
{{ ピ、ピエロちゃ──────んッッ!! }}
フッ──── … … …。。。
【 ……──安嬢が、消えた……、……? 】
< ……──うそぉ…… >
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[メモリコネクト]:成功しました▼
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(*`・ω・)ゞ+