表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
510/1216

ブレイク・ルーラーの決断



 ────ヒュォォォォオ────……!



「ハッ、ハッ、ハッ…………」


「ま、待つです! ギルマス! 一人でこの雪の中を行くのはダメなのです!」




 雷鳴が唸る霊峰を見て、私がまず思ったのは、


「また、私のせいだ」という事だった。



 二年前の、あの時。


 あの方は心を痛め、出来るなら黙っていて欲しいと、


 そう私に、頼んだ。


 私はギルドマスターとして苦悩したが、


 結局は、隠そうと決めた。


 崩落の後の、あの娘の生命の可能性を、


 私は、領主にも、王にも報告しなかったのだ。


 その判断自体を悔やんでいる訳ではない。


 だが、「狂銀を見た」という噂を知った時、


 私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、


 生きているかもしれぬ、あの娘の髪と瞳の色だった。


 二年の実験で、あの淡い紫色は失われていたはずだ。


 ちらほらと続く"狂銀"の目撃例を、民衆たちは、


 "夢でも見ていたんだろう"と笑っていたが、


 私のギルドマスターとしての勘が、警鐘を鳴らしていた。


 私は秘密裏に、信用できる者へ、


 王への手紙を預けた。


 二年前に報告できなかった、全てを(つづ)って。




 そして、「黄金の義賊」が、ここに来た。


 "運命に頼れ"という、王の言葉を届けに────。




 私は雪山に向かった。


 居ても立っても居られなかった。


 体が前へ、前へと動く。


 こんな事は、ジジイがする事ではない。


 だが、ギルドの職員や冒険者に頼む前に、


 まず、自らが、見たかった。


「黄金の義賊」と、「狂銀」。


 まさか、まさかと、思ったのだ。


 心配になったチロンが、私を追いかけてきた。


 アイノの一族と育った彼女だ。


 雪山での立ち回りは、私より上だろう。


 制止されながらも、(ふもと)まで登る。


 そしてまず、チロンの耳が(とら)えた。


 危機を察する野生の表情を彼女に見た私は、


 動きを止め、彼女の目線を追う。

 

 間も無く、私にも聞こえた。



『 ……GYAAAAAOOOONNN……! 』



 何度かの、雪ごしに見える、閃光(フラッシュ)


 魔物か。


 バカな。


 上からだぞ。


 こんな極地に、フレアバードも、


 ファイア・エレメントもいやしない。


 音がしなくなってからも、二人でしばらく動けぬ。


 チロンはじっと空を見て、冷や汗をかいている。


 彼女は受付嬢である前に、スマリ族だ。


 警戒する中、それは現れた。



 ご ぉ ぉ お お お 。



「……ギルマス!」

「……背中へ」


 

 ……ありえぬ。


 龍に、見えた。


 黄金の、龍。


 小さいが、確かにあれはドラゴンに見える。


 白金の翼を広げて、こちらにくる。



「そんな……ドラゴンなんて、伝説の……!」

「チロンよ、彼らは遠い大地で確かに生きている。だが、こんな街の近くに紛れ込むとは……!」



 何故ここに、と考える前に、


 背中にあるチロンを守る事を考えねば。


 ヒゲイドと違い、戦いは得意ではないのだがな。


 雪の中、こちらを見下ろす黄金龍を見上げる。


 ……?


 何やら、フラフラとしているな……?



 ぐらり……。



「……!!」

「むっ!!」



 ドラゴンが羽ばたくのを止めたので、


 チロンを抱えて、後ろに飛んだ。



 ──────ドォン!



 幾ばくか、地面の雪が飛び散る。


 ドラゴンが、墜ちたのか……?


 少し、様子を見る。



「……ギルマス、息が聞こえる」

「……生きているのか」

「うん。でも、小さい呼吸」



 私は警戒しつつも、様子を見ることにする。


 弱っているなら、街の安全のため、


 とどめを刺さねばならぬ。


 雪を踏みしめ、近づく。


 金色の髪が見えて、


 あっ!! と、気づきがあった。



「────なんと!!」

「──!? ギルマス!?」


 ──たたたたた。


 金に駆け寄った私を見て、

 チロンが慌てて、こちらに来た。


「──!? そんな……!?」

「……、……!!」


 金色の少女が、倒れていたのである。


「──クルルカンさん!?」


 怪我を探す。

 出血はしていないように見える。

 黄金の鎧の下は分からぬが……!


「……! なんだ、この鎧は……!?」

「ギルマス、これ、"肉"に見える……」


 彼女の鎧は、所々が"(ほど)けて"いた。

 金の装甲と装甲の合間に、筋組織のような物が見える。

 こんな……まさか……!!


「……ドラゴンの、鎧、なのか……?」

「──!?」


 自分で言っておいて、信じることができない。

 しかし、先ほどの姿は……!

 だとしたら、今の彼女は、ソウルシフトの"捕食(ほしょく)"で───……!


「た、たすけなきゃ……!」

「──チロン!! 不用意に触るでない!! もし本当にドラゴンの鎧なら、その肉は触れた者を喰らう!!」

「──!! でも、助けなくちゃいけない!! クルルカンは、チロン達の街を救った!」

「──!! ……そうだ、その通りだ」


 この鎧を、ここで脱がせられるだろうか。

 肉を触らぬよう、金の装甲を掴み引っ張ってみる。

 ……! 抵抗がある。


「……!! ギルマス、手を離す!」

「──っ!」


 チロンの注意に従った瞬間、バチリ、と装甲が閉じた。

 なんと……肉が内側から、装甲を引いているのか……。

 離すのが遅ければ、手が挟まれていた!


「……連れ帰る他ない。鎧の下は喰われているかもしれん。くそっ!!」

「そんな……っ!」


 なんと恐ろしい物を着ていたのだ、この少女は!!

 あのような、穏やかな笑顔で!

 風に白金のマントがなびく。

 ……! 先ほど、ドラゴンの羽根のようになっていたのは、コレか!


「……大きなマントだ。これを使えば、肉に触れずに運べるやもしれん」

「ギルマス、急ごう!!」


 二人で雪の中、布で少女を包む。

 死者を包むようで、いい気分ではない。

 息はある。

 風で、顔を覆っていた髪が流れた。


 ──ピュゥォォオ───……!


「──! ……ギルマス……」

「──っ!! 仮面が、無い……?」


 無垢な少女の顔が、そこにあった。

 ……! こやつ……。


「……チロン」

「わかっている。チロンはクルルカンの秘密は誰にも言わない」

「頼む……顔を隠しながら、ギルドに連れ込むぞ」


 "イレギュラーコール"を実行した冒険者だ。

 訳ありで顔を隠していたに違いない。

 その仮面が、剥がれているのだ。

 これは異常事態だ。


「チロンが先導する! 後ろを、ギルマスはかけ下りる!!」

「構わず全速力で行け! 歳はくったが、まだ足腰はしっかりしている!!」


 年甲斐もなく、走った。





 ギルドに帰ると、受付が魚まみれだった。


 ふざけている。


 愚か者を無視し、チロンに奥の部屋の鍵を取らせる。


 この黄金の少女の顔を見られる訳にはいかない。


 と思ったのも束の間、


 飛行箒(スカイブルーム)に乗った魔女が横についた。


 走りながら、対応する。



「むっ!? ふんっ! この口悪魔女め! 何をしにきたのだっ!!」

「マジ失礼。魚持ってきたマジカは偉い」

「チロンはビックリした。受付が魚の山だった」


 こやつは……。

 何故、受付カウンタを魚の山にした……。

 食料を持ってきた事には、感謝するが。


「……ジジイ、マジ答えろ。物資を持ってきたのは、"クルルカン"だな?」

「──!! ……」

「……」


 返答に迷う。

 "イレギュラーコール"を、他言するものではない。

 だが、こやつも、

 この黄金の少女と同じく"プレミオムズ"だ。

 ……マジカは、この娘の事をどこまで知っているのだろうか。

 チロンは、私の出方を(うか)っている。


「ジジイ。その沈黙はマジイエスだ。……クルルカン、怪我したか? カギよこせ」


 私が返答に困っていると、マジカがカギを取り、

 空飛ぶ(ほうき)で先に行き、部屋のカギを開けた。

 扉を開けてくれたので、ありがたく中に入る。

 ここには、大きなベッドがあった。


「チロン、布団を剥がすのだ」

「あいさー!」

「マジ、ひどいのか」

「それを調べる」


 掛け布団をひっぺがし、ベッドに横たわらせる。

 少女を包む、白金のマントを解く。


 ────シュルリ……。


「……! 鎧の隙間が、閉じている!!」


 見えていた、内部の赤い筋組織が見えない。

 金色の装甲は、ただただ美しい。


「……チロン、マジカ、頼みがある。この鎧を脱がせられるか──……、む……?」


 チロンとマジカは、驚いた顔で黄金の少女を見ていた。

 視線を辿(たど)ると、顔を見ている事に気がつく。

 落ち着いた部屋の中で見る少女の顔。


「……。……ふむ……」


 金の髪。長いまつ毛。凛とした顔つき。


 ……整っている。

 この娘、もう少し育てば、

 破壊的な美人になると断言できる。

 ギルドに務める男性職員共など、

 この素顔を見れば、即座に陥落するだろう。


「萌え神様は、滅びた……」

「……マジカよ。彼女と面識があるのか」

「む、前の集会で会った。素顔はマジで初めて見た」

「そうか……」

「チロン、こんな綺麗な人、初めて見た!」

「……チロン、マジカよ。この鎧を脱がせてほしい」

「……!! ギルマス……」

「なして、ジジイがしない? マジエロガッパ共と違って、ジジイは欲情しないだろう」

「……ふんっ、女性への機微があるという事だ。脱がされる方の事を考えるとな。それに……」

「なんだ、マジな顔して」


 ……ここで何も言わずに帰す事もできないだろう。

 チロンが不安な顔でこちらを見ているが、

 判断は、私が下さなくては。


「……マジカ。この金の鎧は、ドラゴンの物である可能性が高い」

「ま……。………マジでか。なるほど……。おっぱいがおっぱいを探っていたのは、そういうワケだったか……」

「……!」

「??? チロンわかんない」



 ……おっぱい(・・・・)……?

 "オシハ・シナインズ"の事か……?

 この娘の鎧の事は、プレミオムズ達は知っているのか?

 ……いや……。



「……マジカ。例の物資、ドニオスからの"イレギュラーコール"だ」

「──!! ギルマス!?」

「……マジ納得」

緘口令(かんこうれい)()いている。お前にも……」

「ギルマス! いいのですかっ!?」


 チロンが慌てている。

 基本としては、他のプレミオムズにも、

 このような事は言うべきではない。

 彼女の異常な運搬能力の情報が、

 他の街に持って行かれてしまう可能性がある。

 しかし……もう、隠していた顔も見られている。

 それに、この者の魔術的な知識は頼りになる。


「それを踏まえた上で、頼む。マジカ、お前の知識でドラゴンの鎧を脱がせられるか。彼女……アンティが負傷していたら、治療のやり方も相談したい」

「…………」


 マジカは少し黙っていたが、


「……マジカはこの前、クルルカンに飯を奢ってもらった。マジカは、このクルルカンが好きだ。マジで飯はマジ美味かったけど、それだけじゃない。こいつはマジいい奴だ。ウチは、このクルルカンの飯と心がマジ気に入ってる」


「……!」

「……」


 口の悪いこやつが、

 ここまで好意を口にする所を、私は初めて見た。


「ウチは、クルルカンが困るようなことは、マジで絶対言わん。でも、ウチの知識は、アテにならないぞ」

「……それでも頼む。もし"捕食(ほしょく)"のソウルシフトが生きているなら、チロンだけには任せられん。他の職員も、出来れば呼びたくない」

「……わかった。んでも、表情はマジ落ち着いてるように見える。……クルルカンの顔、マジ萌え神殺しだな……」

「や、やってみるのです!」


 マジカとチロンが頷き合い、黄金の鎧に近づいた。

 ……アンティ・クルルの気持ちを考えると、

 男性である私はいない方が良いだろうが、

 ギルドマスターとして、

 このまま立ち去る訳にもいかぬ……。 


「むむ……マジわからん。前も思ったけんども、マジでこの鎧、継ぎ目がない」

「チロンが研修で習った装備の構造の、どれにも当てはまらないのです……コレを作った人は、天才」

「……本当にドラゴンの鎧なのかはわからん。だが、その鎧の内側は、筋組織で覆われているようだ」

「……!! マジか……。クルルカン、マジパネぇ……」

「うう〜〜……、チロン、チンプンカンプン……」


 マジカは少し考えていた。


「マジわからんが……マジックアイテムである鎧は、魔力が減ると防御力が増す(たぐい)の物が(まれ)にある。ウチはユユユと違って回復はマジヘタクソだが、"魔力回復(リチャージ)"はマジすげぇぞ」

「……! なるほど。魔力が回復すれば鎧が僅かにでも緩むかもしれん。やってみてほしい」

「……マジ期待はすんな」


 くるくるくる、ブォン!!


 マジカの(ほうき)が宙を舞い、

 彼女の手に吸い付く様に持たれる。


 ────ファァアア……!!


 足元に、紫の光の線で魔法陣が描かれ出す。


「! わぁぁ……!」

「……流石だな」


 無風の部屋の中で、

 小さな魔女の服が、魔力の奔流になびいている。



『 ────"魔力回復(マナリチャージ)"────!! 』

 


 魔法陣から、紫と白の光の粒が、吹き荒れる。

 これは……範囲回復系か。

 私とチロンまで、魔力の上限値が上乗せされているようだ。

 魔物との戦いでは、彼女がいれば魔素が切れる事は限りなく無いだろう。

 流石、"魔法職(マジナリー)"のプレミオムズといった所だろう。


 魔力の光が収まった。


「……どうだ、マジカよ。何か変化はあっただろうか」

「────!? …………マジ、、、か」

「? どうしたです? マジカさん……」


 マジカはもう一度、箒を構えた。



『 我が親愛なる仲間の、魔素を回復たらしめよ! 』



 ────……!

 詠唱を、破棄しなかった……?



『 ────"魔力回復(マナリチャージ)"────!! 』



 再び、神秘の魔法の光が場を支配する。

 ……しかし、何故……?


 光が再び収まった。

 マジカは立ち尽くしている。


「……どう、した……?」


 こちらを振り向いたマジカは、

 表情が分かりにくい彼女にしても、

 明らかに動揺していた。

 先にチロンに釘を刺しておく。


「……チロン、ここで見た事、聞いた事は、他言無用だぞ」

「わ、わかったですが……」


 チロンも私も、マジカが何を驚いているのか、

 まだ理解していない。


「……三人の秘密だ……」

「……! マジ、だぞ……」


 マジカが口を開く。


「マジわからんけど……クルルカンには……こいつには、魔力がマジで全く無い。ウチの魔法、マジ少しも効いてない。ウチも初めてでわからんけど……たぶん、"魔無し"ってヤツかもしれん」

「────!!」

「そ、そんなはずない! チロンは見た! クルルカンさんは力が強かったり、パッと火をつけたり……いっぱい物を運べたりするっ!!」

「でも、マジで魔力は、全く感知できないぞ……」


 複雑な感情が私に押し寄せる。

 魔力が感知できない、だと……?

 何かの能力は発現しているのに魔力がない。

 その現象を、私はかつて、

 ヒロガーから報告された事があった。


 それでは、まるで。

 あの子のようではないか……。



 ──────ギィン……!



「「「────!」」」


 金属音がした。

 何かが床に落ちた。

 まさか鎧の装甲が、どこか脱落したのか?

 マジカがしゃがんで拾っている。


「……! マジ、かよ……」

「マジカさんっ、どうした──……ッ……!」


 マジカが拾った物を見たチロンが、息をのんだ。



「ふんっ、どうしたというのだ……?」

「ジジイ、見てみろ……」

「……?」


 差し出される。

 何だ? これは……。

 銀色の、破片……?


 手に取り、向きを変えて見てみる。



 ……わかった時の、衝撃は大きかった。





「 ────こッ……、これはッ………!!? 」





 仮面(・・)だ。


 銀の(・・)仮面(・・)の、破片。


 ここに眠っている、彼女の物ではない。


 ここが、目の穴で。


 だから、これが、ツノだ。


 ────────バカな──……。




 あの子の姿が、浮かんでしまった。




「ギルマス……」

「……ジジイ、何が起こっている」




 ここにいる三人、全てが思ったに違いない。


 まるで、絵本の続きの様だと。


 ヒゲイドの伝言が、脳裏に蘇った。




 "絵本の続きに、気をつけろ────"




「……マジカ。ギルドマスターとして、頼みがある」

「……何をだ」

「北の霊峰、ヴァルター山を調べ、ある者を捜索……場合によっては討伐する。王から許可は貰っている。今から冒険者達を募る。その指揮をとってもらいたい」

「──!! ギルマス……?」

「……何を、探し出す……」



 手の中の銀の破片が、こちらを見つめている。 



「わかっているだろう? "狂銀(きょうぎん)"だ────…… 」



(;^ω^)さいしょ、オシハさんとヒキハさん間違えてました(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
[良い点] 止まらない、止められない [気になる点] 前あったプレミオムズによるアンティちゃんの評価で、魔力のところが0ってなってたけど、今初めて魔無しって気づいたっぽいし、料理で火とか使ってるだろう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ