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シルバリオ さーしーえー



「……────」



 いちばんたかいところは、とても、さびしい。



 氷の世界の(いただき)は、自分がひとりぼっちである事を見つめ直させる場所でした。


「────……」


 しゅぅぅう……。


 腕からは、白い煙がユラユラと立ちのぼります。


 体温が、上がってきているのでしょう。


 傷だらけだった体は、何故か治っていました。


 それが、凍っていた流路を修復したのでしょう。


 パ……キキ……。


「…………」


 湯気が出る腕を、氷が包みこもうとします。


 冷やしてくれようとしているのでしょう。


 爪は、とんがっていて、肘も、とんがっていて、


 まるで、鬼のようです。


 白銀の鎖は、くるくると体に巻き付き、


 肌に触れた所からは、氷がふき出しました。


 治療されたせいで、流路は目覚めてしまいましたが、


 心は、しっかりと思考することができました。




(……──何故、"クルルカン"は私を治療したのかな──……)




 黄金の義賊。


 絵本と(たが)わぬ、その姿。


 騎士(ナイト)のようでもあり、


 道化師(ピエロ)のようでもある。


 すべては、気高く、忌々しい、金。


 そして──……あの子に似ていた。


 体の痛みが一時的に消え、


 熱と冷たさの中で、少しだけ取り戻せた心。


 思い出して、しまうのです。



「……──そんなはずない──」



 こんな所に、いるはずがない。


 あの子は、あの小さな街で、


 今も幸せに、暮らしているはず。


 こんな氷まみれの場所に、くるはずがない。



「ははは、ハハハハハ……」



 乾いた笑いが出ます。


 心が狂っていないせいで、


 さびしさを誤魔化すことはできません。


 涙は、凍りませんでした。


 湯気となって、空気に溶けます。



「わたしが(くる)ったぎん、あなたが(きん)義賊(ぎぞく)、ハハハハハ」



 神さまは、いじわるでした。


 あの子の面影を思わせる義賊が、


 さいごに、わたしにあいにきた。



「ははは、ハハハハハ……」



 がんばった、ごほうびですか?


 ここまで生き抜いた、その事への?


 そんなの、いりません。



「わたしは、ほんものにあいたかった……」



 ジャララ……ギィン。


 鎖を鳴らし、両腕を天空に向けて、広げます。


 十の指先は、ツララのよう。


 空からは、シンシンとした雪と、涙を溜めたような雲。


 ああ……ここが私の場所だ。


 

「……もう、どこへも、行けない。でも……」



 黄金のあの子が来た時、私は神さまをうらみました。


 でも、やはり一つだけ、感謝したいのです。


 あの子の金色は、忘れることが出来ません。


 でも、確かに、あんな色でした。


 あんな色で、あんな声でした。


 もし、あの子が私と同じ歳になっていたら、


 あんな女の子になっていたかもしれません。



「……──あの子に、サヨナラが言えて、よかった……」



 たとえ、偽物だとしても。


 私は思い出す。あの、鮮やかな金を────。



「さいごの、心の、自由だ────……」



 落ちてきそうな空を見上げて、私は笑いました。


 両手を広げて、笑いました。


 たぶん、私の力は、もう少ししか、抑えられません。


 程なく、この山は消えてしまうでしょう。



「……──だから、あの絵本の最後のように、

 もう、こないで────」



 ちらつく。


 心に、ちらつく。


 サヨナラの時に、少し、見えた。


 大きな稲妻が落ちて、


 ほんのちょっと、振り向いた。


 雪にのまれる、そのつかの間。



「……──そんなはず、ないんだ──……」



 ──もし、本当にそうなら、


 私は、一緒にいて欲しいと、願ってしまう。


 それだけは、ダメだ。


 狂わなければ。



 ジャララ……ギィン……。



 真っ白な、世界。


 私の願いは、叶っちゃいけない。



挿絵(By みてみん)

「きてほしい──……だから、こないでね……」



 溶けた雫が、二本のツノをつたって、


 涙のように、流れた。





 私の名前は、マイスナ。


 ヒトゴロシにならないように、


 狂うもの。






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