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右手はトモダチ? さーしーえー



 山が、唸る。



 ごぉおおおおおおおおんんん。

 ごぉおおおおおおおおんんん。


 QQUUIIIIIIIIIIIEEEEE─────!!!


 パートリッジの街に響く、雷鳴の音。

 天空より聞こえる、鯨の鳴き声。

 大地が、揺れていた。

 そして、今。


 ギルドの入り口で、

 受付嬢とギルドマスターが、立ち尽くしている。

 山を、空を、見ていた。


「ギルマス……チロンは、世界の終わりを見てるです……?」

「……何が、起こっているのだ……」




 ごぉおおおおおおおおんんん。

 ごぉおおおおおおおおんんん。




「せん、……ぱぃ……!」 

『────そん:な。』


 ピカァァああ… … …!

  ピカァァああ… … …!


 義賊を模した、金の少女。


 白銀の少女が去った後で、

 雷の落ちる雪の大地に、へたり混んでいる。

 ガチガチと震える両腕で、右と、左の破片を拾い上げる。


 クルルカンの仮面は、壊れたのだ。


「や、だ、ぁ……」

『────:……。』

 

 "呪いの仮面"として、出会った。

 青年の魂が宿っていた。

 黄金の義賊クルルカン、"オウノ カネトキ"。

 最初は(わずら)わしく思ったかもしれない。

 でも、今は────。


『────……アンティ……お願いが:あります。』

「──っ、ぅ、ん……?」


 金の王冠は、金の少女に懇願する。

 それは、スキルに生まれたココロ。

 彼がいた事で、育っていった想い。


『────破砕した仮面から:カネトの記憶情報を"抽出"したいのです。』

「っ!! そんな事が、できるのっ……!?」

『────しかし:私のアナライズカードを利用した流路接続では:回線速度に限界があるのです……。』

「ど、どうすればいいのっ……!」

『────アンティ……:あなたの身体(ボディ)を、貸してください……。』

「……!!」


 王冠の懇願は、

 仮面を大切に想う気持ちを察するには、余りある。

 少女は、主として、相棒として、快諾する。


「いいよ……! 私のカラダの流路、好きに使って……! それで、先輩が助かるのなら……!」

『────! :しかしアンティ……それには:あなたの身体(ボディ)に相応の負担が……。』

「──いいから!! はやく、やってッッ!!!」

『────……ありがとう……。』



 ── LOG IN ▼



「……───ぅぁっ……!?」


 ぐら……。


 金の少女を、目眩のようなモノが襲う。

 スキルの心を、受け入れるということ。

 雷鳴が響く中、金の瞳は、閉じられる。

 ──再びその瞳が、開けられた時には。


「────アンティ・キティラへの:ログインに成功。

 ────……カネト:逝かせはしません──。」


 黄金の瞳は、(ほの)かな真紅に染まっていた。


 二つの欠片に別れた金の仮面からは、

 魂が抜けていくように、光の粒子が立ち登っている。

 急がなくてはならない。


「────デバイス構成。

 ────頭髪部:流路ケーブルによる有線接続。」


 サラァァァァァ────……!


 王の宿りし少女の髪は、光り輝き、展開する。

 酷く割れた仮面の破片を、優しく包むように。


「────記憶流路検出……判定。

 ────"抽出開始(エクストラクション)"。」


 ────ぃぃぃいいん……!


 仮面より、情報が光となって吸い上げられる。

 金の髪を通り、頭脳に、そして体内、

 無限の空間へと浸透していく。


 ────ERROR!▼

 ────ERROR!▼

 ────ERROR!▼


「────くっ──:ぐ……。」


 スキルが宿りし少女の顔が、歪む。

 人格のデータを抽出するという事。

 受け入れ先となる場所の、容量は無限。

 しかし、心を受け止めるデバイスが組み上がっている訳ではなかった。

 無限の容量に、彼の人格は霧散する。

 急かすように、また、雷が機嫌を損ねた。


 ゴロゴロ……ゴロゴロォォオ……!


「────ぐ:ぐ、急がな:---くては……。」


 雷鳴が収まっているわけではなく、ここは危険だ。

 しかし、今も破砕した仮面からは、彼の人格の崩壊が進んでいる。はやく全てを抽出をしなければ、手遅れだ。

 早急に、彼の人格の"受け皿"となるモノが必要だった。


「────ぅ:ぐ……。新しく:カネトの人格を受容するデバイスを組む暇など:ない……。"記憶(メモリー)"のウツワとなる存在が:何か……:あ……。」


 王の少女は、思いつく。

 自身の持つ、可能性を。


「────アンティも:カネトも……私には心があると:言ってくれた……。」


 自分の中に、"ココロのウツワ"が、あるのではないか?


「────……。」


 残された時は少ない。

 王の少女は、決断する。


「────……カネト:

 ────私があなたを:受け止めてさしあげます──……。」


 彼女は、自分のココロと、

 彼のココロを混ぜることにした。


「────:"password"入力。

 ────[*******]。

 ────ごく:り……。」


 ────Enter▼


「────ぐ、ぅぅぅっ:────!!?」




    loading…

 ■■■




「────ぁ:ぁ:ぁ──────。」



 まざる。

 まざる。

 まざる。


 心に、受け止める。

 少女の額に、玉の汗が浮かぶ。

 魂が、無限の中に溶け込まぬよう、

 彼を、受け入れ続ける────。




    loading…

 ■■■■


 ───WARNING▼

 ───容+¥’$!量が"$&不足;33ていま:す▼




「────くぁ:あ:ぁ……足りな---ぃ?……。

 ────そん:な、何故---……。

 ────私の"時限結晶(アイテムストレージ)"は:無限:なのに……。」


 "生命"のデータに、賢者の石は反発する。

 彼のココロは、無限の空間の海に、漏れだしている。

 このままでは、ダメだ。

 スキルは、心より祈った。


「────お願い:お願いします──……。

 ────彼を:救いたい──……。

 ────アンティと共に来て:私は理解した──。

 ────私たちの可能性は:無限大だと──……。」


 両手を組み、巫女のように。

 彼女は彼のために、祈った。


 それは純粋な、心からの、祈り。



「────お願い……:神と言う概念があるなら:

 ────それでもいい……。

 ────私に:チカラを──────。」









 ……。



 ……。



 ─────、、、。



 ヴォ…………。



 ヴォ、ォ、ォ、ゥ、ゥ、オオオオオンンン……!




 ──────Pi:Pi.




 ────"SUNDAY"サーバーが起動しました▼

 ────オーダーを受理▼

 ────インストールを受け入れます▼


 ────"WEDNESDAY"サーバーが補佐に入りました▼

 ────"THURSDAY"サーバーが補佐に入りました▼

 ────"FRIDAY"サーバーが補佐に入りました▼



 ぱぁ……! ぃぃいいん…………!



「────:……な:ん……?……。」



 彼女の視界に受信された、謎のメッセージ。

 仮面に繋がる髪に、変化が起きる。



 ──キュゥゥ:ォォォオオオオンンン────……!



「────:……!!

 ────回線速度が:上昇し:た……?……。」



 わからない。

 彼女自身にも、わからない。

 わかるのは、希望が見えたということ。


「────やり:ました……。」


 笑みが、こぼれる。

 紅い瞳の、黄金の微笑み。


「────……カネト。まだ早い:早いのです──。

 ────まだ私に:付き合ってもらいますよ……!……。」



 仮面は淡く光り、格納される。

 金の肉体から、力が抜けた。



   completed▼

 ■■■■■■■■■■■■■■



 ────"インストール"が完了しました▼

 ────:一部:ファイルに欠損データを確認▼

 ────待機モードに移行します・・・▼





 ──────。





「………、………はっ!? ぐ、ぉぇっ……!」


 金の少女の、意識が戻る。

 吐き気。


「お、ぇぁ……ぅぇえッ……!」


 ドチャ、ァ……!

 

 雪に倒れる。

 高速の魂の通信は、彼女の全身の流路に、ダメージを蓄積していた。

 素顔の頬と、耳と髪に、雪がこびり付く。


「ぅ……、はぅ……。クラヴ、ン……どぅ……? うまく、いった……?」


 無音。


「……? ク、ラウン……? なん、で、何も言わないの……?」


 無音。

 吐き気に耐えながら、金の少女は異常に気づく。


「っ!? ……ぅ、ぇぇ……。く、くらうんっ……せんぱぃ!? ふぅぁ……、ふたりともっ! へ……返事、してっ……!」


 無音。

 否。

 吹雪。

 雷鳴。


「……はっ……はっ……! ……しっぱい、した……? うあぁ! くらうんんんっ! せんぱああぃぃ! やぁぁ……! く、クにゃウンは……!? ねぇ、きいてる……!?」


 雪は、音を響かせない。


「なん、で……サキぃ……! ダイさん……! だれかぁ……」


 身体の反応は、鈍い。

 上半身を起こそうと、少女は腕に力を入れる。

 痙攣。

 黄金のヨロイは、まるで持ち上がらない。


「〜〜〜〜……! っくぁ、はっ、はっ、はっ……! やだ……イニィさん!? ガルン!! なんでっ……」


 ヒュォォオオオオオオオ────……。


 光を失った黄金の髪が、冷たい風になびく。

 金に雪が積もり、輝きが隠れ始めている。


 雷鳴。


 ゴロ、ゴロ……ッッ!

 ピカッ……──ゴゴゴゥゥン!!

 ごぉおおおおおおおおおんんんん!!!


 金の少女は、辛うじて手を、天にかざした。

 ────ただ、それだけ。


「……うぇ、ぇッ……はぐるまが、でなぃ……! そんな……! さむぃ……だれか……」


 這う。

 這えない。

 涙。


「……────ひとりは、いやだぁ……!」


 





『──ギャウ?』


「えっ」







 ──ガチャンコ。



『…………』


「……」



 キョロ、キョロキョロ。


 ……。



『…………ギャウギャウ?』


「……ぁにあんた……?」





 ドラゴンの顔に(・・・・・・・)変形した右手(・・・・・・)と、目が合った。


挿絵(By みてみん)

『ギャウ〜〜』

 

「もぅやだお家かえる」








(´・ω・`)……。

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