片想いブースター
一言だけ言っておこう……。
小説で、顔文字つかっちゃメッ(´◉ω◉`)。
↑てめぇだ
「IA……IA……──IIIERRLLLDDDYYYYYYYYYYYY────!!!!!」
「……っ!」
憎んでいる。
怖れている。
憤っている。
惨めに、
悩んで、
怯えて。
ガガッ……──────ギンッッッ!!
狂銀の仮面は、花開いた。
次の瞬間、掻き消える姿。
尾を引く銀の髪の、僅かな光。
『────ジクザグギア内部に:流路構成。
────歯車デバイス:試作構築。
────体内流路束に:仮接続完了。
────"重廻機構":起動します。』
─────ィィィゥゥゥン──……!!
私の二の腕と、太もも。
その左右両方にある大きな輪のような装甲の内部から、
滑らかに回転する振動が伝わってくる。
四つの回転に持ち上げられ、身体が浮く。
ブーツが離れてすぐ、立っていた場所から槍のような氷が生えた。
かまわず浮遊する。
この土壇場で、
私は遂に重力を自由に操るデバイスを得る。
『>>>重力ベクトルだけじゃダメだ。いじるよ』
バシュっ!! ガチャ……!
身体中のあらゆる所の装甲が展開し、
金の隙間から、内部の赤い筋組織が見える。
バッグ歯車で構築された"推進機構"が、
いたる所に組み込まれる。
ピピ……ピピピッ──!
『────流路高速回線で:
────新型推進機構のマニュアル:転送中……。』
『>>>いま、左の奥に見えた! こっちの様子を伺ってる!』
わかる……これは"ブースター"だ。
両足の裏側、裂けたようなヨロイの割れ目から出る。
熱された空気と、光のフレア。
パァァァ、ァァアア────……ォンッ!!!
高度が上がる。
周りは、氷の槍の森。
太い木のような氷たちの隙間に、
あの狂った仮面がチラリと見える。
横に……移動してる。
この氷柱たちに、次々に鎖を放って、
自分の体を引っ張っているんだ。
ギギギギギギンンッッッ────!!
鎖が付いたランスのような氷柱が飛んできた。
左肩のブースターが火を噴く。
避けた時、高度が落ちる。
追撃が無数にくる。
ここには障害物がない。
高度を上げるまでに、やられる。
下に逃げるしかない。
上向きの、フレア。
巨大な氷柱を一本、蹴り崩し、
方向を変えてから、違う氷柱の横側に両手両足を使い、着地する。
既に"ベアークラッチ"は展開している。
虚ろな瞳で、全てを見た。
森の上から、複数の槍が飛来する。
孤を描くあの鎖も、触れば危ないのだろう。
───ギギギギギギギィィィィォォオオンンン!!!
「ち」
地面から無数に生える足場と、ヨロイのブーストを駆使して方向をデタラメに変えながら回避する。
避ける度に、ヨロイの亀裂が光った。
空気に混ざる氷のダストが、その光を反射した。
振動と吹き飛ぶ景色の中、相棒の声が聞こえる。
『────アナライズスキャン:不可能判定。
────対象の捕捉に失敗。
────空中散布している結晶体粒子に起因する。
────逃走を推奨。』
むちゃ言うな。
ほら、氷の柱の隙間の向こう。
飛ぶみたいに、銀の鎖が迸る。
私の周りを、ぐるぐる回ってるわ。
瞬間的に速度をあげて振り切る?
でも、私が帰るのは下の街しかない。
逃げたらあの子、降りてきちゃうよ。
ギギギギギギギンンン──!!
「──ぎ……」
ギリギリと噛み締めながら、
氷の鎖槍たちと共に、踊る。
涙を出しているヒマがない。
もしくは、吹き飛んでいる。
────ギギン──ッッッ!!
灰色の杭が飛んできた。
ふたつ。
これには鎖がない。
速さを殺さないためだ。
"反射速度"を発動し、
目をかっぴらいて、回避行動に移る。
視界には、ブースト中の推力値計算と、
真っ黒になりつつある二本の杭が映る。
殺意のような、サンダーを帯びている。
─────ャャャャァアアンン!!!
「く……!」
私の2つの髪の間を、通り抜ける。
空中を側転するように、体勢を立て直す。
木に刺さった。
パァン! という音がして光ったかと思うと、
木が、ゆっくりと倒れ出す。
『────逃走を推奨。』
どうしろってんのよ……。
あの子、ゼッタイ私を探しにくるわよ。
なんでなの。
なんで、こんなことに……。
『>>>ダメージを与えて、足止めしてもいい』
ふざけんな。
……ふざけんな。
私はあの子を攻撃したくない。
『>>>後ろだ!!』
「──!!」
ォオ……!
銀の仮面と、大きな氷の腕。
爪の全ては、刀。
切っ先には、暗黒と、光。
「 IA…… 」
「 ──〜〜!!!! 」
攻撃したくはない。
でも、今はしないと、死ぬ。
私の中の感覚が、それを訴えた。
爪が私に届く前に、歯車を纏う拳を、突く。
孤を描く爪より、私の真っ直ぐな回転の方が速かった。
……ぎゅうううううんんんん!!!
「──AA……!」
「──ッッ!?」
なんで避けないっ!?
回避してよッッ!!
『>>>仮面を狙えッッ──!!』
「っ!! くっ……」
無理やり拳の軌道を変え、
銀の仮面の向かって左を狙う。
ここしか、ない。
他の所だと、肉を削ってしまぅっっ!
────ぅぅうんん──ッッ!!
「くぅ……!」
「GIA……!」
銀の仮面の強度を信じながら、
私の命惜しさに、叩き込む。
──ギ・ギ・ギヤァァアアンンンッッッ……!!!
恐ろしい音がした。
何かの、破片が飛び散る。
爪の刃は、届かなかった。
炎が銀を巻き込まないように、
光のフレアで、後ろに飛ぶ。
バリィィイインン……!!!
「くぅぅううッッ……!!!」
小さな氷の槍を削りながら、
片手と両足で、着地した。
もうひとつの片手は、目の前の銀に突き出す。
こわい。
「はぁっ……はあっ……はぅ……」
『────対象:仮面部に接触攻撃。
────中破を確認。』
『>>>……さっき試そうと迷ってたのは、コレだ。仮面を剥がせば、あの子は正気に戻るんじゃないか?』
「……! うぅ、でもそれって顔を……!」
それは、あの子の顔を攻撃するってことでしょ!?
歯車の回転の怖さを一番知っているのは、私だ……!
離れた所に、あの子も着地している。
「III……UUUU……」
私が攻撃した所を、大きな腕で隠してる……!
『────逃走を。』
『>>>待つんだ、まだ動きを充分に止めたか、わからない。背中は向けるな』
「……、……」
同年代の女の子を、攻撃してしまった罪悪感。
そして、確かに襲われているという、恐怖心。
「ね、ねぇ……大丈夫……?」
『────アンティ。』
『>>>やめろ、今はダメだ!』
こんなことしたくない。
話し合って、解決できるならいい……!
今までだって、そうしてきた。
そりゃ、魔物はぶっ飛ばしてきたけど、
この子は、人間だ。
学校でも皆と散々ケンカして、
追いかけっこにはなったけど、
こんな事になるなんて、1回もなかった……!
ダメだよ。ね?
友だちに、なろう……?
「ねぇ、あなた……」
「……ヤッパリ・テキキキギギギギギギギ……」
「……ゃあ」
隠れていない片方の仮面の目が、
ぐにゃりぐにゃりと歪む。
……ちがう、ちがうっっ!
「そ、そりゃ……殴ったけど! だって……! あなたもしてきたでしょう……!?」
「……ウゥゥ……ナンデ……ナンデ……カミサマ……っ!」
キュゥゥゥゥンン────……!
「っ!」
自分のヨロイからした回転音に、ビクッとする。
『────"重廻機構":
────及び:多重層フレアブースター:全基冷却完了。
────離脱行動を:選択してください。』
『>>>やはり、仮面を削ると正気に近づくのか……? いや、でも……』
「クラウン、ヒールスライムを用意して」
『────……。』
『>>>アンティ、今は……』
「うるさいっっ!!」
怪我をした子を治療して、なにが悪い!
近づく。
キン……キン……。
「ねぇ、痛かった……? ごめん……治すから、傷を見せて……」
「……」
反応がない。
片腕で顔を覆ったまま、固まっている。
さらに、接近する。
ゴリゴリと、ブーツと氷が鳴る。
ゴリッ、ガッ……ガッ……キン……。
「ねぇ……」
「オシエテヨ、クルルカン……」
「……!」
「ナンデ、セカイハ、ミンナワタシをコロそウトスルノ……?」
「──!!」
泣きそうな、声。
そうじゃない。
そうじゃないよぉ。
「そ、んなこと──……!」
「……アナタモ、ナノね────……」
大きな銀の腕が、下ろされた───。
顔が、見えた。
声を、呑む。
「 ……!? 」
「ユルサナイ……ミンナ、ユ"ル"サ"ナ"イ"ィィイ"イ"イ"…………ッッ! 」
……。
…………?
───え?
───ぁぁ、
………………え!?
………え……?
あ、………ぁ、
ぁぁ、あ。
うそだ。
「 ユル、サナイ……ゼンブぅ……!! 」
ギン……!
『────対象:接近を開始。』
『>>>くそっ! ダメだ、アンティ! 街のことはとりあえず後っ! クラウンの言う通り、逃げようっ! ……おい、アンティ! ……? ……こう、はいちゃん……?』
「ああぁ、……ぁぁ、あああああ……!」
『────:どうしたのですか。』
『>>>おい、どうした後輩ちゃん……ぉい、おい!?』
ギンッ……!
「ユルサ、ナイ……」
「ああああああ、ああぁぁぁああっ、ウソだ……ぁ……!」
髪の色が違う。
使う技が違う。
話す声が違う……!
でも、でもでもでも……!
そんな…………!
ぐら、り。
キィん……!
倒れそうな自分を、何とか支える。
う、そ……だ、う、そだ……やめてよ、神様ぁ……っ!
「ユルサ、ナイィァア……!!」
ギン……! ギンッ……!
片方のツノが折れた狂銀が、こっちへくる。
氷が、電気を帯びる。
気づくべきだったんだ。
何かがおかしいと。
そう、私は。
このイナズマの色を、知ってる……!
淡い"紫"の電撃──……ッ!
知っているのよ……!
四年も、前から────!!
「ね、ねぇ、や、やめよ……? ちがう、私はあなたの敵じゃない……!!」
「テキ……ワタシノ……テキ……」
手を広く。
敵意などない。
銀はくる。
敵意しかない。
『────アンティ:アンティダメです。後退を。』
『>>>どうしたっ!? やめろ、止まれ危険だ!!』
キン……キン……。
ギン……ギン……。
「違う……ちがう!!! わたし、ずっとあなたに、会いたかった……!!」
「アイタクナカッタ……オマエナンカニ……」
雪。
氷。
光。
涙。
声。
夢。
対。
「わ……たし、だよ……覚えてる……? わたし、だよっ……!!」
「────IIIIIIIIAAAAAAAAA……!!」
剥がれた仮面の下の彼女は、
白目が、黒くなっている。
瞳だけが、ギラギラと銀に輝く。
でも、同じだ。
焼き付いている。
私には、わかるんだ。
ギン……キン……ギン……キン……。
わたしは、泣いていた。
あの子も、泣いていた。
「あなたはっ……! 私が憧れた、初めての人……っ!!」
「オマエハァ……ワタシノコロス、ハジメテノヒト……ッ!!」
ギ、キン……。
とまる。
「 オマエナンカ、イラナイィィィィイイっっ……!! 」
「やめてぇ……」
襲ってくる。
襲ってくる。
襲ってくる。
「 なんでよぉおおお……ッ! "紫電"んんんんんんんうぅぅ────ッッッ!!!!! 」
─────ォォォォオオッッッ!!!
ギギギギギギギィィィィイインンンンンンッッッ!!!
キイイィゥゥウオオオオオオンンンンンンッッッ!!!
会えた。
私の、憧れの人。