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神様のごほうび

(*´•ו`*)くりゃい



 氷に。


 反射する、光。

 



「  ────…………、。 」




 仮面が顔の一部になって、


 初めて、意識が戻りました。


 いつもの床の、鏡石の前。



 ……ぐ、ら……。



「 ──、……ぁ 」



 夢、の中のように。


 頭の中に、モヤがかかったような。


 でも、わかります。


 たぶん、こっちが現実なんです。


 お腹が、減っています。



「とんかつ、食べたい……」



 自分でポツリと言って、驚きました。



「すごい。ちゃんと、しゃべれる……」



 束の間の正気は、


 まるで、神様からの贈り物のようでした。



 ギンッ、ジャリリ……。



 誰もいない屋敷の中を、


 足を擦るように歩きます。


 私の足の裏は、もう凍っています。


 屋敷の床の、砂利や破片が痛くないのはいい。


 所々、もう感覚はないけれど。


 ここに来てから、どれくらい経ったのでしょう。


 雪と氷に壊された屋敷の中。


 それらが少しだけ、光をはじき返し、


 私を照らしました。




 たぶん、13歳の時。


 私は、私のチカラを、


 抑えることが出来なくなりました。 


 私を中心に、砂と光になっていきました。


 薄れる意識の中で、


 誰かが私を運び、逃がしました。


 私は、苦痛に足掻きながら、隠された道を行きました。


 私自身のチカラで崩壊していく道を登るのは、


 とても大変なことでした。


 道の角度と広さを変えながら、


 何とか登りきった私は、


 一面が銀の世界に、足を踏み入れました。


 絶望が私を襲いました。


 ここは、恐ろしく高い山でした。


 何故かチカラは弱まり、地面に逃げていきます。


 雪の海と私が、繋がっているようでした。


 ただし、私の服は当然、分解されていました。


 チカラが収まると同時に、恐ろしい寒さを感じました。


 余りの寒さに、


 もう、手で体を擦ることもしませんでした。


 ここで、からだも、こころも、凍るんだ。


 あきらめようと思いました。


 でも、その時。


 雪がふわりとやみ、


 夕焼けが、見えたのです。


 それは、今まで見た中で、


 一番、綺麗な景色でした。


 銀を黄金に染める光を見て、私は思い出したのです。


 あの子の瞳と、髪の色を。


 あの、真っ直ぐな笑顔を。



「……どこかで、あの子も、生きてる」



 そうだ。


 生きてる。


 私も、あの子も、どこかで。


 名前も知らない、輝くあの子。


 この世界は、繋がっている────。


 それだけが、私の気力の全てでした。 



「生き……なきゃ」



 ただ、ただ、何も無い私は、歩きました。


 山の天気はすぐ変わり、


 また雪が降り出しました。


 凍えが体に突き刺さりながら、


 私は、この半壊した屋敷を見つけました。


 ロビーに鏡のような岩が落ちた、


 貴族様が住むような、屋敷でした。





「────………」



 ギン、ギリリ……、


 ギン、ギリリ……、


 ジャララァ……。



 私の腕やら体やらから、


 たくさんの鎖が伸びています。


 氷の足音と、混ざりました。



「 ………── 」



 少しだけ、腕の鎖が(わずら)わしい。


 長さを計ろうと、私は腕を上げました。


 目の前に、鎖を投げようと思ったのです。



 シュ……がァァァあああんんん!!!



「……ぁ、……」


 

 目の前の壁が壊れて、ビックリしました。


 腕……銀の牙のような爪を使って、


 ジャラジャラと鎖を手繰(たぐ)り寄せると、


 鎖の先に、三日月型の鎌のような氷が付いています。


 どうやら私が、壁を攻撃してしまったようでした。


 壁の断面から、砂と光が出ます。



「……私、バケモノになっちゃったな……」



 ジャラジャラと鎖たちを引きずりながら、


 鏡石の前に戻ることにしました。


「……」




 ここに来て、しばらくは、


 私のチカラは抑えられていました。


 私は屋敷のわずかな本を読もうとしたり、


 ボロ布を繋ごうとしたり、


 何かを作ってみようとしたりしました。


 でも、ここは銀に閉じ込められた屋敷でした。


 新しい何かなど、生まれはしませんでした。


 私は冬眠している魔物を殺したり、


 根を掘り起こしたり、


 何とか調整できるチカラで、火を付けたりして、


 何とか暮らしました。


 人の生活ではありませんでした。


 しばらくして、


 やはりチカラが大きくなっていくのを、


 私は毎夜、震えながら感じました。


 ある日、手に取った本のページが、


 砂と光になりました。


 私も、いつかあんなふうに、


 ひとりぼっちで、砂と光になるのか、と。


 死にたくないと思いました。


 体が、日に日に熱くなっていって。


 私は、泣きながら雪の上を歩きました。


 死にたくない、死にたくないと、叫びました。


 すると、神様が聞いていたのか、


 雪の中から、私の体に鎖が巻きついたのです。


 私はビックリして、転びました。


 雪の中で、冷たい鎖は、私の体を冷やしました。


 それが、鎖さんとの出会いでした。


 私は、冷えていく体を感じて、ほっとしました。


 まだ、チカラは抑えられるのだと。


 白い鎖の冷たさは、少し私の体調を崩しましたが、


 砂と光になるよりは、ずっとマシな事でした。


 鎖さんと出会ったことで、


 私は、少しずつ雪の中を歩けるようになりました。


 この頃から、雪山で暮らす魔物たちの気配を、


 雪の地面から感じる事ができるようになりました。


 狩りに困ることは少なくなり、


 食べるものが増えた私は、行動範囲が広くなりました。


 私は、思い切って、山を降りる事にしました。


 あれだけ高いと思っていた山は、


 歩きだすと、すぐにふもとが近づきました。


 たぶん、鎖さんのお陰です。


 だって、足元が凍るもの。


 でも、通った所がトゲトゲになるのは困りました。


 生き物の気配を感じました。


 食べられるでしょうか。


 森を抜けると、子供たちが遊んでいました。


 本当に、久しぶりに見る人間でした。


 まるで、別世界に来たようでした。


 とても、嬉しくなりました。


 でも、私が側に行くワケにはいきません。


 鎖さんが私のチカラを凍らせている今でも、


 たまに、触った物は、砂と光になりました。


 私は、人殺しにはなりたくありません。


 雪山の生活に慣れはじめた私にとって、


 あの屋敷だけが、最後の砦でした。


 しゃべりかけたいけど、怖い。


 触られたら、どうしよう。


 ついてきたら、どうしよう。


 あの場所がバレたら、どうしよう。


 もう、暗くなります。


 私も、そろそろ屋敷に帰らないと……。


 そして私は、とてもいい事を思いついたのです。


 私は、辺りが薄暗くなるのを待って、


 木の影から、少しだけ顔を出して……。



「 ア、ブ、ナ、イ、ヨ……? 」


「「──えっ!? う、うわぁああああ!!! 」」



 私は子供たちを脅かし、久しぶりに笑いました。


 これで、あの子供は暗くなる前に家に帰れる。


 私は、人に話しかけられる。


 そして、森の奥の屋敷から、遠ざける事ができる。


 いい事尽くめでした。


 この山に続く森に子供たちが入ると、


 何故か、どんなに離れていても感じ取れました。


 私はたまに、中々家に帰らない子供を、


 脅かす遊びを楽しみました。


 何度も、何度も、脅かしました。


 その日の夜だけは、感情が戻って、


 泣いて、笑うことができました。


 ……。


 そんな事をしてたから、


 バチが当たったのかも、しれないな────……。




 ジャリ…………。


 鏡石。


 この屋敷の真ん中にある、鏡のような、大きな岩。


 目の前に立っているのは、二つツノの、銀の鬼。



「……は、は。絵本のとお、リ……」



 体中に、花が咲いていた。


 氷の、花。


 私の肉を凍らせながら、綺麗に。



「 ……」




 あの絵本の中で、かの敵役(かたきやく)の正体は語られない。


 だが、身に纏う鎖から、奴隷か罪人だと言われている。


 彼の体には、真っ白な花が咲いている。


 白い、氷の結晶だ。


 それは、まるで弔花。


 死者を送る、慰めの花。


 それを体中に咲かせ、尚、狂いながら歩く死者。


 そして、彼に彼は、会いに行くのだ。





 黄金の義賊、クルルカン。


 狂銀、オクセンフェルト。





 私がなったのは、銀だった。




「 ─── 」




 ……────ザシュッ!!


 ギィィィイイインンンッッ……!!



 鏡の中の狂銀(・・・・・・)が、自分を殺そうとした。


 大きな氷ノ爪で、頭を貫こうとしたのだ。


 大きな腕に、白い鎖が、絡まった。



「……あはは、いつも、守ってくレるね」



 私が自分を殺そうとすると、


 いつも鎖さんに邪魔される。


 困ったなぁ。



「だめ、だよ……わカるデショ」



 心を、落ち着かせる。


 こんなに、正気を保っていられるのは、


 たぶん、今だけだ。



「……殺さなキャ、いけない」



 もう、私のチカラは、


 鎖さんだけじゃ、凍らせられない。


 それに、心のほうも────……、



 ゲッッ……、 ……──、──……ャ。



 床に、戻した。


 何も食べていなかったからなのか、


 透明の液体が、ぶちまけられる。


 喉が、熱い。


 ははは。


 私の心は、もうダメだ。


 理性を、手放そうとしてるんだ。



私は、誰も(ドウシテ、)憎んでない(ワタシダケ)



 ちがう。



これは、仕(カミサマナ)方が無いんだ(ンテ、シンジャエ)



 ちがう。



私は、狂(ミンナニ)銀にはならない(ワカラセテヤル)



 ちがう、あちがう、ちが、チガ、ちがちがちがちが、ちがうちがう、ちがう、ちちちがう、チガウチガウちガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ



「チガッヴ!! チガウチガウ、憎くナイッッ!! チガウ!! コロサナイ!! チガウ!! チガヴ!! ミンナ、コロサナイ!! チガワナイ!! コロサナイ!! うあっ、あっあっ、ああっ、あああ、あああ……!」




 はあっ……!


 はぁっ……!


 はあっ……!



 こころを持ってかれたら、ダメだ。


 私の中に、確かに、自分を呪う自分がいる。


 私のチカラで、壊れかけているココロが。


 もう。



「──わかル、デショ。私が、誰カをコロすマエに……」



 ジャラ……。



「──私は、ワタシを、殺さなきゃ……   」





 これが、サイゴの機会だ。


 この正気は、神様のごほうびだ。


 鏡の中の狂銀に、


 さよならの、キスをした。






 登れ。


 登れ。


 登れ。


 銀のセカイを登れ。


 ヤマの、テッペンに行くんだ。


 私が、憎しみで壊れないうちに。


 壊れても、雪に埋まって、下の街に行かないように。


 凍らせなければ。


 私を、凍らセロ。


 鎖さん、私に付き合ってくレルよね?


 私ヲ、コロサセなかッタもんね?


 ね?


 ね?


 ハハ。




 ……ぐら……。





"! ぁ、ありがとうっっ!! あなた、すごいのねっっ!!"


"……っ! ──……"


"私と同じくらいなのに、あんな風に、みんなを助けちゃうなんて、すごいわっ!"


"う、うん──"


"ありがとう。あなたが来てくれて、よかった──……"


"はい──……"






「会いたいよぅ……」



 ダメだ!!


 登れ!!


 立て!!


 立て!!


 登れ!!


 登るんだ!!


 私を凍らせろ!!



「ヒトゴロしには、ナラナイぞ……、……!」



 私は、とんがった氷を踏みしめながら、


 空を覆う、雲を見た。


 上も、下も、白だ。


 まっしろだ。


 その時────。





  QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!


    QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!




「 …………────! 」




 空が、光った。


 目を見開く。


 ……── かみ、さま ────……?




    QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!


   QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!




 またたき、うなり、ひかる。


 これは、なんだろう。


 誰かが、泣いている。


 これは、物語?


 私は、神様の声を聞いているの?


 カミサマは、ワタシを、見捨てなかったのかな。


 天を、見上げる。



  QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!


  QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!




 ……。


 もし。


 神様が、ほんとうにいるのなら────……。





「 イキタイ…… 」




 ひかった。




 バリりりぃぃィィィイイッッ─────!!

 ビビ、バチチチチチチチッッ─────!!



 私のチカラのような光が落ち、


 氷の大地と、私を撫でた。


 今は銀になった髪が光り、


 私は、大地と繋がった。



 そして、感じる。




「 ……、──……! 」




 感じる。


 なんだろう。


 これは、なんだろう。


 この感じは?


 うしろ?


 こんな所。


 そんな、はずない。


 おかしい。


 とうとう、私は狂ったの?



「……」



 登る足は、止まる。


 振り返らないと思っていたのに、


 振り返ってしまう。


 私が歩いた後。


 氷が天を刺す、地獄のような道。


 こんな所に、くるわけがない。


 でも、感じる。


 止まり、銀の瞳で、見た。





 ……────。




 ……──。




 ……。





 ───ィイン。








「 ウソだ 」







 そして、その姿(・・・)が、何か、わかった時。




 私は、思った。









  (カミ) (サマ) ナ ン テ 、 (キラ) イ ダ 。 

 






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