天空受信
あちゃぱぁぁあああ!!!
二巻の発売日、9月に延びてるぅぅう!!!
これはもう、うさ丸のぬいぐるみを誰かが縫ってくれると祈るしかない
∩ ∩
(-人-)にょ〜〜むぅ〜〜
↑支離滅裂の例
シンシンと雪が降っているのに、
身体は、カッカと熱かった。
雪をどけ、地面の穴から出る。
ここは……斜面だわ。
山、なんだろうか。
これ以上ブーツが雪に沈まないように、
クラウンが足場を作ってくれた。
ギリリと、氷ごと歯車を踏みながら、
下を見る。
高い。こんな所に繋がっていたの。
私の目には景色と共に、
座標を示す文字情報が、次々と更新されていく。
網の目状の光の線が、地形に沿って表示された。
『────アナライズスキャン:最大望遠です。』
ふもとに、パートリッジの街らしきものが、
辛うじて見えた。
真っ白で、クラウンがいなかったら、
絶対にわからなかったと思う。
それは、いい。
問題は、あの子が。
この山の、どこに向かったか。
「わかる?」
『────ここより:斜面距離を100メルトルテほど降った箇所に:建築物を発見。半壊しています。』
「人が住める状態?」
『────生体反応分析は:接近を推奨。』
『>>>後輩ちゃん、マーカーの方を見て……あれか。お屋敷、って感じの造形だ。いくつか部屋は無事かもしれない』
……。
……山を降りて、あの屋敷に向かった方がいいのかな。
おりる
▼おりない
「…………」
少し、立ち止まって、
考えてしまった。
二年前。
あの記録にあった女の子は、
私と同じ場所に立ったのだ。
たぶん、チカラは暴走して、
誰にも、知られないように。
ここから、見た。
たぶん、街があるであろう方向を。
白に隠された、すべてを。
胸が、熱く、くるしくなった。
こんな、ところに……。
「……あそこ、だよね……。行ってみよう」
山を降った所にあるという、お屋敷。
そこに向かおうと────。
QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!
QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!
天空より聞こえし、声。
鳴き声。
白の大地に、響く。
『────分析中・・・。』
『>>>音源は空からだぞ!? これは……!』
QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!
QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!
『>>>……クジ、ラ……?』
『────詳細不明。複数個体有と推測。』
クジラ。
何かを飲み込むような、
神様が唸ったような、そんな音。
私みたいな田舎っぺ食堂娘が、
海の魔物の声なんて、知らない。
でも、先輩の記憶の一部をダウンロードされたせいか、
私には、それが、よくわかった。
そう。クジラ、よ。
空の上に、いるんだわ。
「上、なんだ……」
『────! ……。』
『>>>お、おい、後輩ちゃん?』
ザッ、と踏み出し、登り出す。
「……下じゃ、ない。上なんだ。上に、いかなければならない」
『────……?:アンティ……。』
『>>>どうした、後輩ちゃん! 何を言ってる!?』
近くの二人の声が、まるでアタマに入らない。
呼んでるんだ────。
QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!
QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!
イナズマのようなものが、走った────。
バリりりぃぃィィィイイッッ─────!!
ビビ、バチチチチチチチッッ─────!!
『────!!。』
『>>>アンティ──ッッ!?』
光の電流が、雲の上から、
雪の表面と、私を撫でる。
私は、動じない。
『>>>大丈夫かッッ!?』
『────損傷:無。
────放電系ではありません。
────流路束放射と判定。』
『>>>バカなッッ!? あの発光密度だぞ!?』
「呼んでる……」
QUIEEEEE──────i─i─i…!…!……!
QUIEEEEEE─────i─i─i…!…!……!
雲の上で、呼んでいる。
『────頭髪流路束部が……:発光しています。』
『>>>なんだ……なんだコレ……。何と呼応しているんだ……!?』
雪雲が。
天のあの雲が、光っている。
あそこの上に、いるんだ。
私の髪も、同じリズムで光る。
呼んでいる。
「……天空鯨が、鳴いている。哀しみの場所を、教えている。涙は流れ、それは氷となりて、大地に降りそそぐ──……」
上へ。
上へ行かなければ。
あそこだ。
あの下に、いる。
教えて、くれているんだ。
『────なんて:こと。』
『>>>!? なにがだぃ!?』
『────不明瞭:分析不可能判定ですが:これは──。』
進まなければ。
進まなければ。
髪が、ピカピカと光る。
進まなければ。
雲が、ピカピカと光る。
進まなければ。
進まなければ。
進まなければ。
『────山:全体が……"ひとつのデバイス"になっているのです。全ての流路は:空と繋がっている──。』
『>>>……、……え!?』
『────アンティ:応答を。アンティ──……!
────クルルカン:アンティの流路束は:何かを"受信"してしまっている。切断を試みます。助勢を申請。』
『>>>わかった! 方向を決めてくれ! 追従する! くそっ……今の後輩ちゃんは流路のカタマリだ……! 急がないと神経流路近辺、身体全ての操作系、全部持ってかれるぞ……!』
ふわふわと、フラフラと、私は歩いた。
のぼる。のぼる。のぼる。
二つ結の髪は、黄金の光に撫でられながら、
重力を無視し、空に向かってひらく。
翼を、広げたみたいに。
あそこに、行かないと。
あそこに、行かないと。
あそこに、神様の意志があるの?
いいや、そんなこと。
私は、会ってみたい。
会ってみたいの。
それだけよ。
だから、いい。
『────アンティ!! 聞こえますか:アンティ!。』
『>>>トランス状態に近い! クにゃウンも手伝って!! 残りも叩き起こしてこいッッ!!』
トンッ、、、っと雪を蹴る。
身体が、浮いた。
角度を付ける。
はずむように、翔ける。
『────装甲内歯車回転数による遠心力調整を確認。
────ベクトル発生。』
『>>>準反重力装置の小型化に成功してるじゃないか!? 後輩ちゃん!! アンティ!? 意識はあるのかッッ!? おいっ!?』
キン────ッ。 キン────ッ。 キン────ッ。
雪肌を、跳び越えながら、行く。
ふわふわと、身も、心も。
目の焦点は、うわの空。
でも。全てが、わかっている。
いかなきゃ────。
意識が、戻るきっかけになったのは、
氷柱だった。
『────アンティ:回避を。お願い。』
「……────はっ」
感情のこもった相棒の声に、反射的に腕を振るう。
バァリンと、地面から突き出した氷柱が、へし割れた。
ナックルガードが上手く当たったのだ。
『>>>アンティ!! 意識は!? ハッキリしたかぃ!? 』
「あ……」
先輩が私を名前呼びする時は、あかんやつや。
あれ、私……。
『────頭髪部の発光現象:収まりました。』
『>>>全身の流路束の活性化、沈黙傾向……。ふぅ──……あのねぇ。心配させるにも程があるって……』
「……え? あれ……?」
私? 今、何してた?
『────登ってました。』
『>>>雪山登山だよ、まったくもぅ……さっきの身体を軽くするやつ、アレなんだよ……ビックリするって……』
「あ、え!? ちょ……え!? あれっ!? なんか、記憶が曖昧なような……私、登ってたの!? 地面の形が違う……」
さっきまで足場の悪い雪モッコリの上にいたのに、
ここは氷まみれというか……なんでこんなにトゲトゲしてんの!?
氷柱が、逆さまに地面から生えまくってる……!
「ごめん……なんか、夢を見てたような気分……」
『────流路束:正常化しました。』
『>>>きみの無意識下は、"力量加圧"の防御が働きにくくなるからね……あのまま氷のトゲトゲに突っ込んでたら、ドラゴン装甲とホロコーティングで防御しなきゃだった。へそとか見えてんだから危ないよ……』
「むっ!! ……ごめん」
『────いえ。アンティ。』
『>>>こちらの落ち度でもあるんだ』
「???」
なんのこっちゃ。
よくわからないまま。上を見る。
「えと……こっちに、行かなきゃいけない気がして、登って……ぅぅ、記憶がふわふわする……」
でも、こっちだ。確かに……。
『────この地表の氷柱状の現象は:私のデータライブラリには無い自然現象です。
────クルルカンは。』
『>>>いやーわからない。こんなトゲトゲは見たことが……。……、ぁ……』
「この、先に、何か……ぇ? 先輩?」
なんか反応おかしい。
『────……。』
『>>>…………そんな……』
……先輩?
『>>>……アンティ。今から、このトゲトゲの上を調べるよね?』
「え、ええ……」
『>>>……あのね? 変な事を言うかもしれないんだけどさ』
「?」
『>>>万が一だ。いつでも逃げられるようにしておいてほしい。万が一、だけど。ちゃんと、調べよう。そんなはずはない……』
「……。……それ、ってさ」
『>>>気圧の変化と、温度には気をつけよう! クラウンちゃん! 鼓膜辺りはお願いね。空気は格納にあるよね?』
『────……ええ。』
『>>>調べてみよう。ぼくも、付き合うよ。そんなはずないんだ』
「…………」
……先輩。
前向きだけど、なんだか……。
ツララを飛び越えようとも思ったけど、
歯車でゴリゴリ削りながら進む事にした。
分析すると、地面から生えている氷柱には、
僅かに金属が含まれている事がわかった。
歩く。
息が、白い。
胸が、熱い。
さっきの雲の光は、なんだったんだろう。
……いや、私には、妙な実感がある。
チロンちゃんが言ってた事が、頭から離れない……。
…………。
神様なんて、いるんだろうか?
神様、なんて。