にょきにょき神拳伝 さーしーえー
ぐわあああああ!!
にょきっと禁断症状がぁぁぁああ!!!
∠(◑д◐)>
「にょきっとなっ!」
ぼく、うさ丸!
ドニオスのギルドにいる、うさぎだよ!
受付カウンタの上に、白くて丸いのがいたら、
それはぼくだよ!
「ぐぅ──……、ぐぃ──……にゃむむ……」
「にょ、にょっき……」
……。
キッティ、また寝てる。
そんな座ったまま寝たら、首、痛くなるよ……?
「……にょきっとにょきっとな!」
ゆさゆさと、受付中のキッティを揺さぶってみる。
「う〜〜……、うるしゃいでしゅよ、おみみのくせにぃ」
……ぼくの耳は、本体じゃないよ?
耳の付属物みたいに言わないでね?
「すぴ──……」
「にょきっとな……」
ぼくには無理だ……。
名付け親のサボりは放っておこう。
カウンタに座り直す。
「──にょんむ!」
横にある花瓶の花が、優しく光る。
今日はいい天気で、カウンタの天窓から、
光が射し込んでる。
初めてここに来た時は、ここが"さいだん"だと思った。
懐かしいなぁ……。
「にょむ〜〜」
……。
……ていうか、ぼく、長生きだよね?
ここに来るまでも、
かなり長旅だったような気がするんだけどな。
「にょむむむぅ〜〜?」
長老に、ぼくらはどれくらい生きられるのか、
きいてみたらよかったかなぁ……。
でも、そんなにおじいちゃんには、
なってないと思うんだけど。
う、う〜〜ん?
「すっぴ──……!? みっ、みみがぁ〜〜……みみが生えたぁ〜〜……にょきにょきぃってぇ──……」
「にょ!? にょきっと……?」
……その耳、ぼくとお揃い?
まったく、キッティは完全に寝ぼけているみたい。
またヒゲイドさんに怒られちゃうよ?
「みみがぁ〜〜……、ぎゃ──……」
「にょきっと……」
はぁ……。アンティは、大丈夫かな?
今回は、ちょっと空気を読んで、
ついていかなかったけど。
……だいじょうぶだよね?
あの子を嫌いになる人なんて、そうそういないよね?
うさぎのぼくだって、あの子が大好きだもん!
「みみぃ〜〜……とってぇぇ〜〜……ひゃぅぅ〜〜……」
「……」
キッティ、耳はそう簡単にとれないよ……。
「……にょ! にょきっとにょきっとな!」
さて、いつもギルド受付カウンタに座ってるぼくだけど!
実は、ギルマスのヒゲイドさん直々に頼まれている仕事がある!
いつも、冒険者の人にナデナデされてるだけじゃないんだぞぅ!
ひとつは、『キッティが居眠りしたら起こす』なんだけど………………………それはもう、いいかなって。
もうひとつは──!
『ギルドに遊びにきた子供を追い返す!』さ!
ぼくの長い耳は、すでに接近する子供の声を、
とらえている!
やれやれ……久しぶりに、
ギルドのお仕事をしなくちゃならなそうだ……!
「キャッキャ……ねぇねぇ、ここだよ!」
「ここがぎるど……? なんか、あんまり人がいないよ?」
「いまはクエストに行ってるんだよ! 朝と夕方は、すごいんだぜ!?」
「「へぇ〜〜! みてみた〜〜いっ!」」
人間の子供たちが、ギルドの入り口から、
顔を見せている!
たまに子供も"依頼"をしにくるみたいだけど、
あの子たちは、完全に遊びに来ただけだよね!
あっ、入ってきた!
もうっ、ダメだってば……!
しかたない……!
ぼくの出番だ……!
ぴょんっ!
くるくるくるくる!
ぽてっ!
「「「わっ!」」」
「にょきっとなぁ!!」
どうだっ! びっくりしたよね!
さぁ、ここは子供が遊ぶ所じゃないよ!
君たちには、帰れる場所があるんだろう……?
さぁ、おうちに帰るんだ!
「にょきっとなっ!!」
「わぁ〜〜! かわいいぃ〜!」
「なにこれぇ〜〜!」
「こ、こいつぬいぐるみだと思ってたのに、動いたのか……!」
あ、あれ……。
なんか雲行きがあやしいぞ……?
男の子一人と、女の子二人だった。
な、なんてうらやましい……。
ぼくだってお嫁さん欲しいの……、いやいやいや。
「にょ、にょきっとな!」
「な、なんか怒ってない? このラビット……」
「えっ!? これ、ラビットなの!?」
「耳はそう見えるよな……丸いな」
しっ、失礼な……!
別に、太ってるワケじゃないんだぞっ!?
……そうだよね?
た、たまたま、真ん丸に育っただけなんだ!!
「にょ、にょきっとにょきっとな!」
「な、なんだこいつ、やるのか?」
「とおせんぼしてるみたいだよ!」
「赤いてぶくろしてる! かわいいぃ〜〜!」
ダメだ、立ち去る気配がない……難敵だ!
こうなっては仕方がない!
実力行使の時だ!
「……にょむぅ〜〜!」
「「「 ! 」」」
ぽてぽてと、歩いて近づく。
構える。
ひっさつ────!
にょきにょき神拳奥義!
『 にょきにょき耳百連撃! 』
「にょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょにょきにょきにょきにょっきゃ──!」
「「「うわぁぁあ────!!!」」」
カチャリ……!
その時、側の机でお茶を飲んでいた冒険者が、
唐突にしゃべりだした……!!
「ふっ────……説明しよう!! "にょきにょき神拳奥義・にょきにょき百連撃"とは!! うさ丸の一対の極太ロング耳を使って放たれる、白い高速連撃のことである! 柔らかくコシのあるモフモフお耳から繰り出されるソレは、相手を全く傷つけること無く圧倒する……!! まさに、うさ丸最強の技のひとつであるッ!! このモフ耳の威力から、君は逃れられるか──……!! ……ふっ、どうだミヌフリ、決まったぜ」
「兄さん、恥ずかしいからやめてくんない?」
「なんだって……!?」
「にょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょきにょにょきにょきにょきにょきっとぉぉ──!」
「うわわぁ──! やめろぉ──!!」
「みみが、見えない……!?」
「かわいいぃ──!!」
ど、どうだっ……!!
これに懲りたら、おとなしく、おうちに……!!
「こいつぅ────!!」
───ガッ!
「──にょっきゃ!?」
ば、ばかなっ!
ぼくの耳が、掴まれた、だって!?
「どうだ──!! こうやって耳を持って持ちあげたら、手も足も出ないだろ──!!」
「にょっきゃ───!?」
「ちょっと、かわいそうだよぉ──」
「かわいいぃ──!!」
ま、まずいぞ……! 手も足も、届かない!
耳ブランコだ!! 自分の長い耳が、うらめしい……。
「にょっきぃ──……」
「わ! こいつの耳、モフモフモチモチだぞっ!?」
「えっ! なにそれ〜〜!」
「わたしもさわるぅ──!」
もんむもんむ、もんみゃもんみゃ。
「にょ、にょんやあ〜〜!!」
や、やめろお〜〜!?
こ、こまったぞっ……!
そりゃ、本気を出せば、
ウルフが何匹束になってきても、
そうそう負けないけども……!
まさか、ニンゲンの子供を本気で、
ぶん殴るワケにもいかないしなぁ……。
そそそんなことしたらぼく、ギルドから追い出されるよ!
もみもみ、もちもち。
「こ、これは、やみつきだ……!」
「にょきっと……」
万事休すのぼく!
でも、その時!
とてとてと、近づく足音が聞こえた!
トテトテトテ……。
「……くるるぅ?」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
「──にょきっと!?」
──か、"かんくる"っ!?
「くゆ〜〜?」
そっ、そうだ!
いま、ここのギルドにいるのは、
ぼくだけじゃない!
「くゆくゆ?」
「にょきっと!」
『うさ丸、なにしてるの? あそび?』
『あ、あそんでないよ! ニンゲンの子供を追い払おうとしてるんだよ』
『おいはらう? じゃあ、大きくなる? びっくりするよ!』
『だっ……だめだよ!? きみが大きくなったら、ぼくも大きくなるんだ! ギルドに巨大ラビットと巨大ウルフがいたら、大騒ぎだ! 冒険者に狩られてしまうよ!?』
『そっかー』
『そ! そっかー、じゃないってば……』
だめだ……。
カンクルには緊張感がない……。
でも、ぼくは手も足も耳も出ないし……。
「にょきっと……にょんや?」
「くる〜〜♪」
『かんくる……助けてくれないかい?』
『いよ〜〜♪』
トテトテと。
カンクルは小さく飛び跳ねるように、こっちに来た。
「わぁ〜〜♪ ワンちゃんだぁ──! かわいいぃ──♪」
「え、キツネじゃないのか……?」
「あー、確かにフォックスにも見えるかも!」
だ、だめだ……この子供たち、
まるでカンクルを怖がってないや。
一応、ウルフの仲間だと思うんだけど……。
ぼくの昔の故郷の皆が見たら、ガクブルなんだけど……。
「くゆ〜〜♪」
「しっぽ、フサフサだねぇ──!!」
「見ろよ、こいつ体に花が咲いてないか?」
「ほんとだ! こんなワンちゃんがいるんだね!」
一人の女の子が、カンクルを抱き上げようとする!
ま、まずい!
カンクルまで捕まってしまう!
──ひょい、トン!
「あっ、逃げた!」
「くゆ〜〜♪」
「こ、今度こそ……!」
──ひょい、トトン!
「くゆくゆ♪」
「こ、この子、すばしっこいわ!」
お、おおっすごい!
カンクル、ひょいひょいと避けてる!
子供たちが翻弄されてる!
あ、ぼく今、宙ぶらりん。
「まて〜〜!」
「この〜〜!」
「くるくる〜〜♪」
「い、いいな……!」
「にょきっとな?」
ぼくの耳を掴んでいる男の子が、
女の子たちとカンクルを見て、ソワソワしている。
もう、離してもいいんだよ?
でも、あのままじゃ、
カンクルがいつか捕まってしまう!
どうすれば……。
────と、その時!
カンクルの目が、キラリと輝いた!
「───くゆゆっ──!!」
今までの倍の速さでステップを踏み、
子供の懐に滑り込むカンクルっ!
おおっ! はやいぞっ!
そして────……!
「くゆくゆくゆくゆくゆくゆくゆ──!」
「きゃ────────────!?」
コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ────!!!
あ、あれは────!?
その時、ギルドの入り口から、
一人の冒険者がスライディングしてきて、こう言った!
ずざざざざざざざ────!!!
「はぁ────!! 解ぃい説しようッッ!! "カンクルこそばし神拳"とはっ!! 最近ドニオスギルドに出没した謎のウルフ、カンクルの筆みたいな鼻先で、相手をコショコショしまくる技のことである!! 高速振動するむずかゆいこそばさは、例えSランクの冒険者でも『こそばゅッッ!?』と反射的に顔を背けてしまうほどの威力だっっ!! このむず痒さに、君は耐えられるか──!? ふっ……セッツメイにミヌフリ、二人とも済まない。少々遅れてしまったな」
「か、カイセッツ兄さん……!! まさか、"スライディング解説"とはっ!? さすがは兄さんだっ!!」
「ああ〜〜、見ないふり見ないふり、あれは私の兄さんなんかじゃありません〜〜!」
「くゆくゆゆぅぅ──!!!」
コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ────!!
「うわぁ──! くすぐったいぃぃい〜〜! や、やめてぇ〜〜♪」
「きゃ───! こそばゆいぃ〜〜! かわいいぃ〜〜♪」
「うわっ、こっちきた! あ、あはは、あはははは! やめろぉ〜〜♪」
「に、にょきっとなっ!」
い、いまだっ!
男の子がカンクルにこそばされて、
ぼくの耳を掴む力が弱まる!
ぼくは体を揺らして、すり抜けた!
とうっ!
──ぽてむっ!
「あっ、しまった!」
「にょきっとな!」
「くゆゆ〜〜!」
『いくよ! カンクル!』
『やっちゃうよ〜〜!』
カンクルは、ぴょい! と、跳び上がると、
ぼくの耳の間に挟まった!
──ぐぇっ!
そ、そこに挟まらなくてもいいんじゃない?
ま、まぁいいや。
『ひっさつ!』
『とりゃあ〜〜!』
ポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテ!!!
コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!!!
「「「うわぁ〜〜〜〜!!!」」」
「な、なんだあの技はっ……!! 俺たちは今、新しい伝説の誕生を見ているのかっ……!?」
「ここにスルーゼー家が勢揃いしてるのも、何かの縁ッッ!! こ、これは解説せねばっっ……!!」
「ちょっと兄さんたち! 待ち合わせに遅れて来て、何を言ってるんですかっ!? ほら、行きますよ!」
「「そ、そんなぁ〜〜!!?」」
ズルズルズルズルズル──……。
「にょにょにょにょにょにょにょにょにょ!!」
「くるくるくるくるくるくるくるくるくる!!」
ポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテポテ!!!
コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ!!!
「こ、これはしんぼうたまらない!」
「きゃはは! きゃはは! おなかいたいっ!」
「た、たいさんだぁ〜〜!!!」
どたたたたたたたたたた────……。
………………。
「にょ、にょきっと……?」
「くゆぅ?」
か、勝った、のか……?
…………。
「……にょきっとぉ〜〜」
つ、疲れた……。
相手を傷つけずに追い返すのは、難しいな……。
「くゆくゆ!」
「にょんむ、にょんむにょん……」
ありがとうカンクル……。
君のコショコショがなかったら、
ぼくはしばらく宙吊りになったままだったよ。
君に借りができたね!
「くゆ! くゆゆ!」
「にょん? にょ、にょきっと?」
『あそぼ! あそぼ!』
『え? な、なにして?』
「かんっかん!」
「にょんや…………!?」
"くるくる大移動"、だって…………!?
…………。
い、いやな予感……!
わっ、ちょ、やめ、
前足のせるな、わ、体重、
まって、ぼく丸いんだから!
ころが、ころ、うわっ、わぁぁあ〜〜〜〜!!?
「にょわ─────────!!!」
「くるくるるぅ〜〜〜〜♪♪♪」
ごんろごんろごんろごんろごんろ──……!!!
この日、ギルドの床はピカピカになり、
塵一つ残らなかったと言う……。
「……なにをやっとるのだ、あの二匹は?」
「ひゃわわわわわわ……」
「やれやれ。寝たら起こせと、頼んでおいたのだがな……。やはりラビットには厳しいか……こらっ、キッティ起きんかぁ! ギルマスチョップ!!」
「──ぐぇっ!?」
「にょ、にょきっとなぁぁぁああ〜〜〜〜!?」
「かんかんかん────♪♪♪」
ごろごろごろごろごろごろごろぉぉぉ───!!!
((´∀`;))……ふぅ。