駆動義体 さーしーえー
(×ω×;)ふぃ〜〜(笑)
ザシュッ、ザシュッ、スォン。
ガガ。
キン。
『───……てください:停止してください。
────アンティ:アンテ──……。』
>>>子供の頃。
初めて"サイボーグ"が出てくる物語に出会ったぼくは、
ショックを受けて、なかなか眠れなかった。
もちろん、かっこいいとか、ロマンがあるとか、
後からちゃんと、わかってくる。
膝が割れて、銃が飛び出す。
頭部は生身で、身体は機械。
悪の組織に、改造された人。
その"概念"への出会いは、子供ながらに、
衝撃的で、鮮烈で……そして、"動揺"が残った。
──"人のまま機械になるというのは、
どういうことなんだろう?"──
小さなぼくは、その夜、
布団に包まり、考えた。
家族もいて、
恋人もいて、
友達もいて。
でも、機械。
お父さんの、ゴツゴツした膝の上。
お母さんの作ったご飯の、温かさ。
お風呂のお湯を投げた時の楽しさ。
走った後の全身でする呼吸。
猫が側に来て丸まる温もり。
枕の下に手を入れる素敵さ。
そういうものを、理解する感覚が。
彼らにとっても、大切だったろう。
小さなぼくは、考えた。
たぶん、ぼくは、半分機械のヒーロー達に、
そんな幸せを、失って欲しくなかったのだ。
だからぼくは、
さいしょに、ちょっと悲しくなって。
そして、その英雄達に慣れていった。
──ががァァあんん!!
──ごぅうおおん!!
──ガキ、がきぃぃいいん!!
『───……ンティ:非推奨です。非推奨:とまっ──……。』
いま。
後輩ちゃんの体の内側に、歯車機構と、
アナライズ回路でできた義体が、
構成され始めている。
彼女の体の内側に、
"もうひとつのボディ"が重なっている。
ぼくは、あの時の気持ちを思い出していた。
はっきり言って。
この時の後輩ちゃんは、尋常じゃなかった。
でも、気持ちはわかる。
あの時の、ぼくと同じさ。
『こんなのは、ヤだな』と。
小さなぼくも、アンティも、そう思った。
初めて出会ったソレに戸惑って。
『こんな事が有り得たら、いやだな』と。
すぐには、受け止められなかったんだ。
彼女はぼくと違って、
布団では、丸まらなかった。
──どぉぉおおおおんんん──!!!
『────……:アンティ……。』
ぼくの目の前で、
まるで機械のようなボディを持つ精霊が、
悲しい声を出す。
彼女が振り回しまくった"魔刃シゼツ"は、
何度も"斬絶"が発動し、
根をあげた剣の精霊は、とうに3つに分かれた。
いま、彼女は。
拳で殴り砕き、進んでいる。
歯車が、唸っていた。
──ごごぅううんん!!
──きぃぃいいぎゃあん!!
──バラバラバラ……。
『────……:……。』
『>>>……、……』
この時の後輩ちゃんを、
ちょっと、ぼくらは止められなかった。
力任せに、壁を砕き、
地面の下を突き進んでいる。
確実に、こっちは北なのだ。
──ドガッ、ゴッギンっつ!!
──ガガガ、バギッンっつ!!
──ジャリリッッギギんっ!!
今までの彼女は。
ドラゴンのチカラを使い、肉体のチカラを増幅した。
でも、この神秘のヨロイの下は、当然、生身だった。
ヨロイのチカラが偉大だったとしても、
彼女は、無意識に身体を庇ったはずだ。
今は、それが、全くない。
ぎゃるるるるるるるるるるっっ!!
彼女の半分は、歯車だった。
腕と脚の装甲が、ジグザグに裂け、
龍の赤い肉と、金の歯車が混ざり。
黄金の骨格が、彼女の本当の骨に重なって、
全身に投影されている。
肌から露出した内部装甲は、
龍の筋組織に絡め取られた。
──ぎゃるる、ぎゅうううんんんんん!!!
ガレキまみれの床を蹴る足には、
回転する黄金。
車輪ではない──"球体"だ。
ブーツの後ろが、丸々、回っている。
もし歯車が人体に干渉するなら、
彼女のかかとは、消し飛んでいるだろう。
黄金の球体は、人体構造を無視して、
身体のあらゆる所に装備されている。
何かに触れれば、前へと進んだ。
わずかに露出する肌には、
金の流路が、カクカクと根を張っている。
彼女の髪はコードのようになり、
腕や、脚に接続される。
まるで、ゲーム機とテレビを繋ぐみたいに────。
景色を、
狩り取るように、
刈り取るように、
駆り取るように、
行く。
───ぎぎぎ、ぎぎぎぃぃいいんんん!!!
「……そんなことに、なって、ほしくない」
『────!。』
『>>>……!』
鋼鉄の扉を破壊しながら、
ポツリと、彼女は言った。
『────。』
『>>>後輩、ちゃん……』
『────とことん:付き合います。』
『>>>──!』
……きみは。
『────とことん:付き合うのです……。』
『>>>……』
そうだ。
ここで、彼女を止めて、どうする。
"二年前に失踪した女の子を探すなんて無駄"だと、
どの口で言うんだよ。
んなこと、死んでも、言えないな。
『>>>そうだね……』
『────アンティは:アンティです。』
『>>>……ああ!』
人間離れしていく彼女を前にして
それでも、人としての彼女を信じる!
クラウンちゃんも、ぼくも!
アンティと同じ方を、向かなければ。
邪魔な壁は、砕け散っていく。
────ぎゃるるるるるるるるッッ!!
── ぼ こ ん っ っ ───!!
『────『>>>「──っ!」』。』
明らかに、今までとは異質な空間に出た。
研究所の柱や、壁や、間取りなんてひとつもない。
洞窟。
いや、トンネル?
上まで、何十メートル……もある。
地下鉄みたいだけど、もっと高い……。
「…………」
かなりの距離を進んできている。
まさか、この研究所は、この街の地下全体に……。
にしたって、ここの空間はおかしい。
まるで、大きな球体が通って、
削り取られたみたいな、トンネル。
緩やかに、登り坂になっている。
……──! 先に、光が見える──……?
「…………」
後輩ちゃんが、脚をキュラキュラいわせて、
登り始めた。
灘らかな地面。
まるで凹凸がない。
「………」
『────……。』
『>>>…………』
……ぎゅるるるる、ジャリジャリ。
えぐりとられたような空間に、
砂が溜まっていて、球体駆動に絡め取られる。
後輩ちゃんは、構わず進んだ。
「…………」
『────……光源を確認。外に繋がっているようです。』
『>>>……みたいだね。なんで、こんな道ができたんだ……』
この世界の人に、
こんな綺麗なトンネルを作る技術があるのか?
バカにし過ぎだろうか……。
……いや。
しばらく無言で進み、
クラウンちゃんが言った。
『────内径が:小さくなってきています。』
言われて初めて気づいた。
大きなトンネルの直径が、
少しずつ小さくなっているのだ。
『>>>……わからない』
わからなかった。
こんな綺麗な道を、すぼめて作るのは何故だ?
進む。
ピタリと、後輩ちゃんが、止まった。
壁の横を見て、気づく。
くそったれが。
「…………、……」
"手形"。
ここから、小さな手形が、
壁の下の方に続いている。
手をついて、光に向かって、進んだんだ。
小さなソレは、女の子を連想させた。
手形の付き方が、おかしい。
手のカタチの、穴が空いているのだ。
まるで触った所が、
氷が溶けたみたいに、
へこんだような。
「……生き、てる」
トンネルの右の壁の下に、手形はずっと続いていた。
簡単に、予想できた。
フラフラと、女の子が、
この砂だらけのトンネルを、這って、すすんだ。
その女の子は、触った所を溶かす。
いや……これは。
『────内径が:進むほどに小さくなっています。』
このトンネルを作ったのは、
この子の力、なのか……?
「〜〜〜〜!!」
アンティは、走り出した。
かかとの球のことを忘れて、走り出した。
────キンキン、ザクッ、
──────キンキン、ザクッ、キキン……!!
下の砂と壁の境界線には、
ずっと、這ったような手形の"穴"が続いている。
出口に近づくにつれて、手形は薄くなって、
トンネルの内径は、小さくなっていった。
光が、強まった。
「〜〜〜〜ッッ!!」
外に、出た。
──── まっしろな、世界だ。
d(ゝω・´○)白か!!