思わぬ訪問者 さーしーえー
ここで手に入れた情報で、
たくさんの事がわかった。
能力おろしの研究をしていたこと。
モフモフパラダイスだったこと。
赤ちゃんの時に、能力おろしを受けた子がいたこと。
この研究所が、乗っ取られたこと。
「さいしょはさ、"狂銀"のことを調べにきたけどさ……」
キンキンと、緩やかな坂道を登りながら、つぶやく。
「今は……その女の子がどうなったか、すごく気になるよ……」
『────……アンティ。』
"能力おろし"を赤ちゃんの時に受けると、
大きな力を貰えるかわりに、流路が育たず、
身体に負担がかかって、死んでしまう。
そう、書いてあった。
私だって、能力おろしを受けた一人だ。
私は今の歳になってから受けたけど……、
ここにいた子は……。
「生きて、いるのかな……」
『────……申し訳ありません。
────情報が不足しています。』
「──! あなたが謝る事ないじゃない。はは……でもやっぱ、気になるよね……」
その女の子が、死んでしまったとは考えたくない。
そんなの、ひどすぎない?
『>>>……ここは二年前に崩落したんだろう? これだけアンデッド系の魔物や死体の痕跡が、全く無いって事は、何かしらの事故が起こった時、逃げたか救助されたんだと思う』
「……どゆこと?」
『>>>ここで死者はほとんど出なかったんじゃないかな、ってこと。あのでっかいモルモットが、尽くアンデッドをぶっ飛ばしてたら別だけどね……』
「……! もし、その女の子が生きてたら、二才以上にはなってるよね?」
『>>>ああ、そうだね』
「…………」
キンキン。
『────アンティ:行き止まりのように見えます。』
「──!」
うわ。
ほんとだ。
「はぁ……"穴掘りアンティさん"に、ならなきゃダメかなぁ……」
『────ここは地盤も固そうです。
────推奨します。』
『>>>仕方ないね。妙な事になったもんだ……こんな所を探検するなんてね』
「……! いや、ちょっと待って!?」
ガラガラと崩れている壁の下に、
小さな穴のような道があいている!
「ここ!」
『────狭すぎます。非推奨。』
『>>>危ないよ……そりゃきみのむな……小回りの効く身体だと通れるかもしれないけどさ』
「今、なんか言いかけなかった?」
『>>>とっ、途中で崩れたら危ないって言ってんの! だいたいシゼツを背負ったまま、どうやって通るのさ!』
『『 すぅ────すぅ────…… 』』
「この子、まだ寝てんの!? ええぃ、解除すればいいじゃ……、いや、待てよ……?」
…………。
この子、多分すっごい大剣なんだよね……。
「……」
ジャキん。
背中から、シゼツを掴み取る。
イニィさんの杖に似た持ち手。
ダイさんの盾のような鞘。
サキの刃のでっかい版。
(う〜〜ん……考えたら、この大剣ってサキが入ってんのよね……包丁を料理以外で使うのは、ヤなんだけどなぁ……。でも……)
私にもポリシーと意地があるが、
刃物の切れ味を知っておくことは、とても大切だ。
私はまだ、この大剣でマトモに何かを切ったことが無い。
「……ちょっと、切ってみる」
『────作戦受理。
────寝ぼすけ娘の:能力値の測定を開始。』
『>>>きる、って壁をかい?』
「ぅん……よし」
しゅらぁぁあああ───……。
金の濡れ刃を、鞘から引き抜く。
はは……あの貴族のおじさんが居なかったら、
"魔刃シゼツ"が、鞘に収められた大剣だってこと、
気づかなかったでしょうね、私。
「軽いな……ちょっと、壁に突き立ててみよ」
よい、しょっと。
……────スァん……!
──うっわ!
ゴチゴチとした岩まみれの壁に、
黄金の大剣の刀身が、スルリと飲み込まれる。
「……"バターみたいに切れる"って、この事ね」
『────ここまでとは。』
『>>>やば……ていうかむしろ、お豆腐みたいだ』
何の抵抗もない刃を抜き取り、
もう一度、刺す。
もう一度、刺す。
三角形に、切り取った。
「クラウン」
『────レディ。』
『>>>え?』
きゅぅぅううんん……!
しゅ───!
切り取られた三角の岩が、格納される。
あっという間に、穴。
『>>>……きみたち、以心伝心だねぇ』
「あら、妬いた?」
『────ふふ。』
通る。
とと……もうちょい下のほうを切り取ればよかった。
「ねぇ……取り敢えず、シゼツを起こさない? うわっ、けっこう厚い壁だったのねここ……よしょ」
『────"お兄ちゃん":出番です。』
『>>>ぼ、ぼくに言ってるのかぃ?』
「後で外に出る時、"王絶"が使えなかったら困るでしょーよー」
私、しょっぴかれちゃうわよー。
『>>>……こそばしてみるかな』
『────それは先程:実行しました。』
あ、色々試してくれてんのね。
『────クルルカン。耳を貸しなさい。』
『>>>え、なに、えっ……』
『──── 。』
? なんだなんだ?
『>>>……それ、ぼくに言えってか』
『────やれます。』
『>>>んなわけないだろぅ……!』
「ちょっとー、さっき鼻と口おさえても起きなかったんでしょー? やれる事は何でも試してみなさいよー」
『>>>ぇぇぇ……』
先輩、なにビビってんの、男の子でしょう。
『>>>……はぁ。こ、コホン』
お!
『>>>……"こぉら、シゼツ、もう朝だぞ。お兄ちゃんに起こしてもらうなんて、ダメな妹だな"……』
『『 うわぁぁああああ───────い!!!! 』』
ガバァ─────!!!
『────作戦成功です。』
「うわぁ……」
うわぁ……。
『『 ね!? ね!? クラウン! 今の録音したっ!? もちろんしたよねっ!? 』』
『────愚問です。』
『>>>はっは……。きみたち、後で覚えとけよ?』
『────ぅ:──。』
『『 わぁ──! お兄ちゃんの爽やか笑顔がこわーい! シゼツのこの身体、借りものなのに"お仕置き"されちゃうの〜〜? 』』
──フルフル、フリフリ。
『>>>……わ、わざとらしくフルフルしやがって……』
『────あざとい動作です。』
『『 クラウンもマネしなよー! こうやって、胸の前に手をキュッてしてね〜〜? 』』
『────や:やめなさい。やめなさい。』
『>>>……、……』
「えーと……先輩、ドンマイ」
声だけで、よくわかんないけど、
幼な子二人に、おちょくられてるのは伝わってくるわ。
──フルフルフル、フリフリフリ。
『>>>だ、だいたいきみは何で眠ってたんだぃッ!? 今後もあんな事が起きたら困るじゃないか』
『『 え〜〜!? だ、だってぇ、シゼツは、"シを司る炎"なんだよぉ〜〜……。あそこは"セイを司る水"でいっぱいだったじゃーん! シゼツにとってはツラい場所なんだよぉ。"あいつ"も来てたんでしょう? 』』
『>>>……!』
『────シゼツ。
────あなた:まさかあの────……』
……──ッ!?
今の音……!?
「シゼツ、"王絶"かけて。今すぐ」
『『 えっ!? は、はい! 』』
『────ライト歯車:収納済。』
『>>>いきなり気配が出たね。なんだろぅ……』
大剣を背負い直す。
背中に触れるようにしておけば、
私の姿は知覚されないはず。
、
「……靴音」
『────人間です。距離:15メルトルテ単位。』
『>>>何か隠蔽系のスキルを使ってたな……じゃないといきなり現れた説明がつかない』
……やれやれ。
こんな地下に、私以外に忍び込む人がいるとはね……。
物陰から、様子を伺う。
まだ、相手の姿は見えない。
"王絶"のチカラが働いているはずだから、
堂々と出ていってもバレないかもだけど……。
コッ…… コッ…… ジャリ。
だいぶ、ちかい。
暗闇を、のぞく。
(……! 白い、髪。長い……!)
女の人?
いや……違う、あれは男の人だ。
体が見えにくい。
黒い服を着ているんだ。
あれは、スーツ……?
(! そんな……!)
『────照合完了。
────"ブレイク・ルーラー"と断定。』
(ブレイクさん!)
パートリッジのギルドマスターが、何でここに!?
「………! 、……」
声を噛み殺して、ブレイクさんの様子を覗う。
彼は、床にしゃがみ何かを調べたり、
辺りを見回したりしていた。
ガラ……
コッ…… コッ……
パキ……
(なにか、調べてるの……?)
ドキドキする。
こんな所で私が見つかったら、
どやされるだけじゃ済まないと思う。
呼吸を落ち着けながら見ていると。
ブレイクさんが、こう、つぶやいた。
「……そんなはずはない。彼女の、はずがないんだ……」
(……!)
哀しい、声だった。
あの、凛々しいお爺様の印象とは、全然違う。
「……」
シュ……。
ブレイクさんは、上着の内ポケットから何かを取り出し、
破片まみれの机の上に置いた。
アレ、なに……?
「そんな、はずはない……ないんだ……」
コッ……
コッ……
コッ……
……
……
──ギ、ギ、ギ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ……!!
──バタァァアアンッ……!!
「──!」
少し遠くで、何かが閉まる音がした。
大きな、扉のような。
物陰から飛び出し、音の方へ向かう。
キンキンキンキンキンキン!
「っ! やっぱり扉だ! 大きい! 金属で、できてる……!」
『────アンティ。
────座標から推測するに:
────この上は:パートリッジ教会です。』
「!!」
『>>>正規の地下研究所への入口なんだ……! やはり、ブレイクさんは知ってたね……』
「ここから帰るのは、まずいよね……」
この扉の向こうは、間違いなく教会に繋がってる。
私の気配はシゼツのスキルで消えていても、
この分厚い扉が開く音は、さっきみたいに反響するだろうし……。
『>>>後輩ちゃん、さっきブレイクさんが置いてった物が気になる』
「! 上着から出してた……そうね」
キン……キン……パリン。
さっきブレイクさんが立っていた場所に戻る。
壊れた額のような物が床に落ちていた。
……!
割れた硝子の下に、絵のような物がある。
思わず、拾い上げた。
シャララ……パリン。
" ある少女の力作 "を手に入れた▼
『 デブ助 ケチャップ 大嫌い! 』
「……! これ、デブ助の絵だわ……!」
子供が描いたと思われる、デブ助の絵!
この前歯は、間違いない……。
……何故か、全身にケチャップがぶちまけられたように、
赤いクレヨンで塗りつぶされている……。
不思議な魅力のある絵だわ……。
「ブレイクさんは、この絵を見てたのかな……ていうか、これってさぁ……!」
『>>>こんな所に居た子供ってのは、あの子しかいないだろうね……』
「よかった! こんな絵を描けるくらいには、大きくなってるんじゃない!」
もしかしたらちゃんと研究が進んで、
ユータ達くらいの歳になっていたのかもしれない。
はは、変な絵だ。
『────アンティ。
────机の上にあるのは:手紙のようです。』
「えっ」
……、ほんとだ! 封筒がある。
ブレイクさん、何でこんな所に置いてったんだろう……。
「読んで、いいのかな……」
『>>>義賊的には、ここで読まないって選択肢はないかな?』
「ちぇっ、調子いいんだから……。じゃあ、ブレイクさん、ごめんなさい……」
" 研究者の手紙 "を手に入れた。
ペラッ……。
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パートリッジギルドマスター
ブレイク・ルーラー殿
この手紙が届いた頃には、
もう、全てが終わっているだろう。
昨日、四度目の暴走があった。崩壊の
規模は、増してきている。第三研究棟
の全てが、塵になって消えてしまった。
あいつらは、あの濃縮薬の運用を、止
めてはいなかったんだ! 確かにあの
仮面共がいたから、あの子は今まで生
きていたのかもしれない! でも、あ
いつらは、イカれてやがる……。
明らかに流路が原因の記憶障害が起き
ているのに、あの子への実験を止めな
かったんだ! 仮面の奴らにも、俺た
ち側にも、自分の名前が思い出せない
者が出てきている。
ブレイクさん。あの大樹は、この大地
の流路と繋がっていたんだよ。
あのバカ仮面共は、それとあの子を、
接続しようとしやがったんだ。
それは、やってはいけない事だった……。
───────────────────────────
ペラり……。
───────────────────────────
あいつらは、あの子を兵器かなんかだと
思ってやがる。
違う。あの子は只の女の子だ。
俺にはわかる。13年も側で見てきたんだ。
今、あの子は奴らの装置に繋がれている。
外したら、もう、もたないんだ。
俺は、賭けに出ることにするよ。
あの仮面共に秘密で、開発していた物が
あるんだ。これを投薬すれば、一時的に
だが、周囲にあの力を拡散できるはずだ。
一年か……二年は持つかもしれない。
その後は……どうなるかわからない。
でも、あの子には、こんな地下で死んで
欲しくないんだ! 研究所は、もう終わ
りだ。俺も、この薬の作り方がもう、ど
うしても思い出せない……。
あの街から帰ってきたあの子は、とても
嬉しそうに見えた。そこんとこは、あん
たに感謝してる。例え実験のためだった
としても、あの子にとっては、数少ない
大切な思い出だ。
俺はあの子を、解き放つぞ。
どんな災厄が起ころうと、構わない。
もしあの子が生きていたら、あんたが隠
してやってくれ。
北の……"銀海"に、向かうつもりだ。
今から、デブ助と共に襲撃をかける。
後は、頼んだよ。
ヒロガー・ティーフレンド
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私は、手紙を読み終わると同時に、
背中のシゼツを引き抜いた。
そして、こう叫んだ。
「 ── 北 は 、 ど っ ち な の ッ ッ !!! 」