ウォーキングアップルパイ
日記書くの、おもろい(✽´ཫ`✽)
ガンッ。
「あいって!」
『────頭部に建築基礎部が直撃。
────仮面による防御。
────損耗:無。』
『>>>壁から柱が飛び出てる! 歩き読みしてんだから気をつけて!』
「も、もちょっと早く教えてよ〜〜……」
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月 日
聖樹モドキから抽出した成分の
濃縮に成功する。
だが、これにどのような人体効果が
あるのか、まだ誰にもわからない。
デブ助たちはバクバク食っているので、
健康被害はないと思いたいが……。
念のため、かなり濃度を薄めたものを、
-000に摂取させる。
試験的に、まず二週間ほど様子見だ。
何か効果が出てくれれば良いんだが……。
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月 日
まずい事になった。
流路が成長を始めたと共に、
-000の能力も上昇しだしたのだ。
ふざけていやがる!
成長した流路よりも、力の増大が
上回るなんて、誰が予想できるかってんだ!
くそ……。
あの聖樹モドキの成分は、
確かに流路成長を促進する効果がある。
モフモフ共の実験では、内包する魔力量は
変化が無かったので、俺たちは油断していたのだ。
恐らく、この成分を普通の人間が摂取しても、
魔力が強化される事はないだろう。
しかし、-000は違ったのだ……。
大司教サマと、ギルドマスターに宛てて、
報告書をまとめることにする。
血液循環に例えるとわかり易いだろうか。
血管が増えても、血液が増えるわけではない。
我々は、流路だけが成長すれば、
内包する圧力は下がるはずだと、
仮説を立てていたのだ。
それなのに、くそ……。
現在は安定しているが、-000の能力発現時は、
明らかに以前よりも、威力が増している。
開けてはならないモンのフタを
開けちまった気分になってくる。
俺たちは、はやまったマネをしたのだろうか。
もちろん、聖樹のお薬は封印する。
少なくとも、-000にとっては有害だと判断した。
流路を成長させるのは良いが、
能力値の成長まで過剰に促進してしまうのなら、
これは最悪だとしか言いようがない!
なぜ……いや、これはまさか。
成長しているのでは、ないのか……?
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「……? クラウン。これってどういう事か……わかる?」
『────予測の域は出ません。
────が:流路は成長したことは:理解できます。
────しかし:それは能力値に対して:
────微々たるものだったと推測します。』
「……?? 言いたい事が、よくわからないよ……」
『────被検体の保有する膨大な力に:
────成長した流路の規模が:見合わないのです。』
「それって……」
『>>>ぼくも同じ考えかな。後輩ちゃん、大きな大きな湖に、いきなり水路を作ったら、どうなる?』
「……? 水が勢いよく、流れる……?」
『>>>それだよ』
「…………」
『────膨大な水の圧力は:
────細い水路に耐えられるものではない。
────水は:漏れ出し始めてしまった。』
「……クラウン。あなたの例えがわかりやすいのが、少し……うらめしいわ」
『────……。』
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月 日
今日もミーティングだ。
どうすればいいかわからない。
-000をわざと泣かせ、
力を使わせることで発散できるのでは、
という案が出た。
バカげている。
そんな事をしても、力はすぐに回復してしまうし、
身体への負担が増えるだけだ。
発案者は皆の反論を受けた後、素直に謝った。
わかる。
そんな意見も言いたくなるほど、
手が詰まっているのだ。
聖樹モドキを調べてるチームがいたが、
まだそんな物を調べているのか! と、
怒鳴り散らしてしまった。
くそっ。
今からアップルパイを乗せたデブ助と共に、
頭を下げに行こうと思っている。
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「……」
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月 日
この日を、忘れない。
怒りでペンが震える。
今日、俺たちと色違いの服を着たヤツらが、
いきなり研究所に、なだれ込んできた。
鼻につく紫の服装で、
全員、仮面で顔の上半分を隠してやがる。
突き出された令状を見ると、
どっかの貴族らしい字で、
ここを取り仕切ると書いてあった。
ふざけろ!
ここはパートリッジ教会直属の研究所だぞ!
怒りと戸惑いの中、思い当たる節がある。
俺が中心となってまとめた、報告書だ。
あれが、バカ貴族の目に触れたに違いない。
なんてこった……あの報告書のせいで。
貴族の息がかかった、紫の研究者共。
俺たちを追い出すつもりは無いようだが、
我がもの顔で、研究所の中を歩き回りやがる。
その仮面の一人に、デブ助が蹴り飛ばされた。
前歯がへし折れる音がする。その直後、
「有意義な実験をして、こいつらの数を減らせ」
そう、言いやがった。
この怒りを、どう表せばいいだろうか。
俺はしばらく思考停止していたので、
あのボケを殴らなかった事を、
今、後悔している。
あんな事を平然と言えるヤツぁ、
自分の興味のある事しか目に映らねぇヤツだ。
高飛車な紫の制服も気に食わねぇ。
あの子を見習えってんだ。
この日、俺たちとヤツらは、
心の中では完全に決裂した。
デブ助はたいそう泣いていたが、
この調子なら、また前歯は生えてきそうだ。
いいポーションをツラにぶっかける。
この日は風呂はやめて、丁寧にブラシをかけ、
久しぶりに一緒に寝た。
今度、ギルマスと大司教サマが来た日にゃ、
問い詰めてやらんとなんねぇ。
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月 日
あの日を境に、デブ助は仮面を見ると
やたらめったら襲いかかるようになる。
いいぞ! デブ助!
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「うおおおぃ……」
『────……。』
『>>>なるほど……』
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月 日
ギルドマスターのジジィが来た。
とっ捕まえてでも
話をつけてやろうと思ったら、
逆にとっ捕まって部屋に連れ込まれた。
何、このジジィ、つおい。
聞いた所によると、
教会に出入りしていたバカ研究者に、
例の報告書が目に入ってしまったそうだ。
その研究者がバカ貴族のお抱えで、
ここに立ち入る許可を取ってしまったのだと言う。
いま、大司教の姐さんが潰しにかかってるらしい。
そいつは心強い。
しかし、バカ貴族本人はここの事情を知らないため、
なかなか難航しているようだ。
教会への出資を取りやめないまま、
ここから手だけを引かせる、ってことか……。
そりゃ、かなり面倒そうだ。
事情は理解したが、
それはつまり、バカ研究者が調子にのって、
バカの威を借りて、ここを乗っ取ったって事だ。
ただ、研究者としては有能ならしく、
少々泳がせてもよいのでは、との事だ。
甘いぜ、ジジィ……。
あいつらは、ダメだ。俺にはわかる。
あの子に何をするか……。
ジジィには警告しといたが、
逆に、俺に奴らの歯止めをしてほしいと、
頼まれてしまった。
そんな事、言われてもよ……。
ギルドマスターは、
デブ助のほっぺをモフモフつまんで、
さっさと帰っていった。
おい、金はらえ。
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「ここで、終わってる……」
やばい。
ここ、乗っ取られてた。
((((;゜Д゜))))やべぇ……