ウォーキングベッド
──ブォン。
『────アーカイブにダイレクト接続。
────流路ケーブル経由で:文書ファイルを再生します。
────閲覧ファイルを選択してください。』
▼研究者の日誌③
パートリッジ教会の地下で入手した文書ファイル
──ピッ。
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月 日
流路が未発達な若い個体は、やはり短命だ。
解決策が見つからないまま、時が過ぎる。
我々の研究は行き詰まっている。
硬いベッドで寝ていると、
デブ助が潜り込んでくるようになった。
周りは羨ましがっているが、
こいつは夜でもピカピカしていやがるので、
アイマスクは必需品だ。
あと、キュウキュウうるせぇ。
どうやらデブ助は、他のヤツらと比べると、
かなり長生きのようだ。
一度、徹底的に調べてみてもいいかもしれないな。
何かヒントが得られればいいんだが。
こいつ、でかくなったよなぁ……
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「……」
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月 日
デブ助が注射を怖がって風呂に逃げ込む。
バスタブの湯が三分の二ほど、
津波になって無くなった。
おまえなぁ……
その後、逃走したデブのお陰で、
廊下はベチョベチョである。
モップにすんぞてめぇ。
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「……」
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月 日
驚くべき事が起きる。
大司教とギルドマスターが研究所に訪れ、
ひとりの赤ん坊を我々に預けたのだ。
俺が代表して対応する。
聞けば、この女の赤ん坊は、
能力おろしを受けてしまったらしい。
それを聞いた我々、研究者の中に緊張が走る。
我々は、同じ状況下のモルモット共が、
光を放ちながら絶命するのを何度も見ている。
大司教共は、我々にとって、
"能力おろしを15歳前に受けてはならない理由"を
隠蔽している、けったくそ悪い印象を持つ人物だ。
しかし、まさか、
こんな親玉が直々にここにくるとは……。
ギルドマスターも、思い切ったことをする。
よくよく話を聞くと、どうやら、
この赤ん坊の命を助けたいという意思が、
真摯に伝わってきた。
大司教は仮面で顔を隠した変な女だったが、
我々の持っていたイメージとは違う人物のようだ。
確かに、能力おろしの研究で、
ここより進んでいる場所は、他には無いだろう。
ナトリのことわざに、"ワラをも掴む思い"
というのがあるが、
まさか、大司教に頼られる日がくるとはな。
しかもどうやら、この大司教サマは、
モフモル共がたいへん苦手ならしく、
俺の横に座る巨大なデブを見て、
短い悲鳴をあげた。ざまぁみろ。
「……昔の私なら滅していました」
とか言い出しやがるので、デカいデブ助を、
無理やり足の後ろに隠すハメになる。
大司教の女は大量のモフモルにビビりながらも、
素直に頭を下げてきた。これにはかなり驚く。
大司教は、この子の生命が助かるなら、
能力を消しても構わないと言う。
それは、人工的に魔無しを作るという事だった。
我々はこの時、光と共に失われる小さな命と、
目の前の赤ん坊とが重なって見えていた。
仲間の満場一致で、快諾する。
我々の研究は、生命を救うための物となった。
女の赤ん坊には大司教がつけた名があったが、
我々にはコードが必要だ。
我々は、この赤ん坊から能力をマイナスしてでも、
その生命を助けなければならない。
最初の人間体サンプルとも相成り、
目標ともかけて、彼女のコードを、
"[-000]マイナスゼロ"と呼称する。
名前とも似ていて、ちょうどよいだろう。
我々の戦いが始まった。
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「っ、これ……」
『────人間体のサンプルが:発生したのですね。』
『>>>この大司教ってのは、何者だ……? それにさ、これに出てくるギルマスがブレイクさんの事だとしたら、やっぱりあの人、なんか知ってるね……』
「赤ちゃんの時に"能力おろし"を受けてしまった子……」
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月 日
-000の能力測定。
というより、育児日記になっちまう。
今晩は俺の番だ。白湯とミルクの準備もしておく。
2:00
夜泣き。放電現象。
3:20
アゥアゥ言う。寝言。
3:42
夜泣き。
白湯を冷まして与える。
ゲップさせる。
4:15
再び夜泣き。放電現象。
デブ助が-000の下に潜り込む。
泣き止む。これには驚いた。
6:32
デブ助の体の光が点滅する。
初めての現象。10ビョウ程でおさまる。
経過を見るが、-000、デブ助共に、
目立った異常はないように見える。
デブは立派なベビーベッドだ。
7:00
食事担当に引き継ぎ。
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「 ……」
『────ストレスや感情にリンクし:
────魔法を発現していると予測。』
『>>>年齢的にはありえない事なんだろうね。能力おろしって、一体なんなんだろぅ……』
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月 日
デブ助は-000のベッド役に就任した。
数値的にも、夜泣きが減少しているのは明白だ。
少し俺のベッドが寂しいが、仕方がない。
へっ。眩しくなくて、せいせぃすらぁ。
-000と共に寝ているデブ助は、
やはり、たまに身体の光が点滅する。
俺は、-000とデブ助の流路が、
何らかの形でリンクしているのではないかと
仮説を立てる。
研究者仲間とも共有し、
-000とデブ助の分析と観測を続ける。
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月 日
-000の能力が、徐々にだが、
確実に上昇している。
この日、"-000の魔無し化"の断念を決定。
"流路の成長促進"に切り替える。
もたもたしていたら、間に合わない。
貯水槽の研究班から、最近デブ助が、
よく地下の木の根を食べると報告を受ける。
デブだから当たり前だろ……。
既にデブ助は1メルトルテを超えている。
でかい抱き枕が歩いているようだ。
食事の時以外は、
-000の側に、よく居るようになった。
俺もたまに、デブ助の上に乗せてやる。
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月 日
本日より、離乳食に切り替える。
デブ助の食事もついでに分析。
おまえ、また植木食っただろ。
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月 日
わかったぞ!
デブ助たちライトニング=モフモルは、
流路を、あの"聖樹モドキ"から補っている!
あの巨木こそが、流路束の塊だったのだ!
木の幹と樹液からサンプルを採取し、
モフモルの幼体に与えると、
与えない個体と比べ、動く俊敏度が
全く違う事がわかった。
これは、流路が未発達な子供に対して、
特効薬になるかもしれない。
研究を急ぐ。
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「……ねぇ。この人たち、立派な研究をしてると思う。"悪の組織"なんかじゃない」
『────先程の貯水槽の大樹の流路量は:
────通常の樹木とは一線を画していました。
────同様の個体と:私たちは遭遇しています。』
「? 同様の個体……」
『>>>ゼロンツさん、だね?』
「──! レエン湖の、地下の!」
『────流路保有量は:
────ゼロンツ・スリーフォウが勝ります。』
『>>>"聖樹モドキ"とは、よく言ったもんだね……』
キンキンと、進む。
今日はここまで!ヾ(*´∀`*)ノ










