タンサクカイシ
地下だから背景は黒、黒なんだ(✽´ཫ`✽)
↑安易
歯車ドリルが、地面を砕く音が響く。
この下に、本当に狂銀の手がかりがあるのだろうか。
『────まもなく:地下42メルトルテ地点です。』
ギュオオオオオオッッ、
──ゴルッ、ゴルルンンンンンンン……!!
削る音が変わった。
『>>>土じゃない……人工の壁に切削部が当たったんだ。大きな岩石みたいだね。よくこんなモンを地下に敷き詰めたもんだよ……』
やっぱ、建物が埋まってるらしい。
純粋にすごいと思う。
こんな教会の地面の奥深くに……。
「ねぇ、この下のって元々、パートリッジ教会が管理してた地下室なんじゃない? その、"悪の組織"かどうかはわかんないけど、教会の下に無許可で穴掘るなんて、不可能でしょ?」
『>>>うん……どうなんだろうね……』
『────地下空間に出ます。注意を。』
「──っ!」
──ボコンッ!
黄金の道の下には、真っ黒な穴。
これは……天井の部分を突き抜けたってことね?
くらいょ~~。
「……光が欲しい」
『────可燃性ガス:確認中・・・。
────反応:無。』
『>>>よし。毒性の気体もないよ。後輩ちゃん、大事なこと言うよ。よく聞いて……』
「あによ、先輩……」
やーな予感するわね。
『>>>……ゾンビとか、レイスに気をつけてね……』
「…………………」
やだ。
「…………………ぐすんっ」
『────シゼツ。もしアンデッド系の個体を発見した場合:躊躇なく殲滅してください。"ソルギア"の使用を許可します。』
『『 え──!! ほんとぉ~~!? よ~~しっ! 汚物はバクハツだぁ──っ♪♪ 』』
『>>>だッッ!? ダメだっっ!! 何に引火するかわかんないし、崩壊したら生き埋めだぞっ!? しかも"ソルギア"が暴走したら火だるまだっ!? だめっ! ぜったいに、メっっ!!』
『『 ええぇ~~!! 』』
『────クルルカン。代替案を入力申請。
────アンティを泣かすモノに:容赦などない。』
『>>>おっ、落ち着きなって……! 最近、性格が"ドン"に引っ張られすぎだよ!?』
「だれが首領やねん」
『>>>うーん、地下室で火ってのはなぁ……。後輩ちゃん、過去のレエンの都で手に入れた"光魔法"があったろう? もしアンデッド系がいたら、それは強力な武器になるし、照明にも使えるよ』
「! にゃ、にゃるほど……!」
『────計画受理。
────"レエン=ホーリー":展開します。
────数:12。』
──きゅおん、きゅおん、きゅおん──……!
ポァァアア────!!
小さな金色の歯車たちが飛行しながら、白く輝いている。
光魔法を、少しずつ出しているのね……!
いくつかの歯車が、下の真っ暗闇に先行する。
足元が、きもち明るくなった。
「流石は先輩ね。照明と武器を両立してる!」
『────クルルカン:ご褒美は必要ですか。』
『>>>なら金輪際、肘打ちをやめてくれ。後輩ちゃん、万が一アンデッド系がいたら容赦はするな。照明に使ってる光魔法をくれてやれ。視界に入ったらすぐにだ』
「あっ……。で、でも……ゾンビとかゴーストって、元々人間じゃない……」
『>>>ゾンビは魔石に操られた死体。ゴーストは感情に魔素が集まったものだ。どちらも人とは言えない。けっこう記憶が残るユニーク個体もいるらしいけどね……。ま、情け無用さ』
「ぅ……でも……」
『────アンティ。自己の防衛は最重要項目に指定。
────それだけは譲りません。
────確認次第:殲滅します。』
「わ……わかったわ……」
う……ん。
私を大事に思ってくれてるからこその発言なので、二人の意見に反対できない。
先輩の"机カタカタ"よりは、怖くないことを祈るばかりだ。
『>>>なぁに、湖一杯分のヒールスライムもあるんだ。アンデッド系にとっては無敵の消毒薬みたいなもんさ! 負けないよ!』
しょうどくて……。
そ、そうは言っても、色々、心の準備がねぇ……。
うむむ……。
「わあった! ……降りるよ!」
とっ…………──キィン!
……──ふぅ。
とうとう、ヒミツの地下室に付いた。
歯車たちが、星となって辺りを照らす。
とても明るくなる所と、暗い所との差が激しい。
ここに光がないと思うと、ゾッとする。
「ねぇ、ここって──……?」
『────震音感知:無。
────敵勢力:無。』
『>>>この作り……病院か……? いや……これは……』
「本当だ、ベッドがかなりあるね……」
机や、椅子も散乱している。
崩落で、へしゃげている青白い壁や床が、かなりある。
……水の侵食を受けているような場所が多いわね。
「崩れてペチャンコはいやだな……」
『────アンティ。
────左後ろの柱が:支柱の一つのようです。
────この構造体が:あと23本:存在します。』
「! ……ごついね! すごいな。幅、5メルくらいあんじゃないの?」
『>>>これは大きな支柱だね。感覚的な判断もあるけど、こんな大きさの支柱は、かなりの重量を支える。まだこの空間は持つと思うよ』
『────同意します。
────大きな衝撃がない限り:探索は可能と予測。』
「言われなくても暴れないわよ。にしても、これはお化け屋敷ね……」
何とか崩れていない空間で、キョロキョロする。
うわ……くっれぇ。こえぇ……。
崩壊寸前の地下の部屋なんざ、
食堂娘にイチバン縁がない場所だわ……。
シゼツが突然、ポロッと言う。
『『 ね、ねむいぃ……。 ……くぁぅ…… 』』
「えっ?」
『>>>お、おいっ!? 急にどうしたのっ!? ちょっ……』
『────むっ。』
「どどどどしたの?」
『────シゼツ。クルルカンの背中から離れなさい。』
『『 ねむぃ……まるで、アイツがいるみたい…… 』』
「? "アイツ"? アイツって……?」
『『 "さいごのひとり"……。シゼツ、アイツ苦手…… 』』
「???」
『────む:クルルカン。』
『>>>わかってる。よぃしょ……』
「……クラウン? 先輩……?」
『>>>こっちで、シゼツが動かなくなった。寝てるみたいに見える』
「っ!? 大剣はっ……"魔刃シゼツ"は、ちゃんと私の手にあるよ?」
『────"王絶"を:解除しました。』
「大丈夫そぅ……?」
『>>>ああ。なんだろう……疲れたのかな? とりあえず寝かせておくか……』
『『 すぅ…… すぅ…… 』』
『────"魔刃シゼツ"を:背面部に固定します。』
……キュルル、カチン。
私の背中に、"白金の劇場幕"で包んだ"魔刃シゼツ"が、歯車で固定される。
「……ほんとに平気なの? その……サキたち3人に戻ってもらったほうが?」
『>>>いや……教会の敷地から出る時に"王絶"は使いたい。合体を解いて、再びシゼツになれなかった場合は困る。しばらく……様子見かな』
「そぅ……」
『────睡眠状態のシゼツが:"王絶"を使用できるか分析:不可能判定。』
『>>>うーん、スキルの負荷なんだろうか……? あまり多用はできないかも。とにかく、ここから出る時に起こしてみるよ』
「……わかった。"王絶"は脱出用に温存ね。雪で人は少ないけど、教会の人に見られたら厄介だわ……」
……てことは、この地下空間で、
"王絶"で気配を消すことが出来なくなったワケね……。
お化けさんにも、見つかり放題だわ……。
『────センサーデバイス系に:反応:無。』
『>>>後輩ちゃん。ちょっと調べてみようか』
「うん……。ひゃー、くらいぃぃ──……!」
どこを調べてますか?▼
▼壁際の焦げ跡 ピッ
床の植物の根
ひしゃげた扉
「──! ねぇ、壁を見てよ……」
壁際には……。
「……火事?」
『────燃焼跡です。炭化しています。』
『>>>崩落で燃えた? いや……崩れた時、火って出るのか? それに……なんだか燃えた範囲がおかしいよね』
青白い壁には、コゲついたような跡が、
天井まで届いている……。
ヒビが入っている壁だらけだ。
2年前の崩落事故は、とても大きなものだったみたい……。
「燃えた範囲? 何か、おかしいの?」
『>>>……"壁だけが燃えている"。床には燃え移っていない』
あっ……そう言われると、ね。
うわっ! あそこは泥の池ができてる。
亀裂から漏れだしたんだろうか……。
うん、よく見ると床もヒビだらけだ……。
でも、コゲ跡はない。
『────"炭化"しているということは:燃える物が存在したという事です。』
『>>>っ! なるほど……! 後輩ちゃん、燃えた所を調べてみてよ』
「?」
キン、キン、キン……。
空飛ぶライト歯車で照らしながら、壁づたいを行く。
黒いコゲ跡が続いているけど、何も見つからない。
……地下で見ると、かなり不気味だわ。
ライト歯車、様様ね。
「っ! ねぇ! あれ、燃え残ってる!」
キンキンキンキンッッ──……キン。
「ほら……少し崩れてるけど、木の……棚?」
『────分析完了。
────書類の存在を確認。』
『>>>……! それ、本棚だよ! 書類は殆ど残っていないなぁ……今までの壁は、これが燃えていたのか……?』
「え、これ本棚なの!? ち、違うんじゃない? なんか宝石がついてる破片があるよ?」
『>>>え……?』
『────分析中……。』
木の破片に、赤い宝石がついた金具がある……。
さわってみますか?▼
▼さわる
さわらない
「……? これ、どっかで見たことあるような……」
『────アンティ:それは──。』
──ボッ!
「──わっ!?」
火がついた!?
『>>>あわわわわわ! 消して消して! 書類が燃えちゃう!』
「あわわわわわ!」
『────か:格納します。』
きゅうううううんんん……。
小さな火が、バッグ歯車に吸い込まれた。
「ふぅ……わかった。あれ、火の魔石よ。ウチの食堂の厨房にあるのと同じだわ」
『────分析するまで:待ってください。』
「ごめん……」
『>>>本棚に、火の魔石だって? おいおい……。これ、"書類を焼却する機能がある本棚"ってことだよな……』
「え……何それ。"本を燃やす本棚"……? 意味わかんないんだけど……」
『────予測。緊急時に:書類等の機密保持のため:資料を焼却処分する機構が存在する。』
「……なんでよ?」
『>>>ヤバい資料を扱ってるからだよ……無事な書類があるね。後輩ちゃん?』
「こ、ここまできたら、読んでみようか……これとか?」
落ちている本を拾う。
背表紙と、僅かなページが残っているようだ。
研究者の日記① を手に入れた▼
ペラッ……。
───────────────────────────
やはりそうだ。
小さい時にやれば、力は増すが、
流路は育たない。
大きい時にやれば、流路は育つが、
力は小さくなる。
ははは。
教会の上の奴らは、隠してる。
何故、15まで待つのか。
可能性を殺す愚か者どもめ。
もっと、モルモットが必要だ。
───────────────────────────
……。
「……書いている意味はわかんない。でも、私は今……なぜか、とても胸クソが悪い」
『────お察しします。』
『>>>"研究"だと……? くそ……。児童館で聞いた"悪の組織"説。あながち、間違いじゃあ……ないんじゃないか?』
こんな、1ページで人を不快にする文章なんて、
ある意味すごいわ。
……ここ、埋まって正解なんじゃない?