エルボーこうかー! さーしーえー
故郷の、父さん、母さん。ごめんなさい。
娘は今から、教会に忍び込みます。
あ、ガチです。
ていうか、もう忍び込んでるよね。
ここ、敷地内だもんね。
それはそうと……うっしゃいな。
『『 きひひひひっ♪ お兄ちゃ~~ん♪ シゼツに会いたかったぁ~~? 』』
『>>>ぐぇっ……。きっ、きみの定位置って、やっぱ背中なんだね……』
『『 だってぇ、股にはクラウンいるじゃな──い♪ 』』
『>>>股って言わないの……』
『────……チっ。』
「……」
クラウンさん……今、舌打ちしました?
「……。はぁ、気がのらん。わたしゃーフッツーの、健ッ全な食堂娘だったはずなのに──……」
『『 アンティ、魔王倒してるよね? 』』
「やっ……そっそれはですねぇ……」
なんてピンポイントな攻撃をするのかね、
この着物イタズラ好き鬼っ子幼女さんは!
普通の食堂娘が魔王を倒したって……い、いいじゃないっ!?
『『 きひひっ……んで? お兄ちゃんはクラウンとチューしたの? 』』
『────:!?。』
『>>>────ッ!?』
「……今日も、いい天気ねぇ」
『『 や~~い♪ や~~い! スケコマシぃぃ~~♪ 』』
『>>>ちょ、シゼツほんとやめてあのしてないからほら前見て肩プルプルしてるだろきみはぼくが盾になってるけどぼくはダイレクトなんだぞきみが帰ったあとここで二人っきりなんだどうしてくれる気まずいってもんじゃないぞずっと黙られてみろ生き地獄だわ死んでるけどほら見ろ手ぇ前に出したろアレ肘打ちの予備動作だぼくのストマックはもうおしまいだううううぅぅ……!』
『『 ──きっひゃっひゃっひゃっ! お兄ちゃん早口ぃ~~♪ 』』
『────:……(ぷるぷるぷるぷるぷる)。』
──どっごん。
『>>>──ごぅっふッォ!』
……不安だわ……。
あ、片手に大剣、持ってます。
「んぁーよーし! いくぞこら──!
ふぅ……"王絶"!」
『────"スキル承認"。シゼツエンブ。』
『『 ……──皆、かの王は見えず────…… 』』
このスキルを使うのは、二回目だね。
……本当に、不法侵入に特化したスキルだこと……。
『>>>いてて……よし。後は"シゼツ"を離しちゃダメだよ。スキルが解除されちゃうからね』
『『 えっ? えっ? お兄ちゃん、シゼツを離さないって? やだァ~~! お兄ちゃん、ダイタンぅ~~♪ 』』
『────……(ぷるぷるぷる)。』
『>>>クラウンちゃん肘打ちの次弾用意すんのやめて。ホントそろそろ泣くよ? やめなって』
「雪の足跡消したいから、歯車の上、歩くわよー。サポートしてねー。聞いてるー? おーい?」
目の前のパートリッジ教会は、
背ぃ高のっぽのドニオス教会に比べて、
横長、という印象を持つわね。
銀と青で構成された建築。
とても綺麗で、入り組んだ装飾だわ。
「……どこが崩落現場だと思う?」
『────ポイントさえ判明すれば:地面にアナライズスキャンを実行します。』
『>>>少し、空から見てみ? 二年前に大穴が空いたんだ。建物や植木に名残が見られるはず』
「簡単に言ってくれるわねぇー。うらぁー」
キンキンキンキン──……!
"魔刃シゼツ"を握りしめ、教会の外壁に近づく。
『────"ソルギアブースト"は:使用非推奨。雪が融解し:存在を悟られる可能性。』
「──ん。純粋に脚力でいってみよかな」
近づく教会の壁。
固そうな石のところを、踏み台にする。
音は、シゼツの"王絶"で防げるかな?
壁に重心を預け、しゃがむ。
………グググッッ。
「───────シッ!」
ガキィィァン───……────!
跳躍。打ち上げアンティ。
身体を捻り、横と、下を見る。
「……雪、ほんとにどこまでも降ってるわね」
……ヒュォォオオオ─────……!
吹雪いてはいないけど、柔らかそうな雪が、
延々と降り続く街。空。すべてが同じ色。
眼下には、銀と青の教会。
「……雪で真っ白で、なんにも見えなくない?」
『>>>いや……見っけ。あそこの建物は、不自然に片側だけが新しい。建て直されているよ。逆に、向こうの建物は連続して建てられていないのがおかしい。間違いない。2年前に崩落して、一度、壊れてる』
「流石と言っとく!」
空中で、バカでかい大剣を、振り上げる。
『>>>──!? 何を……』
「──せぇぇえいッッ!!」
『────"力量加圧"。』
────ブォンッッ!! シュォォオオオオ──!
思いっきり振り抜いた大剣を、手首のスナップで止める。
剣の遠心力で、私の身体が、横に飛ぶ。
『『 きひひひっ! アンティ、だいたん~~♪♪ 』』
『────お見事です。』
『>>>きみらしいねぇー』
「何が私らしいんかわからん。さ、降りるよクラウン!」
『────レディ。
────"準反重力機構":展開。』
黄金のヨロイに現れる。楕円形の歯車セット。
高速回転が生み出す遠心力は、重力とは逆へ。
マフラーマントとツインテールの向きが、
ゆっくりと、鳥が羽ばたくように、落ちていく──。
きゅうううおおおおんんんん────……キン。
緩やかに、着地する。
「この、下……に、何かがあったのかな?」
『────アナライズスキャン:射出。』
ッヴォォォ─────ヴォヴォヴォヴォヴォンン!!
雪の下に吸い込まれる、巨大な透明の板たち。
私の視覚に、地面の中の構造が、
立体の光の地図となって投影される。
ピピピ、ピピピピピピ──……!
「……相変わらず、ぶっ飛んだチカラよねぇ──……これ、小さなダンジョンなら5ビョウくらいで地図できるんじゃない?」
『────解析中。アナライズホロ:三次元マッピング化しています・・・。』
『>>>かなり、埋まってるね……でも、やっぱりこれは建物の跡だよ。教会の地下にあった"悪の組織"ねぇ……嫌な予感しかしないな』
「……や、それって児童館の保母さんの噂話じゃ……──あっ! クラウン、先輩! ここ! ここさぁ、けっこう大きな空洞あるんじゃない?」
『────:確認。そのようです。地下40メルトルテ地点。』
『>>>こ、後輩ちゃん……きみの空間認識能力、高すぎじゃないか? なんでぼくらより先に見つけんの……』
「え? いや、だって、ここに地図あるし……すごいのアンタらだからね?」
『>>>いやいや……順応して使いこなしてるきみも、どうかと思うよ?』
『────ごもっともです。』
『『 きひひーっ。で、どうやって地面に潜るの? 』』
「えっ………………そうね……スコップ?」
『────浅はかな解答。』
「おっ……おっ? なんだこの感じ! 久しぶりね! ……んだとゴルァァ────!!」
『>>>後輩ちゃん……地下の秘密組織にスコップで穴掘って突撃する奴はいないよ……』
「う、うるっすぇぇ! だったらなんかいい方法考えなさいよ!!」
『『 爆発させるーっ!! 』』
「はーぃシゼツ、発言禁止ね? 『『ええ~~!』』ほら先輩っ! 侵入アドバイザーの見せ所よっ!」
『────違います。"不法"侵入アドバイザーです。』
『>>>う、うん……うーん……いや、わかった。初心に返ろう。歯車の回転の力で下に潜ろう』
「ほぅ」
『>>>クラウンちゃん。ドリルわかる? ドリル』
『────お任せ下さい。』
『>>>アレだ。歯車で、でっかいドリル作ってナカ空洞にして、そこに後輩ちゃん入れよう』
『────作戦を完全に:把握しました。』
『『 アンティ良かったねぇ~~♪ 流石だねぇ~~♪ 』』
「…………」
……もぅ、何も言うまい。
煮るなり焼くなりドンとこい。
『────切削機構を順次構築。』
『>>>まぁドリルっていうより削岩機だな』
「……」
──ぎゅううんん……。
ぎゅううん、ぎゅうううういぃぃぃ───んん!!
「コマみたい」
『>>>クラウンちゃん。輪っか状に積層していこう』
『────了解。交互に逆回転の方がよろしいですか。』
『>>>いいね。歯の角度は交互に斜めにしていこう』
『『 わぁ──! 大きくなるよっ! 』』
最初は雪の上に回る黄金のコマ。
それが、上からどんどん、輪っかが重なっていく。
──ぎゅううううオオオオオンンン!! ガッキィン!!
──ぎゅおおおおおおおおおおんん!! ガッキャン!!
「おお、すごい……地面に金色のお鍋が埋め込まれてるみたいね……で、ここに入れってか」
この金ピカの穴、壁が回転してるんですけど。
どんどん深くなる。こ、こわい。
『────掘削後の歯車は回転を停止。掘削部の補強にまわします。』
『>>>後輩ちゃん、そろそろ入れるよ』
「あ、ほーんと……金ピカの道ね」
覗きこむ。
──ギュオオオオオオンンンンン!!
ガキンっ! ガキンっ!
わぁ。
今、深さ10メルくらいの穴だろうか……。
直径は2メルもないっぽい。
「これ、イチバン下は、トゲトゲの歯車が回転してんのよね……。あのね、私ね……これ見て、スムージーの野菜を思い出したの……」
『────そ:そんなことは実行しません。』
『>>>やめなさいよ、物騒な……』
やめなさいよ、って言われたで……。
『『 む~~っ! アンティは、すっごく長生きしなきゃダメだよ! 』』
「はぁーい、あんがと。クラウン! 両手両足に歯車の車輪を作って。ぶっといのを……それぞれ6つずつくらい。私のイメージ読める?」
『────レディ。実行中』
……きゅぅぅおおおんん。シュパッ。ガチャコ……。
金色のブーツに、バームクーヘンみたいな金ピカの車輪が6つ。両足で12。
……! 二の腕の後ろにも、同じような機構ができた。
なるほど、穴の中で突っ張るなら、ここの方がいいわね。
「クラウン、背中にも頼む。んじゃ……行きますか!」
『────"準反重力機構"にて:補助を開始。』
『>>>狭い縦穴だ。注意して』
足を伸ばし雪にポッカリと空いた穴の中に入る。
背中の車輪を、後ろの金の壁に付け、
目の前には、足の方の車輪を当てる。
「……ん。いい幅と摩擦。いけるよー」
『────レディ。
────ツインテール部を収納。
────降下を開始します。』
「え、なんて?」
きゅるる、きゅるる、
……──ギュ、ゥゥウウンン──……!
「うぉっ!」
背中、二の腕、足先の車輪はぐるまが、
同じ速度で回り始めた。
私の身体が、ゆっくりと下がっていく。
キン、キン、キン、キン、キン、
キュラキュラキュラキュラキュラ……。
キン、キン、キン、キン、キン、
キュラキュラキュラキュラキュラ……。
……──ギュヴゥゥゥウオオオンン──……!
少し、振動が伝わる。
『『 なんで、火で飛んで降りないのー? 』』
『>>>ひとつは、呼吸に必要な酸素を消費しないため。もうひとつは、一応、地下の可燃ガスにビビってるんだよ』
『────降下:-8メルトルテ地点。』
「……随分ゆっくりね?」
『────崩壊や気体構成を懸念し:丁寧に削岩しています。
────:-9メルトルテ地点を通過。』
「ありがと。そのまま頼むわ」
『>>>これ、一応、空気を循環させとくか。風車型の歯車を設置してみる。こっちでやるよ』
パシュパシュッッ!
──ブォォォォォオ。
──ブォォォォォオ。
二機の風車はぐるまが、ヨロイの肩口から出る。
空間に固定されため、私からは、
ゆっくりと上に上がって行くように見える。
「……歯車の量、もつかなぁ。通過したトンネルを全部補強していくんでしょ?」
『────作戦遂行に充分なストックがあると予測。"歯車法Lv.6"の経験値変換:正常です。』
「……ちょっと暗いんじゃない?」
『>>>そだね。アナライズカードで暗視ゴーグル作っちゃうか。待ってね』
「あ! それがあったわね。クラウン、ちょっと突っ張ってる力加減が難しい……このヨロイ、ある程度固定できない?」
『────レディ。
────部分的にドラゴンインナーと装甲を隆起。
────関節部を固定します。』
ガチャン……ウィィ……。
ガチン、ガチン、ガチン、ガチン、ガチン。
キュラキュラキュラキュラキュラ……。
キュラキュラキュラキュラキュラ……。
……──ぎゅぅぅぅおおんん、おおんおんん──……!!
『────:-28メルトルテ地点:通過。』
『>>>有毒気体は感知無し。炎、使えるかも』
「まぁ、降りきるまではコレでいいわよ? 見えるし」
『>>>特殊戦車みたい……』
「あん?」
『>>>なんでもな──ぐっふぉッッ!?』
『────エルボーです。』
『『 きひひひひひひひっ 』』
ちなみに今わたし、お団子頭になってるね。
(*´﹃`*)キュラキュラキュラ……。