身内会議(マスコット除外)
くるくる。くるくる。
「……」
初めての部屋での朝。
手の中の小さな歯車。
紫の宝石がついた白の歯車は
まるで、ペンダントみたいだ。
いや……アーモンドがのったクッキーかな?
くるくる、くるくる。キンッ。
この紫の時限結晶は、クラウンと一緒でバッグ歯車に格納できない。あの巨大なヒールスライムが格納されてるなんて……実感、湧かないわね。
ほっとくと、2000年以上も後に目を覚ますであろう、巨大なスライム。今、クラウン達が、早めに叩き起すために意識を修復している最中。
今日も、紫と白の輝きを、放っていた。
「……で、どう思う?」
『────詳細の入力を。』
「んぅ? ……あなたなら、わかるでしょうに」
『────……。
────調査対象"狂銀"の特性を項目化。
────・目撃情報:女性のゴーストである。
────・接近時:地面の過度氷結の可能性。
────・投擲による物理攻撃がヒットする。
────・狂銀の仮面が形成される。
────・天候との関係性。』
「……女の人の、"幽霊"、かぁ……」
昨日の夜に会った、ラメトくんと、ノンノちゃん。
あの姉弟によれば、確かに北の森には何かがあるみたいだ。
「……投擲って、おもちゃの仮面を投げた、って件よね? ねぇ、ダンジョン博士。仮に"ゴースト"タイプの魔物だとして、物理攻撃って当たるモンなの?」
『────魔素体質の魔物は:物理攻撃を無効化する個体が存在します。しかし:個体によっては物理ヒットが可能な場合も存在します。』
「そなの?」
『>>>へぇ。それはぼくも興味深いな。例えばどんなケースだぃ?』
『────①高密度の魔素エネルギーによる:質量の発生。
────②魔素流路体の核となる質量の存在。
────③弱点属性がエンチャントされた物理攻撃。』
「あっ。そう言えば、前にヒキ姉が、水で濡れた石で、ファイヤ・エレメントを攻撃してたっけ」
『>>>……そもそも目撃されたのが、"ゴースト"かどうかも怪しいと思うけどねー。投げつけたモノが当たったってことは、ゴブリンとかの上位種ってこともあるかもよ?』
「なんでゴブリン?」
『>>>見間違えるとしたら、二つのツノかな、ってね……』
「女の子っつってたじゃないのよ……」
『>>>頭髪の長さとかで見間違うってことは有り得るじゃないかぃ? ぼくは未知の魔物説だと思いたいんだけど……後輩ちゃんは、ゴースト系は苦手?』
「いや……その手の話で一番怖かったのは、先輩の机カリカリだかんね……?」
『>>>……は、はは。こりゃ失敬』
『────何にせよ:虚構の存在ではなさそうです。』
「…………」
『>>>…………』
あの、必死なラメト君の表情……。
「"狂銀"を、倒してくれ、か……」
『>>>……』
「あ、えと、ごめん……」
『>>>いや……。ここまでくると、逆にぼくも、調べてスッキリしたいね』
『────……。』
「ふぁ──……。やっぱさぁ。ブレイクさん、なんか隠してるよね──……」
『────肯定。発言構成に起因する。現に彼は手紙を読んだ際:動揺していました。』
『>>>手紙というか……あの貴族様の"伝言"で、かなり情報は引き出せたと思う。でも、ぼくたちは、確信になるようなことは掴めていない……』
「あぁ──もぅ! すっきりしないなぁ──!!」
『────アンティ。ここはパートリッジギルド内の宿泊施設です。音量には注意を。』
「んにゃー」
『>>>……ブレイクさんから、もう少し聞き出してみるかぃ?』
「……明らかに、この件に関わってほしくなさそうだったけどね」
『>>>うーん……ほら、例えば、イニィさんをフォーク状態にして、胸の装甲の裏に隠しておくとか……』
「──! それって、"価値交流"で……」
『────その方法にて:相手の心情を読み取ることは:可能と推測。』
{{ いけるわよー }}
「──うわっ、びっくりしたぁ!」
{{ 誰かと対話してる状態で、私を隠し持っていれば、かなり正確に相手の考えていることを読み取れるわ }}
「ぅ、うーん……それは、まぁ……」
{{ ……ふふ。ま、ピエロちゃんの良心の問題ね。ど────しても、相手の秘密を丸裸にしたかったら、この悪魔めに、お任せあれ〜~……ばいばーい! }}
「……ば、ばいばいて……」
『────"心の通訳者":と言ったところでしょうか。』
『>>>うまい表現だね。で、どする? 動くんでしょ?』
「ぅう……その方法、あんま使いたくないような……うーん、そうだね。どっちにしろ、いっかい現場には行ってみたいかな……」
きゅううううんんんん……。パシュ。
少しだけ緩めていたヨロイを着用し、
小さな白の歯車を乳装甲の裏に隠し、
私は部屋を出た。
キンキンキン。
──バッタリ。
「げっ……」
「──おや、これはこれは義賊様。昨日はよく眠れたかね?」
もっくそ、ブレイクさんに会った。
「お、お陰様で……宿泊料金はいくらですか?」
「ふんっ。きみへの恩を考えると、それはもらえんよ」
「ど、どうも……」
どうしようかな……昨日、変な話の切り方をされたから、
少し気まずいんだよね……。
「昨日の件。感謝する」
「へ? 手紙ですか」
「ふんっ。そっちもだが……児童館への炊き出しだ」
「ああ!」
「チロンから聞いている。あの児童館も、ここしばらくは偏った栄養バランスの配給になっていたのだよ……早急に食事を届けてもらった事には、感謝せねばならない」
「い、いえ……。料理、好きなので……」
「ふんっ。私もいつか食べたいものだ」
「はは……」
やはり、イケお爺様である。
……ぅう、でもちょっと苦手な人だ……。
「……今日はどうするのかね」
「まっ、街を、見てまわろうかと」
「ふむ。私が言いたいことは、わかるかね?」
「ぐっ……め、目立つことをしない……」
「そんな煌びやかな格好なのに?」
「むむむっ……!」
「……はっは! そう睨むな。つまり……上手く目立て、ということだよ」
「──! う、うまく……?」
「きみには大きな秘密があるが……上手くやれば、"目立つ"ことで、それを隠す事もできるだろう」
「??? ど、どういう……」
「年寄り臭いアドバイスは、それくらいだな。上手くやってくれたまえ」
そう言うと、ブレイクさんはすたこら、
ギルマスの執務室がある方に行ってしまった。
……やっぱ、あんのお爺様、ちょっと苦手だ……。
{{ ──あら、優しそうな人じゃない }}
「──ぅおわっ! びっくりしたぁ! イニィさん、また急に……」
{{ 声おおきいわよ。で、ききたぁい……? }}
「え……? まっ、まさかっ!」
パシュ、グォォ……。
乳装甲を、ほんのちょっぴり浮かせて、
ドラゴンお肉の隙間から手を突っ込む。
うおお! あった! フォークあったで!?
乳と乳の間に収まっとる!
『────アンティ。装甲のすぐ下は:肌が露出してることをお忘れなく。』
『>>>はやく装甲とじて……いま、クラウンちゃんに目隠しされてるから』
「う、うん……イニィさん、見ちゃったの?」
{{ 少しだけだけどね……? んふふ、どうする? どうする?? }}
わぁ。イニィさんが、小悪魔っぽい。
「うーむ、勝手に人の心を覗いてよいものか……しかもギルマス」
{{ 相変わらず、いい子ちゃんねぇ。私は昔は覗きまくりだったのよ? 覗きまくり! }}
「言い方」
{{ あぁんもぅ! 今回は、私からの恩返しだと思いなさい! ピエロちゃんだったらいいかな、と思ってやってるんだから! }}
「恩返しだなんて、そんな……」
{{ ああもぅ! じゃあ親愛なるピエロちゃんのために、進んでやった! これでいい? ずっと耳元で、好きって言い続けてあげましょうか? 好き好き好き好き…… }}
「──いいい、イニィさんが迷惑小悪魔っぽいぃぃぁあっ!!」
『>>>装甲、閉じた? ねぇ?』
『────アンティ。フォーク:挟まってます。』
「……おーらい、イニィ様。何が見えたか、教えてくれる?」
{{ よろしい。さっきは"場面"的な見え方が強かったわ。まず児童館のことだけど、昨日きいた、"崩落事故"のイメージが強く前に出ていたわね }}
「──! 2年前の、教会の……」
『>>>ちょっとクラウンちゃん、いつまで目ぇ押さえてるの、もぅ……。でも、その崩落事故と今回の件、なにか因果関係があるのか?』
『────……クルルカン。バンザイポーズのまま:私の両手首を固定するのはやめてください。』
{{ 無関係では、ない……みたいよ。その後、妙なイメージが重なったわ。雪まみれの森と……剣士と、女の子…… }}
「……!? 剣士……?」
{{ たぶん、あそこは……ここのギルドの、執務室での記憶よ。ブレイクさんの目線で、目の前のソファに座った年老いた剣士と、隣に座る小さな女の子の横顔が見えたわ }}
『>>>過去の記憶が、呼び起こされたんだろうか……女の、子……』
『────は:離しなさい:離しなさい。』
「……やな事、言うけどさ……事故で、その女の子が、その……それで、"幽霊"に……」
『>>>いや、あの男の子の話では、投げたおもちゃの仮面が、そいつに当たったんだろう? まだゴースト系と決めつけるのは早いさ。ごっ──!? あいったァ!』
『────……ふっ。イニィ・スリーフォウ。その少女の:外見的特徴の詳細入力を。』
『>>>そのヘッドギアで、頭突きはダメだろう……』
{{ ごめんなさい。色まではわからなかったわ。あのギルマスさんが思い出したくはない記憶だったのか……。女の子も、髪で顔が隠れていたし……あっ、明るい色の髪だったわよ? }}
「……その女の子が、北の森で目撃された、"狂銀"の正体……?」
『────断定はできませんが:重要な手がかりです。』
『>>>う……ん。そうだ、ろうか……』
{{ あのギルドマスターさんは、児童館の話題で崩落事故を連想し、ピエロちゃんを見て剣士と少女を連想した。この二つの"場面"は、とても滑らかに連結されてた。無関係じゃないと思うわよ? }}
『>>>……』
『────……。』
「……ほんと、どうしよっかな」
【 ── 行ってみたら、ええやないけ 】
「……──!」
< ── そうねぇ♪ せっかく近いトコにあるんやかんなぁ♪ >
「さ、サキ、ダイさんっ」
ま、まさか、ふたりも乳装甲の下にっっ!?
【 いや……俺っち刃物やど……。流石に乳の上に出るなんざ、非常識なマネせんし……茄子と一緒にすなよ? 】
{{ ま、まぁ、失礼ねぇ…… }}
< かんらかんら♪ わっちのお鍋、そのおっぱいには入らへんよ〜~♪ >
「んぁ……行くって、どこに?」
【< "崩落現場" >】
「えっ……!? や! そこって、"パートリッジ教会"じゃないのっ! いや、まずいって……こんな金ピカ義賊が侵入したら、しょっぴかれるって……」
{{ ああ、なるほど……手っ取り早いかもしれないわね? }}
えええっ!? イニィさんっ!?
『────ここに:不法侵入アドバイザーもいます。作戦案のひとつとして推奨。』
『>>>身も蓋もないなぁ……』
「い、いや、無理だって! それなら堂々と正面から教会に……う、でもさっき、ブレイクさんに釘さされたばっかだしなぁ……目立つの確定だわ……」
【 うぉい安嬢、何言うてんねや! 】
「ふぁ?」
< そうよぉ〜~♪ そんなん、大丈夫やよ~~♪ >
んんん???
【 ま、得体の知れん奴に憑かれんのは、少々シャクやけんどもなぁ? 】
< ふふ♪ あの子、そんな悪い子とちゃうしなぁ~~♪ >
{{ ピエロちゃんのこと、好きだものね。たまに呼び出してあげないと拗ねるわよ? }}
「つかれ……あの子……拗ねる?」
『────アンティ。何を言っているのです。』
『>>>やれやれ……後輩ちゃん。きみの頼れる仲間の一人に、"持っているだけで気配が消せる大剣"……ってのが、あるだろう?』
「……────ああっ!」
……いや、ちょっと待て。
それでも、不法侵入だかんねっっ!?
『『 ── きひひっ 』』