かしこまりカレー
チロンちゃん目線でお楽しみください。(✽´ཫ`✽)
「いまから見ることは、ぜったいにひみつよ」
チャペ婆。
チロンがギルドに来てから、もう一年が経つ。
少しは度胸がついたと思ったけど、甘かったです。
「あ? 排水口どこ? ここか。うおっ、鍋の取手が取れそうで怖ぇ……」
ゴゥンコゥン……、じゃばばばばば……。
今、クルルカンさんが、大きな鍋を持ち上げています。
片手ででででででです。
もう片方の手で、お鍋の蓋を押さえています。
中のライスが流れないようにするためです。
水を切っているのです。
力が、おかしいです。
米粒のひとつも流れ落ちないのですか。
「いや流石に緊張するわね」
──ドゥゥゥウンンン!
──チャぽ……。
巨大お鍋が置かれました。
何故か、水の音がします。
木箱を登り、中を覗くと。
ちゃぽ、ぽたん……。
「……お水が……」
透明なお水の底に、大量のライスが見えます。
この時点で、常識は崩壊です。
キツネにつままれたような気分です。
「ね、ここ、レンガ敷いてあるってことは、火を燃やしていいのよね?」
「ぅ……? うん……」
「よしきた」
────ボボボッッ!!
「っ!?」
「おおわっ!?」
お鍋の下から、大きな炎が上がりました。
クルルカンさんは、ちょっと慌てました。
すると、すぐ火が小さくなりました。
「あ、あぶっな……」
「……魔法?」
「まぁ……ね!」
「薪は……?」
「いらんいらん。勿体ないでしょ? 寒いんだから」
「ずっと、このままで料理するの?」
「だいじょぶだいじょぶ。よしゃ、次だわ」
「……」
火の魔法をよそ見しながら料理するなんて、
他の人にできるでしょうか。
普通はオイルを浸した火の魔石で着火し、
枯れ草と薪で火を大きくします。
なんで燃料がないのに、こんなに燃えるのでしょう。
「チロンちゃん。野菜ね? 片っ端から、もひとつの鍋に突っ込んで!」
「えっ……えっ、皮は!? 洗わないの!?」
「どりゃあ!」
──ゴンッ!
どこここここここここ……!!
ぎゃるるるるきゅぅぅうううんん……!!
すぺぺぺぺぺぺぺ……。
じゃばぁぁぁああ────!!
「ええ〜〜……」
クルルカンさんが、野菜の木箱を鍋にダイレクトアタックです。
円柱のお鍋と、立方体の木箱。
正気を疑う積み木です。
でも、また水の音が聞こえたような……。
また木箱を寄せて、登って、お鍋の中を見ます。
……たぽぽん。
「……そんな、はず……」
綺麗なお水の底に、綺麗にカットされた野菜が……。
砂利みたいです。
「……」
「そっちも火ぃつけるから危ないわよ?」
「……ぅん」
……お鍋の中に冷や汗が入らないように、
ゆっくりと離れました。
──ボボォォオウッッ!!
「……」
「うーん、ポーク肉はスライス……ん!? 考えたら、タウロス肉もあんじゃん!! チロンちゃんハンバーグ好き?」
「……嫌いな人に会ったことない」
「ははっは! そっかもね。……おっ!? チーズ!? これ……おおっ、わぁい! これ決まりだな!」
クルルカンさんは、キラキラ、キャッキャ笑っています。
仮面に隠れない、素敵な笑顔です。
その前に、魔法のお鍋の種明かしをしてほしいです。
野菜のお洋服はどこへお盗みになったんですか。
「チロンちゃん。でっかいボールとかない?」
「え……あ、戸棚……金属のが大きい」
「ここね。あーぁ、いーぃ大きさねぇ。今日、炊き出しに行く団体さんって何人?」
「ご、50人くらい……」
「そんなもん? よしょ……」
大きなボールを、ふたつも使うの?
──どぱぁん。
──!! に、肉がっ!?
中に、落ちてきた!?
ど、どこからっ!? えっ!? 天井っ!?!?
「これはオーク肉。んで、これがタウロス肉」
──どぱんっ。
「……、……」
チャペ婆、……この人、普通じゃない。
名のあるピエロさんに違いない。
「チロンちゃん、もいっこのボールで蓋して」
「え」
「ちゃんと押さえとくのよ。ぜったい離しちゃダメよ」
「う、うんっ」
クルルカンさんと一緒に、
ボールの上に、逆さまのボールを重ねて、押さえました。
大きな銀色の球体です。
──ぎゃるるるるるるるるるるるるるるる!!!
──みちみちっ! みちみちっ!
──ガタガタガタッ、ガタガタガタガタガタ!!
──ごるるるるるるるるるるるるるるるる!!!
──ごっ……ぽっぽ、ぷぷぷ……。
──ねりねりねりねぇ〜〜……。
────ぃぃいいいんんん……!
「……、……」
この被さってるボールを離したら、
チロンは、生を終えるのではなかろうか……。
「ゼッタイ離しちゃダメよ。離すと、どえらいことになるからね。この世の終わりよ?」
「……(こく、こく)」
しばらく無心で押さえていましたが、
クルルカンさんに「もういーよ」と言われて、
手を離します。
──カポァ。
「……」
わぁ。ミンチだ。
マイルドです。
ボールって、とても怖い道具ですね。
「いやー、こんだけ大量だとテンションあがるわねー♪ いやっはっはっはっはっ!」
クルルカンさんは、キラキラ笑顔です。
太陽のような笑顔です。ニコニコです。
大量のミンチの前に、とても笑顔です。
「こねたら、粘り気がでんのよ」
「どう、こねたの……? ちょ……調味料は……?」
「大丈夫! もう入(ぽいっ!)れたよー!」
──カコーン! ちゃぶんっ!
えええええ〜〜……。
話してる途中で、クルルカンさんが後ろのお鍋に向かって、さっきのチョコレートのようなものを投げ入れました。
ポイ捨てです。
お野菜はグツグツ煮込まれています……。
あれっ、お鍋に蓋がしてあるのに、
どうやって入ったの……?
わ い な ら か 。
か な わ ら い か な わ ら い
ら か わ い な
やはりこの人は、絵本の中から来たのでしょうか。
このクルルカンさんは敵にまわしてはいけません。
「じゃ、タネ丸めて、中にチーズ入れるわよ。入れすぎたり空気入ってたら破裂するかんね。頑張ってね」
「破裂したらどうなるの……」
「こんがりするわね」
とても集中しながら、
チーズをミンチに封印するお仕事を手伝います。
最初はミンチの感触に慣れませんでしたが、
途中から楽しくなってきます。
調理用のテーブルみたいな鉄板に、
ちょっとだけナナナ油をのばして、
綺麗に封印されしチーズを並べます。
蓋をしないでいいのか聞いたら、
「あ──……、こっちでやるから大丈夫」
と言われました。
チロンはよくわかりません。
タネがジュウジュウ鳴りだしました。
もう、勝手に火がついても驚きませんよ。
「ふ〜〜ん♪ ふんふん〜〜♪」
「クルルカン、何をしてる……?」
「チーズフォンデュ作ってるのよ。ソースの代わりね」
その細切れチーズは、いったい、いつ出来たのでしょう。
さっきまで確かに塊だったのに……。
黒と金の光が見えた気がしました。
「……チーズに、まぶしてるの何?」
「カタクリ粉。火にかけた生クリームに、粉まみれの刻みチーズを溶かしてね? ゆっくりミルクを入れて馴染ませんの。んで塩と、ホレっ(ぺしっ!)」
「……! 今、チーズに沈めた葉っぱは……?」
「月桂樹。ま、香りがね?」
クルルカンさん、料理に詳しい……。
あの白い綺麗なフライパン……いつの間に持ってたのでしょう……。
おかしいなぁ。
チロンの五感で、気づけないはずが……。
チロン、一応、獣人なのだが……。
とても美味しそうな香りがしてきました。
──じゅううううう〜〜〜〜!!
「そろそろひっくり返さないとね。ちょっと火を弱めるから、片っ端から、やっちゃって」
「しょ、承知した!」
ハンバーグに、フライ返しを近づけると、
──ガンッ!
「──!?」
「あっ」
今、何に当たったの……?
「クルルカン……」
「あはは……もう大丈夫だから」
「……? ??」
肉汁がすごい出てる。
むむー、蓋をしなくても、こんなにちゃんと焼ける……?
まるで、見えない蓋があったみたい……。
い、いや、そんなわけない!
チロンはチロンを見失ってはいけない!
無心に、ぶしゃぁ! と、ひっくり返す。
ぶしゃ〜〜〜〜!!
ちょっと楽しい。
クルルカンさんは、野菜の鍋をかき混ぜていた。
──きゅるるる……じゅばっ、ぶくぶくぶく。
?
何かを、お鍋に入れた。
急に、お鍋のある方の空気が熱くなった気がする。
とても良い香りで、流石にさっきのチョコレートだと思ったものが何なのかは、もうわかっている。
「じっくりコトコトってヒマは、ないかんねぇ」
……お鍋のカレーの水面が、たまに光っているような……。
また何か絵本チックなことをしたんだろうな、と思ったけど、もう何も気にしないことにします。
ポク、ポク、ポク、チーン。
とろ──……。
カレーの上のハンバーグに、
とろとろチーズがかけられました。
「食べてみ」
「でも」
「人に出す前に、最初は自分で食べとかなきゃいけないもんよ」
「ぅ……うん!」
「クルルカン特製、"チーズまみれバーグカレー"! ご賞味あれ〜〜!」
クルルカンさんが、仰々しく、ペコりとおじぎします。
まるで舞台役者さんみたい。
「ご、ごくりっ……」
カレーライスの上のハンバーグを、スプーンで割ると、
中から黄金のチーズが、トロリンと流れてきて……。
こんなの、反則です!
肉汁とまざって、本当に黄金。
上にチーズのソースもかかってるのに……!
野菜の旨みが溶け込んだルーに、チーズが出逢う。
カレーと一緒に、食べる。
ぱくっ。
んぎゅ。
「 〜〜〜〜!!」
「どう?」
「 (ぴょこぴょこぴょこ──!!)」
ぱくっ。
もぐもぐ。
「にやにや」
「 ……うぅぅあぁぁぅッ……!!」
美味しいものを食べた時。
余計な言葉は、いらない。
「…………ぅんまいっっ……!!」
「ふっ、よい反応だ、少女よ」
クルルカン、神。
「チロンは今日から、ちゃんと目上の人に敬語をつかいます」
「……どうしたの急に」
クルルカンさんは、戸惑いの金の瞳でチロンを見てる。
どうしたじゃないですよ。
あなたのせいですよ。
とろり〜〜。
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