雲の上と、空気よめ
気づくと、ベッドの上だった。
「────あれっ?」
目覚めはよい。
急に覚醒した。
……。
…………。
「────んん?」
……ここ、バスリーおばあちゃん家だよね?
いつ帰ってきたっけ?
てか、朝じゃない!
今日、ここ出ていくって言ってなかったっけ!
やばい! 寝坊じゃない!
「クラウン! 何で起こしてくんないの!」
『────おはようございます。』
「いやいやいやいや……」
簡単に髪と服を整え、
階段をドタドタおりる。
相変わらず、屋根は穴があいたままだ。
下に降りると、バスリーさんが、テーブルにカップを置いて、座っていた。
「おはようございます!」
「…………」
「?」
何故に、挨拶スルー?
変なものを見る目で、私の顔を見られる。
……なんだ、寝坊を怒っているのか、ばーちゃん。
「あの、寝過ごしちゃいました?」
「……からだは」
「はい?」
「からだは、何ともないかい?」
「へ? はい」
いきなり、なんですか。
これでも食事には気を使ってるんですよ。
食事屋の娘ですからね。
からだは資本ですよ。
「はぁ〜〜〜〜。何だかね〜〜」
「えっ、なんですか……」
思いっきり、ため息つかれたんだけど。
「アンタ、寝ぼけてるだろう」
「えっ……」
なんで、いきなりそんな事、言うんですか。
な、なんですか、その目は。
絵に描いたようなジト目ですね。
「は〜〜……」
「えええええ……?」
「ん」
「はい?」
「外」
「へ?」
「そと見な、そと!」
バスリーおばあちゃんが、親指で、そばの窓のほうを指す。
「何なんですか……」
とりあえず私は、言われた通りに窓に近づき、視線を向けた。
………………。
………………わぁ。
「────マジですか……」
「────くっくっくっく。思いだしたかぃ」
おばあちゃんが、テーブルで肘をつき、優しく笑みを浮かべている。
「私、……やらかしましたか」
「あぁ、あぁ。やらかしたねぇ。えらいことだよ。取り返しがつかないねぇ」
「あ────……」
一気に、昨晩の記憶が蘇ってくる。
太陽十字の、お墓。
仮面ごしの、光。
解き放たれた、花の剣。
いやぁ、寝ぼけるにも、程があるわ、私。
「街への護衛は中止だ。今日は屋根を直す。手伝ってくれるかぃ?」
「────はい。もちろん」
そう。もう、ここから離れる必要は、ない。
こんなにも、見えるところまで、埋め尽くされているんだから。
バスリーさんが立ち上がり、私の隣、窓の側へ。
「まったく、見事なもんだ」
「……天国みたいですね」
「……いや。多分、天国に行っても、ここほどじゃないよ」
窓から広がる風景。
一面、見渡す限り続く、白い花。
森に囲まれた小高い丘は、
雲の上みたいな、お花畑になっていた。
子供たちが、笑いながら、
走りまわって、遊んでいるのが見えた。
そのあと。
結局、家の修理の手伝いで、もう1日お世話になった。
私のお弁当も、痛むと嫌なので、盛大にふるまった。ふふふ。これで、一安心だわ。
そして、私だけの出発の日。
バスリーさんが、こっそり教えてくれた。
「あんたにもらった手紙、なんだけどね」
「あ、読んだんですか?」
「ああ……。実にくだらない手紙だったよ」
「え、えええええ……」
「ほれ」
ビラッ。
そ、そんな、ぞんざいに扱っていいんですか。
どれどれ……
「
"バスリーへ
満面の、花の上で、
君に、愛を囁けなくて、
すまない"
」
ぶっ、
「────あっはっはっはっは!!」
ごめん仮面。
笑ってもうた。
「な? キザなヤロウだろう?」
「いや──ごめんなさい、なんかおもしろいですね」
「こういう事が、ヘタクソなやつだったんだよ……」
「きひひ……でも、よかったです、読んでくれて」
「あぁ……」
ふしぎだ。
この手紙は謝罪の手紙だけど、
人を笑顔にするチカラがある。
よかった。届けられて。
私は、仮面をさしだした。
「おい……アンタ」
「持っていてください。これは、貴方が」
「…………嬢ちゃん」
「はい?」
「この世の中には、"縁"ってもんがある。"運命"と言いかえてもいい。……それは、アンタが」
「いらない」
「……!」
「これには、貴方達の、思い出がつまってる。それを引き裂くような"運命"なんて、私はいらない。人の心を大事にできないような、そんな"縁"は、いらないわ」
おばあちゃんは、一瞬、呆気にとられていたが、すぐに笑みを取り戻した。
「……ふん、私に負けず劣らず、いい根性だねぇ」
「ふふ……」
「あぁ……」
「?」
「……なんてこったい、私は、アンタの名前を知らないよ」
「あ……」
ゴタゴタしてて、言ってなかったですね……。
「────"アンティ"。"アンティ・キティラ"です」
「そうかい、アンティ──── 」
ぎゅっ。
わっ。
バスリーおばあちゃんに、抱きしめられた。
優しい声が、耳元で、ひびく。
「ありがとう、ありがとうよ、アンティ。
あんたは私にとって、さいこうの、
郵送配達職だった……!
あんたに巡り合わせてくれた、全ての
事柄に、感謝を……。あなたに、
光の精霊"ヒューガノウン"の加護が、
ありますように────────」
照れます。
ロロロとラララに、精霊花の花束をもらった。
一ヶ月後に、また、遊びにくる、と言ったら、
とても喜んでいた。
さぁ、いよいよだ。
新天地を目指し、森を、翔ける。
「ふふっ、でも、すごい寄り道しちゃったよね」
『────これから、何度も起きる事です。』
「! ……ねぇアンタ、ケンカした時のこと、根に持ってるでしょ!」
『────クラウンギアは、黙秘を申請。』
「なぁにが『クラウンギアは』よ! たまにアンタ、自分の事、"私"っつってるじゃないの!!」
『────────。』
「あぁ────そうですかそうですか、都合が悪いと黙秘ですかい──ですよどうぞどうぞお黙りになってくださ────────」
────ぞくりと、した。
フォレストウルフが、目の前にいた。
ちがう、
とおい。
でかいんだ。
「……なん、でよ」
『────逃走を提案。』
植物のバケモノが、そこにいた。
「ぎぐごぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉおあああああああああああ────────────!!!!!!! 」