ブレイク・ブレイク さーしーえー
冷や汗。
ふっ。
ふっふっふっふっふっふっ………………。
『────汗腺:だだっぴらきです。』
『>>>……よくそんな言葉、知ってるねぇ』
ど、どうよぉ…………!
格納力を隠そうって言ったそばから……、
「お母さん、くるるかん、いるよー!!」
「そ、そうねぇ……?」
「な、なんだあいつはァ……!?」
「助けてくれたんじゃね?」
「パネェ……」
「雪どこいったんだ!?」
「すげぇすげぇクルルカンだすげぇすげぇみんな連れてこいすげぇすげぇすげぇ」
「でも!! あのくるるかん、おっぷぁいあるよっ!!?」
「こっ、こらっ! 指さしなさんな!」
これですよ。
HAHAHAHAHA……。
HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA……!
……やばぁ。
「クルルカン!! クルルカンにおっぱいあるよ!!」
「あ、ああ、そうだな……」
「あなたぁ!! 同意しないでくださいまし! 教育に悪いでしょう!?」
「「「 くーるる、かんっ☆ くーるる、かんっ☆ 」」」
「こ、こんな雪の中……どっかの役者さんか……?」
やっべぇぞ……。
人が、わんさか集まってきやがったわ……!
子供たちの目が、私の鎧レベルに輝き始めてるわ?
無慈悲なる子供アタックだけは、回避せねばっ……!
あ、今いるの、雪の積もった屋根の上です。
たっけぇ。すげぇ目立つ。どうしよう。
「ウチの街に、女のクルルカンさんが来るたぁなァ……」
「よっ! 名役者!」
「てーかさぁ、ホントに何者なワケ……?」
「きれい……あの髪の毛、何かお手入れしてるんでしょうか」
モコモコの服を着た住人の方々に取り囲まれてしまう!
こ、こうなったら……!
「……し、シゼツの"王絶"で……!?」
『────非推奨の行動過ぎます。』
『>>>大剣を民衆の前で出したら、いよいよ大衆演劇だからね……』
「うえぇ、うぇえ」
どーしよっ♪ どーしょっ♪
お空に飛ぼうかな〜〜……っ♪
……それも、超・目立つわよね……。
────ザッ!
「やれやれ……困った子だ……」
「──!? ぶ、ブレイクさんっ!?」
『────!。』
『>>>この人……!?』
屋根の上で、背後を取られる私!
え……今、"視覚域拡張野"に映ったか!?
こここここの街のギルマス、侮りがたしっ!!
「あっ!! ブレイクさんでねぇかっ!」
「…………ケガ人は?」
「あ、ああっ……いないよ! 雪が消えちまったんだ……!」
「…………そうか」
私の小さな身体の上から、少し上半身を倒し、
屋根の下の、地面の土が見えてる穴を見ている。
「な、なぁ、ブレイクさん……その役者さんは?」
「心配するな。ウチの手合いだ。ではな。……いくぞ」
「へっ……ひゃっ!」
へそに腕を回され、持ち上げられる。
ちょ、ちょとぉ────!!?
「ほぅ……かるいな。それ」
えっ……えっ、えっ!?
ちょちょちょちょ!!
なんで後ろ向きにジャンプすっ……!?
落ちるおちるおちるおちる────!!
「 それ……──"インビジブル"……! 」
────ぐにゃり…………!
「──!!?」
『────視界湾曲。』
『>>>おおっ!?』
くるぅん…………!
お爺様、私の身体、一回転。
──とんっ!
「あ、あれっ!? ギルマスさんっ、どこいった!?」
「さっきのクルルカンレディもいないぞっ!?」
「ど、どこぞへ消えたんだ!?」
「ママぁ〜〜、クルルカンどこぉ〜〜?」
「さぁ〜〜……」
み、見えてない、の!?
「……クルルカンとは、素早く立ち去るものだろう……」
「えっ、ちょとわっ!」
ととととととととととと────!!
ブレイクさんっ、雪の上なのに、なんて身のこなし!
てか、私抱えたまま走ってるっ!!
「おっ、おります! おりまぁ───す!!」
「……料金はツケておこう」
ふんぎゃああああああ────!!
私は荷物じゃねぇえええええ────!!
────バタン。
ギルドの奥の部屋に連れ込まれた。
脇に抱えられ、ぐったりしてる。
「立ちなさい」
「ふみゅ……」
やべぇ、へんな声出た。恥ずかしい……。
キンキンと立つ。
──ガッ!
「──っ!!」
『────反撃を。』
『>>>こいつ……!』
まって……。
ブレイクさんに、仮面で隠れていない下顎辺りを、鷲掴みにされた。両ほっぺまで届く、長い指だ。
強制的に、上を向かされる。
後ろは壁だ。
「…………」
「……きみは、分かっているはずだ。ヒゲイドは"絶対秘匿"と伝えてきた。あのド派手なアクションは何かね? 私達の好意を、無駄にするのかな?」
「ん……」
初対面の人に言われると、けっこうくるものがある。
能力を隠そうとしてるのに、あんな飛び出し方したんだ。
そりゃ、怒られる。
完全に、私が悪い……。
「ごめん……なさい……」
「…………」
ジッと、見られる。
涙目になりそうだ。
「……なるほど。驕りではなく、意志の力なのか……。ふんっ、やれやれ。困った英雄だ……」
手が離され、頭をポン、ポン、と二回、優しく叩かれる。
「んぇ……」
「ふんっ、ヒゲイドが、わざわざ長文を送ってきたのが、わかると言うものだな」
「………?」
「あんな長いギルドメッセージは、久しぶりだ。知りたいかね?」
「は、はぃ……」
「 ──"絵本の続きに気をつけろ" だ 」
「ぅぇ……」
「──はっは! 納得したよ。あの男、やっとユーモアがわかる歳になったか!」
背の高いお爺様が、笑顔を浮かべたので、ホッとする。
この人、顔が綺麗な分、真面目な顔がとっても怖かった。
「……住民を助けてくれた事、感謝する。物資も然り。だが、あまり真っ直ぐ動いてはいけない。きみのような素直な子は、特にな……?」
「すみません……」
「ふんっ、可愛らしい英雄だ。座りたまえ」
「えと……はぃ」
この部屋、どうやらパートリッジギルドの執務室ね。
ドニオスみたいに、魔王が座るような椅子はない。
横長の大きなソファと、これまた横長のガラスの机のサンドイッチ。
片方に、すわる。自然に金の手は、金の膝にきた。
「紅茶は好きかね?」
「え、はい。ミルクはいらないです」
「ふ。よい要求だ。そういうオーダーは、遠慮してはいけない」
なぜか笑顔になられ、どうやらブレイクさん自ら紅茶を入れてくれるみたいだ。
火の魔石があるから、火の魔法は苦手なのかもしれない。
「今は皆、お陰様で忙しくてね。ジジィの特権として、お客様が見えた時くらいは、休ませてもらうとしよう。なぁに、私はよく自分で紅茶を入れるから、味はまぁまぁと言うものだ」
「そなんですね……?」
「ふんっ、不思議な感覚だ。孫娘に茶を入れているようだな」
厳しい人だが、優しい人と見た。
────カチャ……。
「どれ」
「あ……ありがとうございます」
ジャムがのったスプーンがついていた。
くるくるくる。
ずずっ……。
「……ほっ」
紅茶は、優しい味がした。
香りが飛んだ茶葉に、ジャムはいいかもしれない。
「あらためて、感謝しよう。ありがとう。そしてようこそ、パートリッジの街へ───!」
向かいのソファに腰を掛けたブレイクさんが、
足を組み、片手を少し外に広げながら、
ウェルカムのポーズをした。
……ホント、オシャレで、気品があるお爺様だこと。
「ふんっ、しかしまさかの"配達職"とはな……。きみの"G.to.G"は、聞かない方がよいのかね?」
「"じー、とぅ"……? ──あっ! は、はぃ……。ランクはそのっ……一応"G"ランクで、通っていまして……」
「なるほど、ワケありだな。おや……そういえば、よく"G.to.G"が、ランクのことだとわかったね?」
「はは……」
忘れるワケがない。
「ふんっ。見たところ、相当な実力と神秘がありそうだが……」
ドキリ……。
「……いや、しかし、見事な金だな」
「え、あ、はは。この格好ですから」
「髪と瞳のことだよ」
こ、このお爺様、私を口説いてんのかっ!?
「……まさか、この街に、きみが現れるとはな……」
「?」
?? どういう意味かな??
動かない、ブレイクさんのカップ。
「…………………きみは」
「はぃ……?」
「…………いや、なんでもない」
えええ────……。
あっ……こっちの要件を、済ませちゃおう。
ソファの上で、背筋を伸ばす。
「ブレイクさん」
「なんだね。黄昏の鎧の姫よ」
「お手紙を、お預かりしています」
「ほぅ……!」
にかっと笑う、お爺様。
「それは嬉しいな。どのような方からであろうか」
「あ……王都の、貴族の方からお預かりしました」
「ほぅ。王都の貴族、とな? きみは随分、顔が広いのだな……? それに、信頼されている……」
「えっ、いや、それはどうだろ……」
「このご時世、信頼している者にしか貴族は物を預けんよ。どれ……見せていただけるかね」
「お待ちを」
手に出す。
封蝋してある方を上に向け、
両手で下から包むように、差し出した。
「こちらです」
片手に、渡す。
「 …………。 」
止まっ、、、たぁ〜〜〜〜────……!
ど、どうしたんだ、ブレイクさん。
姿勢は崩さずに、私はドキドキだ。
え、何、なんなのさ。
や……でも、私は、渡したぞっ!
ミッションを、やりとげたぞ!!
ん、クエスト……? まぁ、そりゃどっちゃでもいいや。
『─────アンティ:忘れています。』
『>>>後輩ちゃん。サインサイン! あと──……』
あっ、いけね!
────きゅぉん!
「あのっ、ブレイクさん。サインいただけ──……」
「……何者だ? きみは──……?」
「へっ──?」
なんだ、ろ……?
純粋な驚きの目で、見られている気がする……。
「………………"絵本の続きに気をつけろ"か……。なるほど、物語じみている……。中身を確認させてもらうぞ?」
「え? え? は、はい。サイン……」
蝋のシーリングスタンプは解け、封は切られる。
一枚の、小さな紙が開かれる。
いけない。あまり人の手紙をジロジロ見ちゃあね?
……目を閉じる事にした。
「…………」
『>>>こりゃ、後輩ちゃん。大事なこと、忘れてるよー』
……ふぇ?
『────"伝言"を一件:お預かりしています。』
────!
……私って、ホントばか……。
「ブレイクさん」
「……なんだね」
「その手紙の主より、伝言をお預かりしています」
「……!! この、手紙以外に、か? ………………きこう」
えっと……。
「 ── "運命に、頼れ"、と…… 」
「 っ! …………。 」
……。
これで……合っていたわよね……?
「…………」
ブレイクさんは、手紙を持ったまま、硬直している。
そんなに、長い内容の手紙ではないと思う。
「きみは…………無関係では、ないのか?」
「え?」
変なコトを、言われた。
「……アンティ・クルル」
「は、ぃ」
「……きみを初めて見た時から、聞きたかった事がある」
「はいぃ?」
???
「……なんでしょう?」
「…………」
ブレイクさんは、重く、黙っていたが────。
「 ──きみは、"狂銀"を屠りにきたのか? 」
「 」
──── そう、きいた。