デジャビュ・ザ・ラスト
肉体労働と多忙(×ω×;)めぇー
ええと……!
私……手紙を、お届けしたいんだけど……!?
「おぅうううい!! こっちは二番地に運ぼう!! あっちの先は屋根が低い!」
「リスト確認おわったヤツから積み直して! あっ違う違うッ! それは今から検品ですっ!!」
「衣料品は検品しなくていい! もう運んじまえ! 今はそれどころじゃねぇ!」
「それはこちらの荷台に回してくれないか! すまない! 診療所の方に届けたいんだ!」
「えらいこっちゃ、えらいこっちゃッッ……!! あっ、ペンがないッッ!!」
ドタバタドタバタドタバタ────!!
「……おおぅ」
えらい騒ぎだわ……。
そりゃそうよね。127箱もお届け物があったんだものね。
え? うん、届けたの私です……。
しかも救援物資! ギルド職員さんは大忙し!
街中に配る手はずは、大変なものになるでしょうね!
でも、でもですね!
この手紙、貴族さんから預かった超・責任重大なやつ!
とっ、とりあえず早く、ギルマスさんに渡してしまおっ!
……あれっ?
「──あれれっ! いないっ!? ブレイクさん、いないっ!?」
『────マーカー:表示します。』
「どこっ!?」
『>>>いるいる! 右奥だよっ』
っ! いたっ!
向こうの方に、長身のお爺さんが見える!
ここの受付、ホントに広いわね!
シュッとした、スマートな、お爺様って感じの人だ。
ヒゲイドさんと同じような黒っぽいスーツ。
まるで女の人のような長い髪。
目は細めで、何やら不思議なオーラを感じるような……。
あれが、パートリッジのギルドマスター、
"ブレイク・ルーラー"さん────!
「冒険者ギルドのマスターって、みんなスーツなのかな……?」
なんか、忙しそうで声をかけづらいっっ!
でもドニオスの街では、わざとゆっくりしてたからなぁ……これ以上遅くなるのはいけないわ!
「ちょ、とと! と、通、して、くださぁい──……! おっととっとととと……!」
──キンキン、キキキン、キン、キキンッ。
人の波を縫って、
ケンケンパーをするようになりながらも、
ブレイク・ルーラーさんの所へ近づいていく!
ん……?
なんか、あそこの職員さん、プルプルしてなぃ……?
──って!
「……お、おい! それは無理だって! 一気に持ちすぎだって!!」
「い、いけるいける!! 三箱ぐらい、う、うおおお……!」
「──!」
グラァ……!
「うわわっ──!?」
──ああぁぁあああかんあかんあかんあかんっっ──!
──キィン!
キ キ キ キ ィ ン ─── !
──バッ!
「──よっとおっっ!」
『────"力量加圧":起動。』
──ガッキィィイインっっ!!
倒れそうになっていた木箱タワーを、下から手で支えた!!
こういう時は、上の方を見てたらバランス取れるのよね……。
「ととと……」
「──ほぅ」
「わっ!?」
背後にいたブレイクさんと、目があった!
いつの間に背後にっ!?
あ! ら、ラッキーだわっ!? あっちから来てくれた!
「うおお……君、力持ちだな……!?」
「片手、だって……? だ、大道芸かなんかか……?」
いや、これ力技だから……。
木箱を三箱、一気に運ぼうとしていたギルド職員さんは、尻もちをついている。
「──もうっ! 無理しちゃダメなんだからねっ!?」
片手に木箱三箱。片手でビシッと指差し注意!
「あ、ああ……! ありがとな……!」
「……え……マジで片手?」
「もー」
ズシッ……ドスン。
「……」
「……」
三箱、下ろす。
私の身長くらいの木箱タワー。
「ふぃー」
『>>>後輩ちゃん、バランス感覚よくなったねー!』
え〜ぇ、えぇ、お陰様でね!
もうアレね、玉乗りしながらでも、
今くらいの芸当はできそうって思えちゃうもんね……。
トタトタトタ──!
「──ちょっとソコおぉお! 検品、終わったの!? なに尻もちついてんのよ──!! それの中身、もぅオッケー!?」
元気なギルド職員のお姉さんが来た。
手馴れた手つきで木箱を開ける。
「あれっ──! この木箱の番号、野菜になってるけど、これって火の魔石よね? あれぇ??」
えっ……!?
クラウンと作ったリストが間違ってる?
いや……そんなはず、ないんだけどな……?
『────大変:不服申請です。アナライズスキャニング:開始。』
────ヴォオオオオオオオンン!!
『────調査結果:表示します。』
『>>>表示するまでもないよ、クラウンちゃん。フタが入れ替わってるだけさ』
『────むっ:それはそうですが……。』
あらららららら……。
「あの、すみません! この木箱、フタの番号と箱の番号が違うみたいです。多分、どさくさに紛れて入れ替わっちゃったんだわ!」
「──えっ、そうなの!?」
『────アンティ:マーカー出します。』
──ヴォン、ピピ。
「──っ! そこのっ! 二箱、持ってる方!」
「えっ!? お、俺のコトかい?」
「上の箱のフタが、こっちと入れ替わってるの! 交換していい!?」
「えっ、ホントかぃ! それはまずいな……! じゃ、じゃあ下ろすからちょっと──」
「いい! こっちでとるから! ……──せぇの……」
「えっ?」
──キィン! ─────……ォオ……!
「──とっ!」
ぱしっ! キ────ン。
「──ッ! はっは! いいジャンプだ! さすがクルルカンだな!」
「い、いや、それはよくわからないけど……こっちのフタが正解よ!」
ポイッ、バコンっ!
「おおっ! ナイストスだ! おしゃ、じゃ、いってくるぜッ!」
「気をつけてね! ホント気をつけてね!!」
「任せておくれ!!」
だ、大丈夫かなぁ……。
大きなアイテムバッグを持ってると、直に荷物を運んでる人って、見てると不安になっちゃうな……。
てか、番号違いで野菜じゃなくて魔石が届いたら、えらいこっちゃなのよ!?
もし食堂とかにだったら、涙ちょちょぎれだかんねっ!?
「あ、ほーんと! こっちが58番のフタね? ありがとう! ……でもあなた、なんで上に乗ってる木箱の番号が見えたの?」
「えっ……あ、はは……。クルルカンですから……」
「???」
キョトンとしたお姉さんの目がつらたん。
わわわ……。
「……ふむ」
「あ……」
ブレイクさんが真横にいるの、すっかり忘れてたわ……。
「あ、あの、ブレイクさん」
「……アンティ・クルルさん、と言ったかな」
「ひゃい」
「満足に礼も伝えていなかった。感謝する。この度の件、頭が下がる思いだ」
「いえ……」
おお、超、紳士的&クールなお爺様だ。
かっこいい細身の……。
父さんが歳とっても、こうはならないだろうな……。
「……ふ、ヒゲイドめ。まさか、きみのようなレディと知り合いとはな。私も正直に言うと、"プレミオムズ・ライダーズ"が選出されたと知った時は、なんの冗談だと思ったのだよ」
──げっ!
それって……、街のギルドマスターには、私がプレミオムズに加わった時の通知が、届いてるって事じゃああーりませんかっ……!!
「……なぜ変な顔になる」
「な、なってません」
「……その仮面は、実に表情を隠さない仮面だな。口が尖って、眉が上がっているぞ」
「いっ、いじわるなお爺様はキライ──!」
「! ふ、ふ……! いや、すまない。……きみの力の事を、私たちパートリッジギルドは、絶対に口外しない」
「!」
「……まぁ、その輝く鎧では、街の子供に大変人気が出てしまいそうだが……」
「そっ、それは! ……もう割り切ってますので」
とりあえず、"格納容量がハンパない"のが知られなければいいかな……?
てか、この街の出張所には、何回も手紙の配達してるからね。マントに荷物が入るのは知られているし……。
一部の職員さんには顔が割れてるから、今更、姿だけ隠すとかはできない。
────あっ、手紙!!
「あのっ!! ブレイクさん!「ん?」あなたにもお届け物が────」
────ガチャン!!
「──たいへん!! 雪下ろししてた住民が、落ちて埋まったって! 男の人、スノーシャベルを持ってきてちょうだいっ!!」
────ッッ!!!??
「チッ────……」
────だっ!!
っ! ブレイクさん!? 走りだしたっ、はやいっ!!
"埋まった"──!?
それって、雪に埋まったの!?
てか手紙ぃぃぃぃぃぃい!!
す、すぐに、後をついて行く!!
キンキンキンキンキンキン────!!
『>>>雪下ろしって……もしかして屋根のか!』
「先輩!? 埋まったって……!?」
『>>>屋根の上に積もった雪を掻き下ろしていて、滑落したんだよ!!』
「やっ、やばいヤツじゃん!!」
『────アンティ:それだけではありません。滑落後に落下した雪を浴びてしまえば:結果の予測は限られます。』
「ゆ、雪って、そんな怖いの……!?」
『>>>後輩ちゃん……屋根から落ちて骨折して、雪に埋まって息ができなくて寒いのに、どこに埋まったのかわからない……しかも、凍ってくるんだよっ!!』
「クラウン!! 場所しらべなっ!!」
『────レディ。お任せを。』
ジジ──!
「──ブレイクさんっ!! さき行くよっ!!」
「──なにっ」
キィ─────ン!!
クォオン、クォオン、
キィ───────────ン!!
「うぉっ!!」
「きゃあ!!」
「……!!」
床っつーか、壁を蹴って移動する。
室内の廊下のカーブとか、絶対この方が速いのよね。
すれ違うギルド職員さん、みんな、超ビックリ顔。
『────マーカー表示。』
「よしゃ!」
窓枠に足を掛け、外に飛ぶ。
もちろん、上だ。
こっから見るのが、てっとりばやい。
……──オォォ────……。
「──あれだっ! 人が集まってる!!」
幅の広いシャベルで、何人も雪を掘ってる!
『>>>雪、溶かすかぃ!?』
「バカ言わないで! 人目はいいから、さっさと吸い込みなさい!」
『>>>言うと思ったよ!!』
「クラウンっ!! 埋まって──……」
『────レディ。広範囲多角アナライズスキャン。
────"射出"。』
──ヴォヴォヴォヴォオオオオオオオンン!!!!!
雪を透過していくアナライズカード。
クラウンが、私が指示を出す前に、やってくれた。
こういう時、付き合いの長さを感じずにはいられない。
「人が埋まってる所は、常時マーカー!」
『────レディ。オーダー受諾。』
「"ベアークラッチ"!!」
『>>>シルエットで表示するよ! っ! これは……!』
「──! ふざけんな5人くらい埋まってんじゃねぇか。先輩、私はっ、出し惜しみはしないよ……!!」
『>>>気持ちはわかる……! でも、マフラーで目隠しだけ、頼むよ……!』
「!」
ふと、頭が冷える。……落ち着け、私。
そだね……バカ正直にやりすぎてたら、
あっという間にワル目立ちするわ。
こういう時、先輩のブレーキは、ありがたい。
落下しながら、肩のマフラーマントに手をかける!
「……ん。クラウン!!」
『────"白金の劇場幕":最大展開。』
『>>>振りぬきなっ! アンティ!!』
「よしきたっ!」
「くそぉぉおお!! どこに埋まってんだぁあ!!」
「先が丸い棒、もっとないのか!?」
「さっき折れちまった!! シャベルでやるしかねぇ!!」
「あなたぁ!! どこぉ!! 返事してぇ!!」
「うわぁあああん!! ママァ──!!」
───────オオオ。
「……──! なんだ……? 影……?」
「雲か──……!」
「──! いや違う! あれは………!?」
シュルルルル、バサァアアアア────!!!
……ゥゥゥウオオン。
「これはっ……ぬ、"布"……!!?」
「で、でかいっっ!?」
「うああっ!? 覆いかぶさってくるぞぉお!!」
────シュルルルルルルゥゥゥ………!!
────パキン。
「え……?」
「足元の雪が………消えた?」
「どっ、どうなっているんだ?」
「あっ、あなたぁ───!!」
「っ! お、おいっ、埋まってたやつが見えてる! 見えてるぞ!?」
「ケホッ……ぼ、僕は、どうなってたんだ……?」
ふわぁぁぁぁぁ……─────キン。
「「「「「 ──! 」」」」」
バサァァァァァァァァ────…………!
「ママぁ、あれ……」
「ぇ、ええ……」
あの時、私たちが見たのは、
大きなマントをはためかせた、
金色の英雄でした。
銀世界の大地に降り立つ、その姿は、まるで。
あの絵本の、最後の戦いの、幕開けのようでした。
「"クルルカン"、だ……!」










