約束された花と想い
荷物をまとめるのを手伝って、夕方前になった。
今日は、墓参りの後に1泊して、明日の朝に出る事になる。
この場所は、誰も居なくなるのだ。
太陽十字のお墓につく頃には、すっかり夕焼けになってしまった。
今朝、この空の色の時に、魔物に襲われていたのが、何だか、夢みたいだ。
バスリーさんと子供たちが、墓の前で話している。
呪いの仮面の、男の話を。
「ばーちゃん、この人、お花を守ろうとしてくれたんだよね?」
「……そうさ。この場所で、待っててほしいと、そう言って、いきなり消えたのさ。変な、仮面の男でね」
「でも、何で、しんじゃったの?」
「……魔物さ。身体中に、ぶっとい蔦が絡まって、死んでいたよ。……あの時ゃ流石に、ふさぎ込んだモンさ」
「…………」
「でも、あの時ゃ、確かに夢が見れた。希望に満ちた瞳に。言葉に。優しさにね。……そこに、惚れちまってた」
「好きだったの?」
「好きだったさ」
……私、ここにいて、いいのかな。
────よくないだろうなぁ。
「まさか、呪いの仮面になっちまうとはね! かっかっか! ……でも、もしかしたら、私たちを助けにきてくれたのかもしれないねぇ」
「そうなの?」
「ああ、きんぴか嬢ちゃんに乗り移ってねぇ!」
え、そこで私ですか……
多分、乗り移られてはいないと信じたいんですが……。
「……よし、もういいよ。帰ろう」
「──待ってください!」
「?」
「私も、お祈り、したいです」
1歩、踏みでる。
墓の主に、仮面の持ち主に、呼びかける。
これで、よかったんですか?
私を呼んだのは、この人たちを守るためなんですか?
私は、上手く、やれたのでしょうか。
ここに、私がきて、何かが変わってしまったのではないですか?
夕焼けが、悲しい。
何故、こんな気持ちになるんだろう。
守れたはずだ。
でも、ここは、もう。
蕾のナイフを、取り出す。
「嬢ちゃん……」
多分、最後の精霊花。
なら、ここに、置いていきます。
貴方が、守ってください。
最後の希望の蕾を。
1歩、また1歩、墓に、歩み寄る。
大切な人のために頑張った、仮面の男の元へ。
顔が、熱くなった気がした。
『────警告。身体機能を、掌握されました。』
────────はぁ?
バツンッ!
ちょっ、
身体がっ、
動かない!
「────────」
「? 嬢ちゃん?」
ゆらり、ゆらりと、身体が揺れる。
「! その仮面は……!」
仮面?
知らない間に、仮面をつけていた。
墓を見る。
魔法陣が浮かびあがった、太陽十字を。
「なんだぃ! この魔力は!!?」
「おばあちゃん! みて! 光ってる!」
「うわぁぁぁぁ!」
そう、光ってる?
仮面ごしに見る、黄緑色の光。
え、これ、私だけに見えてるんじゃないの?
え? 私どうなっちゃうの?
私が、ナイフを構える。
下向きに、蕾のナイフを。
光の方向へ。
声が聞こえた、気がした。
────ごめん すこし かりるね
はっ。
やっぱりか。
あんたでしょうよ、そりゃ。
さすが、のろいのかめんね。
いいわ。
なんとかしてみなさい。
このかなしいいろを。
つむがれたおもいを。
まったく、たかくつくわよ、このおだい。
なんてね。
────きぃぃぃぃぃぃいん!!!
魔力が、ほとばしる。
もうすぐ、闇にのまれる、最後の丘に。
光は、透明の刃を濡らす。
ナイフは、すでに解き放たれている。
「な! そ、れは!」
おばあちゃんが、驚いているね。
そりゃね。私も意識はあるのよ。
もちろん、一番近くで見ている。
手に握られた、 " 花の剣 " を。
くちが、かってに、うごく。
つむぎだすのだ。
すべてをとりもどす、
さいしょで、さいごの。
祝詞を。
「「孤高ではなく────」」
「「憂いではなく────」」
「「あるべき姿の花に告げる────」」
「「我が想いに応え、大地を抱け────」」
「「────────"大切な人のそばで"」」
私は、剣を地面に突き立てた。










