☪ SEXY TONIGHT……! ☪ ⑳ しゃーしーえー
青と、白。
私と店長で、ちょっと高い所に登っている。
キラキラと、朝日が横殴りにしてくる。
徹夜明けのお目目には、けっこうツラい。
「 ………… 」
{{ ………… }}
ここ、教会の建物の、まぁまぁ上の方です。
ホントは、こんな所に座っちゃダメなんだろうけど。
あ、しかも私、悪魔だし……ま、いっか。
向かいに、ピエロちゃんが住んでいる白い塔が見えてる。
教会とギルドって、けっこう近いのね。
あの後、憲兵がすぐにきて、
伯爵に捕まっていた女性たちを保護した。
ヤン言わく、ドニオスのギルドマスターさんが、
手を回したんだろうとのこと。
ま、すごい物音したでしょうし。
あれだけおっきな、ハートマークの穴が空いたものね。
突入するには、よいきっかけになったはずだわ。
幸い大きな怪我をした人は誰もおらず、
あまり干渉されたくない私たちは、
憲兵から隠れるように、屋敷から姿をくらました。
ヤンはそのまま、ギルドマスターへ報告へ行き、
ガルンは眠くなってしまったようなので、
タイガー仕様になってしまったクにゃウンと一緒に、
先に帰ってった。
今は、店長と私、二人だけだ。
「 ………… 」
{{ ………… }}
店長は、ぼーっと、朝日に照らし出される街並みを見ている。
伯爵に勝ったのに、嬉しくはないのかしら?
みんなと別れた後、店長は何故か、この教会の塔に登った。
この街で、二番目に高い建物。
横で、お山座りを崩している。
帰ったほうがいいかな、とも思ったけど、
なんとなく、ついてきてしまった。
今のところ帰れとは言われていないので、
私も朝日を受けながら、膝の山脈に参加している。
私の姿はもう子供に戻っていて、
店長の鎧も、ずいぶん剥がれてしまっていた。
……。
{{ あの…… }}
「……無事であるかな。あのせくすぃーたちは……」
{{ ぉっ……? }}
店長は、私と目を合わさず、
遠くの青を見ながら、呟いた。
{{ 無事もなにも……店長がお助けになったのではありませんか }}
「ふむ……心に傷を残していないか、心配なのである……」
{{ むぅ…… }}
やけに気弱なことを言うわねぇ。
ついさっきまでの威勢は、どこへ行ったのかしら!
……。
あまり良くはないけど、ちょっと教えてあげましょう。
{{ ……あの、"ラミエリ"って子の心を、見たんです }}
「──!」
{{ あの子、"歌手"になりたいって、そう思ってました }}
「ほぅ……!!」
{{ でも、貧困のせいで、今まで言い出せなかったみたいで…… }}
「ふむ……しかし、あのご老体たちはもう、貧しさを理由に孫娘を手放したりはせぬであろうな」
{{ ええ。だから、ラミエリは、お爺様方に夢を打ち明けるんじゃないかしら。その……あの方たちの目立ちたがり屋は、多分一生、付き合っていかなきゃならない性分だから…… }}
「ふむ、歌手になって目立てばよいと、そういうわけであるな?」
{{ そう……ですね。少なくとも、大手を振ってストリートを歩けますわ }}
「人気が出たら、そうもいかなくなるであるがな! うむ……今回の報酬は、グランカプラの翼膜であったな」
{{ カプラって、おデブのコウモリみたいな魔物ですわよね? }}
「ほぅ、知っているであるか。グランカプラはピンク色の大きなコウモリの魔物である。あの淡い桃色の髪には、よく似合うであろうな」
{{ ……あの子に、衣装を作ってあげるおつもりですね? }}
「我の心を読んだであるか? 見事であるな」
{{ そ、そのくらい、心を見なくてもわかります…… }}
「そうであるか……」
{{ ………… }}
「…………」
────ちゅん。ちゅんちゅん。
鳥って、こんな高い所まで飛ぶのね。
……いや、そう言えば、もっと高いところを、群れになって飛んでるか。
高く、高く、上の方を……。
{{ 夢を、あきらめた…… }}
「 ──…… 」
{{ 店長っ、そのっ……気になって、しまって…… }}
「…………」
……嫌われ、ちゃうかなぁ。
でも、ピエロちゃんにも多分、関係のあることだから。
私は、彼女に返しきれないほどの、恩返しをしたいから。
……いや、建前ね。
私個人、とっても気になってしまっている。
{{ ヤンも、ちょっと言っていました……店長。あのヨロイ……"クルルスーツ:レディオル改"に組み込まれている"さいしょのむねあて"とは、いったい……? それに、貴方の……あきらめてしまった夢って…… }}
「……」
{{ ……ごめんなさい }}
やっぱり、ぶしつけだったわよね。
無理やり、過去をほじくり返すような。
私だって、昔のことを根掘り葉掘り聞かれたら……。
……なにやってんだかな、私……。
{{ ………… }}
「……ふ。イニィ殿よ。そのように思い詰めるほどのことではないのである」
{{ ──! しかし…… }}
「我はこの街で、確かにひとつの夢をあきらめた。そして、新しい夢を見つけ、それも失いそうな時、あの黄金姫が現れた」
{{ ……! …… }}
「今の我の夢は、ひとりでも多くの女性冒険者に活躍の場を与えることである!!」
……………。
{{ ……"昔"の、貴方の夢は……? }}
「……」
{{ ………… }}
…………。
「……あの"むねあて"の、"本来の持ち主"を探すこと」
{{ ……! }}
ほんらいの……。
{{ ……持ち、主 }}
「うむ。あの"むねあて"は……ある女性の、鎧の一部であったはずなのだ」
{{ その、人を }}
「ずっと、探していた。しかし、我はあきらめてしまった」
{{ ……その持ち主の方は、お亡くなりになってしまわれたのですか? }}
「……! ……わからぬ」
{{ ……では、生き別れになったっきり? }}
「居場所も、生死も、名前も……わからぬのである……」
{{ ……!! 名も、ですか…… }}
なぜ、そんな……。
{{ ……ぁ、の…… }}
「ふ……おもしろい話ではないぞ?」
{{ ──! ……聞いても、よいのですか? }}
「聞いてくれても、よいのであるか?」
{{ …… }}
自信なく、コクリと、小さく頷く。
店長は、前を見ていた。
「……"さいしょのむねあて"か……」
{{ 店長……? }}
「……我の記憶は、過去の方から順に、削り落とされている」
……え?
「忘れている、だけなのかもしれぬ……ただ、昔のことが、もう思い出せなくなっているのだ」
{{ てん…… }}
「ある日、この街より離れた小さな村のはずれで、我の意識は覚醒した」
{{ …… }}
「我は、記憶喪失と言うヤツだったのだろう……近くの村に身を寄せ、農業などを手伝っていたものだ」
店長は、膝の上で手を組み、言う。
「幸い、何故か鍛え抜かれた肉体を持っていた我は、空虚を感じながらも……村では男手として重宝されていた」
{{ …… }}
「ある日、突然、一部だけ記憶が戻ったのである」
{{ ……! }}
「鎧の製法……格闘職の技……そして……そして、あの」
ギュッと、握られる黒のグローブ。
「我はすぐに、我が意識を覚醒した場所に戻り、手がかりを探した。辺りを歩き、土を掘った!」
{{ …… }}
「そして、ひとつの宝石がついたバッグを見つけたのである」
{{ っ! それって、まさか…… }}
「"時限石"……恐らく、記憶を失う前の我の……。そして、あれを取り出し、見たのだ」
{{ …… }}
"さいしょの、むねあて"……。
「あの胸の装甲を見た瞬間、我に懐かしい何かが甦ったような気がした。そして、鮮烈に我の魂に呼びかける心の叫びがあった」
{{ なに、か……? }}
「 "このむねあてを、彼女に届けよ"と…… 」
{{ …… }}
「……そして、あの女性の事が頭に浮かんだのである……。白い髪、白い鎧……その胸当てに唯一、太陽のように輝く金……。記憶はぼやけ、名もわからぬ。しかし、我にとって……大切な女性であった。それだけが、漠然と心に、のしかかった」
{{ …… }}
「……我は、その日のうちに村を出、ここにたどり着いたのだ……」
{{ …… }}
「イニィ殿よ。この仮面とグローブ、ブーツ……どう思う」
{{ え"っ…… }}
ど、どうって……。
「正直でよいのだ」
{{ あ、あやしい、です? }}
「はっはっは……」
{{ その、顔を全部、隠してしまってます、し…… }}
「まさに、それであるよ」
{{ ? }}
朝のそよ風が、涼しい。
「この街に来て、たくさんの冒険者を調べた。彼女は鎧を着ていた。だから鍛冶屋の紛い物をしながら、女性ものの鎧を造り、客を待ったのだ。もしかしたら、"記憶の中の君"が、店に訪れるのではないかと……」
{{ それ、で…… }}
「だが、ある日、とても恐ろしい事に気づいた」
{{ 恐ろしいこと? }}
「ふとした、発見だった……我は、爪がほとんど伸びぬ」
{{ は、はい? }}
「髪も、とても伸びるのが遅いのだ」
{{ え、え? }}
な、何を突然……。
{{ それが、恐ろしい事なのですか? }}
「我も、最初は気にしてはいなかった……。しかし、これは、こう推論できるのではないか……?」
{{ ……? }}
「"我の身体の時の流れは、皆と違う"……」
{{ ──ッ!! }}
「おそい、のだ……。いや、まるで、時が止まっているかのような……」
{{ そ、そんな……まさか……! }}
「数年過ごす内、よもやとも思った。我の肉体は果たして、歳をとっているのか?」
{{ …… }}
店長の身体が、歳を、とらない?
「真実は、わからぬ……ゆっくりとだが、この身体は老いているのやもしれぬ。しかし、もしこの身体が、歳を取らぬなら……」
手の平を広げて、彼は見る。
震えているような気がした。
「……永遠の命を望む者は多いだろう。しかし、過去の記憶が抜け落ち、待ち人がいるやもしれぬ我にとって、それは絶望のようなものだった……」
{{ ……! }}
「……我は歳をとらず、"記憶の中の君"は、老いて死んだやもしれぬ」
{{ あ…… }}
「我は、怖いのだよ」
{{ ……っ }}
「滑稽であろう、イニィ殿よ……。我が顔を隠し、手や足を隠すのは……己の時が止まっているかもしれないと、思い出したくないだけなのである……」
爪と、髪を……!
……そ、そんな理由が……。
てっきり、ただ変態なだけだと……。
「悩んだ。我は悩んだ。これは本当に、我の記憶なのか? 我は人間なのか? 彼女が死んでいたら、我の命に何の意味があるのであろうかと……!! そして彼女は、記憶の中の我にとって、どのような存在だったのか……!! 悩み、考え、気づけば、ヨロイを作っていた!! ……そう、我は幻影のような夢を、創作によって上書きしようとしたのである……」
{{ 夢を、上書き…… }}
「あの"胸当ての君"は、おそらくもう、この世にいまい。我は、何もできなかった。多分、我は、失敗した……」
{{ ……、…… }}
「だから、我は代わりに、たくさんの女性冒険者に鎧を造ろうと思ったのである。ふ、なさけない。身代わりのようなものだ。我は自分を忘れるため、夢を新しくしたのだ……」
{{ そ、そんな言い方は……!! アブノ店長!! 貴方は確かに、何人かの女性を救っています!! 服だって、今日の事だって……!! アブノ・マールは、情けなくはありません!! }}
「……!! ふ……イニィ殿は、優しいレディであるな……」
{{ ……!! もぅっ!! }}
「……"アブノ"というのは、本当の名ではない」
{{ えっ…… }}
……。
え……。
な、なんでだろう……。
なんで、こんなに、さびしくなったんだろう……。
「ヒゲイドと出会った頃、なし崩しというか、形式的に名を書く書類があった。我の持っていたボロボロのアイテムバッグには名が書かれており、かろうじて、ファミリーネームの"マール"だけは読み取れた」
{{ で、は……"アブノ"は……? }}
「村では、"マール"と名乗っていた……しかし、ファーストネームを書く欄を見て、我にも思い出せる名があるかもしれないと、妙な期待をした。ペンを持つ手が、覚えているのではないか。あの胸当ての君のように、朧げにでも思い出せるのではないか……」
店長の右手が、空中に、見えないペンを持つ。
空虚な書類に、空虚なペンが、空虚な名を書く場面。
こんな寂しい演劇は、初めてだった。
「"A"……違う。我の名前は、この文字から始まらぬ。
"B"……違う。この字からも、我の名前は始まらぬ。
"NO"……"違う"。我は……わからなかったのだ。
そのまま……その書類を出した……」
{{ ……、っ……、…… }}
「"アブノ・マール"。そこからは、ずっとこの名を名乗っている」
……。
……。
なんて、言ってあげれば、いいのか……わからない。
ポン、と、手を頭に置かれた。
{{ っ! }}
「ふ……そこから我は、割り切ることにした! 名を改め、夢を改め、成すべき事をしようと!! 女性冒険者を影から支え、我の存在意義を残そうと! ふはははははは……!! 我は"せくすぃー"に目覚めたのだ!!!」
{{ は、はぁ…… }}
「……しかし、たまにあの"むねあて"を見ては、しょんぼりせくすぃーをしていたのである……まだ、続きを聞きたいであるか?」
{{ むしろ、ここでやめたら怒りますよ? }}
「ふ……。ヨロイの材料を稼ぐため、裏の仕事や、狩りに出向いたりもした。我は何故か、拳で戦うのが得意であった。闇の系統の魔法を使い、我は拳で生き抜いてこれてしまった」
{{ はぃ…… }}
「厄介な魔物の素材の買い付けも、よく引き受けていたのたであるが……ある日、"危険な金色の素材"が、店に持ち込まれた」
{{ ────!!! それ、もしかしなくても……! }}
「うむ。売り手の話を聞くと、どうやらその金の装甲は、触れると、肉のようなものが噛み付いてくるらしい。しかし何故か、その金の素材たちは、我が触っても一向に噛みついてはこなかったのだ……!」
{{ ……!? }}
「売った側も不思議がっていたのである……。我は買い取り、その金の装甲で、ヨロイを打とうとした。すると、組み合わせた他の魔物の素材を、その金の装甲が喰らってしまったのだ!」
{{ "ソウルシフト"……"捕食"……!! }}
「……何も、わからなかった。組み込んだ素材は、尽く喰われた。我は手を突っ込んだりしたが、何故か喰われる事はなかった。我は思った……この金の装甲に、あの"むねあて"を喰わしたら、我は、昔の夢に苦しまずに済むのではないかと……」
{{ ……! }}
「驚くべき事が起こった。"むねあて"を、そっと装甲の中央に置くと、初めは肉が伸び、その後……そっとそれを包み込んだのだ」
{{ えっと……? }}
「まるで、むねあてを守るかのように、あの金は動いた。意思を持っているとさえ思った。我は直感した。この"むねあて"と"金の装甲"は、出会うべくして、出会ったのだと」
{{ ……、…… }}
「あのヨロイの基礎を造った時の事を、我はよく思い出せない。まるで、鬼神が乗り移ったようだった。ある絵本の主人公を思い浮かべながら、組み込み、叩き、打ち、熱し、穿ち、めり込ませ、なんとか、ひとつのものにした!!」
……"クルルスーツ・レディオル"。
「不思議なことに、"金の装甲"と"むねあて"は、我がいじると、互いの隙間を埋めるように変形した。もう恐らく、同じものは造れぬ……」
{{ それほどまでの }}
「ふ……情けないことに、一度だけ、"むねあて"を使ってしまった事を後悔した事があった。我は、金のヨロイから"むねあて"を引っペがそうとしたことがある。しかし、金の装甲と肉は、決して"むねあて"を離さなかった」
{{ とれなかった、のですか? }}
「うむ……。実は、その時、けっこう荒っぽい事をした。何とか二つを離そうとして、力任せに殴ったり、ハンマーグローブを振りかざしたり、店にあった加工用の高価な刃物で切り分けようともした。それはもう、雄叫びをあげてな……」
{{ そ、想像できませんわ…… }}
「結果、まったく刃が通らなかった。我が造りし時は、あんなにも自在に形が変わるというのに……何故か刃も、打撃もまるで通らぬ。"むねあて"は、Aランク素材も断ち斬る解体用の刃をも弾き返し、へし折ってしまう始末だった!」
{{ や、柔らかいのに、硬い……?? }}
「ふ、ふ……! 我は大笑いし、あきらめ、そのヨロイを徹底的に造り込む事にした!! たまに、あの金の装甲の欠片が手に入り、組み込むこともあった。そして……あの日、出会ったのだ」
{{ …… }}
……ピエロちゃんの、あの金のヨロイには、
店長の……そんな思いが詰まっていたのね。
「ふふ……イニィ殿よ。聞きたい事は聞けたであるか?」
{{ っ……ぁ、りがとうございます、店長…… }}
「ふ……ここまで話したのは、イニィ殿が初めてであるな……」
仮面越しの店長の顔は、なんだかスッキリしているようだった。
記憶喪失で、思い出の品で、変なヨロイを造った。
……まるで、おとぎ話のような生き方だわ。
{{ ……まだ }}
「む?」
{{ まだ、その"胸当ての君"に、会いたいですか……? }}
「……ふ。それは卑怯な質問であるよ……」
{{ ぁ……、ん…… }}
「もちろん、会いたいのである。そして、聞いてみたい。君の名を、それから我の名を。そして……」
{{ あ…… }}
「──"我と君は、愛し合っていたのか"を──……」
…………。
…………。
…………。
{{ }}
「……ん?」
私は、気づかないようにして、立ち上がった。
{{ ……やれやれ。我らが店長は、見た目だけではなく、中身もとんでも店長でしたわね! }}
「ふ、ふはははははは……言ってくれるではないか、"約束されしせくすぃー"よ!!」
{{ まさか、歳をとらない変態さんだとは思いませんでしたわ? }}
「い、いや、本当に歳をとっていないかは、わからぬが……」
{{ もしくは、長寿の種族、ということなのでしょうか……神官に"鑑定"してもらってみては…… }}
「我がその方法を思い立った時には、既に教会より出禁を喰らっていた。たまに変装してこっそり行くが……"鑑定"してもらうのは至難の業である……」
{{ うっわぁぁ……。どうせ半裸で教会に突っ込んでいったんでしょう…… }}
「み、見ていたのであるか……?」
{{ ははっ、きゃはは……! 呆れたッ……! イチバンやっちゃいけない参拝方法だって、悪魔でもわかりますよッ!! まったく────……、 }}
ぐぅ〜〜〜〜……、きゅ〜〜──……。
{{ ………… }}
「…………」
{{ …………私では、ありませんよ……? }}
「うむ……そうであるな?」
{{ 優しさがツラい…… }}
「すまぬ……せくすぃーなお腹にごめんなさいなのである」
{{ はァ〜〜。深夜残業分のお給料はいただけますの? }}
「しかと心得たのである!! ふむ……イニィ殿は"ちゃっかりせくすぃー"であるな?」
{{ はは……残業やりまくってるニャンコと知り合いなもので…… }}
「──?」
ぐぅうううううおおおお……。
「…………」
{{ …… }}
「歳を取らずとも、夢が叶わずとも、腹は減るものだな……」
{{ ぷっ、く……ぷぷ }}
「おお……まだ見ぬせくすぃーな笑い方……」
{{ ね、ねぇ店長、朝ごはん、食べていきます? }}
「えっ!? ど、どういう意味であるか!?」
{{ いや、そのままの意味ですけど…… }}
「そ、そんなご迷惑は、"せくすぃーNG"ではないか……?」
{{ やー、ピエロちゃんって、たまに物凄く寝ぼすけですけど、基本朝は早いんです。もう起きてると思いますよ? ぜったいすぐに朝ごはん用意できますし。多分、100食くらいならすぐに…… }}
「……姫は、旅館でも経営する気なのであるか?」
{{ きゃっはっは! いや、出来そうな気がしますわね! }}
あの子の食料品の貯蔵量は、ホント、ちょっと注意しなきゃいけないレベルですものね……?
「う、うーむ……このような徹夜明けは、さよならバイバイスヤスヤせくすぃーした方がよいのでは……?」
{{ なんですかその表現……ま、だいじょうぶですって! }}
「ほ、ホントであるかぁ……? 突撃せくすぃー朝ランチであるぞ……」
{{ もしダメでも、朝ごはんお持ち帰りくらいはできますって。ピエロちゃんだって、大切なヨロイを貰い受けてるんですから、それくらいの恩返しはしなくちゃですよ! }}
「そ、そうであるかな……? うぅむ……」
{{ ほらっ! いいから当たって砕けろですよ! 店長っっ!! こっから塔まで跳べますか!? }}
「う? う、うん……」
{{ えぇいっっ!! }}
子供悪魔が空を飛ぶ!!
今くらいの朝っぱらなら、見られないでしょう!
「────とぅ──!!!」
店長も、飛ぶ!!
おおっ、すごい! 黒い外套が風を受けて、
浮力を作っているわ!
きゃはは!!
マール服飾店の、お通りだ──い!
{{ きゃはっ! きゃははははは!!! }}
「……飛んでいる時のイニィ殿は、せくすぃーハイテンションであるな……?」
{{ きゃはは! そうですかぁ? ────と! }}
着地────!
さすがイニィ・スリーフォウ!
見事な着地であります!
「ふっ───!! ほぉ……このような塔の上が、姫の城であったか……! 見事なものよ……」
{{ この街でイチバン高いお家ですわ! さ、どうぞどうぞ }}
「こ、これ、イニィ殿……レディの部屋にいきなり入るのは……」
{{ だいじょうぶです。お風呂入ってたらシャワー室だろうし……いつもなら、もう起きて服着てますよ! }}
「そうなのであるか?」
{{ 悪魔をナメちゃあいけません! }}
あ、カギ……。
トントントン。
{{ あ、イニィ、今帰りました!! その……ピエロちゃん、カギ開けてくれる? }}
「────え!? イニィさ──」
「にょきっとぉ──!」
あ、うさ丸がいるのね。
「にょんむにょんむ! にょっきぃ──!」
「あ、ちょ、こらうさ丸、勝手に────」
ぴょんぴょん、ぴょんぴょん。
ガチャガチャ、キィーッ。
「にょきっと」
ポチャッ……テプ……。
{{ }}
「 」
「…… 」
「かんかん?」
……ええ、かんかんね……。
ピエロちゃん……そのバスタブ、なに……。
最近のピエロは、朝から部屋の真ん中でお風呂なの……?
やばーい……。
「────ぎゃあああああああああああぁぁぁ!!! へ、へんたいだァあああああああぁぁぁ─────!!!!!!!」
────ENCOUNT!!▼
野生の はだかンティが 現れた!▼
あなたの ターンは こない!!▼
はだかンティは ちからを ためている・・・!▼
はだかンティの 攻撃!!▼
────"クラウン直伝:ゴールデンロケットパンチ"!!▼
「いやぁぁぁあああああああああばかぁあああああああああああ!!!!!!!」
「ぐぅうううううおおおおおおああああああああああぁぁぁ────!!!!??」
{{ てっ店長おおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおおおおお────!!!?? }}
ヒュ───────────だぁぁああん…………。
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マール服飾店 臨時休業のお知らせ
店長の全治一週間の怪我のため、
誠に勝手ながら、
臨時休業とさせていただきます。
店長代理
─────────────────────────────
「はぁ、はァ……はァ〜〜〜〜……!!」
「かんかん〜〜!!」
「にょ……にょきと……」
黄金は変態よりも強し……!(´꒳`*)。・:+°










