☪ SEXY TONIGHT……! ☪ ⑭ さーしーえー
桃の乙女が目を覚ますと、
そこは、まだ、絶望の夜でした。
自身を守る悪魔の背中から、
石の像のようになった、十四の彼女たちが覗きます。
ふらふらとする中、
自分たちから、大切な何かを奪っていく、
白き王の笑い声が聞こえていました。
憤った闇の者たちは、
白き王に、襲いかかります。
狩人の双剣が、白い十字架に弾かれます。
王の周りの、七対のソレは、
羽根のように、剣のように、
自由に動きました。
狩人の体が、壁に叩きつけられます。
黒の変態は、真っ黒の外套を燃やし、
大きな声で、白き王に、殴りかかります。
しかし、白の十字架は容易く黒の炎を止め、
一対の白十字は、
変態を刺し殺そうとします。
すんでの所で飛びのいた黒を見て、
悪魔は、白き王が、
かなりの光魔法の使い手だと、確信します。
王は、自身の血筋と、
十四の乙女たちの魔力で、
強大な力を手に入れていたのです。
魔獣の三つの眼が光り、
三つ又の槍爪が、
王を貫かんとします。
しかし、白き王が手をかざすと、
闇の力は、王の後ろへと抜けていきました。
これには、悪魔と魔獣も驚きました。
王は、光だけではなく、
闇の力の流れまでも、変える事ができたのです。
悪魔はギリリと奥歯を鳴らし、
どうしようかと考えました。
魔獣の中には、無限の闇が眠っています。
この"くろいあな"の力を開放してよいのかどうか、
悪魔と魔獣は、悩んでいたのです。
────それが、
大きな隙と、なりました────。
✟ ✟
✟ ✟
✟ ✟
✟ ✟
あっという間に、四対の十字が飛来し、
檻となって、悪魔を閉じ込めました。
魔法の流れを変えられた悪魔は、
胃の中の物を、全て吐きました。
それを見て、桃色の髪の乙女は、怯えました。
ぐらぐらする意識の中、悪魔は、王を睨みます。
黒の変態は、悪魔の名まえを呼びます。
狩人は、苦しそうに、立ちあがりました。
三対の翼を背に残し、
白き王は、言いました。
『 その十字の杖。悪魔の身体。よもや其方が文献にあった、魔を宿し千年の十字架か。そのような醜い力を欲すとは、私には理解が及ばぬ。其方が私の糧とならず、本当に良かった。確かに穢らわしく、悪魔の色に相応しい…… 』
悪魔は、母の髪を辱められ、
真紅の目を丸くし、震えます。
心を白くするような、怒りでした。
それに呼応するように、
狩人と、魔獣と、変態が、王に挑みます。
狩人が投げた剣は躱され、
王の背後に刺さり、
次を投げる前に、蹴り飛ばされます。
魔法の塊である魔獣は、王の十字架によって、
全ての向きを変えられ、ズタズタになりました。
黒き変態は、白き王の背に残る、
三対の十字からくるであろう魔法を警戒します。
ですが、それは完全な裏目でした。
王は、変態の背後に回り、
両腕を胴にまわし、
持ち上げ、
仰け反り────、
『 ス ー パ ー エ ロ テ ィ カ ル 、
ス ー プ レ ッ ク ス ぅ ぅ う !!! 』
「──ぐぁっあ、ぐああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」
────ドギャぁあああゴゴおぉおおおおンンンん!!!
思いっきり変態を、背負い投げます。
まさかの投げ技に、
完全に油断していた変態の後頭部は、
地面へと、めり込みます。
甚大な被害であることは、一目瞭然でした。
次々と仲間が、倒れていきます。
桃の乙女は泣き、魔獣は狼狽えました。
魔獣は、何とか体を元に戻し、
白き王を殴りますが、
触ることもできません。
王は言います。
『 ただの魔法の集合体でしかない、無の幻ごときが……その心さえ偽物でしかないというのに 』
『 ガルル…… 』
心と闇でできている魔獣にとって、
この言葉は、とても、つらいものでした。
魔獣の闇は勢いを失い、
見る見る内に、体が小さくなります。
悪魔は、まだ白十字の結界で、もがいています。
恐れ慄く桃の乙女に、
白き王が、近づきました。
『 フォホ、君で最後となる。十四の羽根。胸に輝く、三枚葉のジェム、そして……君の最後の十字架は、私の股間を護るのだよ。ああ、なんて素晴らしいのだろう……光栄に思うがよい。そして、私は神になるのだ……』
「い、いやぁぁあああああああ────!!!」
『 よいではないか、よいではないか……! 』
ガタガタと震える桃の乙女。
伸びる、王の穢れし手。
しかし────。
「ワシらの可愛いラミエリに──……」
「何すんのじゃぁぁああいいい──!!!」
「────!?」
間に、割り込んだのは。
「ッッ!! じぃじ!! ばぁば!?」
『 ……おろかな 』
屋敷の物音を聞き駆けつけた、露出の一族たちでした。
「おお、おお……! 他の娘っ子たちが、石になぅておる!! なんと……! なんということじゃ……ッ! この老いぼれと違うて、未来があるというのに……!」
「おのれ伯爵……! このような事が、赦されると思うでないぞ……!」
『 フォハ、フォハハフォフォ……。今、神になろうという私を、誰が赦すというのだ……! 』
「ほ、ざくのじゃ──!!」
「じ、じぃじ!!」
老人は、白き王に、掴みかかります。
老いた小さな体は、王の脚すら満足に抱えられません。
老婆は言いました。
「……さぁ、ラミエリや。じぃさんが頑張っとるうちに、逃げるんじゃぞえ」
「そ、そんなぁ!? あんな体の大きさが違うのよぉ、じぃじ、死んじゃうわぁ……」
「覚悟の上じゃて。どんな理由があろうと、ワシらは、こんなヤツの元に、可愛い孫を送り出してしもうた……ケジメはつけんなならん」
「そっ、そん……!」
「うおおおおお───っ!!」
老人は、叫び声をあげて、
何度も、タックルしました。
蹴りとばされても、投げ捨てられても。
何度も、何度でも、タックルしました。
服は破け、半裸になっても、
傷だらけになっても、やめませんでした。
「じぃ、じ……っ!」
「さぁ、今のうちじゃ! おまぃだけでも……!」
「だっ……! だめぇ、なのっ! 身体にチカラが、入らなく、てっ……!」
「な、なんてことだぃ……!」
「……ぐぉっ! ぐぉぉおおおああぁ───!!!」
「っ!? じ、じぃじ────ッッ!!!」
老人は、王に大きく蹴り上げられ、蹲ります。
王は、動けぬ桃の乙女に近づきます。
老婆は、立ち塞がりました。
『 ………… 』
見下ろす、白き王。
「 ………… 」
見上げる、老婆。
──しばらくして。
老婆は、ゆっくりと、
その腕を、クロスさせました。
王は、破顔しました。
『 ……! ……ぷ、フォ……フォハハ……フォハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 』
「…………」
「ば、ばぁば……、っ!」
『 フォ、フォフォハハハ……、な、なぜだっ、笑えるっ! こいつは、何をしておるのだっ!? その小枝のような腕で、"完全変態"した私の攻撃を受けようと言うのか……? 私を笑わせるとは、中々やるではないか! 』
「……たとえ笑われても、孫にゃあ、立派な心意気、見せなきゃなんね」
「ば、ばぁばっ!」
「くほぉ、ば、ばぁさん! ラミエリ! に、にげるんじゃあぁぁ……!」
王は、嘲笑を終えた後、
家族に向きなおり、つげます。
『 ……ふむ。笑わせてくれた礼に、真面目に答えよう。お前たち老いぼれ共の心に価値などない。何故なら、お前たちのエロティックは、もう死んでいるからだ……枯れた体に宿るのは、本を読めば事足りる知識ばかり。心だけで何ができる。先の半裸は、"せくすぃー"と言っていたか……老婆よ、お前のような枯れ木には、どんなに心で足掻こうと、もう"せくすぃー"は、戻ってこぬのだ……! 』
「く、くそっ……! ワシが、もう三十歳、若ければ……!」
「じぃじ……! ばぁば……! もういいよ……にげて……!」
「それは……できんて。ラミエリ、すまん……」
『 ──フォ! 小娘よ……お前も、いずれは、その老婆のように枯れ果てゆく"せくすぃー"なのだ……! まっっったく、嘆かわしい……ッッ! だから、私が吸いとってやろうではないか。これが力ある者の"せくすぃー"の"有効活用"なのだよ。さて、ババァ……──そろそろ、じゃまだ 』
「くっ……」
「うぉぉ……!」
「ばぁば……!」
白き王は、丸太のような腕を、振り下ろす────……!
グォオオオオオオオオオオオ──────……!!!
・
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・
「……お前は、"せくすぃー"の事を、何も、わかっておらぬ……!」
……── ガ キ ィ ィ イ イ ン ン ! !
『 ……──! 貴様ァ…… 』
白の拳は、黒の拳によって、受け止められている。
「あ、アンタさんは……!」
「おお……!」
「か、仮面ナイト様ぁ……!」
変態の身体からは、血が滴り落ちている。
足も、少し震えているようだ。
頭部へのダメージが、大きいのであろう。
だが、だがしかし!
その、仮面に隠された瞳は、死んではいない!
"せくすぃー"を踏みにじる愚か者の事を、
鋭い眼差しで、見据えている────!!
『 ……はっ、私が"せくすぃー"を理解していない、だと……? ならば問おう。その小さなババァの、どぉこが、エロティックなのだ…… 』
「愚かな……それが間違っているというのだ」
『 っ……き、貴様ァァ…… 』
クロスされた腕が離れる。
憤る、白の王。
しかし、今は。
黒の仁義が、通る時である────!
「見よ──この"せくすぃー"な涙を……!」
「え……?」
変態は、少しだけ桃の乙女を見る。
乙女は、ちょっと、戸惑った。
「……お前は、なぜこの"せくすぃー"な涙が流れているか、わかるのであるか……?」
『 ……ふん。無力ゆえ 』
「──違うッッ!! ラミエリ殿は、感じとっているのであるッッ……! このご老体たちの心に宿る、愛情という名の"せくすぃー"な思いやりをな!!」
『 なにィィ……!? 』
「……お前は"せくすぃー"を、"女性の若さ"程度にしか捉えておらぬ……だが、見よ! 美しい肉体を持っただけで、果たして"せくすぃー"とは言えるだろうか! 否……否であるッッ!! この涙を流せる、"心"を持ってこその、"せくすぃー"なのだ────ッッ!!」
「か、仮面ナイト様……!!」
───ギュギュッ。
黒の変態は、踏みしめる。
その、血濡れのショートブーツで、瓦礫だらけの地面を。
黒の外套はちぎれ、ほとんどなくなっている。
彼は、ただの仮面の半裸かもしれない。
だが、かれは、"咆哮"する。
彼の信じ続けてきた、"せくすぃー"という名の志を…………!!!
「どんな生き物も、"せくすぃー"を持っている……! 老若男女、種族の壁など、関係ないッッッ!! 遥か昔、生命が生まれし時から、心と身体、思いやりの"せくすぃー"が、生命から生命へと、紡がれてきたのだぁぁああッッ!! 皆、そうしてきたッッ!! そうして、きたのだッッ!! その熱い想いがッッ!! 真の"せくすぃーはーつ"と!! 真の"せくすぃーばでぃ"を!! 紡ぎ続けてきたのである──ッッッ!!!」
黒の変態は、白の王に、高らかに、つげる。
そう、こいつは確かに、変態だ。
だが、この男には。
生命の輝きを慈しむ、確かな信念があるのだ───!!
「───その子の"せくすぃーはーつ"を育てたのは、この者たちの、"せくすぃー"だッッ!!! だぁからぁ"生命"は、尊いのだァァあああああああああああああああああああああああああ────!!!!!!!!!!」
生命の大切さを知る、変態の雄叫びである!!