☪ SEXY TONIGHT……! ☪ ⑧ さーしーえー
444号室では、
伯爵お抱えのジェム職人たちが、
白衣を震わせながら、怯えている。
ドォ……ン──!!
ドォーン──!!
────ドォオオオンン!!
「「「「 ひぃぃいい──ッッ!! 」」」」
また、地響きのような者が聞こえる。
破砕音も。夜に、それらはよく響く。
「な、何者かの襲撃を受けているのか!?」
「うわああ、もうおしまいだぁ!! 僕達のやってきたことが知られてしまったら……!!」
「に、逃げよう……何もかも捨てて!! こんな汚い仕事はせずに、お医者さんになるのが、子供の頃からの夢だったんだ!!」
「な、お、お前正気か!? こんな膨大な研究データ、資料が無くなれば永久に思い出せないぞ!? もう、最初に解析した流路公式がわからない……こっ、この偉大なチャンスを無に還すのか!?」
「いやだぁぁあああ!! 僕はもうコリゴリだぁああ───!!!」
「あっ、ちょっと待てよ──!?」
一人の臆病な白衣の男は、
444号室のロックを解除し、
外へと足を踏み出す。
夜は彼らを、許すだろうか────?
……──ガチャ!!
……────……、
「────むぅ?」
「「「「 えっ 」」」」
────目の前に見えるは、半裸の変態である。
夜は、皆に、平等だ────。
半裸。
筋肉。
仮面。
yeah。
ねぃきっど。
まっすぅー。
ますくど。
oh。
ひー、いず、アブノーマル……!
「……むぅぅぅぅうう?」
……ギロぉぉ、リィぃいぃんこぉぉおお……!!
「「「「 」」」」
とぅるるる とぅるるる〜〜♪
とぅるるる とぅるるる〜〜♪
だんっ だんっ だんっ だん〜♪♪
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アブノ店長のターン!!▼
アブノ店長の『にらむ』オート発動!▼
変態の筋肉は 隆起している・・・!▼
アブノ店長は 首を捻った!!▼
変態が メンチを切っているようにしか見えない!!▼
"ブラックスミス:Vパンツァー"のスキルが発動!!▼
下腹部まっすぅー! に布地が くい込んでいる!!▼
ジェム職人ズの精神に 限界突破ダメージ!!▼
こうかは へんたいだ・・・!!▼
ずずずぅう────ん!!▼
四人のジェム職人は 心に傷をおった!▼
何か大事なことを 思い出せない!▼
─────────────────────────────
「「「「ぶくぶくぶくぶく……!」」」」
{{ ──!? 店長、今、何の魔法を使ったんですの? この白衣の者達、まるで記憶が消し飛んだかのように、一瞬で気絶しましたわよ!? }}
「失敬な……我は、ただ見ていただけであるぞ?」
『 ……ガルルンルンルン? 』
「うっおお……私も随分慣れちまったけどよォ……これがダンナを見た小心者の通常の反応だわな……よっと!」
────脳の、防衛本能って、ある。
……ゴソゴソ、ゴソゴソ。
闇の狩人が白衣を脱がし、
何か情報がないか探っている。
「んん──……? なんもねぇなぁ──……。 チッ」
{{ ガルンそいつらどけて、部屋に入れない }}
『 ガルンル、ガルルン! 』
黒の魔獣が、気絶した男共を、
庭先の茂みの方に、ポイポイした。
ポイポイポイポポイポイポピー。
「おいガルガル、お前すげぇ腕、伸びんのな……」
『 ガルガルルっ! 』
「こ、こいつ謎の生物にも程があるがよ、なんか愛嬌あんな……」
{{ ──あら、貴女にもわかるのね? 嬉しいわ }}
「……! 言ってろォ……」
4の夜の申し子達は、『444』の部屋に入った──。
キィィィ────……バタン。
ガチャ。
男勝りの狩人が、壁際の床に、へたり込む。
艶っぽい女の声とは裏腹に、
口調はまるで男子である。
「あぁ────……しくったなァ。お前ら、すんげェェェぇえ荒くれ者じゃねぇか……。心配しないで、予定通りの別ルートで探ればよかったゼ……」
{{ あっ……貴女 }}
『 ガルル? 』
「なるほど。我らは陽動であったか」
「とぉーぜんだ。遅かれ早かれ、アブノのダンナは通報されると思ってたよ!」
その間にさぐりをいれるつもりだった、と。あっけらかんと苦笑混じりに言う、闇の面を被った狩人。
その辺りから、悪魔と魔獣には、
この狩人の人の良さが、わかりはじめる。
{{ あ、そゆことか…… }}
『 ガルルン? 』
{{ ふふ、気を回していただいたようね? }}
「ふ……当店の販売員を、見くびってはならぬ」
「全くだ……その魔族ちゃん達、まさかホントに悪魔じゃねッだろーなァ?」
闇の狩人は、新参者の悪魔と魔獣を心配して、
様子を伺っていたのだろう。
彼女もまた、貴族の屋敷に忍び込む危険を、よく知っている。
もし問題がなければ、別行動を開始したはずである。
……彼女の想定とは真逆の問題が発生した訳だが。
「というかよォ……そのデカパイが、ホントにあのロリっ子なのかァ? 乳がタールスライムみたいじゃねぇか」
{{ ろ、ろりっこ…… }}
「……"せくすぃーはにーは成長期"」
{{ 店長だまって }}
『 ガルルルル…… 』
「いや……おっめぇよォ、ホント何もんだ? その杖の質といい……私も同系統の魔法だから、わかんだけどよ。さっきの空間を削り取るようなやつ? アレはヤベぇぜ……」
{{ ……! 同系統? }}
「おうよ。すげぇ使い手だな、あんた。その割りにはジェムのトラップに無頓着だけどよ? まるで、知らねぇみてぇな……」
{{ …… }}
「ふん……イニィ殿。店で会っただろうが、この荒くれせくすぃの名は、ヤン・センマイ。昼の顔はドニオスギルドお抱えの解体職だが……こやつの二つ名は"千枚卸師"。一部で名の知れた"暗殺職"だ」
「誰が、"荒くれせくすぃ"じゃ……」
{{ ──!! アサシン……! }}
千年前で"アサシン"と言うと、
問答無用で殺し屋のことである。
時を超えし魔の女王は、警戒する。
「お、おいっ、なんか勘違いしてねェか!? 私はヒトサマはバラしてねぇぞッッ!? た、ただっ、昔ちょっとだけ──……」
「……──ふ、そうだな。イニィ殿、ヤンは元、"密猟者"でな……ギルドの魔物討伐依頼をかすめ取って、違法な料金でさばいておってな……」
「お、おい、コラ、ダンナ!?」
「それを今のドニオスのギルドマスターに、とっ捕まったのだ。密猟の理由が理由だったので、"牢獄せくすぃー"にはならず、ギルドより恩恵を与えられている」
{{ まぁ……その理由はまさか、幼い弟に仕送りする、みたいな? }}
「──っ!? お、おま、なんで……!」
狩人は驚き、悪魔は笑う。
{{ ……──ふふ。魔族のお姉さんを舐めないことね──? }}
狩人が根っからの悪人ではないことは、
悪魔の心の眼に、よく映っている。
『 ガルガル♪ 』
「うっえ、なんだよ読心術ってヤツか……? 魔乳こえぇ……」
{{ ちょっとこら貴女いま本心から魔乳って言った? }}
「私はいつも本心しか言わねぇ。で、この部屋どうする? 手分けして調べっか?」
「そうであるな。見たところ書斎のようにも見えるが……」
{{ おい、ちょっと。ききなさい、貴女…… }}
本が並ぶ書斎は、貴族の屋敷にしては、
こじんまりとしている。
少し普通と違うのは、部屋の中央に大きなテーブルがあり、その上に紙が貼られていて、無造作な術式が書き込まれているくらいか。
「……この、ぐちゃぐちゃと不気味に書かれた紋様はなんなのであるか……」
{{ これは、確かに魔法術式だと思います。でも、こんな書き込み具合は初めてみますね…… }}
「なんかよォ、デタラメな渦みたいになってんな……。禍々しいラクガキみてぇだが……こことかハッキリ無属性ってわかる記載だしよォ、やっぱ意味のある術式記述なんだろうなぁ……」
『 ガルーン? ガルルーン? 』
大きな禍々しいラクガキのような魔法陣。
その知識の無い変態と魔獣は、首を傾げている。
「ヤツらは確かに、"実験"と言っていたのである!! これが何か、わかればよいのだが……」
「くっそォォ──……私もジェムのトラップとか外すからよ、けっこう流路術式には詳しいんだ! でも、これはよくわっかんねぇなァ……この紙がよ、軟禁同然の、連れ去られた娘っ子どもと、どんな関係が?」
{{ ………… }}
悪魔が、見る。
彼女も戦杖の達人であるが、
その特異な経歴から、魔法術式論に詳しい訳ではない。
魔の女王の使う術式は、とても独特である。
書きなぐったような、巨大な流路の地図。
妙な感じを受ける。
なぜだろう。
悪魔は、台に乗りだして────……。
──つるッッ!!
{{ ──わっ! }}
───ズッ、コケどおおおん──!!!!
何か板状のものに手を滑らせ、
床にべちゃーん、なった。
「ええええええ。何やってんだよォ……」
{{ くぅ──…… }}
「おお、大丈夫であるか、イニィ殿……!」
悪魔の女王は気づいてはいないが、
これは目が見えるようになった事に対しての影響である。
目で見えているからこそ、よく見えない物に油断する。
昔の盲目の頃には、起こりえない失敗である。
しかし、このズッコケが、悪魔を導くこととなる────。
「ぷっ、魔乳、気を付けろってテメェよぉ……乳が重かったのか?」
{{ いらっ }}
悪魔さん、ちょっとおこだよ。
{{ あら、ごめんなさいね痛仮面。神に選ばれたこの肉体が、うらめしいわ…… }}
「おい悪魔乳。てめぇ誰が痛仮面だコラ。もっぺん私の目ぇ見て言ってみろ」
{{ 悪魔乳ってなんなのよ痛仮面。貴女が10歳でオネショした朝の事、事細かに解説しましょうか? }}
「わぁー、こいつ悪魔だぁー。何、マジでアンタ、心読めんの?」
「これ、よすのである二人とも。そんな場合ではないぞ……? ──せくすぃー!! イエローカードッッ!!!」
『 ──ガルン!! 』
……────ギシッ……ン!!
「……」
{{ …… }}
もう一人の痛仮面が、魔獣と一緒にポーズをとった。
筋肉は、よい感じに隆起している。
ちょっとカッコイイ。
「……てか、さっそく手がかり壊しやがって……ほれボインちゃんよォ、その足の下の、拾いな」
{{ むっ…… }}
狩人が言った通り、悪魔の足の下。
割れた硝子板と、何か書かれた紙。
悪魔は、ひろった。
{{ 本のページ……? }}
ペラっ……。
「なんかの古書のページを、ご丁寧に透明の硝子板でサンドイッチしてやがるな……いやァ、キナ臭いったらねぇなァ」
「ふぅむ、"実験"とやらと関係する記述なのであろうか……」
『 ガルーン……? 』
「流石に私たちだけでよ、ここの書籍を全部調べんのは無理があるぜ……どうにか手がかりだけでも持ち帰んねぇと……なぁ、ボインちゃん」
{{ }}
悪魔から、返事が、ない。
「……おい、アンタ……?」
「イニィ、殿?」
『 ……ガルン? 』
{{ 、 そ、だ…… }}
───バッ、と。
古いページから顔を上げた彼女の顔は、
……──涙に、濡れていた。
「イニィ殿!?」
『 ──ガルン!? 』
「お、おい……?」
変態、魔獣、狩人。
三の、戸惑い。
何故か急に泣き顔になった悪魔は、
おもむろに────、
────ぎゅっうっと、自身の胸を掴んだ。
ぎゅむぅぅううううううう!!!
「ッッ!?」
「うおっ!?」
『 ガルッ!! 』
いきなり自身の乳、鷲掴みの悪魔。
しかし、それには、色っぽさがない。
まるで……握りつぶしそうな、そんな勢いである。
「お、おいっ! イニィ殿よ!? それはいけない!!」
「おいテメェ、いきなりどうしたってんだ!?」
『 ガルンッ!! ガルンッッ!? 』
{{ んな……そん……あり……ちが…… }}
悪魔の様子は、明らかにおかしい。
胸から手を離すと、今度は、身体。
尖った爪で、漆黒に包まれた肌を、撫で回している。
「お、おい、どうしたボイン!! しっかりしろって!!」
「イニィ殿!? イニィ殿!! 落ち着くのだッッ!!」
{{ ────…… }}
身体を撫でた次は、杖。
側にある大きな十字架を、その手で、撫で、
確かめる。
そのまま杖を両手で握り込んだ悪魔は、
下を向いて、俯いてしまった。
確かめおわったのだ。
自身の、流路を。
「お、おい……ボイン? 大丈夫、か……?」
{{ ……、……、…… }}
流石の狩人も、いきなりの事に声を小さくする。
悪魔は、何を慌て、何故、確かめたのか。
{{ その……魔法陣……は }}
「……!」
「む、イニィ殿!?」
{{ ……し、のと……おな、です…… }}
ボソボソと、悪魔は呟く。
何かに、打ちひしがれている。
{{ …………ぅ }}
『 ガルン〜〜〜〜!! 』
変態は、先ほど悪魔が見た古い紙切れを見た。
「なんなのであるか!! 我の大事なせくすぃーに、この紙切れは、何をしたのであるかッッ!?」
「──!! お、おいダンナ!! やめとけって!! その古い紙切れ、もしかすると、見たら呪われるのかも──……!?」
……ペラリ。
結果から言うと。
ヤンの予想は外れ、
アブノは、呪われなどしなかった。
彼は、あまり術式に詳しくない。
何時だって、彼の創作物は、フィーリングだ。
古書の字は、よくわからない。
しかし、挿し絵があった。
そのカタチが、彼の目を引き付けた────。
「……イニィ殿の……"杖"……?」
{{ ……、……ろ、です…… }}
「「 ──!! 」」
『 ……ガルン!? 』
思い出すは、あの記憶である。
─『『 お 』』─
─『『 ね 』』─
─『『 が 』』─
─『『 い 』』─
─『『 し 』』─
─『『 ま 』』─
─『『 す 』』─
────レエンの女王は、吐きそうな表情で、
涙をながし、告げた─────。
{{ ……──伯爵が作ろうとしているのは──……、
────"転換路" 、で、すっ……。
少女、たち、は、その、材料……。
生け贄です………… }}
(´×ω×`)