☪ SEXY TONIGHT……! ☪ ⑦ さーしーえー
黒の狩人が、見る。
闇に紛れし、かの者達を。
自らも、闇夜に紛れ。
誰も、気づきはしないだろう。
彼らは、何かを見つけたようだ。
迷いなく、進んでいる。
自身も、追う。
影の中、霞のように、
己を殺しきり、すぐ側にて。
あの黒ずくめの女。
あれが真の姿のようだ。
貴族の噂になるほどだ。
稀有な存在なのだろう。
今は、十字の杖を携え、
彼らの先頭を担っている。
続くは、あの仮面の男と、
真っ黒な、煙を集めたような人外。
それらから、隠れ、隠れ、隠れ。
追う。
気づきはしない。
舐められては、困る。
背後を、取る。
足音が、たつなど思うな。
───────ガチン。
当然、その音がするだろう。
あんな、真っ直ぐ進むからだ。
仕掛けが動き、床に穴が開く。
半死になるよう、槍がある。
漆黒の魔獣が、穴を塞いだ。
男と女は、黒い炎に包まれ、
何事もなく、前に進む。
黒炎の中、裂ける三つの目と、顎。
まるで、黒を支配している。
この悪寒は、夜の冷たさ故か。
しかし、まだ背後を、取れている。
────カンカンカン、カンカンカン!
鐘の音。
今の仕掛けで、侵入が知られた。
間抜けが過ぎる。
尚更、こちらに気づかぬだろう。
兵が集まり、男が動く。
異常な、動きだ。
膨れ上がった巨躯に似合わず、
床を薙ぐように、滑り込む。
思わず、喉が鳴る手前。
その前に兵は、すべて落とされる。
辛うじて見える。
両肘と、両拳が、四人の敵の首後ろを、
抉ったのだ。
黒き風のような動き。
仮面の双眼が、光を引いた気がした。
あれほどの格闘術、いかにして────。
─────ガ、ゴ……ギ──!!
両の壁がせり出し、
羽虫を殺す手のように、
合わさるのだろう。
それは速く、しかし。
────ギロリ、と。
魔族の女が睨むと、
黒い球体は、えぐりとった。
壁は、消失している。
戦慄を、久しく感じる。
女の眼光は、騎士。
並ではない、手練。
十字架は、黒炎を吐いている。
男が、ふん、と鼻を鳴らす。
女は杖を構え、新たな兵を相手した。
あの動きは、魔を操るものではない。
十字架は、先に刃を持つ槍の如し。
ギャリン、と音がし、
一人一人、吹き飛ぶ。
片手で、十字架で、殴る。
女の顔には、侮蔑が浮かんでいる。
また、壁が殴り壊され、
破片が、仮面に当たる。
剣を振り上げた兵達に、
魔獣が、三股の槍を伸ばす。
兵は回転し、気を失う。
冷や汗を、かくのを忘れている。
この目は、光を忘れただろうか。
女は薙ぎ倒し、暗黒球と、剣技。
男は打ち砕き、格闘術と、破壊。
獣は勝ち誇り、無秩序と、咆哮。
通った道は、崩壊している。
死者が出ぬのは、気まぐれか。
ペロリと、女が、唇を舐めた。
────ガチン。
また、ジェムの仕掛けが動いた。
速さは、まだ、見れる。
杭のような刃が、打ち出された。
──── 一本。
男は鷲掴み、道に捨てた。
──── 二本。
獣が、間抜けな音でくわえた。
──── 三本。
女の前の闇に、塵になる────。
兵の中には、震え出す者が出る。
当然だ。
あれらは、悪魔だろう。
己の罪が、裁かれる時なのだと、
誰もが、鎧に隠している。
闇に紛れるべき者達は、
前に進む事を、止めなかった。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
ガツリと。
────進む。
素人の護衛共でも、
いかに、恐ろしい存在が来たか、
痛感していよう。
矢は、首を傾げた魔獣が掴み取る。
あの獣の腕は、何本、生えるのか。
道を塞いだ壁には、綺麗な正円の穴。
杖まがいの十字架に、消し飛ばされる。
今宵は、よく窓から兵が出ていく。
月に届きそうな、殴られ方だ。
敵の兵は、ガクガクと、尻をつく。
その行動は、正しい。
────"こいつらは、尋常じゃない"。
その場の皆が、わかる事。
まだ、奇跡的に、背後を取れている。
こいつらより、隠れる事は、得意だ。
闇に潜む、狩人たる、我。
どうしようかと、悩んだ。
男と、女と、獣。
何やら、相談している。
部屋を、指さしている。
何故か、瞬時に、理解した。
──殴れば、壊れるんじゃないの?
──杖で、穴あくんじゃないの?
──とりあえず、壊せるんじゃないの?
……。
こいつら全員、隠れんぼの才能が、ない。
まだ、自身は、闇に、潜めている。
兵が、またこちらに来る。
悪魔女が、そちらを見ずに、十字をかざした。
変態男が、ガレキを拾う。投げる気だ。
魔獣君が、ギザギザの口を、思いっきり開けた。
…………。
…………。
…………。
今しか、ない。
────チャンスだ!
ここが、運命の分岐点だ……!
闇に紛れ、兵士達より先に、背後に駆け寄る。
すぐ目の前に、
変態と、悪魔と、魔獣。
悪魔は、大玉転がしをする気である。
変態は、振りかぶっている。
魔獣の開けた口が、暗黒に、輝いている。
後ろを取れたのは、奇跡か────。
即座に、闇から姿を現し。
そして────────。
──────私は、叫んだ。
「────お、お、おんどりゃあああああボケェぇええええええ!!!」
「うぉっ」
{{ おわぁ! }}
『 ガッ……ゲフンゲフン 』
「お、お、お、おまぃらは、隠密行動する気あんのかァァああ────!!!?」
こいつらと、目線が合った。
今は、私が見えているはずだ──。
黒い、狐のような面。
黒い、タンクトップ。
黒い、ポンチョパンツ。
黒い、脇下まである手袋。
黒い、双剣が仕舞われた膝当て。
水色の、澄んだ髪────。
『 ガルゥ──? 』
{{ あら、貴女…… }}
「──なんだ、ヤン。来ていたのか」
「来ていたのか、ジャネェェエエエエ!!! おんどれら、なぁに貴族の屋敷を破壊しながら爆進してやがんのじゃああああ────!!!」
「いやぁ……まぁ、な」
{{ もう、バレちゃったから、いいかなって…… }}
『 ──ガルンッ! ガルンガルン! 』
「こいつら、脳筋だあああああ─────!!!?」
さすがの私も、頭を抱える。
こんなのが貴族の屋敷を襲撃したとか……、
すでに、やってる事が悪の手先だろぉがァァああああ!!!!
「……──おい! いたぞ! あいつらだ!」
「う、うわぁ、なんだこれは!?」
「まるで、嵐の後のようじゃないか……!?」
「あの黒ずくめのヤツらだぁ! 捕まえろお───!!!」
「「「うぉぉおおお────!!!」」」
あああ、ああああ……!!
私まで、見つかったぁ……!
ひ、ヒゲイドのダンナに、なんて言やぁ……!
「──ふん。ザコが、ワラワラと湧いてきたのである」
{{ 邪魔ねぇ…… }}
『 グガルルルルルルルルル……!!! 』
「お、おいっ、お前らヤメロ!? 既に見た目が、悪の大幹部だからなぁっ!?」
{{ ……ぷ。悪の大幹部って…… }}
「なに笑ってんだしばくぞテメェェエエアアア──!!!」
ゴーンドーン。
「おっ、おいこらアブノのダンナッッ!? そんな玉入れみたいにガレキをポカスカ投げるんじゃねぇッッ!?」
カッパ───!
「おっ、おい、ガルガルッ!? テメェも口を開けんな!? こえぇんだよおおお!!!」
『 ……ガルルン? 』
「もーぅ。うるさいであるなぁ……」
「もーぅ、とか言うな半裸が!! きっしょいだけだぞッッ!? おい悪魔女!! テメェが行きたい部屋って何処だ!?」
{{ ここの奥っかわの資料室です }}
「おおおおおお!? こっちの道、迂回した方がゼッタイ早いだろボケェぇええええ!!! なんでジェムで発動しまくるトラップの中を直進しちゃうかなぁああ───!!?」
{{ 壁と敵を壊せば、味方が残るわ? }}
「こいつの常識どうなってんだ……テメェの御両親に物申したいね!?」
「で、我、次、投げていい?」
「やめろこっちだボケどもぉおおおおお!!! ガルガル!! テメェもついてこいいい!!!」
『 ……ガルガル? 』
「私はなぁ……まだバラされたくねぇんだよぉおおおお────!!!!」
闇の狩人は、
変態と悪魔と魔獣を、
暗闇へと、誘う。
────んで、四人そろった。