羊たちの〇〇 さーしーえー
Twitter覗いてたら、
アンティのフィギュアを自作してくれよる方々が!
・:*+.\(( °ω° ))/.:+嬉しさ……!
てかミディッチュ風にアンちゃんイラスト描いてくれたの、可愛すぎか!
(๑´ㅂ`๑)♡*.+゜
頼むからピクシブにあげてくりゃれ!
百科事典のトップ絵にしたいですね(笑)
「はぐるまどらいぶ。」第1巻、
電子書籍版半額中!!
〜4/14まで!!d(ゝω・´○)+
あ、今回は怒られそうな回です(*´ 艸`)
──夜。
王立教会の元気な孤児達が、寝静まった頃。
その客間では、一人の幼い審議官の少女が、
机の硝子器の中に浮く聖なる花を、
ふわりとした表情で、見つめていた。
「きれい……」
部屋は薄暗いが、恐ろしさは無い。
穏やかな、夜の色である。
硝子の器にはポーションが注がれており、
その中に浮く美しい花弁は、
暗い部屋の中、淡く、輝きを放っている。
「うさ丸ちゃん、可愛いかったな……」
黄金の義賊クルルカンからの、花の贈り物。
絵本と違い、素敵な女の子だった。
美味しい料理を食べ、遊んで。
かの者との別れを惜しみ、贈られた想い。
それは、絵本の終わりのような瞬間だった。
でも、悲しくはない。
また必ず、どこかで彼らに会えると、
今も、輝き続ける花は、励ましてくれている。
まだ物語は、終わってはいないのだ。
「ふふ、すてきな人だったな……」
"アンティ・クルル"と名乗った、黄金の女の子。
初めて会うまで怖がっていた自分が、
バカみたいだと思えるほどに、楽しい人。
彼女がプレミオムズであるなら、大歓迎だ。
小さな審議官は、自然と微笑んでいた。
「……また、会いたいな」
「次のプレミオムズ集会で会えるじゃないの」
「──わっひゃあ!!」
背後より急に声をかけられ、
椅子から飛び上がるように、後ろを向く。
「お、オシハお姉ちゃん、いつの間に……」
「こんばんは☆ エコープル?」
プレミオムズ"剣技職"、オシハ・シナインズは、この教会の孤児院出身である。
今宵は審議官エコープルの護衛も兼ね、
懐かしの我が家に、一泊せんとしていた。
だが、この教会を襲う者など、そうはいない。
彼女は今、剣も鎧も持ってはいなかった。
身につけている物は明らかに部屋着である。
「び、ビックリしたよもぅ……!」
「そりゃあ、ビックリさせるつもりだったからね?」
オシハ・シナインズは身をかがめ、
にこにこと、小さな審議官を見据えていた。
彼女ほどの剣士が気配を消し、
暗がりの部屋で、背後から声をかけたのである。
審議官の少女が驚くのは、至極当然であった。
「し、心臓にわるいよ、オシハお姉ちゃん……」
「ごめんごめん……その花、きれいね?」
「! うん!」
「それってポーション?」
「うん、ユーくんの言ったとおりにしたら、光ったんだよ!」
「ふぅ──ん……ポーションに漬けたら光る花なんて、インテリアとしてバカ売れすると思うけど……珍しい花なのかしら」
「クルルカンの秘密の花だもの!」
「──! ふふ、そうだね」
静かな夜の部屋で、
聖なる花の輝きに魅入る二人。
「……──はっ! 花、見てる場合じゃなかったわ! エコープル、私、お願いがあってここに来たのよ」
「? お願い?」
「ええ……"真偽球"をね? ちょっと使ってほしいのよ」
「え……えぇ──! これ、トモダチに使うと、エコ、怒られるんだよぉ──……!!」
「そこをなんとか、そこをなんとかですね……」
幼い審議官を拝みたおす、最強の女剣士。
「しょうがなぃなぁ……オシハお姉ちゃん、何を調べるの?」
「えっとね……"二代目クルルカン"の、冒険者ランク」
「──!」
"アンティ・クルル"。
この輝く花をくれた、黄金の仮面の君。
この王都に突如現れた、プレミオムズ"配達職"。
「……そんなこと、知りたいの?」
「……うん、そうなの。お願いできない?」
「うーん……」
幼い審議官は、少々悩んでいたが……。
「──うん! いいよ!」
「……ありがと。恩に着るわ」
オシハ・シナインズは、気がかりだった。
Aランク冒険者の集団である、プレミオムズ。
その中にいても、充分な異彩を放つ、あの少女。
"配達職"である彼女が、本当は、どのような存在なのか。
あの心優しい妹と、どのような関係があるのか。
その糸口が、ランクに隠されているのでは、と。
幼い審議官は、寝巻きになっても欠かさず身に付けている、
深い透明の水晶球に、手をかざした。
情報を引き出す準備は、いつも整っている──。
「じゃあ、いくよぉ──"索引"……」
「 ……────お待ちなさい二人とも」
「────!!」
「────!!」
部屋の入口より、声がかかる。
この、はっきりとした女性の声は……。
「あ〜〜!!」
「……ヒキハちゃん、おかえりなさい」
羊に連なるは、羊である。
ヒキハ・シナインズは、
部屋のドアに寄りかかるように立っていた。
「……ただいまです。姉さま、いったい何をしているのです?」
「あら、なんのこと?」
「とぼけないでくださいまし……今、個人的に真偽球を使おうとなさっていたでしょう?」
「ヒキハちゃん久しぶり〜〜!!」
「あ、え、えぇ、久しぶりですね、エコープル……」
「……でね? エコたん、"アンティ・クルル"のランクなんだけど……」
「──ちょっと! 姉さま!!」
スルーを決めこみ目的を達成しようとする姉に、
慌てて部屋に躍り出る妹。
「こらっ、姉さま! 王都剣技職部隊長とあろう者が、私的に審議官の水晶球を使うなど、言語道断ですっ!! 今日、エコープルがここに宿をとったのは、私達が護衛として見られている節もあるのですよ!! そのご自覚が、ちゃーんと、おありですか!?」
「なぁぁ───に、堅っ苦しいこと言ってんのよぉ! ヒキハちゃんだって今、鎧も剣も持ってないでしょう? そぉーんな薄着に羽織りだけの格好で、説得力なんかないっちゅ──の! 石鹸のいーぃ匂いしてるわよ?」
「ぐっ……!!」
お風呂上がりの副隊長は、
隊長に、言いくるめられようとしている。
しかし、彼女にも引けない理由はある。
妹は、姉の二の腕を掴んだ。
──ぐんむっ。
「い、いけませんよ姉さま!? どのような理由があろうと、数多の個人情報を無尽蔵に引き出せる、真偽球を乱用するなど──……」
「……──数多? あなたの守りたい者は、たった一人だけでしょう、ヒキハ?」
「……──っ!!」
姉の眼光に、射抜かれる妹。
「──今日、あの子に会ってきたわ。さて、ここで問題。私が何も気づかないと思う──?」
「っ!」
「そうそう、今日もヒミツの任務、お疲れ様?」
「ね、ねぇ、さまっ……!」
こてんと、首をしなだれさせる頂点の姉。
きらりと、真実を見抜くような目で語りかける。
「──ヒキハちゃん? なぜあなたが、こぉぉんな夜更けに、ここに来たか、当ててあげましょうか?」
「な、何を急に……」
「今日の"黄金の義賊ちゃんのご様子"を伺うため……でしょう?」
「ぅ……」
「私が居て、残念だったわねぇ?」
「なっ、姉さま!! そ、そんな言い方は……」
「……ヒキハ。結果から言うとね……盛大にやらかしていたわよ?」
「 、 」
思考が停止しかける妹。
姉は続ける。
「さっすが"黄金の義賊サマ"って感じだったわ……びっくら仰天の連続で、こちらの感覚が麻痺するくらいだったもの! あの子、秘密を持つのはへたっぴそうね……」
「ひっ、ひみつって、なにを……」
「あの小さな体に秘められたパワー、正確なマッピング能力、繋ぎ目が全くない鎧、斬れ味が状況によってかわる包丁──……」
「すっっごい、ご飯、おいしかったよ──!!」
「──っ!! ばっ……あの子……!!?」
ヒキハ・シナインズは、目眩がする思いである。
あの黄金の少女は、あろうことか、
プレミオムズ達の前で、料理をふるまったのか、と。
あの異常な斬れ味の包丁の事すら、姉に見られてしまっている。
せっかく裏から手を回して、
金の光を抑えているというのに──。
やきもきする妹に、姉は続けた。
「……まったくもぅ。みんな、苦笑いしながら採点したわ。あのコンディションに、あの素直な性格……。本当に、絵本から飛び出したんじゃないかってね。……ねぇヒキハ、教えてよ。あの子、いったい何者なの?」
「…………」
押し黙る、羊の妹。
この姉は、秘密を読み解くことに、
誰よりも長けているから、隊長なのだ。
恐らく、あの黄金の"異常性"に、
誰よりも、何よりも、感づいている。
だが、それでも────、
あの、"赤の結晶"の真実には、たどり着かせてはいけない。
そう、誰にも話していない、あの。
世界の常識を覆すような、真実には────。
ヒキハは、口を開いた。
「……なら、ならば」
「……え?」
「そこまで、感じとっているなら、察しているなら……そっとしといてくれても、いいじゃありませんかっ!」
「ヒキハ……」
「あの子が抱えているモノは……重いっ! あの小さな身体で支えるには、重すぎるモノなんです……! あまりにも大きすぎて、誰も隣に立てず、最後には、一人ぼっちになってしまう……! 誰も、あの子の側に、共については行けないっ!! ……だから、だから私は、せめて……」
「…………」
「──とにかく!! 姉さまには関係ありません!! ほっといてください!!」
「あ……あんたねぇ──!! 関係ないワケないでしょ──!? 私もあの子もプレミオムズだっつ──の!! そんな偉そうな事は、プレミオムズにでもなってから言いなさいな!! まったく見ててヒヤヒヤする子だったわよ! ヒキハ! ラクーンの里のこと頼んだの、あの子でしょう!!」
「ギャ───!!! ね、姉さま!? まさかその事、プレミオムズ集会で言っちゃったんですかっ!?」
「い───えぇ、まだベアに、ちょっぴり匂わせただけぇ」
「な!? なんで言っちゃったんですかぁ──!? ばかばかばかばかばかばか……」
ぽかぽかと姉を叩く妹。
この二人が王都最強の剣技職とは、
誰も思えない光景である。
「……はっ、妹よ。そのポカポカは、姉にとってはある意味ご褒美でしかないわ……」
「うるしゃ───い!! クマにベタベタのくせにぃ──!!!」
「──な"ぁっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいヒキハ、それは聞き捨てならないわ!?」
「もぉ───ほっといてくださいまし!! 私とあの子は、あなた様の庇護はいりませんっ!!」
「あ────!? "あなた"って言ったな!? お姉ちゃんのこと、"あなた"って、他人行儀に言ったなぁ────!? 最近かまってくれなくて、お姉ちゃんは寂しいぞこんちくしょぉお───!!」
「あ、あのお姉ちゃんたち……声、大きいよ? みんな起きちゃうよ?」
闇夜に低レベルな姉妹喧嘩を始める羊に、
一人、冷静な目で指摘する、幼い審議官。
二人は、取っ組み合いになりつつあった。
手と手を握る、熱い攻防である。
「い・い・で・す・か・ら! 今日は部屋にぃ、帰ってくださいましぃぃ……!!」
「ふっ、我が妹よ……! そんな指図は、姉である私を超えてから言うんだなぁ……! そぉれ、ふぅぅ〜〜……!」
「ぞくくッッぁぁあ……っ!! なっ、なんでいま、首筋に息吹きかけたんですかぁ──!! お姉ちゃんの変態ぃぃぃ!! すけべ羊ぃぃい───!!!」
「あぁ──んな真っ赤なランジェリー男の人に貰っといて、なぁぁ──に人のことスケベ扱いしてんのよぉ──!! あっ……あっ!! いまっ!! 見えた!! 赤いの、見えたわよこの!! 今着てるでしょっ!? その服の下、例の赤いランジェリー着てるでしょ!!」
「──わわっ……!? ちが、これは……」
「なぁに、ちゃっかり気に入っちゃってんのよぉぉ──!!!」
「ききき、気に入ってないもんんぅ──!!!」
「ッほぉお──!? ずいぶん肌触りのいい生地だとは、前に触った時に思ってたけどねぇ……まさか、ここまでお気に入りになってたとはねぇ──!!?」
「ち、違うもん! 着てない、着てないもん──!!」
「じゃあその手ぇどけなさぁ──い!! ひん剥いてやらぁ──!!」
「いゃ────!!! だッッメェェェええええ───!!?」
「──"索引"! 対象者:"アンティ・クルル"! 」
「「──えっ……!?」」
ヒートアップする、おっぱい羊たちの傍らで、
幼い審議官の声が響く。
「え──っと……いま、読み込んでるから、ちょっと待ってね!」
「───な!? え、エコープル!? あなた、なんで……!?」
「だ、だって……。調べないと、オシハお姉ちゃんもヒキハお姉ちゃんも、部屋から出てってくれないかなぁって思って……」
「「…………」」
幼い審議官殿の、まさかの大人な対応に、
一瞬、言葉を失う、おっぱい羊共。
先に我に返ったのは、姉の方であった。
「──はっ!! これはチャンス!! スキありぃ──!!」
「えっ……──ぎ、ぎにゃああああああ───!!!」
──もんぎゅむぬ。
鎧などつけていない副隊長の乳に、
隊長のお手手は、訳もなく滑りこんだ。
──そう、ダイレクトアタックである。
もみゅもみゅもみゅもみゅもみゅゆゆ────!!
「メャ、メェエヤァァアアアアアアぁぁぁああ──ッッ!!?」
「い、今よエコープル!! 今のうちに、は、はやくやっちゃって!!」
「は───い♪」
「うらうらうらうらうらうらうらうらぁ……!」
「メヤァァア!? メヤァアァァアアぁあああぁぁぁっっ……!!! うぅっ、こ、このおっ──!!」
「あっ!? しっ、しまった……ッ!! ひッッ!?」
──むんぎゅむな。
「し、仕返しですぅぅぅううう───!!!」
「ぬぁっ!? みゃ、メュヤァァアアアアアァァ──!!?」
「まっだかな、まだかなぁ──♪ ふんふんふふ〜〜ん!」
重なり合う羊たちの嬌声の中、
ルンルンと、時を待つ審議官。
真偽を司る水晶球に、情報が蓄積され始める。
……じ、ジジジ……。
「あっ、そろそろ表示されるよ──!」
──もぬもぬもぬもぬもぬもぬもぬもゆもぬ。
──ぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬ。
「……メェ、ェ、て、手ぇ離せぇぇ〜〜……っ!」
「……メャ、ャ、そ、そっちこそぉ〜〜……っ!」
「……お姉ちゃんたちって、仲良しだよねぇ……あ! ほら、オシハお姉ちゃん!」
「「──っ!!」」
──ピンポン。
審議官エコープルの抱える水晶球。
そこに、光の文字が映し出されて────……。
ビ─────────ッ。
─────────────────────────────
◆ この操作は ブロックされました ◆
"アンティ・クルル"に関するランク情報は、
ユーザーにより、ロックされています。
この行為を続ける場合、ロックユーザーに
情報が通知されます。
続けますか?
◆ 10 ◆
─────────────────────────────
「なに、これ……」
数字は、"10"から、1ビョウずつ、減ってきている。
エコープルは、困惑した。
ふたりの羊が、駆け寄った。
「──エコープル!!! ダメっ!!」
「──すぐに中止なさい!!! はやくっ!!」
「えっ……!? う、うんっ……!」
あまりの二人の剣幕に驚きながらも、
エコープルは、"真偽球"に向きなおる。
──……7……6……5……4……──。
─────────────────────────────
◆ この操作は ブロックされました ◆
"アンティ・クルル"に関するランク情報は、
ユーザーにより、ロックされています。
この行為を続ける場合、ロックユーザーに
情報が通知されます。
続けますか?
◆ 3 ◆
─────────────────────────────
「さ……"索引"中止……!」
ビ────────!!
─────────────────────────────
◆ この操作は キャンセルされました ◆
─────────────────────────────
ジジ、ジ…………──、ゥン。
水晶球から、光が消え失せた。
夜の客室に、静寂が戻る。
輝くは、硝子の中の花のみである。
「…………」
「「…………」」
しばらく、黙る三人。
「……こんなの……こんなの初めてだよ……?」
ポカンと、審議官が、二人に言う。
二人の羊は、事の重要さに気づいている。
幼い審議官が、急に雰囲気の変わった二人を見て、戸惑いを感じている。
「あ、あの……? オシハお姉ちゃん? ヒキハお姉ちゃん?」
「 」
「……ヒキハも、知らなかったのね?」
「っ…………」
その沈黙は、肯定である。
"──アンティ・クルルのランク情報は、
何者かによって、秘匿されている──"。
この事実が語る所は、大きい。
「そん、な……。たし、かに私たちは……! でも、こんな方法、あの方はきっと……」
「……ヒキハ。一応確認するけどさ……あんた達って、ちゃんと一枚岩なのよね?」
「──っ! ……」
冷や汗をかきながら、目を合わせる姉と妹。
「違う! 私は……こんな方法で隠しても、返って目立ってしまうだけなのに……!」
「そうね……"審議官"にも見れなくするなんて、相っ当なもんよ? ……ヒキハ。これ、完全に"牽制"だわ。というよりも……」
「……"警告"を超えた、"脅し"、ですか……」
「ええ……こんな強引な隠し方をしたら、"アンティ・クルルには特別な何かがある"と、調べた者なら全員感じるわ。問題は、"審議官ですら見れなくするほどの情報のロック"は、一部の権力者しかできない、という事よ……」
「……、……」
「……"アンティ・クルルに手を出した奴は、自分の権力を以て潰す"。これ……完全にそういうメッセージよ?」
「……っ、あ、あの方は、こんなやり方は……!! だから、私は調べられないように……!」
「……その、"あの方"ってのは、私には言ってくれないんだね……」
「っ、……」
「……いいわ、ヒキハ。私ももう調べない。あんたが隠したい事も、もう聞かないわ……。でもねヒキハ、何か手伝ってほしいことがあったら、すぐにお姉ちゃんに言いなさい。何も聞かずに動いてあげるから」
「っ! ……お姉ちゃん……」
「この、"アンティ・クルルの情報をロックした奴"にはね……何か、"執念"のようなものを感じるの……。"何がなんでも守りきる"みたいな……こわいわよ? こういう人って。いぃ? ぜったい、困ったら言うのよ?」
「……、ありがと」
「……ん」
「お、お姉ちゃん達……?」
「あ……ごめんねエコープル、無理言っちゃって。今日の事は忘れなさい。ちょっとヤバいわ」
「う、うん……」
「そんな……いったい誰が……でも……まさか言うはずは……」
「ヒキハ、あんまり思い詰めんな! もう、話してくれれば一緒に考えてあげるのに!」
「うぅ〜〜、お姉ちゃん、だってぇ……」
「あぁ〜〜、わかったわかった! 聞かないわよぅ! だいたいこんな事できる人なんか限られてるでしょう! "義賊ちゃん守りたい会"の仲間にでも、聞いてみることね!」
「そ、そんなにメンバーはいません……!」
「んなこと言ったってねぇ……水晶球情報のロックよぉ? できる人なんて、
王族の上位のひとか──、
貴族の上位のひとか──、
教会の────」
「 ……────こんな夜更けに、何をしているのです? 」
「 ───ぅぁッッ!?」
「 ───ぃぃッッ!?」
突如。
至近距離にて、羊の姉妹の背後より、声がする。
ふりむくと────……。
「 ……──ま」
「……"マザー・レイズ"……!」
「あっ! こんばんは、マザー!」
全身を覆う司祭服。
顔上半分を隠す、ミスリルの仮面。
権力を表す、大きな帽子。
大司教、マザー・レイズの姿が、そこにあった。
「……──こんばんは。エコープル・デラ・ベリタさん。こんな夜中まで起きていては、素敵なレディにはなれませんよ?」
「えへへ……ごめんなさい!」
「……、……」
「……、……」
和やかな審議官と大司教の会話の隅で、
ふたりの羊は、冷や汗を隠せない。
いや、前からわかっているのだ、この人の特異性は。
この人に、育ててもらったのだから。
しかし、しかしである。
────王都最強の剣士と言われる私達の背後に、
何故、気配もなく近寄れるのか。
"大司教"の肩書きに、それほどの実力が、なぜいるのだろうか────?
「…………」
「…………」
「オシハ、ヒキハ? こんな夜更けに護衛対象にご迷惑をかけてはいけませんよ?」
「は、はい……」
「申し訳ないです……」
もちろん、今の薄着の彼女たちを見れば、
護衛する気で部屋に訪ねたのではないことなど、
大司教は察しているはずである。
「では、お暇するといたしましょう。エコープル? おやすみなさい」
「はーい! マザー・レイズ、おやすみなさい!」
「行きますよ、オシハ、ヒキハ」
「は、はい……おやすみなさい」
「……じゃ、またね、エコープル……」
「またねぇ〜〜!」
……──キィ──バタン。
……コツ、コツコツコツ……。
「…………」
「…………」
歩き出すマザー・レイズに、
お互いの顔を見る、羊の姉妹。
『なぜ、あのタイミングで、あそこに来たのか?』
そう、言いたそうな顔を、互いにしていた。
しかし、先に行くマザーに引っ張られるように、
後に、続く。
しばらく歩いて────……、
コツコツコツ、……コツ。
とまった。
……ギィィ──……。
マザーは、客間のひとつのドアを開ける。
「入りなさい」
「……えと」
「……マザー?」
戸惑う、姉妹。
「入れっつってんだよ」
「 ……」
「 ……」
従うしかない。
入る。
……キィ───、バタン。
「……あの部屋で、何をしていたのか正直に話しなさい」
「……ぇ」
「あの、なんで……」
「審議官に、何を頼んだのか」
まさかの追求に、姉妹は瞳をひらいた。
もしかして、
私たちは、
今、
とても、
まずいんじゃあ────。
夜の教会の部屋で、マザーの声が響く。
「……何を、調べようとしていたのか、母親である私には、教えてくれるわよね?」
「……、……」
「───、……」
言いようのない、威圧を感じる。
これは、母のものであるか。
それとも────。
「──オシハ? ヒキハ? い え な い の ?」
「ひっ……!」
「えっ……と」
最強の姉妹も、大司教の前では、
狼の前に震える羊、同然である。
「……ヒキハ? あなたは何故、あの部屋に?」
「ひぇっ!? わ、私はただ、お姉ちゃんに……」
「ちょ、ちょっと……!」
「……オシハ?」
「はっ、はぃぃい!」
直立不動となる、オシハ・シナインズ。
マザーの声色から、従わないという選択肢は無くなっている。
「 な ぜ、 あ そ こ に、 い た の 」
(ひぃぃいい〜〜!!)
(お姉ちゃん……がんばって……!)
オシハは悩んでいた。
正直に言ってしまおうか。
"アンティ・クルル"の秘密を探っていたと。
いや、早計すぎる。
最初にぶちまけるのは、自分のキャラではない。
そうだ、どうせ密室でヤラれるなら、
ダメ元で、マザーの興味を惹きそうな話題をぶちまけようじゃないか。
オシハ・シナインズは、覚悟を決めた────。
「あ、あにょですね……」
「はい」
「……い、いまヒキハちゃんが着てる、真っ赤なランジェリー……男の人に貰ったって言うから、ホントかどうか、エコープルに確かめてもらおうと思って、ですねっ……?」
「──ちょお──ッッ!!? おねぇちゃああああんっっっ──!?」
「…………」
……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
マザー・レイズの威圧は、ピークに達している。
「あわわ、あぁわわわぁ……な、なんてことを、お姉ちゃん……」
「あ、しんだかなコレ……」
ある程度のお仕置きを覚悟した、
二人のおっぱいだったが───……。
「 く わ し く は な し な さ い 」
「「──えっ」」
「 私 は 詳 し く 話 せ と 言 っ た 」
────マザー・レイズは、食いついた。
「……にゃ、にゃんで私がこんな目にぃぃ……!」
「いやぁ───いいよっ! ヒキハちゃん! い──ぃ身体だねぇ〜〜!」
「あら、なかなかよく似合っているじゃありませんか。ヒキハは昔から赤が嫌いでしたからねぇ……着たら可愛いものも、たくさんあるでしょうに」
「あ、あにょ、もう私、服着ていいでしょうか」
「まぁ待ちなさい」
「えぇ〜〜? 勿体ないよォ〜〜!!」
「ね、姉さま……!! あなたって人はァ……!!」
「それをくれた殿方とは、どこまでいったのです?」
「メャャっ!?」
「……それはお姉ちゃんも、激しく気になるわねぇえええええええ!!!」
「ち、ちがっ、ホント、たまたまっ! 通りすがりに貰ったっていうか」
「……オシハ、もしその真っ黒のコートの男らしき人物の所在が掴めたら、すぐに私まで回しなさい。法的に国から抹殺します」
「お任せを」
「ちょ!? ちがうっ!! 違います! ちょっと話したことあります!! そんな悪い人じゃないって言うか……」
「あら、なぁんだ。やっぱりいい人なんじゃないの。母さん嬉しいわ」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎ……」
「やはり紅茶を入れましょうか。ところでオシハ、あなた、やけにヒキハに肩入れしてるけど、ベアくんとはどうなんです?」
「えっ……」
「そ、そうです!! お姉ちゃんだって、クマにベタベタです!!」
「ちょ……えっ、な、何を、言ってるのか、よ、く……」
「今日も一緒に飲んできたんでしょ?」
「やぅ……そりゃま、そうだけどぉ……!」
「ほらぁ──!! 私なんかより、よっぽどお姉ちゃんの方が乳くりあってますよぉ──!!」
「なっ……やっ、そんな、ベアとはそんなには……!」
「母さん、クマと結婚できるように法律くらい捻じ曲げてあげるわよ?」
「ちょ、ちょとまて、今はヒキハちゃんの下着の話でしょう!?」
「メゥゥ〜〜! なんでこんな夜中に、育ての親と姉の前で、半裸にされなきゃいけないのぉ……!」
「あなた達? 孫の顔を見せるってのは、すんごい親孝行ですのよ?」
「はっ、話はやいからねマザー!! だ、だいたいベアと私の子供とか、モフモフになっちゃうよ!?」
「……──イェス、ウェルカム!!!」
「うわぁぁああ!! たまにマザーのノリがわかんないわ私ぃぃいい!!!」
「大司教ともなれば、広い視野が必要なものです……あら?」
「えっ、な、なんですかマザー……あんまりマジマジと見ないでほしいんですが……」
「ヒキハ……ちょっと脱ぎなさい」
「は?」
「おおっと、育ての親がまさかの発言である……」
「なぁにを言ってるの。昔、あなた達をお風呂に入れたのは誰だと思って……ほれ、いいから脱げ」
「ちょ……マザー!? 私、今この赤いのしか着てな、ちょっと待ってぇぇええ────!!」
シュルルッ──ペロン。
「あぁ、ヒキハちゃんが、大司教の毒牙によって、生まれたままの姿に……」
「うぅ、ううう……」
「あら、このランジェリー、やっぱり……」
「?」
「……?」
「えいっ」
「「──!!」」
しゅるぱさささ……ふわぁ。
マザー・レイズの両手に握られる。
ふたつの真っ赤なランジェリー。
「な……!!」
「ランジェリーが、ふたつになった……!?」
「えっ、えっ……!? ちょ、布の密度、半分になってませんか!?」
「うっわ……胸んとこ、うっす……ダメでしょ……こことか……」
まさかの、半分こ。
分身のようにわかれた真紅の肌着に、
びっくら仰天のおっぱい姉妹たち。
そして、マザーは慈悲なく告げる。
「……オシハ、服を脱ぎなさい」
「……まってマザー……」
「や、やぁ〜〜い! お姉ちゃんに飛び火ぃ〜〜!!」
「あの、マザー・レイズ? さすがの私もですね……この面積と見た目は、あかんというかですね……」
「うるせぇ。脱げっつってんだろ」
「昔っから、たまにあなたを大司教だと思えない時がある」
「お姉ちゃん? 私の恥ずかしさ、体験しよ?」
「ちなみにヒキハ、もちろん、この半分になったの着なさいな」
「メェェァァア!! まざぁぁあああ───!!!」
「観念なさい。姉妹でしょう」
「「意味がわからない……」」
こうして、王都最強の剣士姉妹は、
育ての親に、ひん剥かれる事となったのである。
☆ お着がえ中 ☆
かなり際どい布面積になった、
おそろいの真紅のランジェリー。
隠す所を、なんとか隠せて……ない。
これを身に纏った双子の姉妹は、
お互いを見て、ポツンと言った。
「「…………えっろ……」」
まるで、鏡のようである。
大司教マザー・レイズは、紅茶を飲みながら嬉しそうである。
「いやぁ、エッロいわねぇ〜〜! 誰だか知らないけど、ヒキハはいいもの貰ったわね? そのカッコ、男でもクマでも、見たら大爆発よ? ほほほ、母さん保証するわ」
「……お姉ちゃん、やっらしいよ……」
「あ、あのねぇ……貰ってきたのヒキハちゃんなんだからね……」
「そ、そうだけどぉ……えと、私もこんなえろいの……?」
「たぶん……え、ていうかさ……え、何この着心地の良さ……! え、な、何!? なんでこんな薄いのに、こんな保持力あるの!? 胸が……軽っ!?」
「そ、そうにゃの……! 一度つけると、他の肌着が、ホントに辛くて……!」
「え、なんで、なんで!? すごっ!? 動ける!? なんで!? こことか、こんなに透け透けなのにっ!?」
「二人とも、大きくなったわねぇ……ホロり」
「マザー……姉妹でこんな痴態晒してるところに、感動しないでください……複雑です」
「ね……ねぇ、ヒキハちゃん……こんなこと頼むのはたいへん不服なのだけれど……この透け透けランジェリー、私にください……」
「ええっ!? お姉ちゃん、これ今、夜だからアレだけど、明るい所で見たら、私達、ゼッタイ相当やばい痴女だよっ!?」
「だっ、だって、こんなのヒキハちゃんだけズルいじゃん……! 胸大きいの、たいへんだってわかるでしょう……?」
「う……! い、いいけどぉ……! こんなの鎧の下に着てるなんてバレたら、隊の人たちになんて言われるかぁ……!」
「いや、それはバレないでしょ……そもそもなんで半分になるのよこのランジェリー……洗濯ってどうしてたの?」
「! そ、それがね、お姉ちゃん……これ、まったく汚れないの……」
「……は?」
「ほ、ホントなの!! 飲み物をこぼしてもね!? スゥ〜〜! って消えちゃうの! 匂いも全くしなくてね!? いや、というかいつも何故か花の香りのようなものが……」
「そ、そう言えば……」
「ほぅ、実験しましょうか。えいっ」
────ばちゃぁあ!!
マザー・レイズは、さめたミルクティーを、
ランジェリー姿の姉妹にぶっかけた。
「──ひゃああ!? ちょ!? まざぁああ!!?」
「──うっひゃあ!! マザー!! ていうかあんた、さっきからぁぁあ!!」
「どれどれ? あら、まぁ……!」
「──!? ヒキハちゃん!! 見て!!」
「見てる……というか、何度も試した……」
みるみる汚れが掻き消えていく、真紅のランジェリー。
まるで、気高き赤が汚れを喰らっているようである。
湯気のようなものが出て、
ふたつのウルトラレッドランジェリーハーフは、
元の、美しい状態へと戻っていった。
明らかに、何らかのマジックアイテムである。
湯気が立ち登り、
香水のような香りを纏う、
ふたりのおっぱいが、残った。
「……お姉ちゃん、痴女っぽいよ……えっろ……」
「……妹よ、あんたもかんなりね……えっろ……」
「──ほほほ! あなた達、それ花嫁道具にしなさいな?」
「「あんたは娘たちがこんなカッコで嫁いでいいのか」」
久しぶりの楽しい家族団欒に、
空は、白みはじめていた。
あんらまぁ……(๑´ㅂ`๑)*.+゜