表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
433/1216

羊たちの〇〇 さーしーえー

Twitter覗いてたら、

アンティのフィギュアを自作してくれよる方々が!

・:*+.\(( °ω° ))/.:+嬉しさ……!


てかミディッチュ風にアンちゃんイラスト描いてくれたの、可愛すぎか!

(๑´ㅂ`๑)♡*.+゜

頼むからピクシブにあげてくりゃれ!

百科事典のトップ絵にしたいですね(笑)


「はぐるまどらいぶ。」第1巻、

電子書籍版半額中!!

〜4/14まで!!d(ゝω・´○)+


あ、今回は怒られそうな回です(*´ 艸`)



 ──夜。


 王立教会の元気な孤児達が、寝静まった頃。


 その客間では、一人の幼い審議官の少女が、

 机の硝子(ガラス)器の中に浮く聖なる花を、

 ふわりとした表情で、見つめていた。


挿絵(By みてみん)

「きれい……」


 部屋は薄暗いが、恐ろしさは無い。

 穏やかな、夜の色である。

 硝子の器にはポーションが注がれており、

 その中に浮く美しい花弁は、

 暗い部屋の中、淡く、輝きを放っている。


「うさ丸ちゃん、可愛いかったな……」


 黄金の義賊クルルカンからの、花の贈り物。

 絵本と違い、素敵な女の子だった。

 美味しい料理を食べ、遊んで。

 かの者との別れを惜しみ、贈られた想い。

 それは、絵本の終わりのような瞬間だった。

 でも、悲しくはない。

 また必ず、どこかで彼らに会えると、

 今も、輝き続ける花は、励ましてくれている。

 まだ物語は、終わってはいないのだ。


「ふふ、すてきな人だったな……」


 "アンティ・クルル"と名乗った、黄金の女の子。

 初めて会うまで怖がっていた自分が、

 バカみたいだと思えるほどに、楽しい人。

 彼女がプレミオムズであるなら、大歓迎だ。

 小さな審議官は、自然と微笑んでいた。

 

「……また、会いたいな」

「次のプレミオムズ集会で会えるじゃないの」

「──わっひゃあ!!」


 背後より急に声をかけられ、

 椅子から飛び上がるように、後ろを向く。


「お、オシハお姉ちゃん、いつの間に……」

「こんばんは☆ エコープル?」


 プレミオムズ"剣技職(ソードマン)"、オシハ・シナインズは、この教会の孤児院出身である。


 今宵は審議官エコープルの護衛も兼ね、

 懐かしの我が家に、一泊せんとしていた。

 だが、この教会を襲う者など、そうはいない。

 彼女は今、剣も鎧も持ってはいなかった。

 身につけている物は明らかに部屋着である。


「び、ビックリしたよもぅ……!」

「そりゃあ、ビックリさせるつもりだったからね?」


 オシハ・シナインズは身をかがめ、

 にこにこと、小さな審議官を見据えていた。

 彼女ほどの剣士が気配を消し、

 暗がりの部屋で、背後から声をかけたのである。

 審議官の少女が驚くのは、至極当然であった。 


「し、心臓にわるいよ、オシハお姉ちゃん……」

「ごめんごめん……その花、きれいね?」

「! うん!」

「それってポーション?」

「うん、ユーくんの言ったとおりにしたら、光ったんだよ!」

「ふぅ──ん……ポーションに漬けたら光る花なんて、インテリアとしてバカ売れすると思うけど……珍しい花なのかしら」

「クルルカンの秘密の花だもの!」

「──! ふふ、そうだね」


 静かな夜の部屋で、

 聖なる花の輝きに魅入る二人。


「……──はっ! 花、見てる場合じゃなかったわ! エコープル、私、お願いがあってここに来たのよ」

「? お願い?」

「ええ……"真偽球"をね? ちょっと使ってほしいのよ」

「え……えぇ──! これ、トモダチに使うと、エコ、怒られるんだよぉ──……!!」

「そこをなんとか、そこをなんとかですね……」


 幼い審議官を(おが)みたおす、最強の女剣士。


「しょうがなぃなぁ……オシハお姉ちゃん、何を調べるの?」

「えっとね……"二代目クルルカン"の、冒険者ランク」

「──!」


 "アンティ・クルル"。

 この輝く花をくれた、黄金の仮面の君。

 この王都に突如現れた、プレミオムズ"配達職(ライダーズ)"。


「……そんなこと、知りたいの?」

「……うん、そうなの。お願いできない?」

「うーん……」


 幼い審議官は、少々悩んでいたが……。


「──うん! いいよ!」

「……ありがと。恩に着るわ」


 オシハ・シナインズは、気がかりだった。

 Aランク冒険者の集団である、プレミオムズ。

 その中にいても、充分な異彩を放つ、あの少女。

 "配達職(ライダーズ)"である彼女が、本当は、どのような存在なのか。

 あの心優しい妹と、どのような関係があるのか。

 その糸口が、ランクに隠されているのでは、と。


 幼い審議官は、寝巻きになっても欠かさず身に付けている、

 深い透明の水晶球に、手をかざした。

 情報を引き出す準備は、いつも整っている──。


「じゃあ、いくよぉ──"索引"……」


「 ……────お待ちなさい二人とも」


「────!!」

「────!!」


 部屋の入口より、声がかかる。

 この、はっきりとした女性の声は……。


「あ〜〜!!」

「……ヒキハちゃん、おかえりなさい」


 羊に連なるは、羊である。

 ヒキハ・シナインズは、

 部屋のドアに寄りかかるように立っていた。


「……ただいまです。姉さま、いったい何をしているのです?」

「あら、なんのこと?」

「とぼけないでくださいまし……今、個人的に真偽球を使おうとなさっていたでしょう?」

「ヒキハちゃん久しぶり〜〜!!」

「あ、え、えぇ、久しぶりですね、エコープル……」

「……でね? エコたん、"アンティ・クルル"のランクなんだけど……」

「──ちょっと! 姉さま!!」


 スルーを決めこみ目的を達成しようとする姉に、

 慌てて部屋に躍り出る妹。


挿絵(By みてみん)

「こらっ、姉さま! 王都剣技職(ソードマン)部隊長とあろう者が、私的に審議官の水晶球を使うなど、言語道断ですっ!! 今日、エコープルがここに宿をとったのは、私達が護衛として見られている節もあるのですよ!! そのご自覚が、ちゃーんと、おありですか!?」

「なぁぁ───に、堅っ苦しいこと言ってんのよぉ! ヒキハちゃんだって今、鎧も剣も持ってないでしょう? そぉーんな薄着に羽織りだけの格好で、説得力なんかないっちゅ──の! 石鹸のいーぃ匂いしてるわよ?」

「ぐっ……!!」


 お風呂上がりの副隊長は、

 隊長に、言いくるめられようとしている。

 しかし、彼女にも引けない理由はある。

 妹は、姉の二の腕を掴んだ。


 ──ぐんむっ。


「い、いけませんよ姉さま!? どのような理由があろうと、数多(あまた)の個人情報を無尽蔵に引き出せる、真偽球を乱用するなど──……」

「……──数多(・・)? あなたの守りたい者は、たった一人だけ(・・・・・・・)でしょう、ヒキハ?」

「……──っ!!」


 姉の眼光に、射抜かれる妹。


「──今日、あの子に会ってきたわ(・・・・・・・・・・)。さて、ここで問題。私が何も(・・・・)気づかないと思う(・・・・・・・・)──?」

「っ!」

「そうそう、今日もヒミツの任務(・・・・・・)、お疲れ様?」

「ね、ねぇ、さまっ……!」


 こてんと、首をしなだれさせる頂点の姉。

 きらりと、真実を見抜くような目で語りかける。


「──ヒキハちゃん? なぜあなたが、こぉぉんな夜更けに、ここに来たか、当ててあげましょうか?」

「な、何を急に……」

「今日の"黄金の義賊ちゃんのご様子"を(うかが)うため……でしょう?」

「ぅ……」

「私が居て、残念だったわねぇ?」

「なっ、姉さま!! そ、そんな言い方は……」

「……ヒキハ。結果から言うとね……盛大にやらかしていたわよ?」

「  、  」


 思考が停止しかける妹。

 姉は続ける。


「さっすが"黄金の義賊サマ"って感じだったわ……びっくら仰天の連続で、こちらの感覚が麻痺するくらいだったもの! あの子、秘密を持つのはへたっぴそうね……」

「ひっ、ひみつって、なにを……」

「あの小さな体に秘められたパワー、正確なマッピング能力、繋ぎ目が全くない鎧、斬れ味が状況によってかわる包丁──……」

「すっっごい、ご飯、おいしかったよ──!!」

「──っ!! ばっ……あの子……!!?」


 ヒキハ・シナインズは、目眩(めまい)がする思いである。

 あの黄金の少女は、あろうことか、

 プレミオムズ達の前で、料理をふるまったのか、と。

 あの異常な斬れ味の包丁の事すら、姉に見られてしまっている。

 せっかく裏から手を回して、

 金の光を抑えているというのに──。

 やきもきする妹に、姉は続けた。


「……まったくもぅ。みんな、苦笑いしながら採点したわ。あのコンディションに、あの素直な性格……。本当に、絵本から飛び出したんじゃないかってね。……ねぇヒキハ、教えてよ。あの子、いったい何者なの?」

「…………」


 押し黙る、羊の妹。


 この姉は、秘密を読み解くことに、

 誰よりも長けているから、隊長なのだ。

 恐らく、あの黄金の"異常性"に、

 誰よりも、何よりも、感づいている。

 だが、それでも────、

 あの、"赤の結晶"の真実には、たどり着かせてはいけない。


 そう、誰にも話していない、あの。

 世界の常識を(くつがえ)すような、真実には────。

 ヒキハは、口を開いた。


「……なら、ならば」

「……え?」

「そこまで、感じとっているなら、察しているなら……そっとしといてくれても、いいじゃありませんかっ!」

「ヒキハ……」

「あの子が抱えているモノは……重いっ! あの小さな身体で支えるには、重すぎるモノなんです……! あまりにも大きすぎて、誰も隣に立てず、最後には、一人ぼっちになってしまう……! 誰も、あの子の側に、共については行けないっ!! ……だから、だから私は、せめて……」

「…………」

「──とにかく!! 姉さまには関係ありません!! ほっといてください!!」

「あ……あんたねぇ──!! 関係ないワケないでしょ──!? 私もあの子もプレミオムズだっつ──の!! そんな偉そうな事は、プレミオムズにでもなってから言いなさいな!! まったく見ててヒヤヒヤする子だったわよ! ヒキハ! ラクーンの里のこと頼んだの、あの子でしょう!!」

「ギャ───!!! ね、姉さま!? まさかその事、プレミオムズ集会で言っちゃったんですかっ!?」

「い───えぇ、まだベアに、ちょっぴり匂わせただけぇ」

「な!? なんで言っちゃったんですかぁ──!? ばかばかばかばかばかばか……」


 ぽかぽかと姉を叩く妹。

 この二人が王都最強の剣技職(ソードマン)とは、

 誰も思えない光景である。


「……はっ、妹よ。そのポカポカは、姉にとってはある意味ご褒美でしかないわ……」

「うるしゃ───い!! クマにベタベタのくせにぃ──!!!」

「──な"ぁっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいヒキハ、それは聞き捨てならないわ!?」

「もぉ───ほっといてくださいまし!! 私とあの子は、あなた様の庇護はいりませんっ!!」

「あ────!? "あなた"って言ったな!? お姉ちゃんのこと、"あなた"って、他人行儀に言ったなぁ────!? 最近かまってくれなくて、お姉ちゃんは寂しいぞこんちくしょぉお───!!」


「あ、あのお姉ちゃんたち……声、大きいよ? みんな起きちゃうよ?」


 闇夜に低レベルな姉妹喧嘩を始める羊に、

 一人、冷静な目で指摘する、幼い審議官。

 二人は、取っ組み合いになりつつあった。

 手と手を握る、熱い攻防である。


「い・い・で・す・か・ら! 今日は部屋にぃ、帰ってくださいましぃぃ……!!」

「ふっ、我が妹よ……! そんな指図は、姉である私を超えてから言うんだなぁ……! そぉれ、ふぅぅ〜〜……!」

「ぞくくッッぁぁあ……っ!! なっ、なんでいま、首筋に息吹きかけたんですかぁ──!! お姉ちゃんの変態ぃぃぃ!! すけべ羊ぃぃい───!!!」

「あぁ──んな真っ赤なランジェリー男の人に貰っといて、なぁぁ──に人のことスケベ扱いしてんのよぉ──!! あっ……あっ!! いまっ!! 見えた!! 赤いの、見えたわよこの!! 今着てるでしょっ!? その服の下、例の赤いランジェリー着てるでしょ!!」

「──わわっ……!? ちが、これは……」

「なぁに、ちゃっかり気に入っちゃってんのよぉぉ──!!!」

「ききき、気に入ってないもんんぅ──!!!」

「ッほぉお──!? ずいぶん肌触りのいい生地だとは、前に触った時に思ってたけどねぇ……まさか、ここまでお気に入りになってたとはねぇ──!!?」

「ち、違うもん! 着てない、着てないもん──!!」

「じゃあその手ぇどけなさぁ──い!! ひん剥いてやらぁ──!!」

「いゃ────!!! だッッメェェェええええ───!!?」


「──"索引"! 対象者:"アンティ・クルル"! 」


「「──えっ……!?」」


 ヒートアップする、おっぱい羊たちの(かたわ)らで、

 幼い審議官の声が響く。


「え──っと……いま、読み込んでるから、ちょっと待ってね!」

「───な!? え、エコープル!? あなた、なんで……!?」

「だ、だって……。調べないと、オシハお姉ちゃんもヒキハお姉ちゃんも、部屋から出てってくれないかなぁって思って……」

「「…………」」


 幼い審議官殿の、まさかの大人な対応に、

 一瞬、言葉を失う、おっぱい羊共。

 先に我に返ったのは、姉の方であった。


「──はっ!! これはチャンス!! スキありぃ──!!」

「えっ……──ぎ、ぎにゃああああああ───!!!」


 ──もんぎゅむぬ。


 鎧などつけていない副隊長の乳に、

 隊長のお手手は、訳もなく滑りこんだ。

 ──そう、ダイレクトアタックである。


 もみゅもみゅもみゅもみゅもみゅゆゆ────!!


「メャ、メェエヤァァアアアアアアぁぁぁああ──ッッ!!?」

「い、今よエコープル!! 今のうちに、は、はやくやっちゃって!!」

「は───い♪」

「うらうらうらうらうらうらうらうらぁ……!」

「メヤァァア!? メヤァアァァアアぁあああぁぁぁっっ……!!! うぅっ、こ、このおっ──!!」

「あっ!? しっ、しまった……ッ!! ひッッ!?」


 ──むんぎゅむな。


「し、仕返しですぅぅぅううう───!!!」

「ぬぁっ!? みゃ、メュヤァァアアアアアァァ──!!?」


「まっだかな、まだかなぁ──♪ ふんふんふふ〜〜ん!」


 重なり合う羊たちの嬌声の中、

 ルンルンと、時を待つ審議官。

 真偽を司る水晶球に、情報が蓄積され始める。


 ……じ、ジジジ……。


「あっ、そろそろ表示されるよ──!」



 ──もぬもぬもぬもぬもぬもぬもぬもゆもぬ。

 ──ぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬぐぬ。


「……メェ、ェ、て、手ぇ離せぇぇ〜〜……っ!」

「……メャ、ャ、そ、そっちこそぉ〜〜……っ!」



「……お姉ちゃんたちって、仲良しだよねぇ……あ! ほら、オシハお姉ちゃん!」


「「──っ!!」」



 ──ピンポン。


 審議官エコープルの抱える水晶球。

 そこに、光の文字が映し出されて────……。




 ビ─────────ッ。




─────────────────────────────


 ◆ この操作は ブロックされました ◆


 "アンティ・クルル"に関するランク情報は、

 ユーザーにより、ロックされています。

 この行為を続ける場合、ロックユーザーに

 情報が通知されます。


 続けますか?


       ◆ 10 ◆


─────────────────────────────

 


「なに、これ……」



 数字は、"10"から、1ビョウずつ、減ってきている。


 エコープルは、困惑した。


 ふたりの羊が、駆け寄った。


「──エコープル!!! ダメっ!!」

「──すぐに中止なさい!!! はやくっ!!」

「えっ……!? う、うんっ……!」


 あまりの二人の剣幕に驚きながらも、

 エコープルは、"真偽球"に向きなおる。


 ──……7……6……5……4……──。


─────────────────────────────


 ◆ この操作は ブロックされました ◆


 "アンティ・クルル"に関するランク情報は、

 ユーザーにより、ロックされています。

 この行為を続ける場合、ロックユーザーに

 情報が通知されます。


 続けますか?


       ◆ 3 ◆


─────────────────────────────


「さ……"索引"中止……!」


 ビ────────!!


─────────────────────────────


 ◆ この操作は キャンセルされました ◆


─────────────────────────────


 ジジ、ジ…………──、ゥン。


 水晶球から、光が消え失せた。

 夜の客室に、静寂が戻る。

 輝くは、硝子の中の花のみである。



「…………」

「「…………」」



 しばらく、黙る三人。


「……こんなの……こんなの初めてだよ……?」


 ポカンと、審議官が、二人に言う。

 二人の羊は、事の重要さに気づいている。

 幼い審議官が、急に雰囲気の変わった二人を見て、戸惑いを感じている。


「あ、あの……? オシハお姉ちゃん? ヒキハお姉ちゃん?」


(……、……) (そんな……)

「……ヒキハも、知らなかったのね?」

「っ…………」


 その沈黙は、肯定である。


 "──アンティ・クルルのランク情報は、

 何者かによって、秘匿されている──"。


 この事実が語る所は、大きい。


「そん、な……。たし、かに私たちは……! でも、こんな方法、あの方はきっと……」

「……ヒキハ。一応確認するけどさ……あんた達って、ちゃんと(・・・・)一枚岩なのよね(・・・・・・・)?」

「──っ! ……」


 冷や汗をかきながら、目を合わせる姉と妹。


「違う! 私は……こんな方法で隠しても、返って目立ってしまうだけなのに……!」

「そうね……"審議官"にも見れなくするなんて、相っ当なもんよ? ……ヒキハ。これ、完全に"牽制"だわ。というよりも……」

「……"警告"を超えた、"脅し"、ですか……」

「ええ……こんな強引な隠し方をしたら、"アンティ・クルルには特別な何かがある"と、調べた者なら全員感じるわ。問題は、"審議官ですら見れなくするほどの情報のロック"は、一部の権力者しかできない、という事よ……」

「……、……」

「……"アンティ・クルルに手を出した奴は、自分の権力を以て潰す"。これ……完全にそういうメッセージよ?」

「……っ、あ、あの方は、こんなやり方は……!! だから、私は調べられないように……!」

「……その、"あの方"ってのは、私には言ってくれないんだね……」

「っ、……」

「……いいわ、ヒキハ。私ももう調べない。あんたが隠したい事も、もう聞かないわ……。でもねヒキハ、何か手伝ってほしいことがあったら、すぐにお姉ちゃんに言いなさい。何も聞かずに動いてあげるから」

「っ! ……お姉ちゃん……」

「この、"アンティ・クルルの情報をロックした奴"にはね……何か、"執念"のようなものを感じるの……。"何がなんでも守りきる"みたいな……こわいわよ? こういう人って。いぃ? ぜったい、困ったら言うのよ?」

「……、ありがと」

「……ん」

「お、お姉ちゃん達……?」

「あ……ごめんねエコープル、無理言っちゃって。今日の事は忘れなさい。ちょっとヤバいわ」

「う、うん……」

「そんな……いったい誰が……でも……まさか言うはずは……」

「ヒキハ、あんまり思い詰めんな! もう、話してくれれば一緒に考えてあげるのに!」

「うぅ〜〜、お姉ちゃん、だってぇ……」

「あぁ〜〜、わかったわかった! 聞かないわよぅ! だいたいこんな事できる人なんか限られてるでしょう! "義賊ちゃん守りたい会"の仲間にでも、聞いてみることね!」

「そ、そんなにメンバーはいません……!」

「んなこと言ったってねぇ……水晶球情報のロックよぉ? できる人なんて、

 王族の上位のひとか──、

 貴族の上位のひとか──、

 教会の────」





「 ……────こんな夜更けに、何をしているのです? 」




「 ───ぅぁッッ!?」

「 ───ぃぃッッ!?」



 突如。

 至近距離にて、羊の姉妹の背後より、声がする。

 ふりむくと────……。



「 ……──ま」

「……"マザー・レイズ"……!」


「あっ! こんばんは、マザー!」



 全身を覆う司祭服。

 顔上半分を隠す、ミスリルの仮面。

 権力を表す、大きな帽子。

 大司教、マザー・レイズの姿が、そこにあった。


挿絵(By みてみん)

「……──こんばんは。エコープル・デラ・ベリタさん。こんな夜中まで起きていては、素敵なレディにはなれませんよ?」

「えへへ……ごめんなさい!」


「……、……」

「……、……」


 和やかな審議官と大司教の会話の隅で、

 ふたりの羊は、冷や汗を隠せない。


 いや、前からわかっているのだ、この人の特異性(・・・)は。

 この人に、育ててもらったのだから。

 しかし、しかしである。


 ────王都最強の剣士と(・・・・・・・・)言われる私達の(・・・・・・・)背後に(・・・)

 何故(・・)気配もなく(・・・・・)近寄れるのか(・・・・・・)


 "大司教"の肩書きに、それほどの実力が、なぜいるのだろうか────?



「…………」

「…………」

「オシハ、ヒキハ? こんな夜更けに護衛対象にご迷惑をかけてはいけませんよ?」

「は、はい……」

「申し訳ないです……」


 もちろん、今の薄着の彼女たちを見れば、

 護衛する気で部屋に訪ねたのではないことなど、

 大司教は察しているはずである。


「では、お(いとま)するといたしましょう。エコープル? おやすみなさい」

「はーい! マザー・レイズ、おやすみなさい!」

「行きますよ、オシハ、ヒキハ」

「は、はい……おやすみなさい」

「……じゃ、またね、エコープル……」

「またねぇ〜〜!」


 ……──キィ──バタン。


 ……コツ、コツコツコツ……。


「…………」

「…………」


 歩き出すマザー・レイズに、

 お互いの顔を見る、羊の姉妹。


『なぜ、あのタイミングで、あそこに来たのか?』


 そう、言いたそうな顔を、互いにしていた。

 しかし、先に行くマザーに引っ張られるように、

 後に、続く。


 しばらく歩いて────……、


 コツコツコツ、……コツ。


 とまった。


 ……ギィィ──……。


 マザーは、客間のひとつのドアを開ける。


「入りなさい」


「……えと」

「……マザー?」


 戸惑う、姉妹。


「入れっつってんだよ」


「   ……」

「   ……」


 従うしかない。


 入る。


 ……キィ───、バタン。



「……あの部屋で、何をしていたのか正直に話しなさい」


「……ぇ」

「あの、なんで……」


「審議官に、何を頼んだのか」



 まさかの追求に、姉妹は瞳をひらいた。


 もしかして、


 私たちは、


 今、


 とても、


 まずいんじゃあ────。



 夜の教会の部屋で、マザーの声が響く。



「……何を、調べようとしていたのか、母親である私には、教えてくれるわよね?」


「……、……」

「───、……」


 言いようのない、威圧を感じる。

 これは、母のものであるか。

 それとも────。


「──オシハ(・・・)? ヒキハ(・・・)? い え な い の ?」


「ひっ……!」

「えっ……と」


 最強の姉妹も、大司教の前では、

 狼の前に震える羊、同然である。


「……ヒキハ? あなたは何故、あの部屋に?」

「ひぇっ!? わ、私はただ、お姉ちゃんに……」

「ちょ、ちょっと……!」

「……オシハ?」

「はっ、はぃぃい!」


 直立不動となる、オシハ・シナインズ。

 マザーの声色から、従わないという選択肢は無くなっている。


「 な ぜ、 あ そ こ に、 い た の 」


(ひぃぃいい〜〜!!)

(お姉ちゃん……がんばって……!)


 オシハは悩んでいた。

 正直に言ってしまおうか。

 "アンティ・クルル"の秘密を探っていたと。

 いや、早計すぎる。

 最初にぶちまけるのは、自分のキャラではない。

 そうだ、どうせ密室でヤラれるなら、

 ダメ元で、マザーの興味を惹きそうな話題をぶちまけようじゃないか。


 オシハ・シナインズは、覚悟を決めた────。


「あ、あにょですね……」

「はい」

「……い、いまヒキハちゃんが着てる、真っ赤なランジェリー……男の人に貰ったって言うから、ホントかどうか、エコープルに確かめてもらおうと思って、ですねっ……?」

「──ちょお──ッッ!!? おねぇちゃああああんっっっ──!?」

「…………」




 ……。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。



 マザー・レイズの威圧は、ピークに達している。



「あわわ、あぁわわわぁ……な、なんてことを、お姉ちゃん……」

「あ、しんだかなコレ……」


 ある程度のお仕置きを覚悟した、

 二人のおっぱいだったが───……。




「 く わ し く は な し な さ い 」


「「──えっ」」


「 私 は 詳 し く 話 せ と 言 っ た 」



 ────マザー・レイズは、食いついた。





「……にゃ、にゃんで私がこんな目にぃぃ……!」

「いやぁ───いいよっ! ヒキハちゃん! い──ぃ身体だねぇ〜〜!」

「あら、なかなかよく似合っているじゃありませんか。ヒキハは昔から赤が嫌いでしたからねぇ……着たら可愛いものも、たくさんあるでしょうに」

「あ、あにょ、もう私、服着ていいでしょうか」

「まぁ待ちなさい」

「えぇ〜〜? 勿体ないよォ〜〜!!」

「ね、姉さま……!! あなたって人はァ……!!」

「それをくれた殿方とは、どこまでいったのです?」

「メャャっ!?」

「……それはお姉ちゃんも、激しく気になるわねぇえええええええ!!!」

「ち、ちがっ、ホント、たまたまっ! 通りすがりに貰ったっていうか」

「……オシハ、もしその真っ黒のコートの男らしき人物の所在が掴めたら、すぐに私まで回しなさい。法的に国から抹殺します」

「お任せを」

「ちょ!? ちがうっ!! 違います! ちょっと話したことあります!! そんな悪い人じゃないって言うか……」

「あら、なぁんだ。やっぱりいい人なんじゃないの。母さん嬉しいわ」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎ……」

「やはり紅茶を入れましょうか。ところでオシハ、あなた、やけにヒキハに肩入れしてるけど、ベアくんとはどうなんです?」

「えっ……」

「そ、そうです!! お姉ちゃんだって、クマにベタベタです!!」

「ちょ……えっ、な、何を、言ってるのか、よ、く……」

「今日も一緒に飲んできたんでしょ?」

「やぅ……そりゃま、そうだけどぉ……!」

「ほらぁ──!! 私なんかより、よっぽどお姉ちゃんの方が乳くりあってますよぉ──!!」

「なっ……やっ、そんな、ベアとはそんなには……!」

「母さん、クマと結婚できるように法律くらい捻じ曲げてあげるわよ?」

「ちょ、ちょとまて、今はヒキハちゃんの下着の話でしょう!?」

「メゥゥ〜〜! なんでこんな夜中に、育ての親と姉の前で、半裸にされなきゃいけないのぉ……!」

「あなた達? 孫の顔を見せるってのは、すんごい親孝行ですのよ?」

「はっ、話はやいからねマザー!! だ、だいたいベアと私の子供とか、モフモフになっちゃうよ!?」

「……──イェス、ウェルカム!!!」

「うわぁぁああ!! たまにマザーのノリがわかんないわ私ぃぃいい!!!」

「大司教ともなれば、広い視野が必要なものです……あら?」

「えっ、な、なんですかマザー……あんまりマジマジと見ないでほしいんですが……」

「ヒキハ……ちょっと脱ぎなさい」

「は?」

「おおっと、育ての親がまさかの発言である……」

「なぁにを言ってるの。昔、あなた達をお風呂に入れたのは誰だと思って……ほれ、いいから脱げ」

「ちょ……マザー!? 私、今この赤いのしか着てな、ちょっと待ってぇぇええ────!!」


 シュルルッ──ペロン。


「あぁ、ヒキハちゃんが、大司教の毒牙によって、生まれたままの姿に……」

「うぅ、ううう……」

「あら、このランジェリー、やっぱり……」

「?」

「……?」

「えいっ」

「「──!!」」


 しゅるぱさささ……ふわぁ。


 マザー・レイズの両手に握られる。

 ふたつの(・・・・)真っ赤なランジェリー。


「な……!!」

「ランジェリーが、ふたつになった……!?」

「えっ、えっ……!? ちょ、布の密度、半分になってませんか!?」

「うっわ……胸んとこ、うっす……ダメでしょ……こことか……」


 まさかの、半分こ。

 分身のようにわかれた真紅の肌着に、

 びっくら仰天のおっぱい姉妹たち。

 そして、マザーは慈悲なく告げる。


「……オシハ、服を脱ぎなさい」

「……まってマザー……」

「や、やぁ〜〜い! お姉ちゃんに飛び火ぃ〜〜!!」

「あの、マザー・レイズ? さすがの私もですね……この面積と見た目は、あかんというかですね……」

「うるせぇ。脱げっつってんだろ」

「昔っから、たまにあなたを大司教だと思えない時がある」

「お姉ちゃん? 私の恥ずかしさ、体験しよ?」

「ちなみにヒキハ、もちろん、この半分になったの着なさいな」

「メェェァァア!! まざぁぁあああ───!!!」

「観念なさい。姉妹でしょう」

「「意味がわからない……」」


 こうして、王都最強の剣士姉妹は、

 育ての親に、ひん剥かれる事となったのである。



 ☆ お着がえ中 ☆



 かなり際どい布面積になった、

 おそろいの真紅のランジェリー。

 隠す所を、なんとか隠せて……ない。

 これを身に纏った双子の姉妹は、

 お互いを見て、ポツンと言った。


「「…………えっろ……」」


 まるで、鏡のようである。

 大司教マザー・レイズは、紅茶を飲みながら嬉しそうである。


「いやぁ、エッロいわねぇ〜〜! 誰だか知らないけど、ヒキハはいいもの貰ったわね? そのカッコ、男でもクマでも、見たら大爆発よ? ほほほ、母さん保証するわ」


「……お姉ちゃん、やっらしいよ……」

「あ、あのねぇ……貰ってきたのヒキハちゃんなんだからね……」

「そ、そうだけどぉ……えと、私もこんなえろいの……?」

「たぶん……え、ていうかさ……え、何この着心地の良さ……! え、な、何!? なんでこんな薄いのに、こんな保持力あるの!? 胸が……軽っ!?」

「そ、そうにゃの……! 一度つけると、他の肌着が、ホントに辛くて……!」

「え、なんで、なんで!? すごっ!? 動ける!? なんで!? こことか、こんなに透け透けなのにっ!?」

「二人とも、大きくなったわねぇ……ホロり」

「マザー……姉妹でこんな痴態晒してるところに、感動しないでください……複雑です」

「ね……ねぇ、ヒキハちゃん……こんなこと頼むのはたいへん不服なのだけれど……この透け透けランジェリー、私にください……」

「ええっ!? お姉ちゃん、これ今、夜だからアレだけど、明るい所で見たら、私達、ゼッタイ相当やばい痴女だよっ!?」

「だっ、だって、こんなのヒキハちゃんだけズルいじゃん……! 胸大きいの、たいへんだってわかるでしょう……?」

「う……! い、いいけどぉ……! こんなの鎧の下に着てるなんてバレたら、隊の人たちになんて言われるかぁ……!」

「いや、それはバレないでしょ……そもそもなんで半分になるのよこのランジェリー……洗濯ってどうしてたの?」

「! そ、それがね、お姉ちゃん……これ、まったく汚れないの……」

「……は?」

「ほ、ホントなの!! 飲み物をこぼしてもね!? スゥ〜〜! って消えちゃうの! 匂いも全くしなくてね!? いや、というかいつも何故か花の香りのようなものが……」

「そ、そう言えば……」

「ほぅ、実験しましょうか。えいっ」


 ────ばちゃぁあ!!


 マザー・レイズは、さめたミルクティーを、

 ランジェリー姿の姉妹にぶっかけた。


「──ひゃああ!? ちょ!? まざぁああ!!?」

「──うっひゃあ!! マザー!! ていうかあんた、さっきからぁぁあ!!」

「どれどれ? あら、まぁ……!」

「──!? ヒキハちゃん!! 見て!!」

「見てる……というか、何度も試した……」


 みるみる汚れが掻き消えていく、真紅のランジェリー。

 まるで、気高き赤が汚れを喰らっているようである。

 湯気のようなものが出て、

 ふたつのウルトラレッドランジェリーハーフは、

 元の、美しい状態へと戻っていった。

 明らかに、何らかのマジックアイテムである。


 湯気が立ち登り、

 香水のような香りを纏う、

 ふたりのおっぱいが、残った。


「……お姉ちゃん、痴女っぽいよ……えっろ……」

「……妹よ、あんたもかんなりね……えっろ……」


「──ほほほ! あなた達、それ花嫁道具にしなさいな?」


「「あんたは娘たちがこんなカッコで嫁いでいいのか」」





 久しぶりの楽しい家族団欒に、


 空は、白みはじめていた。 







あんらまぁ……(๑´ㅂ`๑)*.+゜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ