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夜に現る人気者



 黄昏のお仕事は、終わりを告げようとしている。


 空が、静かに夜を創り出していた。




 きゅぅぅううううういいんんん!!!


 ごぉおおおおおおおおおおおお!!!



『>>>っ!! ちょ! やばいよ、"魔法の網"!! もうすぐだよ!』

「げっ──!! うわどしよっ──」


 ────オオォォォ──……ふぉおん──!!


「──!? 素通りしたわよ!?」

『────術式の反応:無。』

『>>>うっそだろ……"王絶"って、トラップも反応しないのかぃ!? シゼツどんだけ……』

『『 へっへ──ん! どんなもんだ──い!! 』』

『────まもなく地表です。着地態勢に移行してください。』



 ひゅ〜〜るる


  ひゅ〜〜るるるるる……、


   っ、───きぃぃぃいいいいんんん───!!!



「にょ、にょにょお……!」

「………」

『>>>……いっこ聞いていい?』

「……あに」

『>>>なんで、上から飛び降りたのさ?』


 ……、……。

 だ、だってぇ……。


「………ぐすん……。すぐ、立ち去りたかったんだもン……」

『>>>あぁっ! いやっ泣かないでっ!』

『────着地時の損傷:皆無です。』


 あああ〜〜……、

 あああ〜〜!!

 やってもたぁ〜〜〜〜!!


「貴族さんに、目撃されてもたぁ〜〜!!」

『>>>しかも、お仕事もらっちゃったね……』

「にょきっと〜〜!」

『────バーニヤ部:解体開始。

 ────"準反重力(デミハングラビティ)機構(システマ)":構成解除します。』

『『 きひひひ! すごい落ちてきたねぇ〜〜!! またやろぉ〜〜!!』』

「やらなぃかんねっ!? てかシゼツぅ! あんた、この剣から手ぇ離したら"隠れんぼ効果"切れるって、教えときなさぃよぉ!!」


 ブンブンッ!!


『『 え──!? アンティが離すからだよぉ──!! 』』

「そ、そぉだけどぉぉおおお!! お陰で貴族様に見つかっちゃったじゃないのよぉおおお!!」

『『 シゼツのせいじゃないも──ん♪ 』』

『>>>てか、抜刀してたよね……』

「あっ! そうよね!?」

『『 "斬絶"の時はね! "抜刀術"をすると威力があがるんだよー! 』』

「……どゆこと、どゆこと!?」

『>>>また高度な事を仰る……』


 ──きゅぅぅううんんん……。


 ゴッ!! ゴッ、ボォォオオオオウウ!!!


 ──ぶぉわっ!!!


「えっ、うぉあっ──!!」

『>>>っ!? クラウンちゃん! ブースト! なんか暴走してないかぃ!?』

『────も:申し訳ありません。調整段階を細分化。再調整中……。』

「ととと、わっ! う、うさ丸! しっかり掴まって!」

「にょきっとぉ────!!」


 ──ぎゅんむ。


「にょや」

「……かおあ、やえああぃ……」

『『 あはははははは!! 』』

『────ブースト調整完了。収束します。』


 ───ごぉぉぉぉぉおぉ──ぅぅ……。


『>>>ブーストの威力系……? なぜ出力に変動が?』

『────……。』

『>>>……! そ、ソル……』

『────の:後ほど確認します。』

「もいい、かえう……」

『『 アンティ、こどもみた──い!! 』』

「ううっ、あのベッド……もちょっと、堪能したかったな」


 とぼとぼと、お城の入り口に歩き出す私……。


『────アンティ。シゼツのスキル:"王絶"を発動させたまま王城を離脱する事は:非推奨行動指定。』

「えっ、あ……」

『>>>あーそうだね。知らない間に、外に出たって事になるからね。違和感が残っちゃう』


 そか……記録上は、私がずっとお城にいることになっちゃうもんね。


「……シゼツ」

『『 ……うん、いいよ! ありがとう! 私、楽しかったわ! 』』

「……」


 シゼツは、あの3人が合わさったもの。

 バラバラに戻った時、

 シゼツの心は、どこへ行くのかな……。


「……また、呼び出していい? その、用事がなくても」

『『 ……! きひひ……その時は、またアソコで裸で追いかけっこしようね! 』』

「ちょ、服は着るかんねっ!? ほら、うさ丸、お礼言っときな!」

「にょきっ! にょきっとな!」

『『 きひひっ! 勇者さまも、"因幡の白兎"みたいになっちゃダメだよ? 』』

『>>>……! きみ……?』

『『 アンティ 』』

「なぁに?」

『『 最後の一人も、たぶん貴方に出会うわ 』』

「……どういう意味?」

『『 きひひ……またね! 』』

「あ、ちょっと!」


 きゅぅぅうううんん、 ……パきん……!


「っ!」


【 ────うおっ!? 】

< ────お流しっ!? >

{{ ────わ……戻った……? }}



 私の胸元から、みっつの"どらいぶ"が飛び出し、

 手元の大剣は、消えてしまった。


「クラウン……"最後の一人"って、どういう意味だろぅ……」

『────詳細不明です。』

「……そうよね」


 やっぱり、かなりの不思議ちゃんだわ、あの子……。

 夜の城内には、光の魔石が灯りはじめている。



「……宿屋に、かえろっか」

「にょきっと!」


 きん、きんきんきん……。



「あらぁ〜〜、まだいらっしゃったんですねぇ〜〜!」

「にょきっとな☆」

「はーい、にょきっとな☆」


 ここの受付嬢さん、やっぱり大物だわ……。


「はい、こちらにサインを。お部屋はどうでしたか〜〜?」

「っ! なんか、物凄かったです……」

「あらぁ〜〜ごめんなさいねぇ〜〜。元々は資料庫だったものでぇ〜〜」

「あ、やっぱそうなんですね」


 すごい量の本だったもんな……。


「でも、気に入りました。その……また来る機会があれば、使わせてもらいますね」

「あらぁ〜〜、それはよかったです〜〜!」

「にょやにょや〜〜☆」

「はぁ〜〜い、にょやにょや〜〜☆」


 ……大物だぁ……。



 きんきん歩いて、門番の騎士さんのところまで行く。

 ……早くお城を出て、全身をマントで隠したい。


「……おや、義賊殿。お帰りですかな?」

「あ、こんばんは……。昨日今日と、お世話になりました」

「な、なんだっ!? この金ピカの女の子は……」


 あ、騎士さんの片方、知らない人になってる……。


「にょきっと!」

「ら、ラビット!?」

「にょきっと!!」

「これ、プレミオムズの方に失礼だぞ」

「ぷっ、プレミオムズですって!?」

「はは……じゃあ宿に帰ります。その、また機会があったらよろしくです……」

「うむ。道中大変だろうが、気をつけて帰られよ」

「"義賊"……!? あっ! ま、まさか、この少女がっ!?」

「……? よくわかりませんが、ありがとうございます?」


 "道中大変"……? どういう意味だろ?

 ……まぁいいや。バジルパンが私を呼んでいる。


 王城から少し離れ、後ろを振り返る。

 城壁は所々、光の魔石が灯っていて、

 夜の始まりに、王の威厳を浮かび上がらせてた。

 うへぇ。

 あれのテッペンに行ってたとは、とても信じられない。

 私はゾクゾクとして、大きなマントで身体を包んだ。


 ……──シュルルル……。


「はぁ……波乱の一日だった……」

「にょむ、にょやにょやぃ」


 ポンポンポムポム。

 うさ丸が頭を撫でてくれた。

 ……あんた、頭撫でんの上手いわね。

 髪を崩さないような配慮を感じるわ……。

 お手手のチカラってすごいのね。


「"コムギ亭"で、室内お風呂にしよう……ああ、でも、あのベッド、すごかったなぁ……」

『────格納可能です。』

「怒られるからね?」


 んと、やっぱ屋根の上を行った方がいいのかな……。

 ……。

 いいや。

 マントで身体を隠したら、王都(この街)では貴族に見えるっぽいし、私。

 不容易に声をかけてくる人は少ないでしょう。


  ガヤガヤ……。


    ワイワイ……。


 アハハハ……。


 まだ暗くなったばかりだからか、人は結構いる。

 この通りは光の魔石や、

 火の魔石がたくさん利用されているようだ。

 美味しそうな匂いの煙も所々で上がっている。

 賑やかさで私の足音は掻き消えたし、

 道端のテーブルで楽しく食事する人々は、見ていて楽しくなる。

 たまに、私の仮面とうさ丸を見て、

 ギョっとしていく人がいるけど、

 それも、すれ違いざまの一瞬だ。


「……夜に賑やかな街って、いいもんだね。活気が溢れてる。ちょっとごちゃごちゃしてきたないけど」

『────飲食関連の店舗が展開しているようです。それ以外の店舗は閉店:施錠されている傾向が見受けられます。』

『>>>ここは貴族とは無縁の場所っぽいけど、一人一人の市民の服装は、けっこう豊かに見える。よい街だと思う。ここの王はしっかりしてるんじゃないかい?』

「──そぅね。見てるだけで、楽しくなる夜の光景だわ。ウチの周りだと、こうはいかないから……あっ! あそこのソーセージ吊るしてある屋台、ちょっと行ってみようかな……」

『>>>なんだよ、けっこう元気あるなぁ』

「おおっ! すごいすごい! 机が石焼き場になってる! うさ丸、あそこに乗るんじゃないわよ! ステーキになっちゃうからね!」

「にょ、にょにょにょ……!?」

『───ご安心を。うさ丸の装備では:恐らくステーキになりません。』


 煙にまかれた屋台の上から、

 ズラリとソーセージが吊るしてあり、

 まるで肉のカーテンだわ!

 屋根があるせいで煙がこもってしまってるけど、

 なんというか、それがいい。

 大きなテントのような布が張ってあり、

 半分そと、半分なか、といった場所ね。

 焼き台がついた机や、イス、机なんかが、

 紙やゴミの散乱したブロック床に、乱立している。

 ……なるほど、屋台よりは規模が大きいわ!

 ここは店舗みたいなモンなんだわ!


「けっこう、下に落ちてるゴミがすごいな……あれとか紙じゃないの? 勿体ない……これ、毎日片付けるのかしら?」

『────飲食物の串:包み紙:紙面出版物などが散乱しています。』

「あっ……あれ美味しそうだなー!!」

『>>>あ、ほんと……ビールとソーセージって、どこでも人気あるんだなぁ』


 おおお──っ!

 今日一日の終わりが、

 こういう観光っぽい締めくくりなのは嬉しい!

 よく聞くと、お肉の焼く音や、楽しい喋り声の中に、

 管楽器の音や、笛の音が聞こえる。

 夜なのに素晴らしい陽気だわ。


「きゃっきゃっ!!」

「あ、とるなよぉ〜〜!」

「これっ、じっとして食べなさい!」


『>>>子供連れのお母さんとかもけっこういるな……やっぱり治安が良さそうだな。夜に子供が屋台で外食させられるレベルってことか……』

「なぁに難しいこと言ってんの! おっちゃ───ん!! このソーセージいくらぁ──!?」


 目のあった店主っぽい人が、ギョっとする。


「おおぅっ!? おいアンタ! よくわかんねぇけど、肩にラビットが乗ってるぜ!?」

「のせてんのよ! これ、一本ずつ切ってもらえんの? ここ座っていぃ?」

「はっは! アンタ、見た目は貴族っぽいけど、しゃべったらダメだなァ! やんちゃが仮面に隠れてないぜ! 仮装かなんかかぃ? どうぞ座んな! 一本160イェルだぜ!」

「それは安いっ!! 二本!! 自分で焼くの!?」

「まいどぉ! そうしていただけると助かるねぇ!」


 チャリ!


 じゅ〜〜っ!!


 おおっ〜〜! すげぇ〜〜!!

 机の中に、黒い焼き石がめり込んでる……!

 なるほどぉ〜〜! 裏に火の魔石と薪があんのね?

 これいいなぁ〜〜! 欲しいなぁ〜〜!!


『>>>鉄板焼きみたいだなぁ……!』

『────表面温度:約200ド前後です。』

「ねぇ! 野菜の取り扱いはないの? この子にも食べさせたいんだけど!」

「にょきっと!」

「はっはっはっは!! 仮面の嬢ちゃん、無茶言いやがるねぇ!! そんなこと初めて言われたぜぇ! ウチの本店は肉屋だ! ビールはあるが、こんなのれん(・・・・)みてぇに肉がぶらさがった店にゃ、野菜はねぇってもんよ! ごめんなすって!」

「……おぅうい、派手な嬢ちゃん、あんた見かけによらず、豪気な性格だねぇ! 肉屋に野菜を出せとはねぇ!」

「あら、ごめんあそばせ?」


 隣の席の、顔がほんのり赤いおばあちゃんに話しかけられる。

 後ろの席のヤツらがうっせぇな。

 まぁ、ウチの店でもよくある

 顔を近づける。


「わたしゃ野菜卸しだよ。アンタ、なんかいるかぃ?」

「えっ!? ホント!? じゃあニンジンとピーマンと、オニオンはある!?」

「アンタ、ここいらじゃ新顔だね? ふっふ、わたしがそんなド定番の野菜を、持ってないワケがないだろぅ! このオニオンはいいよぉ〜〜! 値段はこれでどうだぃ!」

「買ったぁ! おっちゃん! この焼き台でやっちゃっていい?」

「しょーがねーな!! あんま水が出るヤツはよしてくれよ!!」

「へっへ──ん!」


『>>>対人スキルが高すぎる……さ、さすが食堂の看板娘』

『────アンティの:良い所です。』


 ニンジンの土を、手のバッグ歯車で格納してから、

 あ、またストックがあるのに買っちゃった、と思う。

 ……まーいーや。腐らないもんね!

 んじゃ……!


【 お、出番かや? いっちょバラバラじゃ! 】

{{ 物騒ですよ、サキさん……? }}


「──おっ!? 自前の包丁かぃ!?」

「そぅよ! ひょひょひょひょひょ……」


 しゅぱしゅぱしゅぱ──……!


 変な声を出しながら、ニンジンの皮を剥く。

 あ、イニィさんで刺して、サキで削ぐ感じ。

 うん、ナナメ輪切りだな。うさ丸も食べやすかろう。

 サキ、焼き台、切らないでね。

 オニオンをちょい剥き、

 まぁ大きさは、こんなもんでいいや。

 こちらもナナメカットしたソーセージと、

 オニオン、輪切りしたピーマンフープを、

 和えるように焼いていく。

 肉の油があるから、もうこのまんまでいい。


 じゅわぁ〜〜〜〜……!!


「……嬢ちゃん、タダもんじゃないね?」

「おぉ〜〜手慣れてんなぁ!!」

「あっ! やべぇ、フタがない! 水分が逃げる……フタ、フタ……──えぇい!」


< ええぇ〜〜!? わっちが(ふた)ァ〜〜!? >

【 ぐかっかっかっ! 汚れ仕事やのぅ、大姉! 】

{{ うっわ、あっははは! ひどいですねぇー }}


 ソーセージの輪切り、ピーマンフープ、オニオンの薄切りに、

 ダイ姉をカポッと被せる。

 かなり軽ぅくソルト&ペっパー。

 ほんの少しだけバターをほうりこむのを忘れない。


 じゅぅぅうううぅうう〜〜!!!


「おぉおい嬢ちゃん! そんな真っ白なフライパンをこんな使い方したら、持ち手まで真っ黒になっちまうぜッ!?」

「だいじょうぶです。このフライパン、何者にも穢されないので!」


< そ、そうやけんどもぉ〜〜! >

【 俺っち、食丁でよかったなぁ…… 】

{{ そうです? まぁ私もサラダに突っ込まれたりしますし…… }}


 じゅわわわぁ〜〜!


 よしゃ。もういい。トドメだわ。


「〜〜♪ 〜〜♪」


 いきなりだが、ウチの食堂のバイト、プライス君は、

 どうしようもないアカン子(4歳年上)だが、

 その恩恵もある。

 彼が誤発注しまくるせいで、キティラ家は、

 たまに未知の調味料に出会ってきたのである。


 そう、このマヨネーズ(・・・・・)も、そのひとつである────!!!


 ──パカっ!


 じゅわわぁ────!!!

 

「ちょちょちょ───♪」


 口をとんがらせて、変な顔でマヨネーズをかける。

 私はマヨをかける時、小さな穴のあいた絞りで、

 細くジグザグにかけるのが好きだ。


「おっ!! 嬢ちゃん……! アンタ、珍しい調味料を持ってんねぇ……!」

「おいおい、べらぼうに美味そうじゃねぇか──……!!」

「でっきあっがりぃ───!!」


『>>>これ、完全に酒飲みの料理だろ……ホイル焼きで同じ具のヤツ見たことあるんだけど……ごくり』

『────"ホイル焼き"のデータをダウンロード中。』


「いただきまぁ──す! うさ丸はそっちだかんな!」

「にょきぃっとぉ────!!」


 マイチョップスティックスを取り出し、元気よく食べはじめる。


 パクって……、


 ───うまいっっっっっ!!!


「お、おい嬢ちゃん、ちょっと俺にもくれねぇか……!」

「わたしにも、貰えるかねぇ……!」

「ん? いよ──♪」

「にょんむにょんむ……にょきぃ──♪ ががががががが……」


 うさ丸も、隣で焼きニンジンスライスを、

 前歯で粉砕している。

 うん、やっぱ調味料は無くて正解だったみたいね!


「こ、こいつぁうめぇ……! 野菜はこんだけしか使ってねぇのによ……!」

「マヨネーズがまろやかだねぇ……! ペッパーの香り、オニオンの旨みが、肉とあうねぇ……!」

「スライスしたソーセージってのも、ありだな……! おいばっちゃん、これは(もう)け話になんじゃあねぇか?」

「おぅし、いっちょやるかぃ?」


「──おぅい! 旦那! その仮面の嬢ちゃんが食ってるのはなんだい!? こっちにも頼むぜ!」

「あっ、私も欲しい! ちょっとお肉ばっかり飽きたわ!」

「えっなんだい? ここでは料理も食えるのかい?」

「おいおいおいおい……ばっちゃん、こりゃあ……」

「ひぇっひぇっひえっ……こいつは寝られない夜になりそうだよ?」

「で、でもよ、マヨネーズなんて、俺の店にはねぇぜ……?」

「もぐもぐもぐ……え、私のちょっと譲りましょうか?」

「仮面の嬢ちゃん、ほんとかい!?」

「ど、どんぐらいいります?」

「ここには50人くらいいるからなぁ……」

「じゃ、こんくらい?」


 ───シュルるる……、


 ドドンッッ!!


「…………」

「…………」

「もぐもぐもぐ……」

「ががががががが」


 ……ん?


「あ、もちろんタダはダメですよ!? ちょっとお金ください!」

「い、いや、嬢ちゃん……これ! タルじゃねぇか! 2タルあるぞっ!?」

「嬢ちゃん、やっぱ、タダもんじゃあないねぇ……!」

「え、あ、そ、そうか……こんなにいりません? もぐもぐ」

「いや、ありがてぇが……!」

「おぉう……これは上質なマヨネーズだっ! これは金になるよぉ……!?」

「よ、よぉし買ったあ!! 金ぁ、こんなもんでどうでぃ!?」

「ん……ぶっぐ! こ、こんなに貰えるんですか!?」

「決まりだなぁ!! おぅい! 野菜をさばける奴は手伝ってくれぇ!!」

「私やるわよぉ──!! 何本か負けてよねぇ──!」

「しゃ──ねぇなぁ──!!」

「えっ、安くなんの!? じゃあ私もやる……!!」

「おぅ──い!! 肉屋が小料理やるらしぃぞぉ──!!」

「んだとぉ──!? 今日はめでてぇ日だなぁ──!!!」


 ん? な、なんだこれ……なんか騒がしくなったわね……?

 ちょ、あんまりこっちに集中されると、私の正体が……。

 もぐもぐ……?


 じゅぅぅううわわ〜〜!!!


「おぅらぁ〜〜!!! こっち5人前できたぞぉ〜〜!!」

「ペッパー!!! ペッパーどこお!」

「くぉぉ、うめぇじゃねぇかぁぁあ!!!」

「酒だあぁぁああ!!!」

「あら、おいしい」

「お母さん、私もたべう〜〜!」

「ぎゃだははははは!!!」

「おいこらあんまでかい声だすんじゃねぇや! ところでそれはなんの酒だぃ?」


「…………。もぐもぐ……」

「……にょきっとぉ〜〜。けっぷ……」

『────"ホイル焼き"とは:このような事態を引き起こすのですね。』

『>>>い、いや、……"アルミホイル"はこっちにはないだろ……後輩ちゃん、ちょっと自重したほうがいいよ……』

「ぐむっ──ぅえっ!? 私のせいかっ!?」

『>>>マヨの店頭販売しちゃうから……』

「だ、だってぇ……」


 気づけば、祭りみたいになっている。

 私は、儲けている。

 わぁ、世界って、不思議だなぁ。


「お〜〜い! みんな酒持ったかぁ!!」

「なんだよなんだよ! もったいつけやがって! あくしろぉ〜〜!」

「なになに、なんなの?」

「いつもの悪ノリでしょ? 乾杯するんだって!」

「はっ! 王都と言えど、夜の屋台はゴロツキまみれだな!」

「おめぇもだろ」

「ちょっと! それ私も入ってんの!?」

「え〜〜! では、我らが国王、バルドアックス王と、黄金の義賊クルルカンに!!」


「もぐ、ぶっ……ぐ……!?」


「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」


「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」


「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」


「「「「「かんぱぁぁあ〜〜〜い!!!」」」」」



 かちこぉぉおおおおんん!!!!!!!


 わぁぁぁぁあああ────!!!!!!!


 ……──!? !!!????

 え、え!? な、なんて!?


「げほっ、ごほっ……あ、あの、なんで……」

「ん? どうした? 仮面の嬢ちゃん?」

「いま……"王とクルルカン"って……」

「──ああっ! なんだ、知らねぇのか! 昨日よぉ、"カフェ・ド・ランドエルシエ"で、黄金の義賊がでたんだぜ!!」

「    」

「はっはっは! 子供が2人助けられたんだってなぁ!! なんか、すげぇヤツだったらしいぜ!」

「街灯を蹴っ飛ばして、空中をかっぱしったらしいな!」

「私見てたわよ!! あれ、人間の動きじゃないわ!」

「ははははっ! それ、号外のやつだろ? そんなやつ本当にいんのか?」

「………!? ご、"号外"って……!?」

「あ? あんた何言ってんだ……そこらじゅうに落ちてるだろ、ほれ……」

「へ……!? えっ……!?」


 下に、指をさされる。

 いやな予感がして、辺りの地面を見てみる。

 ゴミ塗れと思っていた中に、たっくさん、

 小さな文字が書かれた、大きな紙が落ちている。

 ……!? これ、ニュースペーパーってやつ!?

 紙を、こんなふうに……もったいない!!

 ひとつ、比較的きれいなモノを拾い上げ、


 ────絶句した。




 "────王都の火災現場に、義賊クルルカンあらわる"

 "────絵本の英雄、子供を2人助ける"

 "────黄金の義賊は女の子!? 目撃証言多数"


 ──ご丁寧に、挿し絵のようなものまで載っていやがった。



「    」

『────よい挿し絵です。』

『>>>…………ぅわぁ…………』


 あ、


 あ、


 あ、


 あ、


 あ、


 あう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁ……!!!



 こ、


 の、


 したの、


 これ、


 ぜんぶ、私の……、


 私の記事かッッ……!?


 うそぉ……。


 ……。



「いやぁ〜〜!! まさか王都に"黄金の義賊クルルカン"が現れるたぁなぁ!! これほど明るい話題は、オルシャンティア王女がお産まれになった時以来だぜぇ!!」

「ほんなオレはみたんだっ!! あの女クルルカンは、ガレキの塊を蹴り上げたんだぜっ!! あっぱれなヤツさぁ!!!」

「きゃっきゃっ!! あんた酔ってんの?」

「いまや、王都はクルルカンの話題で持ち切りだよぉ……」


 プルプルプルプルプルプル……。


 だ、ダメだ。

 私は、もう、ダメだ。

 ここにいちゃ、いけない。

 逃げよう。

 義賊らしく、逃げなければ。

 うさ丸、ちょ、起きんかい。

 これヤバイぞ、私、ニュースペーパーになってるぞ。

 あかんぞ、これぇ……!


 記事を持った両手がプルプルふるえ、

 中腰になって、おしりが椅子から浮いている。

 完全に、アウトである。

 身体を覆うマントが、非常に薄っぺらいものに感じる。

 ドラゴンの防御力なんて、意味ないですわ。


 に、にげへんと……。



「きゃははは──!!」

「あ──! まてって──!!」

「こらぁ──! こんな所で走ったら、つまづきますよお──!」

「つまずかないよぉ───だ!!」


 ────ガッ!


「────あっ!?」


 ──ガシッ!?




 がくんと。


 マントの端を(・・・・・・)掴まれた(・・・・)かのような、感覚。


 私は(ほう)けていたのか、


 歯車のロックは(・・・・・・・)容易く外れる(・・・・・・)



 ───チャキン……!!!


 シュルルルルル………!!



「うわっ、とっとっとっとっ……! ……あれ?」


「    」



 全身を覆っていたヴェールが、


 子供の手によって、ひんむかれた。



 ────(あらわ)になるは、二つ結の髪を持つ、


 "黄金の鎧の少女(わたし)"である。




 その瞬間、



 あれだけ騒がしかった周りから、



 しん、と、 おとが、  ひいた。




「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」

「「「「「      ……」」」」」



「    ……」




 視線が、イタイ。




    

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」

「「「「「ああああああああ!!!」」」」」




「うわぁぁああああああんんっっ!!! おかあさぁぁああああ────んんん!!!」


「にょっ、にょきっと……お!!?」






 それから、


 どうやってコムギ亭に帰ったのか、


 ほんとに覚えていない。





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