夜に現る人気者
黄昏のお仕事は、終わりを告げようとしている。
空が、静かに夜を創り出していた。
きゅぅぅううううういいんんん!!!
ごぉおおおおおおおおおおおお!!!
『>>>っ!! ちょ! やばいよ、"魔法の網"!! もうすぐだよ!』
「げっ──!! うわどしよっ──」
────オオォォォ──……ふぉおん──!!
「──!? 素通りしたわよ!?」
『────術式の反応:無。』
『>>>うっそだろ……"王絶"って、トラップも反応しないのかぃ!? シゼツどんだけ……』
『『 へっへ──ん! どんなもんだ──い!! 』』
『────まもなく地表です。着地態勢に移行してください。』
ひゅ〜〜るる
ひゅ〜〜るるるるる……、
っ、───きぃぃぃいいいいんんん───!!!
「にょ、にょにょお……!」
「………」
『>>>……いっこ聞いていい?』
「……あに」
『>>>なんで、上から飛び降りたのさ?』
……、……。
だ、だってぇ……。
「………ぐすん……。すぐ、立ち去りたかったんだもン……」
『>>>あぁっ! いやっ泣かないでっ!』
『────着地時の損傷:皆無です。』
あああ〜〜……、
あああ〜〜!!
やってもたぁ〜〜〜〜!!
「貴族さんに、目撃されてもたぁ〜〜!!」
『>>>しかも、お仕事もらっちゃったね……』
「にょきっと〜〜!」
『────バーニヤ部:解体開始。
────"準反重力機構":構成解除します。』
『『 きひひひ! すごい落ちてきたねぇ〜〜!! またやろぉ〜〜!!』』
「やらなぃかんねっ!? てかシゼツぅ! あんた、この剣から手ぇ離したら"隠れんぼ効果"切れるって、教えときなさぃよぉ!!」
ブンブンッ!!
『『 え──!? アンティが離すからだよぉ──!! 』』
「そ、そぉだけどぉぉおおお!! お陰で貴族様に見つかっちゃったじゃないのよぉおおお!!」
『『 シゼツのせいじゃないも──ん♪ 』』
『>>>てか、抜刀してたよね……』
「あっ! そうよね!?」
『『 "斬絶"の時はね! "抜刀術"をすると威力があがるんだよー! 』』
「……どゆこと、どゆこと!?」
『>>>また高度な事を仰る……』
──きゅぅぅううんんん……。
ゴッ!! ゴッ、ボォォオオオオウウ!!!
──ぶぉわっ!!!
「えっ、うぉあっ──!!」
『>>>っ!? クラウンちゃん! ブースト! なんか暴走してないかぃ!?』
『────も:申し訳ありません。調整段階を細分化。再調整中……。』
「ととと、わっ! う、うさ丸! しっかり掴まって!」
「にょきっとぉ────!!」
──ぎゅんむ。
「にょや」
「……かおあ、やえああぃ……」
『『 あはははははは!! 』』
『────ブースト調整完了。収束します。』
───ごぉぉぉぉぉおぉ──ぅぅ……。
『>>>ブーストの威力系……? なぜ出力に変動が?』
『────……。』
『>>>……! そ、ソル……』
『────の:後ほど確認します。』
「もいい、かえう……」
『『 アンティ、こどもみた──い!! 』』
「ううっ、あのベッド……もちょっと、堪能したかったな」
とぼとぼと、お城の入り口に歩き出す私……。
『────アンティ。シゼツのスキル:"王絶"を発動させたまま王城を離脱する事は:非推奨行動指定。』
「えっ、あ……」
『>>>あーそうだね。知らない間に、外に出たって事になるからね。違和感が残っちゃう』
そか……記録上は、私がずっとお城にいることになっちゃうもんね。
「……シゼツ」
『『 ……うん、いいよ! ありがとう! 私、楽しかったわ! 』』
「……」
シゼツは、あの3人が合わさったもの。
バラバラに戻った時、
シゼツの心は、どこへ行くのかな……。
「……また、呼び出していい? その、用事がなくても」
『『 ……! きひひ……その時は、またアソコで裸で追いかけっこしようね! 』』
「ちょ、服は着るかんねっ!? ほら、うさ丸、お礼言っときな!」
「にょきっ! にょきっとな!」
『『 きひひっ! 勇者さまも、"因幡の白兎"みたいになっちゃダメだよ? 』』
『>>>……! きみ……?』
『『 アンティ 』』
「なぁに?」
『『 最後の一人も、たぶん貴方に出会うわ 』』
「……どういう意味?」
『『 きひひ……またね! 』』
「あ、ちょっと!」
きゅぅぅうううんん、 ……パきん……!
「っ!」
【 ────うおっ!? 】
< ────お流しっ!? >
{{ ────わ……戻った……? }}
私の胸元から、みっつの"どらいぶ"が飛び出し、
手元の大剣は、消えてしまった。
「クラウン……"最後の一人"って、どういう意味だろぅ……」
『────詳細不明です。』
「……そうよね」
やっぱり、かなりの不思議ちゃんだわ、あの子……。
夜の城内には、光の魔石が灯りはじめている。
「……宿屋に、かえろっか」
「にょきっと!」
きん、きんきんきん……。
「あらぁ〜〜、まだいらっしゃったんですねぇ〜〜!」
「にょきっとな☆」
「はーい、にょきっとな☆」
ここの受付嬢さん、やっぱり大物だわ……。
「はい、こちらにサインを。お部屋はどうでしたか〜〜?」
「っ! なんか、物凄かったです……」
「あらぁ〜〜ごめんなさいねぇ〜〜。元々は資料庫だったものでぇ〜〜」
「あ、やっぱそうなんですね」
すごい量の本だったもんな……。
「でも、気に入りました。その……また来る機会があれば、使わせてもらいますね」
「あらぁ〜〜、それはよかったです〜〜!」
「にょやにょや〜〜☆」
「はぁ〜〜い、にょやにょや〜〜☆」
……大物だぁ……。
きんきん歩いて、門番の騎士さんのところまで行く。
……早くお城を出て、全身をマントで隠したい。
「……おや、義賊殿。お帰りですかな?」
「あ、こんばんは……。昨日今日と、お世話になりました」
「な、なんだっ!? この金ピカの女の子は……」
あ、騎士さんの片方、知らない人になってる……。
「にょきっと!」
「ら、ラビット!?」
「にょきっと!!」
「これ、プレミオムズの方に失礼だぞ」
「ぷっ、プレミオムズですって!?」
「はは……じゃあ宿に帰ります。その、また機会があったらよろしくです……」
「うむ。道中大変だろうが、気をつけて帰られよ」
「"義賊"……!? あっ! ま、まさか、この少女がっ!?」
「……? よくわかりませんが、ありがとうございます?」
"道中大変"……? どういう意味だろ?
……まぁいいや。バジルパンが私を呼んでいる。
王城から少し離れ、後ろを振り返る。
城壁は所々、光の魔石が灯っていて、
夜の始まりに、王の威厳を浮かび上がらせてた。
うへぇ。
あれのテッペンに行ってたとは、とても信じられない。
私はゾクゾクとして、大きなマントで身体を包んだ。
……──シュルルル……。
「はぁ……波乱の一日だった……」
「にょむ、にょやにょやぃ」
ポンポンポムポム。
うさ丸が頭を撫でてくれた。
……あんた、頭撫でんの上手いわね。
髪を崩さないような配慮を感じるわ……。
お手手のチカラってすごいのね。
「"コムギ亭"で、室内お風呂にしよう……ああ、でも、あのベッド、すごかったなぁ……」
『────格納可能です。』
「怒られるからね?」
んと、やっぱ屋根の上を行った方がいいのかな……。
……。
いいや。
マントで身体を隠したら、王都では貴族に見えるっぽいし、私。
不容易に声をかけてくる人は少ないでしょう。
ガヤガヤ……。
ワイワイ……。
アハハハ……。
まだ暗くなったばかりだからか、人は結構いる。
この通りは光の魔石や、
火の魔石がたくさん利用されているようだ。
美味しそうな匂いの煙も所々で上がっている。
賑やかさで私の足音は掻き消えたし、
道端のテーブルで楽しく食事する人々は、見ていて楽しくなる。
たまに、私の仮面とうさ丸を見て、
ギョっとしていく人がいるけど、
それも、すれ違いざまの一瞬だ。
「……夜に賑やかな街って、いいもんだね。活気が溢れてる。ちょっとごちゃごちゃしてきたないけど」
『────飲食関連の店舗が展開しているようです。それ以外の店舗は閉店:施錠されている傾向が見受けられます。』
『>>>ここは貴族とは無縁の場所っぽいけど、一人一人の市民の服装は、けっこう豊かに見える。よい街だと思う。ここの王はしっかりしてるんじゃないかい?』
「──そぅね。見てるだけで、楽しくなる夜の光景だわ。ウチの周りだと、こうはいかないから……あっ! あそこのソーセージ吊るしてある屋台、ちょっと行ってみようかな……」
『>>>なんだよ、けっこう元気あるなぁ』
「おおっ! すごいすごい! 机が石焼き場になってる! うさ丸、あそこに乗るんじゃないわよ! ステーキになっちゃうからね!」
「にょ、にょにょにょ……!?」
『───ご安心を。うさ丸の装備では:恐らくステーキになりません。』
煙にまかれた屋台の上から、
ズラリとソーセージが吊るしてあり、
まるで肉のカーテンだわ!
屋根があるせいで煙がこもってしまってるけど、
なんというか、それがいい。
大きなテントのような布が張ってあり、
半分そと、半分なか、といった場所ね。
焼き台がついた机や、イス、机なんかが、
紙やゴミの散乱したブロック床に、乱立している。
……なるほど、屋台よりは規模が大きいわ!
ここは店舗みたいなモンなんだわ!
「けっこう、下に落ちてるゴミがすごいな……あれとか紙じゃないの? 勿体ない……これ、毎日片付けるのかしら?」
『────飲食物の串:包み紙:紙面出版物などが散乱しています。』
「あっ……あれ美味しそうだなー!!」
『>>>あ、ほんと……ビールとソーセージって、どこでも人気あるんだなぁ』
おおお──っ!
今日一日の終わりが、
こういう観光っぽい締めくくりなのは嬉しい!
よく聞くと、お肉の焼く音や、楽しい喋り声の中に、
管楽器の音や、笛の音が聞こえる。
夜なのに素晴らしい陽気だわ。
「きゃっきゃっ!!」
「あ、とるなよぉ〜〜!」
「これっ、じっとして食べなさい!」
『>>>子供連れのお母さんとかもけっこういるな……やっぱり治安が良さそうだな。夜に子供が屋台で外食させられるレベルってことか……』
「なぁに難しいこと言ってんの! おっちゃ───ん!! このソーセージいくらぁ──!?」
目のあった店主っぽい人が、ギョっとする。
「おおぅっ!? おいアンタ! よくわかんねぇけど、肩にラビットが乗ってるぜ!?」
「のせてんのよ! これ、一本ずつ切ってもらえんの? ここ座っていぃ?」
「はっは! アンタ、見た目は貴族っぽいけど、しゃべったらダメだなァ! やんちゃが仮面に隠れてないぜ! 仮装かなんかかぃ? どうぞ座んな! 一本160イェルだぜ!」
「それは安いっ!! 二本!! 自分で焼くの!?」
「まいどぉ! そうしていただけると助かるねぇ!」
チャリ!
じゅ〜〜っ!!
おおっ〜〜! すげぇ〜〜!!
机の中に、黒い焼き石がめり込んでる……!
なるほどぉ〜〜! 裏に火の魔石と薪があんのね?
これいいなぁ〜〜! 欲しいなぁ〜〜!!
『>>>鉄板焼きみたいだなぁ……!』
『────表面温度:約200ド前後です。』
「ねぇ! 野菜の取り扱いはないの? この子にも食べさせたいんだけど!」
「にょきっと!」
「はっはっはっは!! 仮面の嬢ちゃん、無茶言いやがるねぇ!! そんなこと初めて言われたぜぇ! ウチの本店は肉屋だ! ビールはあるが、こんなのれんみてぇに肉がぶらさがった店にゃ、野菜はねぇってもんよ! ごめんなすって!」
「……おぅうい、派手な嬢ちゃん、あんた見かけによらず、豪気な性格だねぇ! 肉屋に野菜を出せとはねぇ!」
「あら、ごめんあそばせ?」
隣の席の、顔がほんのり赤いおばあちゃんに話しかけられる。
後ろの席のヤツらがうっせぇな。
まぁ、ウチの店でもよくある
顔を近づける。
「わたしゃ野菜卸しだよ。アンタ、なんかいるかぃ?」
「えっ!? ホント!? じゃあニンジンとピーマンと、オニオンはある!?」
「アンタ、ここいらじゃ新顔だね? ふっふ、わたしがそんなド定番の野菜を、持ってないワケがないだろぅ! このオニオンはいいよぉ〜〜! 値段はこれでどうだぃ!」
「買ったぁ! おっちゃん! この焼き台でやっちゃっていい?」
「しょーがねーな!! あんま水が出るヤツはよしてくれよ!!」
「へっへ──ん!」
『>>>対人スキルが高すぎる……さ、さすが食堂の看板娘』
『────アンティの:良い所です。』
ニンジンの土を、手のバッグ歯車で格納してから、
あ、またストックがあるのに買っちゃった、と思う。
……まーいーや。腐らないもんね!
んじゃ……!
【 お、出番かや? いっちょバラバラじゃ! 】
{{ 物騒ですよ、サキさん……? }}
「──おっ!? 自前の包丁かぃ!?」
「そぅよ! ひょひょひょひょひょ……」
しゅぱしゅぱしゅぱ──……!
変な声を出しながら、ニンジンの皮を剥く。
あ、イニィさんで刺して、サキで削ぐ感じ。
うん、ナナメ輪切りだな。うさ丸も食べやすかろう。
サキ、焼き台、切らないでね。
オニオンをちょい剥き、
まぁ大きさは、こんなもんでいいや。
こちらもナナメカットしたソーセージと、
オニオン、輪切りしたピーマンフープを、
和えるように焼いていく。
肉の油があるから、もうこのまんまでいい。
じゅわぁ〜〜〜〜……!!
「……嬢ちゃん、タダもんじゃないね?」
「おぉ〜〜手慣れてんなぁ!!」
「あっ! やべぇ、フタがない! 水分が逃げる……フタ、フタ……──えぇい!」
< ええぇ〜〜!? わっちが蓋ァ〜〜!? >
【 ぐかっかっかっ! 汚れ仕事やのぅ、大姉! 】
{{ うっわ、あっははは! ひどいですねぇー }}
ソーセージの輪切り、ピーマンフープ、オニオンの薄切りに、
ダイ姉をカポッと被せる。
かなり軽ぅくソルト&ペっパー。
ほんの少しだけバターをほうりこむのを忘れない。
じゅぅぅうううぅうう〜〜!!!
「おぉおい嬢ちゃん! そんな真っ白なフライパンをこんな使い方したら、持ち手まで真っ黒になっちまうぜッ!?」
「だいじょうぶです。このフライパン、何者にも穢されないので!」
< そ、そうやけんどもぉ〜〜! >
【 俺っち、食丁でよかったなぁ…… 】
{{ そうです? まぁ私もサラダに突っ込まれたりしますし…… }}
じゅわわわぁ〜〜!
よしゃ。もういい。トドメだわ。
「〜〜♪ 〜〜♪」
いきなりだが、ウチの食堂のバイト、プライス君は、
どうしようもないアカン子(4歳年上)だが、
その恩恵もある。
彼が誤発注しまくるせいで、キティラ家は、
たまに未知の調味料に出会ってきたのである。
そう、このマヨネーズも、そのひとつである────!!!
──パカっ!
じゅわわぁ────!!!
「ちょちょちょ───♪」
口をとんがらせて、変な顔でマヨネーズをかける。
私はマヨをかける時、小さな穴のあいた絞りで、
細くジグザグにかけるのが好きだ。
「おっ!! 嬢ちゃん……! アンタ、珍しい調味料を持ってんねぇ……!」
「おいおい、べらぼうに美味そうじゃねぇか──……!!」
「でっきあっがりぃ───!!」
『>>>これ、完全に酒飲みの料理だろ……ホイル焼きで同じ具のヤツ見たことあるんだけど……ごくり』
『────"ホイル焼き"のデータをダウンロード中。』
「いただきまぁ──す! うさ丸はそっちだかんな!」
「にょきぃっとぉ────!!」
マイチョップスティックスを取り出し、元気よく食べはじめる。
パクって……、
───うまいっっっっっ!!!
「お、おい嬢ちゃん、ちょっと俺にもくれねぇか……!」
「わたしにも、貰えるかねぇ……!」
「ん? いよ──♪」
「にょんむにょんむ……にょきぃ──♪ ががががががが……」
うさ丸も、隣で焼きニンジンスライスを、
前歯で粉砕している。
うん、やっぱ調味料は無くて正解だったみたいね!
「こ、こいつぁうめぇ……! 野菜はこんだけしか使ってねぇのによ……!」
「マヨネーズがまろやかだねぇ……! ペッパーの香り、オニオンの旨みが、肉とあうねぇ……!」
「スライスしたソーセージってのも、ありだな……! おいばっちゃん、これは儲け話になんじゃあねぇか?」
「おぅし、いっちょやるかぃ?」
「──おぅい! 旦那! その仮面の嬢ちゃんが食ってるのはなんだい!? こっちにも頼むぜ!」
「あっ、私も欲しい! ちょっとお肉ばっかり飽きたわ!」
「えっなんだい? ここでは料理も食えるのかい?」
「おいおいおいおい……ばっちゃん、こりゃあ……」
「ひぇっひぇっひえっ……こいつは寝られない夜になりそうだよ?」
「で、でもよ、マヨネーズなんて、俺の店にはねぇぜ……?」
「もぐもぐもぐ……え、私のちょっと譲りましょうか?」
「仮面の嬢ちゃん、ほんとかい!?」
「ど、どんぐらいいります?」
「ここには50人くらいいるからなぁ……」
「じゃ、こんくらい?」
───シュルるる……、
ドドンッッ!!
「…………」
「…………」
「もぐもぐもぐ……」
「ががががががが」
……ん?
「あ、もちろんタダはダメですよ!? ちょっとお金ください!」
「い、いや、嬢ちゃん……これ! タルじゃねぇか! 2タルあるぞっ!?」
「嬢ちゃん、やっぱ、タダもんじゃあないねぇ……!」
「え、あ、そ、そうか……こんなにいりません? もぐもぐ」
「いや、ありがてぇが……!」
「おぉう……これは上質なマヨネーズだっ! これは金になるよぉ……!?」
「よ、よぉし買ったあ!! 金ぁ、こんなもんでどうでぃ!?」
「ん……ぶっぐ! こ、こんなに貰えるんですか!?」
「決まりだなぁ!! おぅい! 野菜をさばける奴は手伝ってくれぇ!!」
「私やるわよぉ──!! 何本か負けてよねぇ──!」
「しゃ──ねぇなぁ──!!」
「えっ、安くなんの!? じゃあ私もやる……!!」
「おぅ──い!! 肉屋が小料理やるらしぃぞぉ──!!」
「んだとぉ──!? 今日はめでてぇ日だなぁ──!!!」
ん? な、なんだこれ……なんか騒がしくなったわね……?
ちょ、あんまりこっちに集中されると、私の正体が……。
もぐもぐ……?
じゅぅぅううわわ〜〜!!!
「おぅらぁ〜〜!!! こっち5人前できたぞぉ〜〜!!」
「ペッパー!!! ペッパーどこお!」
「くぉぉ、うめぇじゃねぇかぁぁあ!!!」
「酒だあぁぁああ!!!」
「あら、おいしい」
「お母さん、私もたべう〜〜!」
「ぎゃだははははは!!!」
「おいこらあんまでかい声だすんじゃねぇや! ところでそれはなんの酒だぃ?」
「…………。もぐもぐ……」
「……にょきっとぉ〜〜。けっぷ……」
『────"ホイル焼き"とは:このような事態を引き起こすのですね。』
『>>>い、いや、……"アルミホイル"はこっちにはないだろ……後輩ちゃん、ちょっと自重したほうがいいよ……』
「ぐむっ──ぅえっ!? 私のせいかっ!?」
『>>>マヨの店頭販売しちゃうから……』
「だ、だってぇ……」
気づけば、祭りみたいになっている。
私は、儲けている。
わぁ、世界って、不思議だなぁ。
「お〜〜い! みんな酒持ったかぁ!!」
「なんだよなんだよ! もったいつけやがって! あくしろぉ〜〜!」
「なになに、なんなの?」
「いつもの悪ノリでしょ? 乾杯するんだって!」
「はっ! 王都と言えど、夜の屋台はゴロツキまみれだな!」
「おめぇもだろ」
「ちょっと! それ私も入ってんの!?」
「え〜〜! では、我らが国王、バルドアックス王と、黄金の義賊クルルカンに!!」
「もぐ、ぶっ……ぐ……!?」
「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」
「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」
「「「「「王と、クルルカンに!!!」」」」」
「「「「「かんぱぁぁあ〜〜〜い!!!」」」」」
かちこぉぉおおおおんん!!!!!!!
わぁぁぁぁあああ────!!!!!!!
……──!? !!!????
え、え!? な、なんて!?
「げほっ、ごほっ……あ、あの、なんで……」
「ん? どうした? 仮面の嬢ちゃん?」
「いま……"王とクルルカン"って……」
「──ああっ! なんだ、知らねぇのか! 昨日よぉ、"カフェ・ド・ランドエルシエ"で、黄金の義賊がでたんだぜ!!」
「 」
「はっはっは! 子供が2人助けられたんだってなぁ!! なんか、すげぇヤツだったらしいぜ!」
「街灯を蹴っ飛ばして、空中をかっぱしったらしいな!」
「私見てたわよ!! あれ、人間の動きじゃないわ!」
「ははははっ! それ、号外のやつだろ? そんなやつ本当にいんのか?」
「………!? ご、"号外"って……!?」
「あ? あんた何言ってんだ……そこらじゅうに落ちてるだろ、ほれ……」
「へ……!? えっ……!?」
下に、指をさされる。
いやな予感がして、辺りの地面を見てみる。
ゴミ塗れと思っていた中に、たっくさん、
小さな文字が書かれた、大きな紙が落ちている。
……!? これ、ニュースペーパーってやつ!?
紙を、こんなふうに……もったいない!!
ひとつ、比較的きれいなモノを拾い上げ、
────絶句した。
"────王都の火災現場に、義賊クルルカンあらわる"
"────絵本の英雄、子供を2人助ける"
"────黄金の義賊は女の子!? 目撃証言多数"
──ご丁寧に、挿し絵のようなものまで載っていやがった。
「 」
『────よい挿し絵です。』
『>>>…………ぅわぁ…………』
あ、
あ、
あ、
あ、
あ、
あう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁう"ぁ……!!!
こ、
の、
したの、
これ、
ぜんぶ、私の……、
私の記事かッッ……!?
うそぉ……。
……。
「いやぁ〜〜!! まさか王都に"黄金の義賊クルルカン"が現れるたぁなぁ!! これほど明るい話題は、オルシャンティア王女がお産まれになった時以来だぜぇ!!」
「ほんなオレはみたんだっ!! あの女クルルカンは、ガレキの塊を蹴り上げたんだぜっ!! あっぱれなヤツさぁ!!!」
「きゃっきゃっ!! あんた酔ってんの?」
「いまや、王都はクルルカンの話題で持ち切りだよぉ……」
プルプルプルプルプルプル……。
だ、ダメだ。
私は、もう、ダメだ。
ここにいちゃ、いけない。
逃げよう。
義賊らしく、逃げなければ。
うさ丸、ちょ、起きんかい。
これヤバイぞ、私、ニュースペーパーになってるぞ。
あかんぞ、これぇ……!
記事を持った両手がプルプルふるえ、
中腰になって、おしりが椅子から浮いている。
完全に、アウトである。
身体を覆うマントが、非常に薄っぺらいものに感じる。
ドラゴンの防御力なんて、意味ないですわ。
に、にげへんと……。
「きゃははは──!!」
「あ──! まてって──!!」
「こらぁ──! こんな所で走ったら、つまづきますよお──!」
「つまずかないよぉ───だ!!」
────ガッ!
「────あっ!?」
──ガシッ!?
がくんと。
マントの端を、掴まれたかのような、感覚。
私は惚けていたのか、
歯車のロックは、容易く外れる。
───チャキン……!!!
シュルルルルル………!!
「うわっ、とっとっとっとっ……! ……あれ?」
「 」
全身を覆っていたヴェールが、
子供の手によって、ひんむかれた。
────顕になるは、二つ結の髪を持つ、
"黄金の鎧の少女"である。
その瞬間、
あれだけ騒がしかった周りから、
しん、と、 おとが、 ひいた。
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「「「「「 ……」」」」」
「 ……」
視線が、イタイ。
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「「「「「ああああああああ!!!」」」」」
「うわぁぁああああああんんっっ!!! おかあさぁぁああああ────んんん!!!」
「にょっ、にょきっと……お!!?」
それから、
どうやってコムギ亭に帰ったのか、
ほんとに覚えていない。
 










