幻影集荷 さーしーえー
・『はぐるまどらいぶ。ピクシブ百科事典』に、登場人物まとめていってます!
・オバラプさん5周年で、電子書籍版が半額になってますね! 〜2018/4/14までのようです!
お安いので是非!・:*+.(( °ω° ))/.:+
・おや? 『活動報告』にて、たれまみれのメモが見つかったようだ……
空に、浸っていたのだ。
空の色が変わりゆく、この庭園で。
「 ────…… 」
上衣の前を解き、襟元を解き、
私は、空のベンチに座っていた。
"雨ざらしで、衛生的ではありませぬ"などと、
従者によく言われるが、
バカを言え、この粗野な木の感触が良いのではないか。
エルシエルド城の上階には、いくつかの"庭園"が存在する。
"エルシエルド"とは、"天空者"の意味だと、幼い頃より聞く。
七つの星の紋章は、旧くは、我らのものではなかったのだ。
この城は古代語で、"天空の者の城"という意味になるが、
いくら高い城だろうと、"天空"とは、見栄が過ぎる。
祖先たちは、この場所に移り来る以前より、
あやかって、名を連ねたのであろう。
だが、確かにここは、
この都では一等、高い位置にある庭であろう。
王都を一望できるその景色は、まさに圧巻である。
「 ────…… 」
それなりの巨体を、古びた木のベンチに預け、
近く、遠い空を見る。
夕の中には蒼もあり、境い目で混ざり合う。
その光景が、言いようのない濃淡が、静かで美しい。
なぜこの瞬間に、皆が庭に上がらぬのか、
私は、不思議ですらあるほどだ。
王都は、大きい。
しかし、何よりも、空が、、、──大きいのだ。
阿呆のように、眺めるが、道理である。
贅沢なひと時と、言えるだろう。
「 ────……ふ 」
手元に、金貨などあった。
手遊びの為である。
私は夕陽の中、天空の庭のベンチに座り、
コロコロと、手でコインを回すのが、好きなのだ。
……。
──キィン、と。
太い指で、空に跳ねあげる。
くるくると、表と裏が舞い、
空の蒼から、夕に落ち、我が手に戻るだろう。
今日も、鮮やかな金を、つかみとろうと────。
────その者は、その時に、そこに現れた。
私は掴みとり、
その拳の向こうに、彼女はいた。
「────……、……」
コインは、何に化けたのであろうか。
小さな体は、我が手の中から現れたようにも思える。
陽の幻影が、我が心に、神秘をおとす。
彼女は私に背を向け、側には大剣が刺さっていた。
賊、だろうか。
ならば、我が命を狙うやもしれぬ。
しかし、金の少女は動かなかった。
時が止まったかのように、動かぬ。
「 」
「 ───…… 」
……。
わかる。
わかるぞ。
見惚れて、おるのだろう。
この、天空の庭から見る、世界の美しき眺めに──!
「 ……、 」
ふむ。
彼女は、私に気づいてはいまい。
背後より、見る。
少々の肌を残しながら、しかし、全身を包む煌めき。
その姿は、まさに、陽の幻影である。
夕と蒼の狭間に生まれる、
地に沈む前の、鮮烈な輝き。
この少女は、その金の光から、生まれたのではないか。
燃えるような、金を纏いし少女が、今。
──きぃん……!
「 ……──! 」
ふらりと。
彼女は一歩、前に踏み出した。
野に刺さる剣を、彼女が、にぎる。
── ── ── ──掻き消えた。
「 ────……っ! 」
剣も、少女も見えぬ。
"陽の幻影"とは、我ながら、よく言ったものだ。
妙だ。
賊が消えた事に、寂しさを感じる。
「 ────…… 」
……──ザ、シュッッ!!
「 ────!! 」
いた。
少し、離れている。
剣が、また野の草に、突き立てられている。
かの大剣は、主の姿を消すものか。
金の握りは解かれ、
夕陽に、金は吸い寄せられた。
……──きぃん。
……──きぃん。
……──きぃん。
「 ────…… 」
そう遠くないそこに、
大きな精霊十字などあった。
小さき彼女との丈の差は、七身分はあるだろう。
特徴のある、簡素な意匠の十字と、
彼女が突き立てた剣が、
長い影をひく。
再び剣を離した少女は、
夕陽に照らされる都と、果てしない空の前で、
まっすぐと十字へと向き、
ゆっ、くりと、膝をおとしたのだ。
音を発しがたく、神聖な。
まるで、不思議な光景であった。
……──きぃん。
福音のようなものが鳴り、声が、凛と響く。
金の少女は、祝詞を紡ぐのだ────……。
「────"かの民に、光の祝福を"──……」
「 ────、……、…… 」
……。
……、……。
この感動を、どう伝えればよいだろうか。
夕陽に、全てが煌めいたのだ。
我が命を、奪いに来た者やもしれぬ。
──しかし、私は立った!
我が言葉は、心の内より、紡がれる────!
「 ──雅なる賊よ、陽を前にして跪き、我が民のために祈るか 」
「──っっ!! ッッ!? 、ッ!?!?」
──ききぃ──ん!!?
高らかな音がし、金は翻り、
私と少女は、眼を合わす。
仮面を付けた彼女は、真ん丸の瞳で、驚いていた。
私も無骨な表情であろうが、
そのふたつの瞳には、驚いたものだ。
夕陽を封じたかのような双眼だったからである──。
「……、…… …ん、で……」
「──ふ、この空と都の美しさは、この大男をも霞ませる程か。よい」
「ぁ、ぇ……と」
彼女がいる、巨大なる精霊十字の袂は、
そう離れていない。
私のような大男が歩けば、すぐであろう。
ズン……ズン……ズン……。
「ぁわ、ぁわわわ、ぁの……」
「……ほぅ。その意匠は……」
我が最愛の娘は、この者の絵本を好いている。
父たる私も、当然、知っている。
「──ふ。夕陽の狭間からではなく、絵本の中から飛びい出たか」
「あっ、あぅぇ……」
……ふ、ふ。
ここまで驚かれると、立場がない。
今の私は簡素な服を着ている。
ただの大男に見て取れると思うのだが。
大いなる剣は、少女と私の間となる。
む、その頭に浮かぶは……!
「──ほぅ! 其方、冠を持つか」
「ぁっ!? いやっ、これはっ!」
慌てて自らの冠を隠そうとする少女。
それを余所に私は、
兼ねてより疑問に思っていた事が、頭を巡る。
この少女、よもや、新たな王になる気ではあるまい。
ならば、なぜ────……。
「……なぜ」
「──えっ?」
「なぜ、其方は冠を携えるのだ……」
「やっ、あのっ、ごめんなさ……」
「私は、わからぬ……」
「……へっ?」
「いつも、わからぬのだ……なぜ、王に冠が必要なのか。格好など、見繕うものではないではないか」
「……、……?」
「わからぬ……なぜ、王は冠を持たなければならないのか……」
「……、……」
「……すまぬ。妙な話をしているな」
「……あの……」
「む?」
「その……この国の王さまは、どうなのか、わかりませんけど……」
「?」
「私は、なんというか、たまたまです」
「……なんと?」
「えっと……あの。私にとって大切なものが、たまたま、王冠のカタチをしていたって、それだけです」
「た……」
「だからそのっ、王冠かどうかってのは、それは別に、どうでもいいと言うか……」
「……。……ふ、ふふ」
「えっ……」
「ふぁっはっは!」
「わっ」
「 ────はっはっはっはっは! はぁ────はっはっはっはっは!!!」
「えぇ──……」
私は、笑った。
大きく、大きく笑った。
無骨な私でも、笑う時がある。
──なるほど!! たまたまか!
たまたま、王冠の形をしておるのだ──!!
そうか!! それはよい!!!
それはよいぞ!!!
「はぁ────はっはっはっはっは!!!」
「ぁ、ぁのぉ〜〜……」
珍しく高らかに笑いを飛ばす。
聞きつけたのか、近づく足音があった。
──シャク……。
「──あなた、そろそろお戻りくださいませ?」
「……っ!」
「───おお、すまぬな。お? それは……?」
「にょきっとなっ!」
「ぁぁあああああ────!!!!!??
うさ丸ぅぅうううううう─────!!!!!」
「にょきっとにょきっと!! にょきっとなぁ!!」
────ぶんぶんぶんぶんぶんぶん!!
────くるくるくるくるくるくる!!
我が妻コオミナが、
何やら丸くて白いものを抱きとめている。
この自在に激しく動いているものは……これは耳か!
どうやらラビットの一種のようである。
「──こんばんは、義賊さん。これは貴方のラビットさん?」
「えっ、はっ、はいっ、こんばんは……! そ、そうです! すんません、私、この子を探しにきて……」
「ほぅぅ……。これは見事なラビットだな?」
「にょや! にょにょんやぃっ☆」
「ふふふ、はい、どうぞ?」
「あっ、あのっ、ありがとうございます!! こぉりゃあああ〜〜!! 心配したんだぞこのぉ〜〜!!」
「にょきっとぉ〜〜☆」
「ふ、友なのだな?」
「え、は、はぃ」
「友が、たまたまラビットだったか」
「そ、そですね」
「──はぁ────っはっはっはっは!!」
「えぇ──……」
愉快な義賊と従獣を前に、コオミナを見る。
とても優しく、にこやかな微笑みである。
我が妻コオミナには、獣人の血が流れている。
彼女は"シンエル"を感じ取る事に、
非常に長けているのだ。
彼女が、ここで微笑んでいるという事は、
この黄金の義賊の少女が、
美しい心の持ち主だという、
何よりの証拠に他ならない。
「あ、の、奥さんですか……? 綺麗な方ですね……」
「にょきにょきにょむにょむ」
「あら、ありがとう。貴方たちも素敵ですよ?」
「黄金の義賊は、世辞が上手いのだな」
「え"っ、や、ありがとうです……?」
「おい、黄金の義賊よ、この大剣はなんだ」
「ぎゃっ、ああああのですねっ!? ココにくるまでに、どうしてもこの剣が必要でしてっ……!?」
「さわってもよいか」
「 まっ…… 」
「よいか」
「あ …… の … ちょ ちょと待ってください……ね」
「ほぅ」
黄金の義賊の少女は、何やら大剣に向かって、
小声で呪文を唱えている。
「 」
待つ合間に、コオミナを見てみると、
未だに、ニコニコしている。
危険な呪文ではないだろう。
『『 ぶぅ〜〜〜〜!! 』』
「どどど、どうぞ……」
「うむ」
地面に突き刺さっている剣に、手を伸ばす。
先ほど、この剣を持っている時だけ、
この少女は、消えたように思えたが……。
ギュゥゥウ……。
中々に、重い。
よくこれを、この娘が、片手で持ち上げていたものだ。
だが、私はこの城では、体が大きい方である。
ゆっくりと、力を込める。
ウゥゥウゥゥ……ガチャコ……!!
「──ほぅ……!」
「まぁ……!」
「 」
「にょきっと」
何やら、装甲のようなものが開き、
鞘から、刀身が、滑り出る。
巨大な、黄金の刀身である。
なるほど、盾のような鞘に、巨大な刃が収まっているのか……。
シュラァァアアア────……。オォ……。
刀身を抜ききり、夕焼けに、さらす。
「……みごとな刃だな……」
「たいへん、美しい剣ですわね」
「 」
「にょきっと?」
黄金の義賊の少女は、鞘から解き放たれた剣身を見て、
何やら驚いた顔をしていた。
……しまった。戯れが過ぎたか。
「……すまない。このような立派な剣を、容易に触らせろ、などと言うものではないな」
「いっ……いえっ……お、お見事です……!」
「ふ。やはり、世辞が上手いではないか」
「ぃゃぃゃいゃぃゃ……。 」
「しかし、まっこと美しい、黄金剣であるな……」
この金の刃、まるで、宝石の結晶である。
名残り惜しいが、そおと、鞘の中に滑らし、戻す。
スラァァァアア──……チャキン。カシュッッ──。
……うむ、そろそろ尋ねるとしよう。
「──して、クルルカンよ。其方、何者だ?」
「ごっ……ぷ……。……プレミオムズ"配達職"、アンティ・クルルと、申します……」
「まぁ!」
「──! "プレミオムズ"と申したか!」
「はぃぃ……」
──キラッ……。
「──! なるほど。その黄金の首輪、プレミオムアーツであったか」
……ズシッ。
「──っ!」
黄金の義賊に一歩近寄り、首元の黄金に、手をかざす。
「──"索引"、"簡易ステータス"!」
「──えっ!?」
……ジジ……、ジ。
"────searching・・・"
"────ANTI-QURULU"
"────Premioms-Riders"
"────Letter-Rider"
「ひゃっ……!」
「ほぉう──」
なんと、誠であったか!
ふ、ふ……。
運命とは、面白いものよ。
私は着崩した上衣から、一通の封筒を取り出した。
「──ならば、手紙の配達を頼みたい」
「あっ……えっ!? わ、私にですかっ……!?」
「其方は"郵送配達職"であろう」
「は、はいッ!」
「うむ。北の街、パートリッジの冒険者ギルド・ギルドマスター、"ブレイク・ルーラー"に届けてくれ」
「……"パートリッジの街"……」
差し出された、両の黄金の小手に、封を置く。
……。
「……ひとつ、口伝も頼まれてくれぬか」
「! は、はぃ、どうぞ!」
「──"運命に、頼れ"と……」
「……? う、"運命に頼れ"、ですね? ?? わかりました……」
ふ……この封書、配達するのは、其方が相応しい……。
「あ……300イェルになります……」
「む、金貨しか持っておらぬ。釣りはよい」
「──そっ、そんなワケにはいきませんっ!! ちょ、ちょっと待ってください……?」
金貨を握らすと、シュルリと、
マントの陰から袋が顕現した。
「お、お釣りです……重いですよ?」
「ほぅ。黄金の義賊は、律儀なのだな」
「あ、あと、こちらにサインを……」
片手で、ジャラリと袋を受け取る。
彼女の肩のラビットほどあるが、
重さは問題ではない。
義賊の持つボードに、いつの間にか差し出されたペン。
ふ、見事な心配りだ。
空いた手で、ペンをとる。
彼女の持つボードは、私が圧をかけてサインしても、
微動だにしなかった。
ペンを置く。
「必ず、伝言と共に、数日以内に届けます」
「にょきっと!」
陽の双眼には、確かな意志が宿っている。
「頼む。──其方ら、夕食を共にせぬか」
「びゃッッ──!? いっ、いえっ、ちょ、今日はっ、その、宿屋で……バジルパンが私を呼んでいるのでっ……!?」
「にょにょや!」
「左様か……娘が喜ぶと思ったのだが……」
「き、貴族様方のお食事に、私のような格好の者は……」
「其方、仮面は取らぬのか?」
「く、クルルカンですので……」
「──! はっ! はっは! これは無粋な問いかけであった!」
「い、いえ……!」
「礼を言おう。黄金姫よ」
「いや、いやいやいや、とんでもない……?」
「ふふふ……」
「にょきっとな!」
「ところで、いつ頃なら夕食を共にできるのだ」
「──つぎのしごとがあるので、ししし失礼しまっす!!!」
「ふっ……そうであるか」
ラビットと黄金姫は、優美に一礼し、
側に刺さる、剣を拾った。
緩やかに、姿が消え始める────……。
「「……──そ、それでは、これにて──……」」
「「にょんにょんやぁ〜〜!」」
「うむ」
「まぁ……」
……きぃん。
夕陽と、空だけが残った。
煌めきの余韻が、我らに灯っている。
「……ふ、人生は長い。絵本の世界に入ることもあろう」
「……まぁ。ふふふふふ……」
「冷えるといかん。往くか」
「ええ」
コオミナと歩きだすと、
城より、従者が迎えに上がってきた所であった。
老体に、あの階段はきつかろう。
「……いつもよりごゆるりとしておられたので、少々心配でございましたぞ!」
「ふ、すまぬ。御伽の者に会っていた」
「……? 伝令の者を用意しております。先程の封書、まだお持ちですな?」
「よい。もう頼んだ」
「はて……?」
首を傾げる爺やの横を、可笑しく思いながら、
コオミナと、通り抜ける。
爺やは、後ろに追従する。
城に入るとすぐ、メイドが、私に差し出した。
「……こちらを」
「うむ」
ふ……そうだ。
たまたま、この形なのだ。
手にとり、かぶる。
────冠は、いつもより、しっくりと感じられた。
「……王よ。その大きな袋は、なんでございますかな?」
「金貨から300イェル引いた分の硬貨が入っている」
「なんと……な、何故に」
「小銭の持ち合わせがなかったのだ」
「ふふふ」
コオミナが笑い、爺やは袋を受け取った。
少々、重そうである。
「……コオミナよ。我らが最愛の娘オルシャンティアは、"義賊クルルカン"を好いておったな?」
「ええ。最近はまた、絵本を好んで読んでいますわ」
「ふ。またメイドに任せずに、読んでやったか」
「人に任せるには、勿体ない、ひとときですもの」
「あの者の"シンエル"、どうであった」
「あれほどの煌めきは、そうはいません」
「で、あろうな……うむ。次のオルシャンティアの誕生パーティには、あのクルルカン呼ぼう」
「まぁ。よいお考えですわ」
娘が大好きな王と王妃は、天空の庭を後にした。
( ´ ཫ ` )
 










