若草の君 さーしーえー
(*´ω`*)勇者がショボンとする話です。
うさぎの勇者は、びっくりした。
目覚めると、草木の中だったからだ。
「にょんやっ……?」
遠くから煌めく夕陽は、草原の若草色と混ざり、
世界の全ての半分を、影の景色にした。
きれいだけど、おっかない。
そうだ、もうすぐ、
向こうに、
光が、行ってしまう────。
勇者は、かつての旅を思いだしていた。
"さいだん"に着くまでの、旅を───……。
(前は……こんな草の大地を、よく歩いたな……)
ここは、どこだろうか。
確か、先ほどまで、ふわふわと、気持ちの良い場所で、
眠っていた、はずなのに。
夢じゃないかとも、思う。
でも、体を照らす、真っ直ぐな温さと、
それを冷ますように、毛並みを撫でる、そよ風は、
とてもよく知る、光の終わりの、始まりだ。
そう背の高くない若草が、
シャラシャラと、合唱した────。
……──────。
(……なんで。ぼくは、草原に……ここは、どこだろう)
黄緑とオレンジは、とても良く、馴染んでしまう。
もうすぐ、日は沈んでしまうだろう。
勇者は、夜の怖さを知っている。
(……! 暗くなるのなんか、あっという間だ! さがさないと……!)
どこに!!
いったい、どこに行ったのだろうか!
勇者は、夕陽の照らす中、慌てだす。
なぜ、突然、こんな野原の真ん中にいるのだろうか!
幸い、目の高さよりは、煌めく葉々は、下にある。
木は、まばらにしかなく、見渡せる。
どうも、変な様子だ。
勇者は、夕焼けの草原を、歩き出した。
(どこだ、なんで……さがさなきゃ。夜が、すぐに来てしまう!)
しゃくしゃくと。ぽてぽてと。
勇者は跳ねず、ゆっくり歩いた。
力を無駄にしないという、かつての旅の知恵が、働いた。
でも、時は少ない。
太陽は、思った以上に、
知らず知らずのうちに、駆け足なのだ。
(どうしよう……いざとなったら、大きくなって、空から見てもいい! でも……)
勇者は、久しぶりに草の大地を踏む。
ひとりぼっちの、草の大地を。
思えば、"しんでん"に着いてからは、
勇者は、ひとりではなかった。
皆と、種族は違う。
……でも、楽しい日々だった。
勇者は、久しぶりに、
本当に、ひとりのような気がした。
夕陽はきれいで。
でも痛烈に、今日の終わりを意識させた──。
「にょ……にょ……!」
歩く。歩く。歩く。
若草の大地が、夕陽に染まり、
シャラシャラと、なびいて────。
(どこへ……どこへいったの!)
あわてていた。
ひとりで。
もし。
そのままだったら。
くらくなっても。
この草原で。
だれもいない────。
シャクシャクと、サラサラと、かきわけて!
(ぼくは、ずいぶん、"ひとり"に弱くなったな……)
旅を、思いだしていたのだ。
いつも、このくらいになると、寝床を探した。
木の、腐った大きな節。
岩の、角がまん丸の穴。
仕方なしに、土に潜ったこともあった。
暗闇のキバは、恐ろしいモノだから。
どうだろう。
ここには、夜の敵はいないかもしれない。
でも、それは、ひとりぼっちの夜がくるってことだ。
しばらく、御使いの街にいて、
あの子の側にいて、
ずいぶん、久しくなってしまった、感覚だ。
「にょんむぅ……!」
勇者は、切なくなった。
切なくなって、歩いた。
夕陽は、きれいだ。
昔の仲間のことを、思い出した。
(ぼくは、まだ、生きている……)
しっかり、さいごまで、生きてやろうと思う。
でも、どうやら、ずいぶん長い時が経った。
いつ、終わりがくるのだろう。
例えば、この、夕陽が終わる時。
そんなふうに、
突然きたり、するのだろうか──。
「……」
うさぎの勇者は、ひとりだ。
勇者は、さびしさと共に、
シャクシャクと、歩いた。
なぜ、原っぱにいるか、わからない。
やっぱり跳ぼうと思って、
切なさが勝って、力が抜ける。
うさぎの勇者だって、
夕陽の中で、トボトボと、
歩く時が、あるのだ。
ふ、と、夕陽の方を見て、
目が、とてもチカチカして、
あの子の毛並みに、似ているなぁ、と、思った。
(どこ、行っちゃったんだよぅ……、あ……)
はっ……と気づく。
木で組みあげられた、何かがあった。
これは、御使い様が座るものだったハズだ。
長い、背もたれがある。
これがあるということは、御使い様が作ったという事だ。
でも、だれも、座って、いない。
「にょきっと……」
今日の寝床は、ここにしようか……。
不安が、勇者の耳を、夕陽と共に包む。
どうも、変だ。
この原っぱは、何かで囲われている。
その向こうに何かがあるのかも。
でも、それを今、越えると、
夜はすぐに来てしまうと、勇者は知っていた。
少し慎重になった勇者は、
大きな木のベンチで、夜を過ごそうと、決めたのだ。
(…………えいっ!)
ぴょ──んと、危なげもなく、腰掛けに跳び移る。
少しだけ高いその場所からは、
やっぱり、背の丈の低い草原が広がっている。
数本生えた木は、妙に真っ直ぐな木が多く、
何やら、小さな花が付いていた。
明日の朝、食べられるか、試した方が良さそうだ。
「にょっと……」
うさぎの勇者は、ベンチにすわる。
とっても大きな、ベンチにすわる。
旅の思い出が、よみがえる。
孤独な記憶が、よみがえる。
勇者は、耳をクシクシと撫でた。
(わからない場所で、この色の時に動き出すのは危ない……今日は、ここで過ごそう……)
明日から、探さなければ。
あの、遠い夕陽のような、金の少女を。
あの子もたぶん、ぼくと、同じだから。
ついていて、あげたいのだ。
「にょむ……」
夕陽の空を前に、あとは、終わりを待つだけだ。
しかし、少しだけ。
少しだけ、夜になるまで、時はあった。
まだ陽の煌めきは、地平線には届いていない。
勇者は、澄んだ緋色の空を、じっと見ていた。
「……」
まさか。
まさか、もう、会えないということは、ないだろう、と。
白と、黄色と、赤を含んだ熱が、こもった。
ひとりをやめてから、ひとりになる事は、
どうも、つらかった。
仲間を失い、たどり着いて、今は、ひとりで。
勇者はベンチで、夕陽を眺めていた。
「にょんむ……」
耳は、自然と下がってくる。
そよ風は、切なさを飛ばしてはくれない。
勇者は、ベンチに座っている。
……──ついには、ショボンとするのだった。
「にょきっとな……」
うつむく。
……。
……。
……。
……。
ザッ。
ザッ。
ざっ。
ざっ。
ざっ。
ざっ。
ざっ。
ざっ。
「……にょんや?」
……──しゅる……。
「……──あら、小さな旅人さん? こんな所で、どうしたのです?」
────妃は、勇者に話しかけた。
(*´ω`*)お母さん。